「解剖してほしい」と言われたら―目的と法律で選ぶ5つの解剖
第118回医師国家試験 C問題 第57問
国試問題にチャレンジ
昨日午後にかかりつけの医療機関を定期受診した大腸癌終末期の患者が,今朝自宅で心肺停止状態となった。かかりつけの医療機関に搬送されて死亡確認が行われ,直接死因は大腸癌の進行と考えられた。 家族が患者の解剖を希望した場合,適切な対応はどれか。
- a.行政解剖を行う。
- b.系統解剖を行う。
- c.司法解剖を行う。
- d.病理解剖を行う。
- e.解剖を実施しない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
診療中の病気の自然経過による死亡は異状死に当たらず、警察への届出は不要で、かかりつけ医が死亡診断書を交付できます。こうした病死で遺族が解剖を希望した場合は、死体解剖保存法に基づき遺族の承諾を得て病理解剖を行い、臨床診断や病変の広がり、治療効果、直接死因を確認します。犯罪の疑いがあれば司法解剖、犯罪性のない異状死の死因究明には行政解剖(監察医解剖)や調査法解剖が行われ、いずれも遺族の承諾は不要です。教育目的の系統解剖は本人の生前の献体意思が前提です。「異状死か」「犯罪性の有無」「目的」で解剖の種類を振り分ける考え方は、死亡診断書・死体検案書の使い分けとあわせて、臨床医が看取りの場面で必ず求められる知識です。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・大腸癌の終末期で、かかりつけ医療機関に定期通院していた患者である。死が予期されていた状態といえる。 ・前日午後に受診しており、最終診察から24時間以内に自宅で心肺停止となった。 ・かかりつけ医療機関で死亡確認が行われ、直接死因は生前から診療していた大腸癌の進行と判断された。外傷や中毒、急変を疑わせる不自然な状況の記載はない。
死体の扱いの判断
医師は、死体を検案して異状があると認めたときは24時間以内に所轄警察署へ届け出なければならない(医師法第21条)。本例は、診療中の疾患(大腸癌)の自然経過による死亡であり、異状死には当たらない。したがって警察への届出は不要で、かかりつけ医が死亡診断書を交付できる。
設問の考え方
解剖は目的と根拠法令によって、系統解剖・病理解剖・司法解剖・行政解剖(監察医による解剖)・調査法解剖(死因・身元調査法解剖)に分けられる。どの解剖が選ばれるかは、「異状死か否か」「犯罪性の有無」「目的(教育か、病態解明か、死因究明か)」で決まる。 本例は異状のない病死であり、遺族が解剖を希望している。このような場合に行われるのは、臨床診断の妥当性や治療効果、病態の広がりを確認するための病理解剖であり、死体解剖保存法に基づき遺族の承諾を得て実施する。
選択肢考察
- ×a. 行政解剖を行う。
行政解剖は、犯罪性はないと考えられるが死因が明らかでない異状死体について、死因を究明するために行う解剖である。狭義には、監察医制度が施行されている地域(東京23区、大阪市、神戸市など)で監察医が死体解剖保存法第8条に基づき行う解剖を指し、遺族の承諾は不要である。本例は診療中の疾患による死亡で死因も明らかであり、異状死ではないため対象とならない。
- ×b. 系統解剖を行う。
系統解剖は、医学・歯学の教育のために人体の正常な構造を学ぶ目的で、大学の解剖学教室などで行う解剖である。「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」に基づき、原則として本人が生前に献体の意思を書面で示していることが前提となる。本例では本人の献体の意思は示されておらず、遺族の希望は死因や病態を知るためのものと考えられるので、系統解剖は適切でない。
- ×c. 司法解剖を行う。
司法解剖は、犯罪による死亡またはその疑いがある死体について、刑事訴訟法に基づき、検察官・司法警察員などの嘱託を受け、裁判官が発する鑑定処分許可状を得て行う解剖である。遺族の承諾は不要である。本例に犯罪性をうかがわせる事情はなく、対象とならない。
- ○d. 病理解剖を行う。
病理解剖は、医療機関で診療を受けていた患者が病死した場合に、臨床診断の確認、病変の広がりや合併症、治療効果、直接死因などを病理学的に明らかにする目的で行う解剖である。死体解剖保存法に基づき、原則として遺族の承諾(書面)を得て、病理医など解剖資格を有する者が実施する。本例は異状のない病死で、遺族が解剖を希望しているため、病理解剖が適切な対応となる。
- ×e. 解剖を実施しない。
異状死ではないため法的に解剖が義務づけられる状況ではないが、遺族が解剖を希望している以上、それを断る理由はない。病理解剖は遺族にとって死因や病状の経過を理解する助けとなり、医療側にとっても診療の質の検証や医学の進歩に役立つ。遺族の意思を尊重し、承諾を得て病理解剖を行うのが適切である。
解剖の種類
・系統解剖:医学・歯学教育のための正常解剖。根拠は死体解剖保存法、献体法。本人の生前の献体意思(書面)が原則必要。 ・病理解剖:病死者の病態解明・診断確認のための解剖。根拠は死体解剖保存法。遺族の承諾が必要。 ・司法解剖:犯罪死・犯罪の疑いのある死体の死因究明。根拠は刑事訴訟法。鑑定処分許可状に基づき、遺族の承諾は不要。 ・行政解剖(監察医解剖):犯罪性のない異状死体の死因究明。監察医制度施行地域で死体解剖保存法第8条に基づき行われ、遺族の承諾は不要。監察医制度のない地域では、遺族の承諾を得て行う承諾解剖として実施されることがある。 ・調査法解剖(新法解剖):「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」(2013年施行)に基づき、犯罪性がないとされた死体でも死因・身元を明らかにする必要がある場合に、警察署長の判断で行う解剖。遺族の承諾は不要。
死亡診断書と死体検案書
・死亡診断書:自らが診療していた傷病に関連して死亡した場合に交付する。 ・死体検案書:診療中の患者以外の死亡、または診療中の傷病と関連しない死亡(外因死など)の場合に、死体を検案して交付する。 ・医師法第20条ただし書により、診療中の患者が最終診察後24時間以内に死亡した場合は、改めて死後診察をしなくても死亡診断書を交付できる。また、24時間を超えていても、死後に診察を行い、生前診療していた傷病に関連する死亡と判断できれば死亡診断書を交付できる(「24時間を超えたら警察に届け出る」という意味ではない)。
異状死の届出
医師法第21条により、死体を検案して異状を認めた場合は24時間以内に所轄警察署へ届け出る。外因死やその疑いのある死、診療中の疾患と関係のない予期しない死亡などが対象となる。
POINT
・診療中の疾患による異状のない病死で、遺族が希望 → 病理解剖(死体解剖保存法、遺族の承諾が必要)。 ・犯罪の疑い → 司法解剖(刑事訴訟法、承諾不要)。 ・犯罪性のない異状死の死因究明 → 行政解剖(監察医)・調査法解剖(承諾不要)。 ・教育目的 → 系統解剖(本人の献体意思が前提)。 ・診療中の傷病による死亡なら死亡診断書を交付でき、24時間を超えても死後診察で関連死と判断できれば交付可能。
