StudyMed医師国家試験

「サプリを飲みたい」と言われたら―見放さず寄り添う在宅緩和ケアの基本姿勢

第118回医師国家試験 B問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第118回 B問題 第28問

75歳の女性。1か月前に骨転移を伴う進行肺小細胞癌と診断された。薬物による抗癌治療などの積極的な治療は実施せず,家で穏やかに過ごしたいという本人の希望で在宅療養している。患者は月に2回の訪問診療を受け,癌性疼痛緩和目的で数種類の内服薬を服用している。独居だが自宅では自立的な生活を維持している。  本日,担当医が定期の訪問診療に訪れたところ患者から「市販のサプリメントを服用したい」と強い申し出があった。  対応で誤っているのはどれか。

  1. a.患者の思いを丁寧に聞く。
  2. b.医療チームで情報共有する。
  3. c.費用負担について確認する。
  4. d.この患者への診療をさし控える。
  5. e.サプリメントに関する医療情報を収集する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、在宅で緩和ケアを受けている進行がんの患者さんから、市販のサプリメントを飲みたいと強く希望されたときの対応を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ設問だから、医師としてとるべき基本姿勢から外れているのはどれか、という視点で考えてみよう。
医学生医学生
正直なところ、効果がはっきりしないサプリメントなら、医師としては止めるべきなのかなと思ってしまいます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。サプリメントは補完代替療法、いわゆるCAMの一つで、延命やがん縮小の科学的根拠が乏しいものがほとんどだ。でも、大事なのは頭ごなしに否定することでも、無条件に容認することでもない。患者さんがなぜそれを望むのかを理解するところから始めるんだ。
医学生医学生
進行がんで積極的治療をしない選択をした方なので、「何かできることはないか」という思いがあるのかもしれませんね。
ドクタードクター
まさにそこ。少しでも良くなりたい、何もしないことが不安、家族や知人に勧められた、などいろいろな背景が考えられる。だからまず患者さんの思いを丁寧に聞くことは、信頼関係を保ち、適切な助言をするための出発点になる。
医学生医学生
緩和ケアの講義で習ったトータルペインの考え方につながりますか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。シシリー・ソンダースが提唱した概念で、がん患者の苦痛を身体的、精神的、社会的、スピリチュアルの4つの側面が絡み合ったものとして捉える。サプリメントを望む気持ちの裏にある不安や希望に目を向けるのも、全人的なケアの一部なんだ。
医学生医学生
医療チームで情報を共有するのも、在宅だと特に大事そうですね。
ドクタードクター
その通り。在宅緩和ケアは訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカーなど多職種で支える。サプリの使用希望をチームで共有しておけば、薬剤師が相互作用を確認し、看護師が体調の変化を観察する、といった分担ができる。
医学生医学生
費用の確認というのは少し意外でした。医療の話ではない気もしますが。
ドクタードクター
サプリメントは医薬品ではないから保険がきかず、全額自己負担になる。がん患者向けに高額な健康食品が売られている例もあるんだ。独居で療養を続けている方だから、経済的に無理のない範囲かどうかを確認するのは、生活そのものを守ることにつながるよ。
医学生医学生
医療情報を集めるのは、相互作用を調べるためですね。薬理学の講義でセント・ジョーンズ・ワートがCYP3A4を誘導すると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。サプリの中には肝障害などの有害事象を起こすものや、CYPに影響して併用薬の血中濃度を変えるものがある。この患者さんは疼痛緩和のためにオピオイドを含む複数の薬を飲んでいる可能性が高いから、相互作用の確認は欠かせない。客観的な情報を集めて、それに基づいて説明するのが望ましい。
医学生医学生
そうなると、誤っているのは診療をさし控えるという対応ですね。医師の意見に従わない患者さんだから、と距離を置くのはよくないと。
ドクタードクター
その通り。サプリを使うかどうかは本来患者さんの自己決定に委ねられることで、それを望んだからといって信頼関係が壊れたわけではない。それを理由に診療をやめれば、疼痛管理が必要な進行がん患者を見放すことになる。医師法第19条の応招義務の観点からも、医師の勧めない療法を希望したことは診療を拒む正当な事由にはあたらないんだ。
医学生医学生
診療を続けながら安全性について助言する、というのが医師の立場なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。臨床では、患者さんが医師に言わずにサプリを飲んでいることも少なくない。だから普段から「何か飲んでいるものはありますか」と気軽に聞ける関係を作っておくことが大切だ。否定されると思うと、患者さんは話してくれなくなるからね。
医学生医学生
内科の実習で、お薬手帳には載っていない健康食品を、問診で聞いて初めてわかったことがありました。
ドクタードクター
まさにそういうことがよくあるんだ。使用の有無と理由を尋ね、否定せずに傾聴し、有効性・安全性・費用の情報を提供し、緩和治療に支障がない範囲で自己決定を尊重する。この流れを覚えておくと、サプリに限らず患者さんが標準外の療法を望んだときにも応用できるよ。

まとめ

進行がん患者がサプリメントなどの補完代替療法を希望するのは自然なことであり、医療者は否定も無条件の容認もせず、まず希望の背景にある思いを丁寧に傾聴します。そのうえで、内服薬との相互作用や肝障害などの有害事象、全額自己負担となる費用について客観的な情報を集めて説明し、訪問看護師や薬剤師を含む多職種チームで情報を共有して安全に支援します。患者が医師の勧めない療法を望んだことは診療を拒む正当な事由にはならず、診療を差し控えることは患者を見放す行為であり、応招義務や医の倫理に反します。苦痛を身体・精神・社会・スピリチュアルの側面から捉えるトータルペインの視点と、患者の自己決定を尊重しつつ診療を継続する姿勢は、在宅緩和ケアをはじめあらゆる臨床現場で求められる基本です。

解答・解説

正解はdです

状況の整理

・75歳女性、独居。1か月前に骨転移を伴う進行肺小細胞癌(遠隔転移があるためⅣ期)と診断された。 ・本人の意思により抗癌薬などの積極的治療は行わず、自宅で穏やかに過ごすことを選び、月2回の訪問診療による在宅緩和ケアを受けている。 ・がん性疼痛に対して数種類の内服薬を使用中で、自宅での生活は自立している。 ・その患者が、市販のサプリメントを飲みたいと強く希望している。

考え方

サプリメントは、通常の医療(標準治療)とは別に患者が自ら取り入れる補完代替療法(CAM:complementary and alternative medicine)の一つである。進行がんの患者が「何かできることはないか」「少しでも良くなりたい」という思いから、こうした療法に関心を持つのはごく自然なことである。 医療者に求められるのは、頭ごなしに否定することでも、無条件に容認することでもなく、①患者がなぜそれを望むのかを理解し、②安全性(現在の内服薬との相互作用、有害事象)と経済的負担を評価し、③多職種で情報を共有しながら、患者が納得のいく選択をできるよう支援することである。緩和ケアはがん患者の苦痛を身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな側面を含む全人的な痛み(トータルペイン)として捉えるため、サプリメントを望む背景にある不安や希望に目を向けることも大切である。 本問は「誤っているもの」を選ぶ設問である。患者が医師の勧めない療法を希望したことを理由に診療をやめることは、患者を見捨てることに等しく、医師の応招義務や医の倫理の観点からも不適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の思いを丁寧に聞く。

    適切な対応である。サプリメントを飲みたいという希望の裏には、病状への不安、何もしないことへの焦り、家族や知人からの勧めなど、さまざまな思いが隠れていることが多い。まず否定せずに傾聴し、希望の理由や期待している効果を把握することが、信頼関係の維持と適切な助言の出発点になる。

  2. ×b.  医療チームで情報共有する。

    適切な対応である。在宅緩和ケアは医師だけでなく、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカーなど多職種のチームで支えるものである。サプリメントの使用希望や服用状況をチームで共有しておけば、薬剤師による相互作用の確認、看護師による体調変化の観察などを分担でき、患者の安全と意思の尊重の両立に役立つ。

  3. ×c.  費用負担について確認する。

    適切な対応である。サプリメントは医薬品ではなく保険診療の対象外であり、費用は全額自己負担となる。がん患者を対象に高額な健康食品が販売されている例もあるため、患者の経済状況に見合わない負担になっていないかを確認することは、独居で療養を続ける患者の生活を守るうえで重要である。

  4. ○d.  この患者への診療をさし控える。

    誤った対応であり、これが正解である。サプリメントを使うかどうかは本来患者の自己決定に委ねられる事柄であり、それを望んだことで医師と患者の信頼関係が損なわれたわけではない。それを理由に診療をやめれば、疼痛管理を必要とする進行がん患者を見放すことになり、診療拒否・診療放棄にあたりかねない。医師は患者の希望を受け止めたうえで、診療を継続しながら安全性について助言する立場にある。

  5. ×e.  サプリメントに関する医療情報を収集する。

    適切な対応である。サプリメントの中には肝障害などの有害事象を起こすものや、薬物代謝酵素(CYP:シトクロムP450)に影響して併用薬の血中濃度を変化させるものがある。本患者は疼痛緩和のため複数の薬剤を内服しており、オピオイドなどとの相互作用がないかを確認する必要がある。成分や有効性・安全性に関する客観的な情報を集め、それに基づいて患者に説明することが望ましい。

補完代替療法(CAM)

通常の医療の範囲外で用いられる療法の総称で、健康食品・サプリメント、漢方以外の民間薬、鍼灸、マッサージ、アロマセラピー、心身療法などが含まれる。がん患者の利用率は高いが、多くは延命やがん縮小の効果について科学的根拠が乏しい。一方で、有害事象や薬物相互作用の可能性がある。 医療者の基本姿勢は、①使用の有無と理由を尋ね、②否定せずに傾聴し、③有効性・安全性・費用について客観的情報を提供し、④標準治療や緩和治療に支障がない範囲で患者の自己決定を尊重することである。相互作用の代表例として、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)がCYP3A4を誘導して多くの薬剤の血中濃度を低下させることが知られている。

トータルペイン(全人的苦痛)

近代ホスピス運動の創始者であるシシリー・ソンダースが提唱した概念で、がん患者の苦痛を、身体的苦痛、精神的苦痛(不安、抑うつなど)、社会的苦痛(仕事、経済、家族の問題など)、スピリチュアルペイン(生きる意味、死への恐怖、罪悪感など)の4側面が絡み合ったものとして捉える。これらに対応するため、緩和ケアでは多職種によるチーム医療が不可欠である。

応招義務

医師法第19条により、診療に従事する医師は正当な事由がなければ診療の求めを拒んではならない。患者が医師の推奨しない療法を希望したことは、診療を拒む正当な事由にはあたらない。

POINT

・がん患者が補完代替療法(サプリメント等)を希望したら、否定せずに理由を傾聴する。 ・相互作用・有害事象・費用(全額自己負担)を確認し、客観的情報を提供する。 ・多職種チームで情報を共有して支援する。 ・医師の勧めない療法を望んだことを理由に診療を中止してはならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。