「感染しているか」より「今うつすか」―空洞影の患者を前に最初に出すべき検査
第118回医師国家試験 B問題 第29問
国試問題にチャレンジ
64歳の男性。夜間の盗汗,微熱および持続する咳嗽を主訴に来院した。4年前から関節リウマチで疾患修飾性抗リウマチ薬〈DMARD〉及び生物学的製剤で治療中である。1か月前から夜間の盗汗,微熱および咳嗽が出現した。症状が持続するため自宅近くの診療所を受診した。心音と呼吸音とに異常を認めない。胸部エックス線写真で右上肺野に空洞陰影を認めた。 この患者で空気感染予防策の必要性を判断する検査はどれか。
- a.喀痰抗酸菌染色
- b.喀痰抗酸菌培養
- c.ツベルクリン反応
- d.気管支肺胞洗浄〈BAL〉培養
- e.結核菌特異的全血インターフェロンガンマ遊離測定法〈IGRA〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
慢性の咳・微熱・盗汗に上肺野の空洞影、さらに生物学的製剤による免疫抑制が重なれば、まず肺結核を疑います。空気感染予防策の要否は「今、排菌して他者にうつす状態か」で決まり、その判断には即日結果が出る喀痰抗酸菌塗抹検査を用い、結果が出るまでは予防策をとって対応します。培養や気管支肺胞洗浄液培養は確定診断と薬剤感受性検査に不可欠ですが、結果まで数週間かかり、IGRAやツベルクリン反応は感染の有無をみる検査で活動性や排菌の有無は判定できません。塗抹陽性でも非結核性抗酸菌の可能性があるため核酸増幅法で菌種を確認し、生物学的製剤の導入前には潜在性結核感染症のスクリーニングを行います。検査を「何を判定するか」と「どれだけ早くわかるか」で整理する視点は、感染対策と診療の両方の判断を支える基本になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・64歳男性。1か月続く夜間の盗汗(寝汗)、微熱、咳嗽という亜急性〜慢性の経過である。 ・関節リウマチに対し、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)と生物学的製剤で治療を受けている。生物学的製剤、特にTNF-α阻害薬は、肉芽腫を維持して結核菌を封じ込める働きを弱めるため、潜在性結核の再燃(内因性再燃)を起こしやすい。 ・聴診所見は乏しいが、胸部エックス線写真で右上肺野に空洞影がある。
診断へのプロセス
慢性の経過で空洞を作る肺病変としては、肺結核、非結核性抗酸菌(NTM)症、肺癌(特に扁平上皮癌)、肺真菌症などが挙がる。盗汗・微熱といった結核に典型的な全身症状があり、病変が結核の好発部位である上肺野(S1、S2、S6)にあり、さらに免疫抑制という強い危険因子をもつことから、まず肺結核を疑う。一方、黄色ブドウ球菌やクレブシエラなどによる壊死性肺炎・肺膿瘍も空洞を作るが、通常は急性の高熱で発症するため本例の経過には合わない。
設問の考え方
結核は飛沫核(直径5μm以下の微粒子)が空気中を長く漂って感染する空気感染症であり、同様の経路をとる麻疹・水痘とともに空気感染予防策(陰圧個室、医療従事者のN95マスク着用、患者のサージカルマスク着用など)の対象となる。ただし、感染性をもつのは菌を気道から排出している(排菌している)患者であり、その程度を最も早く評価できるのが喀痰の抗酸菌塗抹検査である。塗抹陽性は喀痰中に多量の菌が含まれることを意味し、周囲への感染力が高いと判断される。設問は「感染しているか」ではなく「今、他者にうつす状態か」を即日判断する検査を問うている点に注意する。所要日数と、何を判定する検査かという2つの視点で選択肢を比べるとよい。
選択肢考察
- ○a. 喀痰抗酸菌染色
喀痰をZiehl-Neelsen(チール・ネルゼン)染色や蛍光染色で鏡検する塗抹検査であり、抗酸菌はZiehl-Neelsen染色で赤く染まる桿菌として観察される。当日中に結果が得られ、陽性であれば喀痰中に大量の菌が排出されている、すなわち感染性が高いことを示すため、空気感染予防策の要否を判断する根拠となる。結核疑いの患者では、喀痰塗抹検査を通常3回(3日間)行い、その結果が出るまでは空気感染予防策をとって対応する。なお、塗抹では結核菌とNTMを区別できないので、陽性の場合は核酸増幅法(PCRなど)で結核菌かどうかを確認する。
- ×b. 喀痰抗酸菌培養
結核菌は増殖が遅く、液体培地(MGIT法など)でも数週間、固形培地(小川培地)では最長8週間程度を要する。菌の同定や薬剤感受性検査に不可欠で、塗抹より感度も高いが、隔離の要否をその場で決める目的には時間がかかりすぎる。
- ×c. ツベルクリン反応
結核菌の精製タンパク(PPD)を皮内注射し、48時間後の遅延型過敏反応をみる検査である。結核菌への感染歴を推定する検査であって、排菌の有無(他者への感染性)は分からない。BCG接種でも陽性となり、また本例のような免疫抑制状態では偽陰性となりやすい。
- ×d. 気管支肺胞洗浄〈BAL〉培養
気管支鏡で肺胞を洗浄して回収した液を培養する検査で、喀痰が採れない、あるいは喀痰検査で診断がつかない場合に用いられる。侵襲的なうえ、培養である以上、喀痰培養と同様に結果まで週単位を要するため、空気感染予防策の判断には向かない。また、気管支鏡は咳を誘発して周囲への曝露リスクも高い手技である。
- ×e. 結核菌特異的全血インターフェロンガンマ遊離測定法〈IGRA〉
結核菌特異抗原(ESAT-6、CFP-10など)でリンパ球を刺激し、放出されるインターフェロンγを測定する血液検査である(QuantiFERON、T-SPOT.TBなど)。BCG接種の影響を受けない点でツベルクリン反応より特異度が高いが、判定できるのは結核菌への感染の有無であり、活動性結核と潜在性結核感染症(LTBI)、過去の感染を区別できず、排菌の有無も分からない。免疫抑制状態では偽陰性や判定不可となることがあり、結果判明にも通常数日を要する。
結核の検査の目的別整理
・感染の有無をみる検査: IGRA、ツベルクリン反応(潜在性結核感染症の診断、接触者健診などに使う) ・排菌・感染性をみる検査: 喀痰抗酸菌塗抹検査(迅速、当日判明) ・菌種を確定する検査: 核酸増幅法(PCRなど、1〜数日で結核菌かNTMかを判別)、培養による同定 ・治療薬を選ぶ検査: 培養菌を用いた薬剤感受性試験
塗抹検査の判定
塗抹検査の結果は、かつてはガフキー号数で、現在は「−、±、1+、2+、3+」の段階で記載される。塗抹で検出されるには喀痰1mLあたり数千〜1万個程度の菌が必要とされ、塗抹陽性例は陰性例より感染性が明らかに高い。わが国では、肺結核で喀痰塗抹陽性の場合、原則として結核病床(陰圧の病室)への入院勧告の対象となる。
空気感染予防策
空気感染する代表疾患は結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)である。対策の柱は、陰圧個室への収容、入室する医療従事者のN95マスク着用、患者が移動するときのサージカルマスク着用である。飛沫感染(インフルエンザなど)ではサージカルマスクで足りる点と区別して覚える。
生物学的製剤と結核
TNF-α阻害薬などの生物学的製剤は結核の発症リスクを高める。投与前にIGRAや胸部画像で潜在性結核感染症をスクリーニングし、陽性ならイソニアジドなどによる予防内服を行う。発症した場合は肺外結核や播種性結核など、非典型的な病像をとりやすい。
POINT
・上肺野の空洞影+慢性の咳・微熱・盗汗+免疫抑制状態 → 肺結核を疑う。 ・感染性(排菌)の評価と空気感染予防策の判断には、即日結果が出る喀痰抗酸菌塗抹検査を用いる。 ・培養は確定診断と薬剤感受性検査に必須だが、結果まで数週間かかる。 ・IGRAとツベルクリン反応は感染の有無をみる検査で、活動性や排菌の有無は判定できない。 ・塗抹陽性でもNTMの可能性があるため、核酸増幅法で結核菌かどうかを確認する。
