「症状は?」だけでは見えない―患者の頭の中をのぞく解釈モデルの聞き方
第118回医師国家試験 B問題 第19問
国試問題にチャレンジ
解釈モデルを知るための質問で適切でないのはどれか。
- a.「症状をあげていただけますか」
- b.「どんな治療が必要になるとお考えですか」
- c.「病気が治ったら生活はどう変わりますか」
- d.「原因について思い当たることはありますか」
- e.「病気があることでどのようにお困りですか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
解釈モデルとは、患者が自分の病気の原因・病態・経過・生活への影響・治療への期待をどう考えているかという枠組みで、クラインマンが提唱した概念です。これを知るための質問は、原因の心当たり、想定する治療、治った後の生活、困りごとなど、患者の考えや期待を引き出す開かれた質問であり、症状を挙げてもらう質問は現病歴の聴取であって解釈モデルの質問ではありません。整理にはFIFE(感情・解釈・影響・期待)の枠組みが役立ちます。聴取の際は患者の考えを否定せずに受け止め、その理解に沿って説明することが大切です。医師の「疾患」と患者の「病い」のずれに気付くことは、納得のいく説明や共同意思決定、服薬アドヒアランスの向上につながり、患者中心の医療の土台となります。
解答・解説
正解はaです
解釈モデル(explanatory model)とは、病気について患者(あるいは医療者)が抱いている考えの枠組みである。具体的には「なぜこの病気になったのか(原因)」「体の中で何が起きているのか(病態)」「今後どうなっていくのか(経過・重症度)」「生活や仕事にどう影響するのか(影響)」「どのような治療を受けたいか、何を期待するか(治療・期待)」といった内容から成る。医学的な診断とは別に、患者がその病気をどう理解し、何を心配し、何を望んでいるのかを把握するための概念である。 したがって解釈モデルを知るための質問は、症状そのものという客観的な情報ではなく、患者自身の「考え・思い・期待・困りごと」を引き出す質問でなければならない。多くの場合、「〜についてどうお考えですか」「〜について思い当たることはありますか」のように、患者が自由に語れる開かれた質問(open-ended question)の形をとる。 本問は「適切でないもの」を選ぶ問題である。各選択肢が、患者の主観的な考えを尋ねているのか、それとも症状などの事実情報を尋ねているのかを区別すれば正解にたどり着ける。症状を列挙してもらう質問は病歴聴取(現病歴の聴取)には必要だが、患者の解釈を問うものではない。
選択肢考察
- ○a. 「症状をあげていただけますか」
自覚症状の内容を挙げてもらう質問であり、現病歴を把握するための情報収集にあたる。患者が病気の原因・意味・今後の見通しなどをどう考えているかを尋ねてはいないため、解釈モデルを知るための質問とはいえない。したがって「適切でない」ものとしてこれが正解となる。
- ×b. 「どんな治療が必要になるとお考えですか」
患者が想定している治療や、受けたいと望む治療を尋ねる質問である。治療についての考え・希望は解釈モデルの構成要素であり、適切な質問である。患者の想定と医学的に妥当な治療方針がずれている場合、それを早期に知ることで説明や合意形成(shared decision making)を進めやすくなる。
- ×c. 「病気が治ったら生活はどう変わりますか」
治癒後の生活をどう思い描いているか、つまり治療に何を期待しているかを尋ねる質問である。患者の期待(expectation)は解釈モデルに含まれ、適切な質問である。治療目標を患者と共有する際の手がかりにもなる。
- ×d. 「原因について思い当たることはありますか」
患者自身が病気の原因をどう考えているかを尋ねる質問である。原因についての考えは解釈モデルの中心的な要素であり、適切である。「仕事のストレスのせいだ」「家族と同じ病気ではないか」など、患者の不安や受診動機が明らかになることも多い。
- ×e. 「病気があることでどのようにお困りですか」
病気が日常生活・仕事・家庭などに与えている影響や、患者が感じている困りごとを尋ねる質問である。病気による影響は解釈モデルに含まれ、適切である。患者が最も解決してほしいと考えている問題を把握するのに役立つ。
解釈モデルの成り立ち
解釈モデルは医療人類学者クラインマン(Kleinman)が提唱した概念である。医師が捉える「疾患(disease)」と、患者が体験している「病い(illness)」は必ずしも一致せず、両者の考えの違いが診療上のすれ違いや治療への不満、服薬アドヒアランスの低下につながる。患者の解釈モデルを知ることで、そのずれに気付き、患者に合わせた説明ができるようになる。
患者の視点を引き出す枠組み
患者中心の医療面接では、患者の解釈モデルを次のような観点で聴取することがよく紹介される。 ・解釈(Ideas):病気の原因や病態をどう考えているか ・期待(Expectations):医師や治療に何を望んでいるか ・感情(Feelings):病気について何を心配し、どう感じているか ・影響(Function):病気が生活や仕事にどう影響しているか これらは英語の頭文字から FIFE と呼ばれることがある。
聴き方のポイント
・「はい/いいえ」で答える閉じた質問ではなく、開かれた質問を用いる。 ・患者の考えが医学的に誤っていても、まず否定せずに受け止め、共感的な態度で聴く。 ・聴き取った内容を踏まえて、患者の理解に沿った言葉で病状や治療方針を説明する。
病歴聴取との関係
症状の部位・性状・経過などを尋ねる質問は、医学的な診断のための情報収集(現病歴の聴取)である。どちらも医療面接に欠かせないが、解釈モデルの聴取は「患者が病気をどう捉えているか」という主観面を対象とする点で異なる。
POINT
・解釈モデルとは、病気の原因・病態・経過・影響・治療や期待について患者が抱いている考えのことである。 ・解釈モデルを知る質問は、患者の考え・期待・困りごとを引き出す開かれた質問である。 ・症状の内容を尋ねる質問は病歴聴取であり、解釈モデルの質問ではない。 ・患者の解釈を否定せず共感的に聴き、説明や治療方針の共有に活かす。
