痛くも痒くもない真っ赤な白目―「血管が見えるか」で見抜く結膜下出血
第118回医師国家試験 A問題 第38問
国試問題にチャレンジ
43歳の女性。右眼が赤いことに気付き来院した。外傷や手術の既往はなく自覚症状はない。眼脂を認めない。右眼の写真を示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.霰粒腫
- b.睫毛乱生
- c.眼瞼外反
- d.結膜下出血
- e.流行性角結膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
眼の赤みは、血管が拡張して個々に識別できる「充血」と、血液が漏れて血管が覆い隠される「出血」に分けて考えるのが基本です。境界明瞭でべったりとした鮮紅色を示し、痛み・かゆみ・眼脂・視力低下を伴わなければ、球結膜下の小血管が破綻した結膜下出血が最も考えられます。眼脂や異物感を伴う充血なら流行性角結膜炎などの結膜炎、眼瞼のしこりなら霰粒腫、睫毛の接触症状なら睫毛乱生、眼瞼のめくれなら眼瞼外反と、主座と随伴症状から鑑別します。結膜下出血は多くが特発性で1〜2週間で自然吸収され治療は不要ですが、反復例では高血圧や抗血栓薬、凝固異常を、外傷例では眼球破裂などを確認する必要があります。充血の種類(結膜充血と毛様充血)まで含めて眼の赤みを読み分ける力は、救急や一般外来でも重症疾患を見逃さないための土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・43歳の女性が、右眼が赤いことに自分で気付いて受診している。 ・外傷歴や眼の手術歴はない。 ・痛み・かゆみ・異物感・視力低下などの自覚症状はなく、眼脂(めやに)もみられない。 ・写真では、白目(球結膜)の耳側に境界の比較的はっきりした、べったりと一様に広がる鮮紅色の領域があり、その部分では結膜の血管の走行が赤色に覆われて見えにくくなっている。角膜は透明で、眼瞼に腫瘤や睫毛の異常はみられない。下眼瞼がやや下方に引かれているが、これは撮影時に結膜を露出させるために牽引しているものと考えられる。
診断へのプロセス
「眼が赤い」という訴えは、大きく(1)血管が拡張して赤く見える「充血」と、(2)血管の外に血液が漏れて赤く見える「出血」に分けて考えるとよい。 充血は、結膜炎・角膜炎・ぶどう膜炎・強膜炎・急性緑内障発作などの炎症や眼圧上昇に伴い、拡張した血管が1本1本識別できるのが特徴である。通常、眼脂、かゆみ、異物感、眼痛、羞明、視力低下など何らかの随伴症状を伴う。 一方、出血では結膜の下に血液が面状に広がるため、個々の血管は判別できず、むしろ血液に覆い隠される。疼痛などの自覚症状はほとんどなく、本人は鏡を見て、あるいは家族などに指摘されて初めて気付くことが多い。 本例は、自覚症状も眼脂もなく、写真上は面状の出血所見を示しており、典型的な結膜下出血である。眼脂がないことから感染性結膜炎(流行性角結膜炎や急性出血性結膜炎など)は考えにくく、眼瞼に腫瘤・睫毛の向きの異常・眼瞼の位置異常がないことから眼瞼疾患も否定的である。
設問への考え方
眼の赤みを見たら「血管が見えるか(充血)、血管が隠れているか(出血)」と「随伴症状の有無」の2点で判断する。無症状・眼脂なし・べったりとした赤色という組み合わせから、結膜下出血を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 霰粒腫
霰粒腫は、瞼板内にあるマイボーム腺(脂質を分泌する腺)の出口が詰まり、貯留した脂質に対する慢性肉芽腫性炎症が起こって、眼瞼に無痛性のしこりを生じる疾患である。病変の主座は眼瞼であり、球結膜が面状に赤くなる所見とは合わない。本例の写真では眼瞼に腫瘤を認めないため否定される。なお、細菌感染を伴うと発赤・疼痛が出現する(化膿性霰粒腫)。高齢者で再発を繰り返す場合は脂腺癌との鑑別が必要である。
- ×b. 睫毛乱生
睫毛乱生は、眼瞼の位置自体は正常であるにもかかわらず、一部の睫毛(まつ毛)が眼球側へ向かって生え、角膜や結膜に接触する状態である。ごろごろした異物感、流涙、軽い痛みなどを訴え、角膜上皮障害を伴うことがある。本例は自覚症状がなく、写真でも眼球に向かう睫毛はみられないため否定される。眼瞼そのものが内側に反転して睫毛が当たる眼瞼内反症とは区別される。
- ×c. 眼瞼外反
眼瞼外反は、眼瞼(主に下眼瞼)が外側へめくれ返り、眼瞼結膜が露出する状態である。原因として加齢による眼瞼の弛緩(退行性)、顔面神経麻痺による眼輪筋の麻痺(麻痺性)、外傷・熱傷・手術後の瘢痕(瘢痕性)などがある。結膜の乾燥・充血、流涙、兎眼性角膜炎などをきたす。本例の写真で下眼瞼が下に引かれて見えるのは撮影時の牽引によるものと考えられ、外傷・手術歴や顔面神経麻痺を示す情報もなく、43歳と加齢性変化を考える年齢でもないため、可能性は低い。
- ○d. 結膜下出血
球結膜下の小血管が破綻し、結膜とその下のテノン嚢・強膜との間に血液が貯留した状態である。写真では耳側の球結膜に境界明瞭で一様な鮮紅色の領域がみられ、その部分の血管は血液に隠れて識別できない。痛み・かゆみ・視力障害・眼脂がなく、赤いこと以外に症状がない点も結膜下出血に典型的である。外傷歴がないことから、特発性(明らかな誘因のないもの)またはいきみ・咳などに伴うものと考えられる。
- ×e. 流行性角結膜炎
流行性角結膜炎(EKC: epidemic keratoconjunctivitis、通称「はやり目」)は、アデノウイルス(主に8型・19型・37型、近年は53型・54型・56型なども)による感染力の強い角結膜炎である。約1週間(5〜14日程度)の潜伏期を経て、強い結膜充血、漿液性〜線維素性の眼脂、流涙、異物感、眼瞼腫脹、耳前リンパ節の腫脹・圧痛を生じ、結膜に濾胞を形成する。偽膜形成や、発症1〜2週後に角膜上皮下混濁(多発性角膜上皮下浸潤)を残すことがある。経過中に点状の結膜下出血を伴うこともあるが、本例は眼脂や自覚症状がなく、充血ではなく面状の出血のみであるため否定的である。
白目(球結膜部)の構造
白目は、外側から結膜、テノン嚢、強膜が重なって構成されており、いずれにも血管が分布している。そのため、それぞれの層が炎症や出血の場となりうる。
眼が赤い:充血と出血の見分け方
・充血:血管が拡張し、個々の血管が識別できる。炎症によるものが大部分で、眼脂・かゆみ・痛み・羞明などを伴う。 結膜充血:眼球の周辺部(円蓋部側)ほど強く、鮮紅色。結膜炎などでみられる。 毛様充血:角膜輪部の周囲に強く、やや紫がかった赤色。角膜炎、虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)、急性緑内障発作などでみられ、視力低下や眼痛を伴うことが多く、より重篤な疾患を示唆する。 なお、まれに内頸動脈海綿静脈洞瘻のように眼静脈圧が上昇する疾患でも、血管が怒張して赤く見える。 ・出血:血管の外に血液が漏れ、べったりと面状に広がる。血管は血液に隠れて見えない。通常は赤い以外の症状はない。
結膜下出血の要点
・原因:特発性が最も多い。そのほか、咳・くしゃみ・嘔吐・いきみなど静脈圧が急に上がる動作(バルサルバ手技)、外傷、高血圧、動脈硬化、糖尿病、抗凝固薬・抗血小板薬の内服、血液凝固異常、結膜弛緩症、急性出血性結膜炎(エンテロウイルス70型やコクサッキーウイルスA24変異型による)などがある。 ・症状:赤い以外に症状はないことが多い。軽い異物感を訴えることがある程度である。 ・経過と治療:視機能に影響はなく、通常1〜2週間程度で自然に吸収される。吸収過程で黄色っぽく見えることがある。原則として治療は不要である。 ・注意点:繰り返す場合や広範囲の場合は、血圧測定、血液凝固系の検査、服薬歴の確認を行い、全身疾患を検索する。外傷に伴う場合は、眼球破裂や眼窩骨折など他の損傷を見逃さないようにする。
POINT
・眼の赤みは「充血(血管が見える)」と「出血(血管が隠れる)」に分けて考える。 ・結膜下出血は、べったりとした境界明瞭な赤色で、痛み・かゆみ・眼脂・視力低下を伴わないのが特徴である。 ・多くは特発性で、1〜2週間で自然吸収されるため治療は不要。反復例では高血圧や凝固異常などの全身検索を行う。 ・眼脂や異物感を伴う充血なら結膜炎(流行性角結膜炎など)、眼瞼の腫瘤なら霰粒腫・麦粒腫、睫毛の接触なら睫毛乱生・眼瞼内反を考える。
