StudyMed医師国家試験

片眼から両眼へ、そして何度でも―流行性角結膜炎に「終生免疫」はない

第117回医師国家試験 A問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第24問

10歳の女児。両眼の充血と眼脂を主訴に母親に連れられて来院した。3日前から左眼が充血し,涙が多くなった。眼脂もあるという。今朝から右眼にも同様の症状が出現した。両側の眼球結膜に充血を認める。両側の耳前リンパ節に腫脹を認める。  最も考えられる疾患について誤っているのはどれか。

  1. a.終生免疫を獲得する。
  2. b.院内感染の原因となる。
  3. c.感染経路は接触感染である。
  4. d.学校を休まなければならない。
  5. e.感染予防のために手洗いが有用である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、子どもの急性結膜炎から原因を推定し、その疾患の性質や感染対策を問う問題だ。注目点は、片眼から始まって数日でもう片眼に広がった経過と、耳前リンパ節の腫れ。この2つから何を考えるかな。
医学生医学生
充血と眼脂があるので感染性の結膜炎だと思います。耳前リンパ節が腫れているのはウイルス性のサインでしょうか。
ドクタードクター
その通り。結膜炎の鑑別の目安として、水様性の眼脂・結膜の濾胞・耳前リンパ節腫脹がそろえばウイルス性、膿性の眼脂が主体なら細菌性、かゆみが主症状でリンパ節が腫れないならアレルギー性と考える。片眼から他眼へ波及し、耳前リンパ節が腫れる急性結膜炎といえば、アデノウイルスによる流行性角結膜炎が典型だ。
医学生医学生
アデノウイルスというと咽頭結膜熱、いわゆるプール熱も思い浮かびます。小児科の実習で夏に何人も診ました。
ドクタードクター
いい連想だね。同じアデノウイルスでも、咽頭結膜熱は発熱・咽頭炎・結膜炎が三主徴だ。今回は発熱や咽頭痛の記載がないから、流行性角結膜炎のほうが合う。ちなみに両眼の結膜充血という点では川崎病も鑑別に挙がるけど、川崎病の結膜充血は眼脂を伴わないし、発熱や口唇の紅潮、発疹などもない。
医学生医学生
この問題は「誤っているもの」を選ぶんですよね。終生免疫を獲得する、というのは麻疹みたいなイメージで、正しそうに見えてしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだ。アデノウイルスには非常に多くの型があって、流行性角結膜炎の原因になる型だけでも8型、19型、37型、54型など複数ある。ある型に感染してその型への免疫がある程度できても、別の型には守ってくれない。だから流行性角結膜炎には何度もかかりうるんだ。終生免疫を獲得する、という記述が誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
型が多いから再感染する、というのはインフルエンザやかぜのウイルスと似た考え方ですね。
ドクタードクター
そう理解しておくと覚えやすい。では残りの記述も確認していこう。院内感染の原因となる、についてはどうかな。
医学生医学生
眼科の実習で、流行性角結膜炎の疑いの患者さんは別の診察室に案内されていました。院内感染を起こしやすいから、ということですよね。
ドクタードクター
まさにそれ。アデノウイルスは感染力が強いうえ、エンベロープをもたないので環境中で数週間ほど感染性を保つ。眼圧計や点眼瓶、ドアノブ、医療者の手指を介して患者から患者へ広がり、眼科外来の院内感染の代表になっている。だから正しい記述だ。
医学生医学生
感染経路が接触感染というのも、今の話から納得です。
ドクタードクター
そうだね。涙や眼脂に含まれるウイルスが、手やタオル、洗面器などを介して他人の眼に入る。家庭ではタオルを共用しない、眼をこすった手であちこち触らない、といった指導が大事になる。潜伏期間はおよそ1〜2週間だ。
医学生医学生
手洗いが有用というのも正しいと思いますが、アルコール消毒だけでも十分でしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ノンエンベロープウイルスはアルコール系消毒薬が効きにくい。だから石けんと流水による手洗いでウイルスを物理的に洗い流すことが基本になる。器具や環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムなどを使う。ノロウイルスと同じ発想だよ。
医学生医学生
学校を休まなければならない、というのは学校保健安全法の話ですね。公衆衛生の講義で第一種から第三種まで覚えました。
ドクタードクター
流行性角結膜炎は第三種の感染症で、病状により学校医その他の医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止になる。一方、咽頭結膜熱は第二種で、主要症状が消えた後2日を経過するまで出席停止。同じアデノウイルスでも扱いが違うので、セットで押さえておこう。
医学生医学生
治療はどうするんですか。特効薬があるイメージはありません。
ドクタードクター
その通りで、アデノウイルスに有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法が中心だ。細菌の混合感染予防に抗菌点眼薬を使ったり、炎症が強いときに低濃度のステロイド点眼薬を使ったりすることがある。診断には結膜擦過物を使ったアデノウイルス抗原の迅速検査キットも使われるよ。
医学生医学生
結膜炎が治まれば、それで終わりと考えていいんでしょうか。
ドクタードクター
そこが臨床での注意点だ。発症から1〜2週間ほどたつと、角膜に点状の混濁、つまり多発性角膜上皮下浸潤が出てくることがあり、まぶしさや視力低下の原因になる。これが数か月続くこともあるから、角結膜炎という名前の通り、角膜まで経過を見ていく必要がある。重症例では結膜に偽膜ができることもあるね。

まとめ

片眼から始まり数日で他眼に波及する急性結膜炎で、耳前リンパ節腫脹を伴う場合は、アデノウイルスによる流行性角結膜炎を考えます。アデノウイルスには多数の型があるため終生免疫は獲得されず、再感染しうる点が本問の要です。感染経路は涙液や眼脂を介した接触感染で、ノンエンベロープのため環境中で安定しアルコールが効きにくく、院内感染の原因となるので、石けんと流水による手洗いや器具の消毒が重要です。学校保健安全法では第三種の感染症として医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となり、第二種の咽頭結膜熱との違いも押さえておきましょう。特異的治療薬はなく対症療法が中心で、発症1〜2週後の角膜上皮下浸潤にも注意が必要であり、病原体の性質から感染対策までを結びつけて理解することが臨床現場での感染拡大防止に直結します。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・10歳女児。3日前に左眼の充血・流涙・眼脂で始まり、今朝から右眼にも同じ症状が出現した(片眼発症→数日遅れて他眼へ波及)。 ・両側の眼球結膜充血。 ・両側の耳前リンパ節腫脹。 ・発熱や咽頭痛、瘙痒感、鼻症状の記載はない。

診断へのプロセス

急性の充血・流涙・眼脂は感染性結膜炎を示唆する。片眼から始まり数日でもう片眼に広がる経過と、耳前リンパ節腫脹の合併はウイルス性結膜炎、なかでもアデノウイルスによる流行性角結膜炎(EKC)の典型像である。細菌性結膜炎は膿性眼脂が主体で耳前リンパ節腫脹は通常目立たず、アレルギー性結膜炎は瘙痒が主症状でリンパ節腫脹を伴わない。同じアデノウイルスによる咽頭結膜熱(プール熱)は発熱と咽頭炎を伴うが、本例ではそれらの記載がない。川崎病も両側の眼球結膜充血をきたすが、眼脂を伴わない点、発熱・口唇の紅潮・発疹・四肢末端の変化がない点で否定的である。以上より流行性角結膜炎と診断する。

設問の考え方

本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。流行性角結膜炎の病原体(アデノウイルス)の性質、感染経路、院内感染対策、学校保健安全法上の扱いを整理し、事実と異なる記述を選ぶ。

選択肢考察

  1. ○a.  終生免疫を獲得する。

    誤った記述であり、これが正解である。アデノウイルスには多数の血清型・遺伝子型が存在し、流行性角結膜炎の原因となる型も8・19・37・54型など複数ある。感染した型に対してはある程度の免疫が得られても、他の型には防御されないため、生涯にわたって再感染を防ぐ終生免疫は獲得されない。実際に流行性角結膜炎に繰り返し罹患することがある。

  2. ×b.  院内感染の原因となる。

    正しい記述である。アデノウイルスは感染力が非常に強く、エンベロープをもたないため環境中で長期間(数週間程度)感染性を保つ。眼科外来で眼圧計・点眼瓶・ドアノブなどや医療従事者の手指を介して患者間に広がり、院内感染の代表的な原因となる。患者の診察後の手洗い、器具の消毒、患者の動線分離などの対策が必要である。

  3. ×c.  感染経路は接触感染である。

    正しい記述である。涙液や眼脂に含まれるウイルスが、手指やタオル、洗面器、器具などを介して他人の眼に付着することで感染する接触感染が主な経路である。タオルの共用を避ける、眼をこすった手で物に触れないなどの指導が重要である。潜伏期間はおよそ1〜2週間である。

  4. ×d.  学校を休まなければならない。

    正しい記述である。流行性角結膜炎は学校保健安全法で第三種の感染症に指定されており、病状により学校医その他の医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となる。発症後しばらくは涙や眼脂からウイルスが排出され続けるため、症状が改善して感染力がなくなるまで登校を控える必要がある。

  5. ×e.  感染予防のために手洗いが有用である。

    正しい記述である。感染の主体は手指を介した接触感染であるため、石けんと流水による手洗いが最も基本的かつ有効な予防策である。アデノウイルスはエンベロープをもたず、アルコール系消毒薬が比較的効きにくいため、流水でウイルスを物理的に洗い流すことが重要である。器具や環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムなどが用いられる。

流行性角結膜炎(EKC:epidemic keratoconjunctivitis)

・病原体:アデノウイルス(主に8・19・37・54型など)。エンベロープをもたないDNAウイルスで、環境中で安定し消毒薬への抵抗性が比較的高い。 ・潜伏期:約1〜2週間。 ・症状:急性の結膜充血、流涙、水様〜粘液性の眼脂、異物感、眼瞼腫脹。片眼に始まり数日後に他眼にも及ぶことが多い。耳前リンパ節の腫脹・圧痛を伴う。結膜には濾胞形成がみられ、重症例では偽膜を形成することもある。 ・角膜病変:発症1〜2週間後ごろから多発性角膜上皮下浸潤(点状の混濁)を生じ、羞明や視力低下の原因となる。数か月持続することがある。 ・診断:臨床所見と周囲の流行状況に加え、結膜擦過物を用いたアデノウイルス抗原の迅速診断キットが用いられる。 ・治療:有効な抗ウイルス薬はなく対症療法が中心である。細菌の混合感染予防に抗菌点眼薬、角膜上皮下浸潤や偽膜による炎症に対して低濃度ステロイド点眼薬を用いることがある。 ・学校保健安全法:第三種の感染症。医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止。

アデノウイルスによる他の眼疾患との比較

・咽頭結膜熱(プール熱):主に3型など。発熱・咽頭炎・結膜炎が三主徴。学校保健安全法では第二種の感染症で、主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止。 ・急性出血性結膜炎:エンテロウイルス70型やコクサッキーウイルスA24変異型による。潜伏期が約1日と短く、結膜下出血が特徴。学校保健安全法の第三種の感染症。

結膜炎の鑑別の目安

・ウイルス性:水様性眼脂、濾胞、耳前リンパ節腫脹。 ・細菌性:膿性眼脂。 ・アレルギー性:瘙痒が主体、乳頭増殖、リンパ節腫脹なし。 ・クラミジア:大型濾胞、粘液膿性眼脂、慢性経過。

POINT

・片眼から両眼へ波及する急性結膜炎+耳前リンパ節腫脹 → 流行性角結膜炎(アデノウイルス)。 ・血清型が多数あるため終生免疫は得られず、再感染しうる。 ・接触感染で感染力が強く、院内感染の原因となる。予防は石けんと流水による手洗い(アルコールが効きにくい)。 ・学校保健安全法では第三種:医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止。 ・特異的治療薬はなく対症療法。1〜2週後に多発性角膜上皮下浸潤を生じうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。