職場から目へ、目から家族へ―流行性角結膜炎の連鎖を断つのは「流水の手洗い」
第112回医師国家試験 D問題 第34問
国試問題にチャレンジ
36歳の男性。2日前に左眼の充血と流涙とを自覚したため来院した。ハードコンタクトレンズを使用している。会社の同僚が1週間前まで同様の症状で治療中であった。耳前リンパ節の腫大と圧痛とを認める。左眼の前眼部写真を別に示す。 この患者への生活指導として正しいのはどれか。

- a.頻回の洗眼を勧める。
- b.コンタクトレンズの装用は許可する。
- c.家族より先の入浴を勧める。
- d.流水による手洗いの励行を勧める。
- e.会社への出勤は許可する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性の結膜充血に耳前リンパ節の有痛性腫大を伴い、周囲に同様の症状の人がいれば、アデノウイルスによる流行性角結膜炎を考えます。特異的な治療薬がないため、診療の柱は悪化防止と二次感染予防であり、感染経路は涙や眼脂が付いた手指・物品を介する接触感染です。アデノウイルスはエンベロープを持たずアルコールに抵抗性なので、石けんと流水による手洗いが最も基本的な対策となります。あわせてタオルの共用を避け、入浴は家族の最後、コンタクトレンズは治るまで中止、感染力の強い時期の出勤・登校は控えるよう指導し、頻回の洗眼は勧めません。感染経路から指導内容を論理的に導く考え方は、院内感染対策を含む日常診療で大いに役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・2日前からの片眼(左眼)の充血と流涙:急性に発症した結膜炎を示す。 ・ハードコンタクトレンズ使用者:レンズや手指を介して病原体が眼に入りやすく、感染性結膜炎・角膜炎のリスクが高い背景である。細菌性やアカントアメーバ角膜炎なども一応念頭に置く。 ・会社の同僚が1週間前まで同様の症状で治療中:周囲から感染した可能性(sick contact)を示し、ヒトからヒトへ強くうつる疾患を考えさせる。 ・耳前リンパ節の腫大と圧痛:ウイルス性結膜炎、とくにアデノウイルスによる流行性角結膜炎に特徴的な所見である。細菌性結膜炎やアレルギー性結膜炎では通常みられない。 ・前眼部写真:結膜の強い充血がみられ、急性ウイルス性結膜炎として矛盾しない。
診断
同僚からの感染を思わせる経過、急性の充血・流涙、耳前リンパ節の有痛性腫大から、アデノウイルスによる流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)と診断できる。同僚の発症時期と本人の発症時期の差は、EKCの潜伏期(およそ1〜2週間)とも合致する。
設問の考え方
EKCにはアデノウイルスそのものに効く特効薬がなく、治療は対症的なものにとどまる。そのため実際の診療で重視されるのは、患者本人の症状悪化を防ぐことと、家族・職場への二次感染を防ぐことである。感染経路は涙や眼脂が付着した手指・タオル・ドアノブなどを介した接触感染であり、ウイルスはエンベロープを持たないため環境中で長く生存し、アルコール消毒も効きにくい。したがって、生活指導の中心は「流水と石けんによる手洗い」「タオルなどの共用を避ける」「人との接触を減らす」であり、これに合う選択肢を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 頻回の洗眼を勧める。
誤り。洗眼を繰り返しても結膜や角膜の細胞内で増殖しているアデノウイルスを取り除くことはできず、治癒は早まらない。むしろ頻回の洗眼は涙液層を乱し、すでに炎症で弱っている角膜上皮を傷つけるおそれがある。また、洗眼のたびに手で眼の周囲に触れることになり、手指の汚染や周囲への伝播の機会を増やす点でも勧められない。
- ×b. コンタクトレンズの装用は許可する。
誤り。炎症を起こしている眼にコンタクトレンズを装用すると、角膜への機械的刺激や酸素供給の低下により症状が悪化し、角膜上皮障害や細菌の二次感染を招きやすい。さらに着脱のたびに手指が涙・眼脂に触れ、ウイルスを広げる原因にもなる。これは感染性・アレルギー性を問わず炎症眼に共通する原則であり、症状が治まり医師が許可するまで装用は中止させる。使用していたレンズやケース類も汚染されている可能性があるため、再開時の取り扱いに注意させる。
- ×c. 家族より先の入浴を勧める。
誤り。EKCは非常に感染力が強く、浴室や浴槽の湯、タオルなどを介して家族にうつる可能性がある。家族への感染を防ぐためには、患者は家族のあとに(最後に)入浴するよう指導するのが適切であり、先に入浴させるのは逆である。あわせてタオル・洗面器などを家族と共用しないよう指導する。
- ○d. 流水による手洗いの励行を勧める。
正しい。EKCの主な感染経路は、涙や眼脂が付いた手指や物品を介した接触感染である。アデノウイルスはエンベロープを持たないウイルスで、アルコールなどの消毒薬に比較的抵抗性を示し、環境中でも長く感染性を保つ。そのため、石けんと流水でよく手を洗い、ウイルスを物理的に洗い流すことが最も基本的で有効な感染対策となる。眼に触れた後、点眼の前後、食事の前などに手洗いを行うよう指導する。
- ×e. 会社への出勤は許可する。
誤り。本例は同僚から感染したと考えられる経過であり、そのまま出勤すれば職場でさらに感染が広がるおそれがある。成人の就労については学校保健安全法のような法的な出席停止規定はないものの、感染力の強い時期(発症後おおむね1〜2週間)は出勤を控えるよう勧めるのが適切である。
流行性角結膜炎(EKC)の概要
・病原体:アデノウイルス(主に8型・19型・37型や、53型・54型・56型など)。 ・潜伏期:およそ1〜2週間(8〜14日程度)。 ・症状:急性の結膜充血、流涙、多量の眼脂、眼瞼腫脹、異物感。片眼で発症し、数日遅れて他眼にも及ぶことが多い(後発眼は一般に軽症)。 ・所見:耳前リンパ節の腫脹・圧痛、結膜の濾胞形成、重症例では偽膜形成。発症1〜2週後ごろから角膜に多発性の点状上皮下混濁が出現し、視力低下やまぶしさの原因となることがある。 ・診断:臨床所見に加え、結膜擦過物を用いたアデノウイルス抗原迅速検出キット(イムノクロマト法)が用いられる。 ・治療:特異的な抗ウイルス薬はない。細菌の混合感染を防ぐ目的で抗菌薬点眼、炎症や角膜上皮下混濁を抑える目的で低濃度ステロイド点眼を用いることが多い。
感染対策の要点
・手洗い(石けんと流水)の徹底、眼をこすらない。 ・タオル・洗面器・点眼薬などを共用しない。入浴は家族の最後にする。 ・コンタクトレンズは治癒まで中止する。 ・医療機関では院内感染(眼圧計、検査器具、医療者の手指を介する)に注意が必要で、器具の消毒には次亜塩素酸ナトリウムなどを用いる。 ・学校保健安全法では第三種の感染症に分類され、「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」出席停止となる。
アデノウイルスによる他の眼疾患
・咽頭結膜熱(プール熱):主に3型・4型・7型。発熱・咽頭炎・結膜炎の3徴を示し小児に多い。学校保健安全法の第二種感染症で、主要症状消退後2日を経過するまで出席停止。 ・急性出血性結膜炎はアデノウイルスではなく、エンテロウイルス70型やコクサッキーウイルスA24変異株による。結膜下出血が特徴で潜伏期は約1日と短い。
POINT
・急性結膜炎+耳前リンパ節の有痛性腫大+周囲の同様症状 → アデノウイルスによる流行性角結膜炎を考える。 ・感染経路は手指や物品を介した接触感染で、感染力が非常に強い。 ・ウイルスはエンベロープを持たずアルコールに抵抗性 → 石けんと流水による手洗いが基本。 ・タオルの共用を避け、入浴は家族の最後、コンタクトレンズは中止、出勤・登校は控える。 ・頻回の洗眼は無効で、角膜を傷つけるおそれがある。
