首振り、咳払い、そして汚い言葉―4年間で広がったチックが示すTourette症候群
第117回医師国家試験 D問題 第35問
国試問題にチャレンジ
10歳の男児。体を後方にそらす運動や無意味な言葉を繰り返し発するようになり,両親に連れられて来院した。6歳ごろから顔をゆがめる,首を振るなどの運動を繰り返し,突然声を発したり咳払いをしたりするようになった。8歳以降は拍手やジャンプなど,より複雑な運動も繰り返すようになった。汚い言葉を繰り返し発することもあるという。 この児で最も考えられる疾患はどれか。
- a.分離不安症
- b.Tourette症候群
- c.自閉スペクトラム症
- d.吃音症〈小児期発症流暢症〉
- e.注意欠陥多動障害〈ADHD〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
チックとは突発的・急速・反復性で律動的でない運動または発声であり、多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが18歳未満で発症し1年以上続くものがTourette症候群です。顔しかめや首振り、咳払いといった単純チックから、拍手やジャンプ、言葉の反復などの複雑チックへ広がる経過は典型的で、汚言は特徴的ですが一部の患者にみられるだけで診断に必須ではありません。自閉スペクトラム症の常同運動は律動的で没頭的、ADHDは目的のある行動の過剰、吃音は発話時の流暢性の障害、分離不安症は愛着対象から離れることへの不安が中心であり、チックとは性質が異なります。前駆衝動を伴い一時的に抑制できること、男児に多く10〜12歳ごろに最も重く青年期に軽快しやすいこと、ADHDや強迫症の併存が多いことも押さえておきましょう。治療の基本は心理教育と環境調整で、症状の正しい理解が子どもと家族の生活を支える第一歩になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・10歳の男児。6歳ごろに発症し、現在まで約4年間症状が続いている。 ・顔をゆがめる、首を振る → 単純運動チック(急速で短い、意味のない動き) ・突然声を発する、咳払い → 単純音声チック ・8歳以降の拍手やジャンプ、体を後方にそらす動き → 複雑運動チック(目的があるように見える、より複雑でまとまった動き) ・無意味な言葉の反復、汚い言葉の反復 → 複雑音声チック。社会的に不適切な言葉を発するものを汚言(コプロラリア)という。
診断へのプロセス
チックとは、突発的で急速、反復性があり、律動的でない運動または発声である。本例は多彩な運動チックと音声チックの両方を認め、学童期前に発症して1年以上(約4年)持続しており、年齢とともに顔面・頸部の単純なチックから全身を使う複雑なチックへと広がっている。DSM-5の診断基準では、①多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが、病期中のいずれかの時期に存在し(同時でなくてよい)、②最初のチックの発症から1年以上持続し、③18歳以前に発症し、④物質や他の医学的疾患(Huntington病、ウイルス性脳炎後など)によらないものをTourette症(Tourette症候群)と診断する。本例はこれを満たす。汚言はTourette症候群に特徴的な症状として知られるが、出現するのは患者の一部であり、診断に必須ではない。
選択肢考察
- ×a. 分離不安症
分離不安症は、家庭や愛着の対象(多くは母親)から離れることに対して、発達段階に見合わない過剰で持続的な不安・恐怖を示す不安症である。登校しぶり、一人で寝られない、分離の際の腹痛・頭痛などの身体症状、愛着対象に何か悪いことが起こるのではという心配が特徴で、子どもでは4週間以上の持続が目安となる。本例のような不随意的で反復する運動・発声とは症状の性質が異なる。
- ○b. Tourette症候群
顔面・頸部の単純運動チックに始まり、拍手・ジャンプなどの複雑運動チック、発声・咳払いといった単純音声チック、無意味な言葉や汚言の反復といった複雑音声チックを認める。多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが、18歳未満で発症し1年以上(本例では約4年)持続しているため、Tourette症候群の診断基準を満たす。男児に多く、学童期前後に発症して10〜12歳ごろに最も重くなりやすいという経過も典型的である。
- ×c. 自閉スペクトラム症
自閉スペクトラム症(ASD)は、①社会的コミュニケーションと対人的相互作用の持続的な障害、②限定された反復的な行動・興味・活動(常同運動、同一性へのこだわり、限局した興味、感覚の過敏・鈍麻)を特徴とする発達障害で、症状は発達早期から存在する。手をひらひらさせるなどの常同運動や、他人の言葉をそのまま繰り返す反響言語を示すことがあるが、常同運動は律動的で本人が没頭しているように見える点で、突発的・非律動的なチックと異なる。本例には対人関係やこだわりの問題の記載がなく、6歳での発症も合わない。なお、Tourette症候群にASDが併存することはある。
- ×d. 吃音症〈小児期発症流暢症〉
吃音症は、音や音節の繰り返し(「ぼ、ぼ、ぼく」)、音の引き伸ばし(「ぼーーく」)、言葉が詰まって出てこない(ブロック)などにより、話し言葉の流暢さが損なわれる発話の障害である。多くは2〜5歳ごろに発症し、男児に多い。話そうとする際の困難であり、発話と無関係に突然声や言葉が出る音声チックとは異なる。また、全身の運動チックは吃音症では説明できない(吃音に伴って瞬きや顔をしかめるなどの随伴運動がみられることはある)。
- ×e. 注意欠陥多動障害〈ADHD〉
注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意(忘れ物、集中が続かない、ケアレスミス)と多動性・衝動性(じっとしていられない、順番を待てない、しゃべりすぎる)が、12歳になる前から6か月以上持続し、家庭と学校など2つ以上の場面で認められる発達障害である。落ち着きのなさは目的のある行動の過剰であり、本例のような特定の運動・発声を繰り返すチックとは異なる。ただしADHDはTourette症候群に最も多い併存症の一つであり、併存の有無は確認が必要である。
チックの分類
・単純運動チック:瞬き、顔しかめ、首振り、肩すくめなど ・複雑運動チック:跳ねる、叩く、体をそらす、物に触る、他人の動作をまねる(反響動作)など ・単純音声チック:咳払い、鼻を鳴らす、うなり声、短い発声など ・複雑音声チック:単語や句の反復、汚言(コプロラリア)、他人の言葉の反復(反響言語、エコラリア)、自分の言葉の反復(反復言語、パリラリア)など
DSM-5のチック症群
・Tourette症:多彩な運動チック+1つ以上の音声チック、1年以上持続、18歳未満発症 ・持続性(慢性)運動または音声チック症:運動チックまたは音声チックのどちらか一方のみ、1年以上持続 ・暫定的チック症:持続が1年未満
Tourette症候群の特徴
・男児に多い(男女比はおよそ3〜4:1)。学童期前後(4〜6歳ごろ)に発症し、10〜12歳ごろに重症度のピークを迎え、多くは思春期〜青年期に軽快する。 ・チックの直前に「やらずにはいられない」むずむず感(前駆衝動)を伴い、チックをすると和らぐ。短時間であれば意図的に抑えることができる。ストレス・緊張・興奮・疲労で増悪し、何かに集中しているときや睡眠中は減少する。 ・病態には皮質-線条体-視床-皮質回路の機能異常やドパミン系の関与が想定され、遺伝的要因も大きい。 ・併存症:ADHD、強迫症、自閉スペクトラム症、不安症、学習の問題など。併存症のほうが生活上の困難の主因になることも多い。
治療
・疾患の理解を促す心理教育と環境調整が基本(叱責や「やめなさい」という注意はかえって悪化させうる)。 ・行動療法:チックに対する包括的行動介入(CBIT)、ハビット・リバーサル(チックと両立しない拮抗反応を練習する方法)。 ・薬物療法:日常生活に支障がある場合に、アリピプラゾールやハロペリドールなどの抗精神病薬、α2作動薬(クロニジン、グアンファシン)などを用いる。
チックとの鑑別
・舞踏運動・ジストニアなどの不随意運動:随意的に抑制できず、前駆衝動を伴わない。 ・常同運動:律動的で、本人が没頭しているように見える。前駆衝動を伴わない。 ・強迫行為:強迫観念による不安を打ち消すための、比較的ゆっくりした決まった手順の行為。
POINT
・チック=突発的・急速・反復性・非律動性の運動または発声。 ・Tourette症候群:多彩な運動チック+1つ以上の音声チック、1年以上持続、18歳未満発症。 ・汚言(コプロラリア)は特徴的だが一部の患者にみられるのみで、診断に必須ではない。 ・男児に多く、学童期前後に発症、10〜12歳で最重症、青年期に軽快傾向。 ・前駆衝動を伴い、一時的に随意的に抑制できる。ADHD・強迫症の併存が多い。
