口をもぐもぐ、そのとき脳では―症状から読み解くてんかん焦点の地図
第117回医師国家試験 D問題 第3問
国試問題にチャレンジ
てんかん発作の焦点が側頭葉に存在すると考えられる症状はどれか。
- a.口をもぐもぐさせる。
- b.会話中に突然眠り込む。
- c.目の前がチカチカする。
- d.両上肢をピクッと動かす。
- e.全身強直後にけいれんする。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
焦点発作では、発作が始まる脳部位の機能に対応した症状が現れるため、症状から焦点の位置を推定できます。側頭葉てんかんでは上腹部不快感・既視感・恐怖感・異臭などの前兆に続き、意識減損と動作停止、口をもぐもぐさせる口部自動症や手の自動症がみられるのが典型です。一方、チカチカする視覚症状は後頭葉焦点、両上肢のピクッとした動きは全般発作のミオクロニー発作、強直間代発作は焦点を特定する根拠にならず、会話中に突然眠り込むのはナルコレプシーの睡眠発作です。側頭葉てんかんは成人の焦点てんかんで最も多く、海馬硬化症を背景とする薬剤抵抗例では側頭葉切除術が有効なことがあります。症状を脳の機能地図と結びつける考え方は、発作の鑑別から治療方針の決定まで役立ちます。
解答・解説
正解はaです
テーマ
てんかん発作は、脳の一部から始まる焦点発作(かつての部分発作)と、発作の始まりから両側の大脳半球が同時に巻き込まれる全般発作に大別される。焦点発作では、発作が始まる脳の部位(焦点)の機能に対応した症状が現れるため、症状から焦点の位置を推定できる。
焦点部位と症状の対応
・側頭葉:上腹部の不快感がこみ上げる感じ、既視感(デジャヴ)、恐怖感、においの幻覚などの前兆に続き、意識が曇って動作が止まり(動作停止・凝視)、口をもぐもぐ・ぺちゃぺちゃさせる、手で衣服をまさぐるなどの自動症が出る。 ・前頭葉:睡眠中に多い、短時間で激しい運動症状(四肢をばたつかせる、非対称な強直姿勢など)。 ・中心前回(一次運動野):対側の手や顔面から始まる間代けいれんが隣接部位へ広がる(ジャクソン発作)。 ・頭頂葉:対側のしびれなどの体性感覚症状。 ・後頭葉:光が見える、チカチカするなどの要素性視覚症状や視野欠損。
考え方
選択肢のうち、側頭葉の焦点を示すのは口部の自動症である「口をもぐもぐさせる」である。そのほかは、睡眠障害(ナルコレプシー)、後頭葉の症状、全般発作(ミオクロニー発作・強直間代発作)にあたり、側頭葉に焦点を特定する根拠にはならない。
選択肢考察
- ○a. 口をもぐもぐさせる。
口をもぐもぐ・ぺちゃぺちゃさせる、舌なめずりをする、唾を飲み込むなどの動きは口部自動症と呼ばれ、意識が曇った状態で無目的に繰り返される。側頭葉内側部(海馬・扁桃体)に焦点をもつ焦点意識減損発作(かつての複雑部分発作)に典型的な症状であり、衣服や物をまさぐる手の自動症を伴うことも多い。本人は発作中のことを覚えていない。
- ×b. 会話中に突然眠り込む。
会話中や食事中など通常は眠らない場面で、耐えがたい眠気によって突然眠り込んでしまう睡眠発作は、ナルコレプシーの中核症状である。ナルコレプシーは視床下部のオレキシン(ヒポクレチン)産生神経細胞の脱落によって起こる睡眠障害で、情動脱力発作(笑いや驚きをきっかけに急に力が抜ける)、睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚を伴うことがある。てんかん発作ではない。
- ×c. 目の前がチカチカする。
光が点滅する、色のついた丸い光が見えるといった要素的な視覚症状は、視覚野のある後頭葉に焦点をもつ焦点発作で現れる。側頭葉の焦点を示す症状ではない。てんかん以外では片頭痛の前兆(閃輝暗点)が代表的で、ギザギザした光が視野の中で徐々に広がり、その内側が見えにくくなる。片頭痛の前兆は、かつては脳血管の収縮・拡張で説明されたが、現在は大脳皮質を神経活動の抑制がゆっくり広がる皮質拡延性抑制(CSD)によると考えられている。
- ×d. 両上肢をピクッと動かす。
両上肢を一瞬ピクッと動かすのは、ごく短い筋収縮が起こるミオクロニー発作であり、全般発作に分類される。若年ミオクロニーてんかんで典型的にみられ、起床後まもなくの時間帯に多く、睡眠不足や疲労が誘因となる。脳波では全般性の多棘徐波複合を認める。発作が両側性・全般性であるため、側頭葉の焦点を示すものではない。
- ×e. 全身強直後にけいれんする。
全身が硬直する強直期に続いて、四肢をがくがくと律動的に動かす間代期に移るのは強直間代発作である。最初から全般発作として起こる場合と、焦点発作が両側に広がって強直間代発作になる場合(焦点起始両側強直間代発作、かつての二次性全般化)とがある。後者の焦点は側頭葉に限らずどこにでもありうるため、この症状だけでは焦点部位を特定できない。
側頭葉てんかん
成人の焦点てんかんで最も多い病型である。なかでも内側側頭葉てんかんは、海馬硬化症(MRIのFLAIR・T2強調像で海馬の萎縮と高信号)を原因とすることが多く、幼児期の熱性けいれん重積の既往をもつ例がある。 典型的な発作の経過は、(1)前兆(上腹部から胸へこみ上げる不快感、既視感・未視感、恐怖感、においの幻覚など)、(2)意識の減損と動作の停止・凝視、(3)口部自動症や手の自動症、(4)発作後のもうろう状態、である。発作は1〜2分程度続くことが多い。前兆を自覚して周囲に知らせることもある。 抗てんかん薬は焦点てんかんに有効な薬剤(カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタムなど)を用いる。2剤以上を適切に使用しても発作が抑えられない薬剤抵抗性の内側側頭葉てんかんでは、海馬を含む側頭葉切除術などの外科治療で高い発作消失率が期待できる。
焦点発作の分類(ILAE 2017)
・焦点意識保持発作(かつての単純部分発作):意識が保たれる。前兆はこれにあたる。 ・焦点意識減損発作(かつての複雑部分発作):発作中の意識が損なわれる。自動症を伴いやすい。 ・焦点起始両側強直間代発作(かつての二次性全般化発作)
全般発作の主な種類
・欠神発作:数秒〜十数秒の意識消失と動作停止。小児に多く、脳波で3Hz棘徐波複合。過呼吸で誘発される。 ・ミオクロニー発作:瞬間的な筋収縮。 ・強直発作、間代発作、強直間代発作、脱力発作
鑑別すべき非てんかん性の病態
ナルコレプシー(睡眠発作)、失神、片頭痛の前兆、心因性非てんかん性発作、一過性脳虚血発作などがある。
POINT
・側頭葉てんかん:前兆(上腹部不快感、既視感、恐怖感、異臭)→意識減損・動作停止→口部自動症(口をもぐもぐ)・手の自動症 ・後頭葉焦点:チカチカする光などの視覚症状 ・中心前回焦点:対側の間代けいれんが広がるジャクソン発作 ・ミオクロニー発作や強直間代発作だけでは焦点を特定できない ・会話中に突然眠り込む→ナルコレプシー(オレキシン神経の障害)
