StudyMed医師国家試験

「聞く」と「聴く」はどう違う?―医療面接の土台となる傾聴の本質

第117回医師国家試験 B問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第117回 B問題 第17問

医療面接における傾聴で正しいのはどれか。

  1. a.事実確認を行う。
  2. b.アドバイスをする。
  3. c.時間を限って聞く。
  4. d.相手の話を熱心に聞く。
  5. e.決められた項目を聞く。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療面接の基本である「傾聴」を問う問題だ。選択肢にはどれも医療面接の中で実際に行う行為が並んでいるから、「面接でやること」ではなく「傾聴という態度そのもの」を指しているものはどれか、という視点で考えてほしい。
医学生医学生
OSCEの医療面接の練習で、指導の先生に「もっと傾聴して」とよく言われました。でも正直、具体的に何をすればいいのか曖昧なままです。
ドクタードクター
多くの学生がそう感じるところだね。まず言葉から整理しよう。「聞く」は音が耳に入ること、「聴く」は意識を相手に向けて主体的に受け止めること。傾聴は後者で、話の内容だけでなく、その背後にある感情や考え、価値観まで理解しようとしながら熱心に聴く態度と技法を指すんだ。
医学生医学生
そうすると、相手の話を熱心に聞く、というのがそのまま正解ですね。少し当たり前すぎて、逆に引っかけかと思いました。
ドクタードクター
当たり前に見えるけど、それが本質なんだ。具体的には、視線を合わせる、うなずく、あいづちを打つ、体を相手に向けるといった非言語的な態度。それに、患者さんの言葉を繰り返したり言い換えたりして理解を確かめる、「それはおつらかったですね」と感情を言葉にして返す、沈黙を急いで埋めない、話を遮らない。こうした技法の総体が傾聴だよ。
医学生医学生
事実確認はどうですか。正確な病歴をとるには、発症時期とかをきちんと確かめないといけないと思うんですが。
ドクタードクター
事実確認そのものは面接に必要だよ。ただ、医師が確かめたいことに沿って「はい・いいえ」で答える閉じた質問を重ねる形になりやすい。患者さんの自由な語りや感情を引き出す傾聴とは性質が違うんだ。
医学生医学生
アドバイスをするのも、患者さんのためには大事な気がします。
ドクタードクター
助言や説明は面接の後半で、治療方針を共有する場面で欠かせない。でも医師から患者さんへの一方向の働きかけで、聴く側に徹する傾聴とはむしろ逆の行為だ。話の途中で助言を始めると、患者さんは「わかってもらえていない」と感じて、本当に気にしていることを話さなくなるおそれがある。
医学生医学生
臨床実習の外来見学では、診察時間がすごく限られていました。時間を区切って聞くのは、現実的には仕方ないのでは?
ドクタードクター
実際の外来に時間の制約があるのは確かだね。でも傾聴の原則は、患者さんが言いたいことを言い終えるまで十分に聴くこと。医師は患者さんの話を早い段階で遮りがちだと知られていて、遮らずに聴いても多くの場合そこまで長くはかからない。むしろ重要な情報の聞き漏らしを防げるんだ。
医学生医学生
決められた項目を順に聞くのも、OSCEのチェックリストを思い出すと正しそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
既往歴や家族歴、服薬歴を漏れなく聞くことは情報収集として大切だ。ただ、決まった項目を順番に聞いていくのは医師主導の問診で、患者さんが自分の言葉で語るのを促す傾聴とは異なる。質問の中身は話の流れに応じて臨機応変に変える必要があるよ。
医学生医学生
つまり、事実確認も助言も項目の聴取も面接には必要だけど、どれも傾聴そのものではない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ここで面接の流れも押さえておこう。挨拶と自己紹介、本人確認のあと、「今日はどうなさいましたか」という開かれた質問で主訴と経過を自由に話してもらう。ここが傾聴の中心だ。そのあと焦点を絞った質問や閉じた質問で必要な情報を補い、患者さんの解釈モデルを確認し、要約して確認してから説明と方針の共有に進む。
医学生医学生
解釈モデルというのは、患者さん自身が病気をどう考えているか、ということでしたよね。
ドクタードクター
そう。原因は何だと思っているか、どれくらい重いと感じているか、何を期待しているか。たとえば頭痛で来た人が実は「脳腫瘍じゃないか」と心配している、ということは珍しくない。傾聴によってそれが引き出せれば、説明も患者さんの不安に沿ったものにできる。
医学生医学生
共感と同情の違いも、行動科学の講義で出てきました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。同情は「かわいそうに」と自分の立場から感じることで、共感は相手の立場に立ってその感情を理解しようとする態度だ。傾聴と共感が信頼関係の第一歩になり、患者さんが心を開くことで情報収集の質も上がる。医療面接の三つの目的、つまり情報収集、良好な関係づくり、患者さんの理解や行動変容の支援が、すべて傾聴の上に成り立っていると考えてほしい。

まとめ

傾聴とは、相手の話に関心をもって熱心に耳を傾け、言葉の内容だけでなく背後にある感情や考えまで理解しようとする態度と技法です。うなずきやあいづち、視線、繰り返し・言い換え、共感的応答、沈黙の尊重などを用い、話を遮らずに聴くことが基本となります。事実確認、助言、定型項目の聴取、時間の区切りは医療面接全体では行われうる行為ですが、医師主導の働きかけであり傾聴そのものではありません。開かれた質問で患者の語りを引き出し、解釈モデルまで理解することが、信頼関係の構築と正確な情報収集の両方につながり、あらゆる診療科での診療の出発点となります。

解答・解説

正解はdです

傾聴とは

傾聴(active listening)とは、相手の話に積極的に耳を傾け、言葉の内容だけでなく、その背後にある感情・考え・価値観まで理解しようとしながら熱心に聴く態度と技法である。「聞く(hear)」が単に耳に入ることを指すのに対し、傾聴は「聴く(listen)」、すなわち意識を相手に向けて主体的に受け止める行為である。

医療面接における位置づけ

医療面接には、①診断に必要な情報を集める、②良好な患者-医師関係を築く、③患者の理解・意思決定・行動変容を支援する(教育・動機づけ)、という三つの目的がある。傾聴はこのうち特に②の土台となる。患者は「自分の話をきちんと聴いてもらえた」と感じることで医師を信頼し、心配事や受診の本当の理由(解釈モデル・受療行動の背景)を話しやすくなる。その結果、①の情報収集の質も高まる。

考え方

選択肢には、事実確認・助言・時間制限・定型の質問項目など、医療面接全体の中では行われうる行為が並んでいる。しかし本問が問うているのは「傾聴」という態度そのものである。医師が主導して情報を引き出したり、指示や助言を与えたりする行為は傾聴とは別のものであり、患者の語りを遮らず、関心をもって熱心に聴く姿勢こそが傾聴の本質である。

選択肢考察

  1. ×a.  事実確認を行う。

    症状の発症時期や経過などを確認すること自体は、正確な病歴聴取のために医療面接で必要な行為である。しかし事実確認は医師の側が確かめたい内容に沿って閉じた質問(はい・いいえや短い答えで返答する質問)を重ねる形になりやすく、患者の自由な語りや感情を引き出すことを目的とする傾聴とは性質が異なる。傾聴を説明するものとしては適切でない。

  2. ×b.  アドバイスをする。

    助言や説明は、面接の後半で患者教育・治療方針の共有として行われる重要な行為ではある。しかし助言は医師から患者への一方向の働きかけであり、聴く側に徹する傾聴とは逆の行為である。患者の話が終わらないうちに助言を始めると、患者は「わかってもらえていない」と感じ、本当に気にかけていることを話さなくなるおそれがある。

  3. ×c.  時間を限って聞く。

    実際の外来では時間に制約があるが、傾聴の態度としては、話を時間で区切って打ち切るのではなく、患者が言いたいことを言い終えるまで十分に聴くことが原則である。医師は患者の話を早い段階で遮りがちであることが知られており、遮らずに聴いても多くの場合それほど長い時間はかからず、むしろ重要な情報の聞き漏らしを防げる。時間を限って聞くことは傾聴の説明として誤りである。

  4. ○d.  相手の話を熱心に聞く。

    傾聴の核心は、相手に関心を向け、話の内容と感情の両方を受け止めようとしながら熱心に聴くことである。具体的には、視線を合わせる・うなずく・あいづちを打つ・体を相手に向けるといった非言語的な態度、患者の言葉を繰り返したり言い換えたりして理解を確かめる、感情を言葉にして返す(共感的応答)、沈黙を急いで埋めず待つ、話を遮らない、などの技法を用いる。こうした姿勢が信頼関係の第一歩となる。

  5. ×e.  決められた項目を聞く。

    既往歴・家族歴・服薬歴など、聴取すべき項目を網羅することは情報収集として大切である。しかし、あらかじめ決めた項目を順番に聞いていく形式は医師主導の問診であり、患者が自らの言葉で語ることを促す傾聴とは異なる。患者の自由な発言を引き出すための質問(開かれた質問など)は傾聴を支える技法になりうるが、その内容は患者の話の流れに応じて臨機応変に変える必要がある。

医療面接で用いるコミュニケーション技法

・開かれた質問(open-ended question):「どうなさいましたか」「そのときの様子を詳しく教えてください」など、患者が自由に答えられる質問。面接の導入や患者の考えを知る場面で用いる。 ・閉じた質問(closed question):「熱はありますか」など、はい・いいえや短い語で答える質問。事実の確認や診断の絞り込みに用いる。 ・焦点を絞った質問:「痛みはどのあたりですか」など、特定の事柄に関して自由に答えてもらう質問。 ・促し(facilitation):うなずき、あいづち、「それで?」などで話の継続を促す。 ・繰り返し・言い換え:患者の言葉を反復したり、別の言葉で言い直したりして、聴いていることを示しつつ理解を確認する。 ・要約:聞いた内容をまとめて伝え、誤解がないか確認する。 ・共感(empathy):「それはおつらかったですね」など、相手の感情を理解し言葉で返す。同情とは異なり、相手の立場に立って感情を理解しようとする態度である。 ・沈黙:患者が考えをまとめるための間を尊重する。

面接の一般的な流れ

挨拶・自己紹介と本人確認 → 開かれた質問で主訴と経過を自由に語ってもらう(傾聴)→ 焦点を絞った質問・閉じた質問で必要な情報を補う → 患者の解釈モデル(病気についての考え・不安・期待)の確認 → 要約と確認 → 説明・今後の方針の共有。

解釈モデル

患者自身が病気の原因・重さ・必要な治療をどのように考えているかを指す。傾聴によって引き出しやすくなり、説明や治療方針を患者の考えに沿ったものにするうえで役立つ。

POINT

・傾聴=相手の話に関心をもって熱心に耳を傾け、内容と感情の両方を理解しようとする態度。 ・うなずき・あいづち・繰り返し・言い換え・共感的応答・沈黙の尊重などを用い、話を遮らない。 ・事実確認、助言、定型項目の聴取は医療面接で必要な行為だが、傾聴そのものではない。 ・傾聴と共感は良好な患者-医師関係の第一歩であり、正確な情報収集にもつながる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。