痒くもなく、かさつきもしない白い斑―「後天性・境界明瞭・鱗屑なし」で読む尋常性白斑
第117回医師国家試験 A問題 第31問
国試問題にチャレンジ
26歳の女性。体幹の皮疹を主訴に来院した。半年前から四肢体幹に皮疹が出現し,徐々に増数し,それぞれの皮疹も拡大している。既往に幼少時発症のアトピー性皮膚炎がある。眼疾患やてんかんはない。頸部,体幹および四肢に同一の皮疹が多発している。皮疹に鱗屑はない。痛みや痒みはない。腰部の写真を示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.癜風
- b.体部白癬
- c.葉状白斑
- d.尋常性白斑
- e.眼皮膚白皮症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
白く抜ける皮疹は、先天性か後天性か、鱗屑や炎症を伴うか、眼症状やてんかんなど全身の異常を伴うかの3つの軸で整理すると鑑別しやすくなります。後天性に増数・拡大し、鱗屑や自覚症状を伴わない境界明瞭な完全脱色素斑は、メラノサイトが自己免疫機序で失われる尋常性白斑の典型像です。鱗屑を伴えばKOH鏡検で真菌を探して癜風や体部白癬を考え、出生時からの色素異常なら結節性硬化症の葉状白斑や眼皮膚白皮症を考えます。尋常性白斑は自己免疫性甲状腺疾患などの合併に注意し、外用薬と光線療法を中心に治療します。皮疹の色・境界・表面の性状と経過を丁寧に読む姿勢は、白斑に限らず皮膚疾患全般の診断の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・26歳女性。半年前から頸部・体幹・四肢に皮疹が出現し、数が増え、個々の皮疹も大きくなっている(後天性で進行性)。 ・皮疹は鱗屑(皮膚表面のかさかさした角質の剥がれ)を伴わず、痛みや痒みもない。 ・眼疾患やてんかんの既往はない。 ・幼少時からのアトピー性皮膚炎がある。 ・腰部の写真では、周囲の正常皮膚との境界がはっきりした、色素の抜けた白い斑(脱色素斑)が多発し、一部は癒合している。
診断へのプロセス
白く抜ける皮疹(白斑・脱色素斑)をみたら、①先天性か後天性か、②鱗屑や炎症所見を伴うか、③全身疾患(神経症状・眼症状など)を伴うか、の3点で整理すると鑑別しやすい。 ・発症が成人後で、皮疹が増数・拡大している → 生まれつきの病変(眼皮膚白皮症、結節性硬化症の葉状白斑)は考えにくい。 ・鱗屑がない → 真菌感染(癜風、体部白癬)は考えにくい。 ・眼疾患・てんかんがない → 結節性硬化症の合併を示唆する所見がない。 以上から、後天性に境界明瞭な完全脱色素斑が多発・拡大する尋常性白斑が最も考えられる。尋常性白斑はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患や自己免疫疾患を背景にもつことがあり、本例の既往とも矛盾しない。なお、アトピー性皮膚炎の湿疹が治った後の炎症後色素脱失も鑑別となるが、こちらは境界が不明瞭な不完全脱色素斑で、湿疹の部位に一致して生じる点が異なる。
選択肢考察
- ×a. 癜風
癜風は皮膚の常在真菌であるマラセチアによる表在性真菌症で、汗をかきやすい若年者の胸部・背部・頸部・腋窩などに好発する。褐色の斑(黒色癜風)または淡い白色の斑(白色癜風)が多発し、病変は小型で、表面を擦ると細かい鱗屑が剥がれ落ちる(カンナ屑現象)のが特徴である。病変部の鱗屑を水酸化カリウム(KOH)で処理して鏡検すると、短い菌糸と胞子が観察される。白色癜風は色素が完全には抜けない不完全脱色素斑であり、鱗屑を欠き境界明瞭な完全脱色素斑が四肢にまで拡大する本例とは合わない。
- ×b. 体部白癬
体部白癬は皮膚糸状菌(白癬菌)による感染症で、典型例では辺縁に鱗屑や小水疱を伴う紅斑が堤防状に隆起して遠心性に拡大し、中心部は治癒傾向を示す環状の皮疹を呈する。痒みを伴うことが多い。本例は紅斑ではなく脱色素斑であり、鱗屑・痒みもないため当てはまらない。
- ×c. 葉状白斑
葉状白斑は結節性硬化症にみられる楕円形〜木の葉状の不完全脱色素斑で、出生時または乳児期から体幹や四肢に認められ、結節性硬化症の早期発見の手がかりとなる。結節性硬化症ではてんかん、知的障害、顔面の血管線維腫、網膜過誤腫などを伴うことが多い。成人になってから出現・拡大している点、てんかんや眼疾患がない点から否定的である。
- ○d. 尋常性白斑
尋常性白斑は、表皮のメラノサイト(色素細胞)が主に自己免疫機序によって破壊・消失し、後天性に境界明瞭な完全脱色素斑が生じる疾患である。鱗屑・炎症・自覚症状を伴わず、白斑が徐々に増数・拡大し、癒合することもある。本例の、成人発症、増数・拡大する多発性の境界明瞭な脱色素斑、鱗屑・痒みがないという所見はすべてこれに合致する。
- ×e. 眼皮膚白皮症
眼皮膚白皮症は、メラニン合成に関わる遺伝子(チロシナーゼ遺伝子など)の異常による常染色体潜性(劣性)遺伝の先天性疾患である。出生時から全身の皮膚・毛髪・眼(虹彩・網膜)のメラニンが欠乏または減少しており、羞明、視力低下、眼振などの眼症状を伴う。生まれつき全身性に色が薄い点で、後天性に斑状の白斑が生じた本例とは経過も分布も異なり、眼疾患がないことも合わない。
尋常性白斑の概要
・病態:メラノサイトに対する自己免疫(細胞傷害性T細胞の関与が中心)や酸化ストレスなどにより、メラノサイトが消失する。 ・病型:①非分節型(汎発型):左右対称性・多発性に生じ、徐々に拡大する。最も多い。②分節型:皮膚の神経支配領域(デルマトーム)に沿って片側性に生じ、若年発症が多く、一定期間で拡大が止まりやすい。 ・臨床像:境界明瞭な完全脱色素斑で、病変部の毛が白くなる(白毛)こともある。外傷や摩擦部位に新たな白斑が生じるケブネル現象がみられる。白斑の周囲が逆に色素沈着して見えることもある。 ・合併症:自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、Basedow病)、1型糖尿病、悪性貧血、円形脱毛症、Addison病などの自己免疫疾患を合併することがある。アトピー性皮膚炎との関連も指摘されている。 ・検査:Wood灯(長波長紫外線)で照らすと、白斑部が青白く明瞭に浮かび上がり、不完全脱色素斑との鑑別に役立つ。 ・治療:ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、活性型ビタミンD3外用薬、ナローバンドUVB(中波長紫外線の狭い波長域)やエキシマライトによる光線療法が中心である。拡大が停止した難治例には表皮移植などの外科的治療も行われる。日焼け止めやカモフラージュメイクも生活の質の改善に役立つ。
白斑・脱色素斑の鑑別の整理
・先天性:眼皮膚白皮症(全身性)、まだら症(前額部の白斑と白毛)、結節性硬化症の葉状白斑、脱色素性母斑 ・後天性・鱗屑なし:尋常性白斑、炎症後色素脱失、老人性白斑 ・後天性・鱗屑あり:白色癜風、体部白癬(紅斑が主体)、白色粃糠疹(顔面の乾燥した淡い白斑で小児に多い) ・その他:サットン白斑(色素性母斑を中心にした円形の白斑)、ハンセン病の知覚低下を伴う脱色素斑
POINT
・後天性・増数拡大・境界明瞭な完全脱色素斑・鱗屑なし・自覚症状なし → 尋常性白斑。 ・鱗屑を伴う白斑 → 白色癜風(マラセチア、KOH鏡検で診断)を考える。 ・乳児期からの木の葉状の白斑+てんかん → 結節性硬化症の葉状白斑。 ・出生時から全身の皮膚・毛髪・眼の色素欠乏+眼症状 → 眼皮膚白皮症。 ・尋常性白斑は自己免疫性甲状腺疾患などの合併に注意し、治療は外用薬と光線療法が中心。
