肝臓に病変をつくる5つの感染症―性感染症かどうかは「入り口」で決まる
第117回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
性感染症でないのはどれか。
- a.梅毒性肝炎
- b.B型急性肝炎
- c.日本住血吸虫症
- d.アメーバ性肝膿瘍
- e.肝周囲炎〈Fitz-Hugh-Curtis症候群〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
性感染症かどうかは、病変の部位ではなく病原体の感染経路で判断します。梅毒性肝炎、成人のB型急性肝炎、国内のアメーバ性肝膿瘍、クラミジアや淋菌によるFitz-Hugh-Curtis症候群は、いずれも性的接触が主要な感染経路となるため性感染症に含まれます。一方、日本住血吸虫症はミヤイリガイを中間宿主とし、淡水中のセルカリアが皮膚から侵入する経皮感染で、門脈系に寄生して門脈圧亢進症や肝硬変を起こしますが、性感染症ではありません。肝臓を侵す感染症を経口・経皮・性的接触という感染経路ごとに整理しておくと、鑑別や問診の着眼点が明確になります。性感染症を診断したら他の性感染症の同時感染やパートナーへの対応まで考えることが、臨床で求められる姿勢です。
解答・解説
正解はcです
性感染症(sexually transmitted infections:STI)とは、性行為(性器・口腔・肛門を介した性的接触)によって病原体がうつる感染症の総称である。代表的なものに梅毒、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、HIV感染症、B型肝炎、腟トリコモナス症などがあり、男性同性間の性的接触などによる赤痢アメーバ症(アメーバ赤痢)も含まれる。 本問はいずれも肝臓に病変をつくる感染症を並べ、その感染経路が性的接触を含むかどうかを問うている。病変の部位ではなく、病原体がどのように体内に入るかに着目して判断する。
各疾患の感染経路
・梅毒性肝炎:梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)。性的接触が主な経路である。 ・B型急性肝炎:B型肝炎ウイルス(HBV)。血液・体液を介して感染し、成人では性的接触が主な経路である。 ・日本住血吸虫症:日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)。汚染された淡水に皮膚が触れて経皮感染する。 ・アメーバ性肝膿瘍:赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)。嚢子の経口摂取により感染し、性的接触(とくに肛門・口腔を介する接触)でも感染する。 ・Fitz-Hugh-Curtis症候群:主にクラミジア・トラコマチス(ほかに淋菌)。性感染による骨盤内感染から波及する。 したがって、性的接触が感染経路にならないのは淡水を介して経皮感染する日本住血吸虫症である。
選択肢考察
- ×a. 梅毒性肝炎
性感染症である。梅毒は梅毒トレポネーマによる代表的な性感染症で、わが国では2010年代以降に報告数が急増している。病原体は全身に広がるため、主に第2期に肝臓が侵されることがあり、これを梅毒性肝炎と呼ぶ。胆道系酵素(ALP、γ-GTP)の上昇が目立つ胆汁うっ滞型の肝障害を呈しやすいのが特徴である。原因となる梅毒そのものが性的接触でうつるため、梅毒性肝炎も性感染症に含まれる。なお梅毒は母子感染(先天梅毒)の経路ももつ。
- ×b. B型急性肝炎
性感染症である。HBVは血液のほか、精液や腟分泌液などの体液にも含まれ、粘膜の接触を伴う性行為でうつる。わが国では母子感染防止事業や輸血用血液のスクリーニングが進んだ結果、成人のB型急性肝炎の多くは性的接触によるものとなっている。近年は慢性化しやすい遺伝子型A(genotype A)の性感染例が増えていることも問題とされる。ほかの感染経路として、母子感染、針刺し事故、注射器の共用などがある。
- ○c. 日本住血吸虫症
性感染症ではない。日本住血吸虫は、淡水にすむ巻貝であるミヤイリガイ(宮入貝)を中間宿主とする寄生虫である。貝から水中に出たセルカリア(幼虫)が、川や水田などで水に触れたヒトの皮膚から侵入する(経皮感染)。成虫は門脈系の血管内に寄生し、産み出された虫卵が肝臓の門脈枝に詰まって肉芽腫と線維化を起こす。その結果、門脈圧亢進症をきたし、肝硬変(日本住血吸虫症性肝硬変)に至る。肝細胞癌や大腸癌の合併も知られる。感染経路に性的接触は含まれない。わが国では1978年以降の新規感染は確認されておらず、1996年には山梨県で流行終息が宣言されたが、中国・フィリピンなどでは現在も流行がある。
- ×d. アメーバ性肝膿瘍
性感染症に含まれる。赤痢アメーバの嚢子を経口摂取すると、大腸で栄養型となって粘膜に潰瘍をつくり、イチゴゼリー状の粘血便を伴うアメーバ性大腸炎(アメーバ赤痢)を起こす。栄養型が門脈を経て肝臓に達すると肝膿瘍を形成し、内容物はアンチョビペースト様(チョコレート色)となる。途上国では汚染された飲食物を介した感染が多いが、わが国の国内感染例では男性同性間などの性的接触(肛門・口腔を介する接触)による感染の割合が高く、性感染症として扱われる。HIV感染症など他の性感染症の合併にも注意が必要である。
- ×e. 肝周囲炎〈Fitz-Hugh-Curtis症候群〉
性感染症に含まれる。Fitz-Hugh-Curtis症候群は、主にクラミジア・トラコマチス(ときに淋菌)による性器感染症が、子宮頸管から子宮内膜、卵管へと上行して骨盤内炎症性疾患(PID)を起こし、さらに腹腔内を伝って肝臓の表面(肝被膜)に炎症が及んだ状態である。若い女性の右上腹部痛として発症し、胆嚢炎などとの鑑別が問題となる。腹腔鏡では肝表面と腹壁の間にバイオリンの弦のような線維性癒着(violin string adhesion)がみられ、造影CTの動脈相では肝被膜の濃染が特徴的である。
肝臓を侵す主な感染症と感染経路
・性的接触を含むもの:梅毒、B型肝炎、赤痢アメーバ症、クラミジア・淋菌(Fitz-Hugh-Curtis症候群)、HIV感染症に伴う日和見感染など。C型肝炎も性的接触でうつることはあるが、その頻度は低い。 ・経口感染:A型肝炎、E型肝炎(豚・猪・鹿などの生肉や加熱不十分な肉)、肝吸虫症(淡水魚の生食)、エキノコックス症(虫卵の経口摂取)、赤痢アメーバ症 ・経皮感染:日本住血吸虫症(淡水との接触)、レプトスピラ症(Weil病、ネズミの尿で汚染された水や土壌との接触)
日本住血吸虫症の要点
・中間宿主:ミヤイリガイ ・感染経路:セルカリアの経皮侵入 ・寄生部位:門脈系の血管 ・病態:虫卵による門脈枝の塞栓と肉芽腫、線維化から門脈圧亢進症、肝硬変へ ・画像所見:肝内の網目状の石灰化(亀甲状の石灰化)が特徴的 ・治療:プラジカンテル
わが国で増えている性感染症
梅毒の報告数は2010年代以降に大きく増加している。性感染症の患者では、他の性感染症(HIV、B型肝炎、クラミジアなど)の同時感染を検索し、パートナーの検査・治療も行うことが重要である。
POINT
・性感染症かどうかは、病変の部位ではなく病原体の感染経路で判断する。 ・梅毒、B型肝炎、赤痢アメーバ症、クラミジア感染症(Fitz-Hugh-Curtis症候群の主な原因)はいずれも性的接触でうつる。 ・日本住血吸虫症はミヤイリガイを中間宿主とし、淡水からの経皮感染で起こるため性感染症ではない。 ・Fitz-Hugh-Curtis症候群は、若い女性の右上腹部痛として現れ、肝表面のバイオリン弦状の癒着が特徴である。
