StudyMed医師国家試験

喘息発作の引き金は「かぜ」―疫学・増悪因子・治療薬の基本を一気に整理する

第117回医師国家試験 A問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第11問

気管支喘息について正しいのはどれか。

  1. a.喘息死は増加傾向にある。
  2. b.喘息増悪はウイルス感染後が最も多い。
  3. c.吸入ステロイド薬は喫煙により作用が増強する。
  4. d.抗IgE抗体はアトピー型喘息の第一選択薬である。
  5. e.急性増悪時には長時間作用性 β2刺激薬が第一選択である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は気管支喘息の知識問題だ。疫学、増悪の誘因、そして薬の使い分けと、幅広い論点が並んでいる。解くカギは「長期管理薬(コントローラー)」と「発作治療薬(リリーバー)」をきちんと分けて考えられるかどうか。まずは喘息がどんな病気か、ひと言で言えるかな。
医学生医学生
気道の慢性炎症があって、気道過敏性が高まり、可逆的な気流制限を繰り返す病気、と呼吸器内科の講義で習いました。
ドクタードクター
完璧だね。その「慢性炎症」が本態だという理解が、すべての選択肢を判断する土台になる。では最初に疫学から。喘息で亡くなる人の数は、最近どうなっていると思う?
医学生医学生
高齢化が進んでいるので、喘息死も増えているイメージがありました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実際は逆なんだ。わが国の喘息死は1990年代半ばには年間7,000人前後だったが、吸入ステロイド薬の普及とガイドラインの浸透で大きく減り、近年は年間1,000人台まで減少している。ただ、亡くなる人の大部分は高齢者で、高齢喘息の管理が今後の課題という点は君のイメージとつながるところだね。
医学生医学生
減っているけれど、高齢者の比率は高いということですね。では、発作のきっかけとして一番多いのは何でしょうか。アレルゲンかと思ったのですが。
ドクタードクター
ダニやハウスダストも大切な誘因だけど、最も多いのは気道のウイルス感染、いわゆるかぜなんだ。代表はライノウイルスで、ほかにRSウイルスやインフルエンザウイルスもある。ウイルスが気道上皮を傷つけると、もともとある炎症と過敏性がさらに強まり、発作につながる。だからこれが正しい記述になる。
医学生医学生
小児科の実習で、かぜをひいた後に喘鳴がひどくなって入院した子を担当しました。季節の変わり目に増えると聞いて納得です。
ドクタードクター
まさにその典型だね。インフルエンザワクチンが勧められるのも同じ理由だ。次は喫煙と吸入ステロイド薬の関係。喫煙で効果が増強するという記述はどうだろう。
医学生医学生
喫煙は気道に悪いので、増強するとは考えにくいです。むしろ効きにくくなるのでは。
ドクタードクター
その通り。ステロイドは炎症性遺伝子の転写を抑えるときにヒストン脱アセチル化酵素2、HDAC2を働かせるんだけど、喫煙による酸化ストレスがHDAC2の活性を落としてしまう。結果としてステロイド抵抗性が生じるんだ。喫煙そのものも気道を刺激して増悪の誘因になるから、禁煙と受動喫煙の回避は治療の一部と考えよう。
医学生医学生
薬理学で習ったHDAC2がここでつながるんですね。抗IgE抗体については、アトピー型ならIgEを狙うのが理にかなっている気がして迷いました。
ドクタードクター
理屈としては魅力的に見えるよね。でも長期管理の第一選択は、アトピー型でも非アトピー型でも吸入ステロイド薬なんだ。抗IgE抗体のオマリズマブは、高用量の吸入ステロイド薬に長時間作用性β2刺激薬などを併用してもコントロールできない重症例に追加する生物学的製剤。高価で注射も必要だから、最初に使う薬ではない。
医学生医学生
最後の、急性増悪時に長時間作用性β2刺激薬という記述は、名前からして発作向きではなさそうです。
ドクタードクター
いい読みだね。発作時の第一選択は短時間作用性β2刺激薬、つまりSABAの吸入だ。サルブタモールなどは吸入後数分で気管支を広げる。長時間作用性β2刺激薬は吸入ステロイド薬と組み合わせて長期管理に使う薬で、単独使用は喘息死のリスクを高めるので避ける。例外として、ブデソニドとホルモテロールの配合剤を発作時にも追加吸入するSMART療法があるけれど、これは即効性のあるホルモテロールを含む特定の配合剤に限った使い方だ。
医学生医学生
コントローラーは吸入ステロイド薬が軸、リリーバーはSABAが軸、と整理すれば迷わずに済みますね。
ドクタードクター
その整理がいちばん大事。もう少し臨床の話をしておこう。中等症以上の発作では、SABAの反復吸入に加えて全身性ステロイド薬を使い、低酸素血症があれば酸素を投与する。効果が乏しければアミノフィリン点滴やアドレナリン皮下注射を考え、重篤なら挿管・人工呼吸も視野に入る。
医学生医学生
吸入ステロイド薬の副作用もOSCEの患者説明で練習しました。口腔カンジダと嗄声を防ぐために、吸入後にうがいをしてもらうんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。それから最近は、重症例で生物学的製剤の選択肢が増えている。抗IL-5抗体、抗IL-4受容体α抗体、抗TSLP抗体などがあり、好酸球数や総IgE値、呼気中一酸化窒素濃度などで2型炎症の関与を評価して選ぶ。ただし、その前に吸入手技やアドヒアランス、喫煙の有無を必ず確認すること。薬が効かない原因が意外とそこにあることは多いんだ。

まとめ

気管支喘息は気道の慢性炎症を本態とする疾患で、急性増悪の誘因として最も多いのはライノウイルスなどによる気道のウイルス感染です。わが国の喘息死は吸入ステロイド薬の普及で大きく減少しており、喫煙はHDAC2活性の低下を介して吸入ステロイド薬の効果を弱めます。長期管理薬の第一選択は病型を問わず吸入ステロイド薬で、抗IgE抗体などの生物学的製剤は難治例に追加する薬です。発作時の第一選択は短時間作用性β2刺激薬で、長時間作用性β2刺激薬は長期管理薬として吸入ステロイド薬と併用します。「コントローラーとリリーバー」の枠組みで整理しておくことが、試験だけでなく外来や救急での喘息診療の基本になります。

解答・解説

正解はbです

気管支喘息は、気道の慢性炎症を本態とし、変動性をもった気道狭窄(気流制限)による喘鳴、呼吸困難、咳嗽、胸苦しさなどを繰り返す疾患である。気道過敏性の亢進と、自然に、あるいは治療によって改善する可逆的な気流制限が特徴である。 本問は、喘息の疫学、増悪因子、薬物療法の基本を幅広く問うている。押さえるべき柱は次の三つである。

1. 疫学

吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid:ICS)を中心とした抗炎症治療が普及したことで、わが国の喘息死は大きく減少してきた。

2. 増悪因子

喘息の急性増悪(発作)は、気道のウイルス感染(いわゆるかぜ)を契機とするものが最も多い。ほかにアレルゲン曝露、喫煙・受動喫煙、大気汚染、気象の変化、運動、ストレス、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、月経などが誘因となる。

3. 薬物療法の二本立て

・長期管理薬(コントローラー):気道炎症を抑えて発作を予防する薬。第一選択はICSであり、病型(アトピー型か非アトピー型か)によらない。重症度に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤などを追加し、それでもコントロール不良の重症例に生物学的製剤(抗IgE抗体、抗IL-5抗体など)を用いる。 ・発作治療薬(リリーバー):起きた発作をすみやかに抑える薬。第一選択は即効性のある短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入である。 この枠組みに当てはめると、ウイルス感染が増悪の最多の誘因であるとする記述が正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  喘息死は増加傾向にある。

    誤り。わが国の喘息死は、1990年代半ばには年間7,000人前後であったが、その後ICSの普及や喘息予防・管理ガイドラインの浸透によって大きく減少した。人口動態統計では、2014年1,550人、2019年1,481人、2021年1,038人と、近年も減少傾向が続いている。なお、喘息死の大部分は高齢者が占めており、高齢喘息患者の管理が今後の課題とされる。

  2. ○b.  喘息増悪はウイルス感染後が最も多い。

    正しい。喘息の急性増悪の誘因として最も多いのは気道のウイルス感染であり、小児・成人ともにライノウイルスが代表的である(ほかにRSウイルス、インフルエンザウイルスなど)。ウイルス感染は気道上皮を傷害し、気道炎症と気道過敏性をさらに強めることで発作を引き起こす。このため、かぜが流行する季節の変わり目や冬季に増悪が増える。インフルエンザワクチン接種が推奨されるのもこのためである。

  3. ×c.  吸入ステロイド薬は喫煙により作用が増強する。

    誤り。喫煙はICSの効果を弱める(ステロイド抵抗性を生じる)。ステロイドは、炎症性遺伝子の転写を抑える際にヒストン脱アセチル化酵素2(HDAC2)を働かせるが、喫煙による酸化ストレスがHDAC2の活性を低下させるため、抗炎症作用が十分に発揮されなくなる。さらに喫煙は気道を直接刺激して炎症を悪化させ、増悪の誘因にもなる。喘息患者には禁煙と受動喫煙の回避を強く指導する。

  4. ×d.  抗IgE抗体はアトピー型喘息の第一選択薬である。

    誤り。長期管理薬の第一選択は、アトピー型(ダニなどの特異的IgE抗体が陽性)でも非アトピー型でもICSである。抗IgE抗体(オマリズマブ)は、血中IgEに結合してマスト細胞や好塩基球上の受容体への結合を妨げる生物学的製剤で、高用量ICSにLABAなどを併用しても症状がコントロールできない重症(難治性)のアトピー型喘息に追加して用いる。高価で注射が必要なこともあり、初期治療の薬ではない。

  5. ×e.  急性増悪時には長時間作用性 β2刺激薬が第一選択である。

    誤り。急性増悪時の第一選択は、短時間作用性β2刺激薬(SABA:サルブタモール、プロカテロールなど)の吸入である。SABAは吸入後数分で気管支を拡張させ、発作をすみやかに改善する。LABA(サルメテロールなど)は作用時間が長く、ICSと併用して長期管理に用いる薬であり、発作時の治療薬ではない(LABAをICSなしで単独使用すると喘息死のリスクが高まるため、単剤使用は避ける)。なお、即効性をもつLABAであるホルモテロールとICSであるブデソニドの配合剤は、長期管理に加えて発作時の追加吸入に用いる使い方(SMART療法)もあるが、これは特定の配合剤に限った用法である。中等症以上の発作では、SABA反復吸入に加え、全身性ステロイド薬、酸素投与などを行う。

喘息の病型

・アトピー型:環境アレルゲン(ダニ、ハウスダスト、ペットのふけ、花粉など)に対する特異的IgE抗体が陽性。小児発症例の多くがこの型である。 ・非アトピー型:特異的IgE抗体を認めない。成人発症例に多い。 どちらの病型でも、長期管理の第一選択はICSである。

長期管理の段階的治療の概要

ICSを基本とし、重症度に応じてLABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤などを追加する。最重症の段階で、生物学的製剤(抗IgE抗体オマリズマブ、抗IL-5抗体メポリズマブ、抗IL-5受容体α抗体ベンラリズマブ、抗IL-4受容体α抗体デュピルマブ、抗TSLP抗体テゼペルマブなど)や経口ステロイド薬を検討する。生物学的製剤は、好酸球数や総IgE値、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)などから2型炎症の関与を評価して選択する。

急性増悪時の治療

・SABA吸入(反復可) ・中等症以上:全身性ステロイド薬の投与、低酸素血症があれば酸素投与(SpO2 93~95%程度を目標) ・効果が不十分な場合:アミノフィリン点滴、アドレナリン皮下注射などを考慮し、重篤例では気管挿管・人工呼吸を検討する

吸入ステロイド薬の注意点

局所の副作用として口腔カンジダ症や嗄声があり、吸入後のうがいで予防する。喫煙下では効果が低下する。

POINT

・喘息死はICSの普及により減少傾向にある。 ・急性増悪の誘因として最も多いのは気道のウイルス感染(ライノウイルスなど)である。 ・喫煙はHDAC2活性を低下させ、ICSの効果を減弱させる。 ・長期管理薬の第一選択は病型によらずICSであり、生物学的製剤は難治例に用いる。 ・発作治療薬の第一選択はSABAであり、LABAは長期管理薬である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。