止まらないけいれん、チアノーゼの3歳児―救急外来で「今やるべきこと」と「後でいいこと」
第116回医師国家試験 E問題 第30問
国試問題にチャレンジ
3歳の女児。全身けいれんが持続するため救急車で搬入された。昨晩から38℃台の発熱が持続している。食事の摂取は少ないが水分の摂取はできている。嘔吐や下痢はない。今朝,全身けいれんがはじまり約15分間持続しているため母親が救急車を要請した。来院時も全身けいれんが持続しており,チアノーゼを認める。 この児に行うべき処置として優先度が低いのはどれか。
- a.酸素投与
- b.気道確保
- c.静脈路確保
- d.抗けいれん薬投与
- e.尿道カテーテル挿入
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
けいれんが5分以上続けばけいれん重積状態として直ちに治療を始め、気道・呼吸・循環(ABC)の安定化と抗けいれん薬によるけいれん停止を並行して進めます。チアノーゼは換気不全や気道閉塞による低酸素血症のサインであり、気道確保と酸素投与が最優先で、第一選択のミダゾラムやジアゼパムを静注するために静脈路を確保し、困難ならミダゾラムの頬粘膜・鼻腔・筋肉内投与で治療を遅らせません。尿道カテーテル挿入のように救命に直結しない処置は、全身状態が安定してから必要に応じて行えば十分です。15分以上続く熱性けいれんは複雑型であり、発作停止後は髄膜炎・脳炎・脳症の鑑別も忘れてはいけません。処置の優先順位を病態から組み立てる力は、小児に限らずあらゆる救急場面の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・3歳の女児で、前夜から38℃台の発熱がある。 ・水分は摂れており、嘔吐・下痢もないため、高度の脱水は考えにくい。 ・全身けいれんが約15分続いた状態で搬入され、来院時もけいれんは止まっておらず、チアノーゼがある。
病態の把握
発熱に伴う全身けいれんが止まらず続いている。現在の考え方では、けいれんが5分以上続けば自然には止まりにくいため、けいれん重積状態(status epilepticus)として治療を始める。本例はすでに15分以上続いているので、ただちに治療すべき救急状態である。診断としては熱性けいれんの重積がまず考えられる。15分以上続いた時点で、単純型ではなく複雑型熱性けいれんの基準を満たす。一方、細菌性髄膜炎や急性脳炎・急性脳症といった、発熱とけいれんを起こす重い疾患も鑑別に残る。ただし、それらの精査はけいれんを止めて全身状態を安定させてから行う。
設問の考え方
けいれんが続く患者への初期対応は、救急の基本であるABC(A: Airway 気道、B: Breathing 呼吸、C: Circulation 循環)の安定化と、けいれんを止めること(抗けいれん薬の投与)を同時に進めることである。チアノーゼはけいれん中の換気不全や気道閉塞による低酸素血症を示す。このため、気道確保と酸素投与を最初に行い、薬を静脈から投与するために静脈路を確保し、抗けいれん薬でけいれんを止める。これらに比べ、尿量の監視や尿検体の採取のための尿道カテーテル挿入は、この時点で急ぐ処置ではない。したがって優先度が低いのはeである。
選択肢考察
- ×a. 酸素投与
チアノーゼがあるので低酸素血症が起きている。けいれん中は呼吸筋の協調運動が乱れて有効な換気ができず、全身の筋収縮で酸素消費も増えている。低酸素状態が続けば脳障害の原因になるため、パルスオキシメータでSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)を監視しながら、すぐにマスクなどで高流量の酸素を投与する。優先度の高い処置である。
- ×b. 気道確保
けいれん中や意識障害のある状態では、舌根沈下や分泌物・吐物で気道が狭くなりやすい。気道が開いていなければ酸素を投与しても肺に届かない。頭部後屈あご先挙上や下顎挙上で気道を開き、口腔内を吸引し、嘔吐に備えて体位を調整する。必要ならバッグバルブマスクで換気を補助し、それでも不十分なら気管挿管を考える。ABCの最初のAにあたる最優先の処置である。なお、舌をかむのを防ぐために口に物を入れることは、気道閉塞や歯の損傷を招くため行わない。
- ×c. 静脈路確保
第一選択の抗けいれん薬であるミダゾラムやジアゼパムは静脈内に投与するのが基本であり、そのためには静脈路が必要である。静脈路は、けいれんが止まらないときの第二選択薬(ホスフェニトイン、レベチラセタム、フェノバルビタールなど)の投与や、輸液にも使う。また、静脈路確保の際に採血して、血糖値、電解質、血液ガス、炎症反応などを調べ、低血糖や電解質異常といった治療できる原因がないかを確認できる。優先度の高い処置である。けいれん中の小児では静脈路確保が難しいことがあるため、その間はミダゾラムの頬粘膜投与・鼻腔投与・筋注などで治療を遅らせない工夫をする。
- ×d. 抗けいれん薬投与
けいれん重積は長く続くほど止まりにくくなり、脳障害が残る危険も高まる。したがって、けいれんを止める治療を急ぐ。第一選択はベンゾジアゼピン系薬で、ミダゾラムまたはジアゼパムを静注する。静脈路がないときはミダゾラムを頬粘膜・鼻腔・筋肉内に投与する。止まらなければ第二選択薬に進む。ベンゾジアゼピン系薬は呼吸を抑えることがあるため、投与後は呼吸状態とSpO2を注意深く観察し、換気補助の準備をしておく。根本的な治療にあたる最優先の処置である。
- ○e. 尿道カテーテル挿入
尿道カテーテルは、時間ごとの尿量測定(ショックや重症患者の循環評価)、尿閉の解除、尿路感染症を調べるための清潔な尿の採取などに用いる。本例は経口で水分が摂れており、嘔吐・下痢もなく、尿閉を疑う所見もない。けいれんを止めて呼吸と循環を安定させることが何より重要な場面であり、尿道カテーテル挿入は救命に直結しない。けいれんが止まって全身状態が落ち着いてから、必要に応じて行えばよい。したがって、選択肢のなかで優先度が最も低い。
熱性けいれんの定義と分類
熱性けいれんは、主に生後6か月から5歳(60か月)までの乳幼児にみられる、通常38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性・非けいれん性を含む)である。髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作の原因がなく、てんかんの既往もないものをいう。 ・単純型: 全身性・左右対称の発作で、持続が15分未満、24時間以内に繰り返さないもの。 ・複雑型: 焦点性発作(部分発作)の要素がある、15分以上続く、24時間以内に繰り返す、のいずれかを満たすもの。 本例は15分以上続いているので、熱性けいれんであれば複雑型にあたる。
けいれん重積状態の考え方
かつては「30分以上続くけいれん、または意識が戻らないまま発作を繰り返す状態」と定義されていた。現在は、5分以上続くけいれんは自然に止まりにくいため、5分を超えた時点で治療を始めるべき状態として扱う。30分以上続くと神経に長く残る障害が起こりやすいとされる。
けいれんが続く小児への初期対応の流れ
1. 気道確保・酸素投与・モニタ装着(SpO2、心電図、血圧) 2. 静脈路確保と採血(血糖、電解質、血液ガス、血算、炎症反応など)。低血糖があればブドウ糖を投与する。 3. 第一選択薬: ミダゾラムまたはジアゼパムの静注。静脈路がなければミダゾラムの頬粘膜・鼻腔・筋肉内投与。 4. 止まらなければ第二選択薬: ホスフェニトイン、レベチラセタム、フェノバルビタールなど。 5. それでも止まらなければ、集中治療下で全身麻酔薬(ミダゾラム持続静注、チオペンタール、チアミラール、プロポフォールなど)を用いる。プロポフォールは小児への長期・大量投与で注意が必要である。
発作が止まった後の評価
発熱とけいれん重積がある場合、細菌性髄膜炎、急性脳炎、急性脳症(例: けいれん重積型急性脳症)が隠れていることがある。発作が止まった後も意識障害が長引く、項部硬直や大泉門膨隆などの髄膜刺激症状がある、全身状態が悪い、といった場合は、血液検査、頭部CT・MRI、髄液検査、脳波などを速やかに行う。
POINT
・けいれんが続く患者への初期対応は、ABC(気道・呼吸・循環)の安定化と抗けいれん薬によるけいれん停止を並行して行う。 ・チアノーゼがあれば、気道確保と酸素投与を最優先する。 ・けいれんが5分以上続けば重積状態として治療を始める。第一選択はミダゾラムまたはジアゼパムの静注で、静脈路がなければミダゾラムを頬粘膜・鼻腔・筋肉内に投与する。 ・ベンゾジアゼピン系薬の投与後は呼吸抑制に注意する。 ・尿道カテーテル挿入など、救命に直結しない処置は全身状態が安定してから行う。 ・15分以上続く熱性けいれんは複雑型である。止まった後は髄膜炎・脳炎・脳症の鑑別を行う。
