膨らむ壁と詰まる管―「拡張か閉塞か」で見抜く大動脈瘤の原因
第116回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
大動脈瘤の原因にならないのはどれか。
- a.梅毒
- b.動脈硬化
- c.Buerger病
- d.高安動脈炎
- e.Marfan症候群
対話形式の解説
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医学生まとめ
大動脈瘤は、弾性線維と平滑筋に富む大動脈中膜が脆弱化し、血圧に耐えられず壁が拡張することで生じます。原因として最も多いのは動脈硬化で、ほかにMarfan症候群などの遺伝性結合組織疾患、高安動脈炎などの血管炎、梅毒などの感染症が挙げられます。これに対しBuerger病は、喫煙と関連して四肢末梢の中小動脈を炎症と血栓で閉塞させる疾患であり、大動脈瘤の原因にはなりません。梅毒性大動脈炎、Marfan症候群、高安動脈炎では大動脈弁閉鎖不全症の合併にも注意が必要です。「壁を弱くして拡張させるのか、内腔を閉塞させるのか」という病態の軸で血管疾患を整理することが、知識の暗記にとどまらない理解につながります。
解答・解説
正解はcです
【テーマ】大動脈瘤の成因を問う問題で、「原因にならないもの」を選ぶ否定型である。 【考え方】大動脈瘤は、大動脈壁の一部が全周性または局所性に拡張した状態(一般に正常径の1.5倍を超えるもの)である。動脈壁、特に弾性線維や平滑筋に富む中膜が弱くなると、血圧に耐えきれずに壁が外へ膨らむ。したがって大動脈瘤の原因は「大動脈壁(とくに中膜)を脆弱にする病態」として整理できる。 ・変性:動脈硬化(最多) ・遺伝性結合組織疾患:Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群、血管型Ehlers-Danlos症候群など ・炎症性:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、Behçet病など ・感染性:梅毒、細菌(サルモネラ、黄色ブドウ球菌など)、真菌 ・その他:外傷、大動脈二尖弁に伴う上行大動脈拡張など これに対しBuerger病(閉塞性血栓血管炎)は、四肢末梢の中小動脈・静脈に炎症と血栓を生じて血管を「閉塞」させる疾患であり、大動脈を「拡張」させる病態ではない。この「閉塞か拡張か」という病態の違いに着目すれば、正解はBuerger病と判断できる。
選択肢考察
- ×a. 梅毒
大動脈瘤の原因となる(本問では誤りの選択肢)。梅毒(Treponema pallidum感染症)を未治療で放置すると、感染から10年以上を経て晩期梅毒(旧来の病期分類で第3〜4期)に至り、心血管梅毒を生じることがある。病原体が大動脈外膜の栄養血管(vasa vasorum)に炎症を起こし(閉塞性動脈内膜炎)、中膜が虚血に陥って弾性線維が破壊されるため、大動脈炎から大動脈瘤を形成する。上行大動脈や大動脈弓に好発し、大動脈弁輪の拡張による大動脈弁閉鎖不全症を合併しやすい。抗菌薬の普及により現在はまれである。
- ×b. 動脈硬化
大動脈瘤の原因となる(本問では誤りの選択肢)。動脈硬化(粥状硬化)は大動脈瘤の原因として最も頻度が高い。内膜の粥腫と慢性炎症により中膜の弾性線維や平滑筋が変性・減少し、壁が脆弱化して拡張する。腹部大動脈、特に腎動脈分岐部より下(腎動脈下)に好発する。高齢、男性、喫煙、高血圧、脂質異常症などが危険因子であり、なかでも喫煙は腹部大動脈瘤の発生・拡大に強く関わる。
- ○c. Buerger病
大動脈瘤の原因にならない(本問の正解)。Buerger病(閉塞性血栓血管炎:thromboangiitis obliterans)は、主に四肢末梢の中小動脈と伴走静脈に、血管壁全層の炎症と血栓形成をきたして内腔を閉塞させる非動脈硬化性の疾患である。原因は不明だが喫煙との関連が極めて強く、喫煙歴のある若年〜中年男性に多い。症状は四肢の虚血による冷感・しびれ、間欠性跛行、安静時疼痛、指趾の潰瘍・壊疽で、表在静脈に遊走性静脈炎を伴うこともある。まれに大動脈や内臓動脈に病変が及ぶ報告はあるが、病態の本質は内腔の閉塞であり、大動脈壁を脆弱化させて瘤を形成する疾患ではない。治療の基本は禁煙の徹底である。
- ×d. 高安動脈炎
大動脈瘤の原因となる(本問では誤りの選択肢)。高安動脈炎は、大動脈とその主要分枝(鎖骨下動脈、頸動脈、腎動脈など)や肺動脈に生じる大型血管炎で、若年女性に多い。血管壁の炎症により狭窄・閉塞(脈なし病、上肢血圧の左右差、腎血管性高血圧など)をきたす一方、炎症で中膜が破壊されると拡張して大動脈瘤を形成することもある。上行大動脈の拡張による大動脈弁閉鎖不全症の合併も重要である。
- ×e. Marfan症候群
大動脈瘤の原因となる(本問では誤りの選択肢)。Marfan症候群は、フィブリリン1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織疾患である。大動脈中膜の弾性線維が脆弱化し(嚢胞性中膜壊死)、大動脈基部(バルサルバ洞)が拡張して大動脈瘤・大動脈解離・大動脈弁閉鎖不全症をきたす。高身長、くも状指、水晶体偏位(亜脱臼)、漏斗胸、気胸なども特徴である。大動脈径の定期的な画像評価と、βブロッカーやアンジオテンシンII受容体拮抗薬による拡張抑制、適切な時期の予防的手術が行われる。
大動脈瘤の分類
・形態:紡錘状(全周性に拡張)と嚢状(一部が袋状に突出)。嚢状は破裂しやすい。 ・壁構造:真性(壁の3層構造が保たれる)、仮性(壁構造がなく周囲組織で囲まれる)、解離性(中膜が裂けて偽腔を形成)。 ・部位:胸部、胸腹部、腹部。腹部大動脈瘤が最も多い。
大動脈瘤の主な原因
・変性(動脈硬化):最多。腹部(腎動脈下)に好発。 ・遺伝性結合組織疾患:Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群、血管型Ehlers-Danlos症候群。若年で大動脈基部の拡張・解離をきたす。 ・炎症性:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、Behçet病、IgG4関連疾患(炎症性腹部大動脈瘤)。 ・感染性(感染性動脈瘤):梅毒、細菌(サルモネラ、ブドウ球菌など)、真菌。感染性心内膜炎に伴う細菌性動脈瘤も含む。 ・外傷性:鈍的外傷(交通事故の減速外傷で大動脈峡部に好発)、医原性。 ・先天性:大動脈二尖弁に伴う上行大動脈拡張など。
閉塞性疾患との対比
・Buerger病:若年〜中年の喫煙男性、四肢末梢の中小動脈閉塞、遊走性静脈炎。動脈硬化の危険因子に乏しい。 ・閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患):高齢者、動脈硬化の危険因子(糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙)を伴い、主に下肢の比較的太い動脈が閉塞する。
POINT
・大動脈瘤は「大動脈壁(中膜)の脆弱化」により生じる。最多の原因は動脈硬化。 ・ほかに Marfan症候群などの結合組織疾患、高安動脈炎などの血管炎、梅毒などの感染、外傷が原因となる。 ・Buerger病は四肢末梢の中小動脈を閉塞させる疾患であり、大動脈瘤の原因にはならない。喫煙との関連が強い。 ・梅毒性・Marfan症候群・高安動脈炎の大動脈病変は大動脈弁閉鎖不全症を合併しやすい。
