StudyMed医師国家試験

膨らむ壁と詰まる管―「拡張か閉塞か」で見抜く大動脈瘤の原因

第116回医師国家試験 D問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第6問

大動脈瘤の原因にならないのはどれか。

  1. a.梅毒
  2. b.動脈硬化
  3. c.Buerger病
  4. d.高安動脈炎
  5. e.Marfan症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大動脈瘤の成因を問う問題で、「原因にならないもの」を選ぶ否定型だ。着眼点はシンプルで、大動脈瘤がどういう仕組みでできるのかを押さえておけば、各疾患が当てはまるかどうか判断できる。まず、大動脈瘤ってそもそもどんな状態だと思う?
医学生医学生
大動脈が風船みたいに膨らんでいる状態ですよね。でも、なぜ膨らむのかまでは考えたことがありませんでした。
ドクタードクター
そこが大事なところだ。大動脈瘤は大動脈壁の一部が拡張した状態で、一般に正常径の1.5倍を超えるものをいう。大動脈の壁は内膜・中膜・外膜の3層からなり、とくに弾性線維と平滑筋に富む中膜が血圧を受け止めている。この中膜が弱くなると、圧に耐えきれず外へ膨らんでしまうんだ。
医学生医学生
つまり「中膜を弱くする病気」が大動脈瘤の原因になる、と整理すればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。原因は大きく、変性、遺伝性の結合組織疾患、炎症、感染に分けられる。最も多いのはどれかな。
医学生医学生
動脈硬化だと思います。病理学の講義で、粥腫がある腹部大動脈の写真を見ました。
ドクタードクター
正解。粥状硬化で内膜に粥腫ができ、慢性炎症が続くと中膜の弾性線維や平滑筋が変性・減少して壁が脆弱化する。腎動脈より下の腹部大動脈に好発し、高齢・男性・高血圧・脂質異常症、そしてとくに喫煙が瘤の発生や拡大に強く関わる。次はMarfan症候群だ。
医学生医学生
FBN1遺伝子の変異で、高身長とくも状指、水晶体偏位が特徴の常染色体顕性遺伝の病気ですよね。CBTの勉強で語呂合わせで覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。フィブリリン1の異常で中膜の弾性線維がもろくなり、嚢胞性中膜壊死と呼ばれる変化が起こる。大動脈基部、つまりバルサルバ洞が拡張して、大動脈瘤や大動脈解離、大動脈弁閉鎖不全症をきたすんだ。若い人の大動脈解離では必ず思い浮かべたい疾患だね。
医学生医学生
高安動脈炎はどうでしょう。「脈なし病」という別名から、血管が狭くなる病気というイメージが強いです。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいポイントだ。高安動脈炎は若年女性に多い大型血管炎で、大動脈とその主要分枝に炎症を起こす。確かに狭窄や閉塞による上肢血圧の左右差や腎血管性高血圧が有名だけれど、炎症で中膜が破壊されると逆に拡張して大動脈瘤を作ることもある。上行大動脈が拡張して大動脈弁閉鎖不全症を合併することも重要だよ。
医学生医学生
狭くもなるし、膨らみもする、ということですね。梅毒は昔の病気というイメージですが、なぜ大動脈瘤になるんですか。
ドクタードクター
未治療の梅毒が10年以上かけて晩期梅毒に進むと、心血管梅毒を起こすことがある。病原体が大動脈外膜の栄養血管、vasa vasorumに炎症を起こして閉塞させ、中膜が虚血に陥って弾性線維が壊れるんだ。上行大動脈から大動脈弓に好発し、弁輪が広がって大動脈弁閉鎖不全症を伴いやすい。抗菌薬の普及で今はまれだけれど、成因としては古典的だね。
医学生医学生
ということは、残るBuerger病が原因にならないもの、つまり正解ですね。でも、Buerger病も喫煙と関係が深い血管の病気なので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷う気持ちはわかる。Buerger病、別名閉塞性血栓血管炎は、喫煙歴のある若年から中年の男性に多く、四肢末梢の中小動脈と伴走静脈に全層性の炎症と血栓を生じて内腔を閉塞させる病気だ。症状は指趾の冷感やしびれ、間欠性跛行、安静時疼痛、潰瘍・壊疽で、遊走性静脈炎を伴うこともある。まれに大動脈病変の報告はあるけれど、本質は「閉塞」であって、大動脈壁を弱くして「拡張」させる病態ではないんだ。
医学生医学生
血管の病気でも、膨らむのか詰まるのか、という病態の方向で分けて考えればいいんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の核心。ついでに、閉塞性動脈硬化症との違いも整理しておこう。こちらは高齢者で、糖尿病や高血圧など動脈硬化の危険因子を伴い、下肢の比較的太い動脈が詰まる。一方Buerger病は若く、動脈硬化の危険因子に乏しく、より末梢の血管が侵される。治療の基本はとにかく禁煙の徹底だ。
医学生医学生
臨床実習で心臓血管外科を回ったとき、腹部大動脈瘤の患者さんはほとんどが喫煙者でした。喫煙は拡張にも閉塞にも関わるんですね。
ドクタードクター
いい気づきだね。最後に臨床的な注意点を。梅毒、Marfan症候群、高安動脈炎はいずれも上行大動脈や基部を侵して大動脈弁閉鎖不全症を合併しやすいので、拡張期雑音を聴いたら大動脈病変も考えたい。また瘤の形では、全周性に膨らむ紡錘状より、袋状に突出する嚢状のほうが破裂しやすい。壁の3層構造が保たれる真性、壁構造のない仮性、中膜が裂ける解離性という区別もセットで覚えておこう。
医学生医学生
原因を覚えるだけでなく、合併症や瘤の形も一緒に整理しておくと、臨床問題にも対応できそうです。

まとめ

大動脈瘤は、弾性線維と平滑筋に富む大動脈中膜が脆弱化し、血圧に耐えられず壁が拡張することで生じます。原因として最も多いのは動脈硬化で、ほかにMarfan症候群などの遺伝性結合組織疾患、高安動脈炎などの血管炎、梅毒などの感染症が挙げられます。これに対しBuerger病は、喫煙と関連して四肢末梢の中小動脈を炎症と血栓で閉塞させる疾患であり、大動脈瘤の原因にはなりません。梅毒性大動脈炎、Marfan症候群、高安動脈炎では大動脈弁閉鎖不全症の合併にも注意が必要です。「壁を弱くして拡張させるのか、内腔を閉塞させるのか」という病態の軸で血管疾患を整理することが、知識の暗記にとどまらない理解につながります。

解答・解説

正解はcです

【テーマ】大動脈瘤の成因を問う問題で、「原因にならないもの」を選ぶ否定型である。 【考え方】大動脈瘤は、大動脈壁の一部が全周性または局所性に拡張した状態(一般に正常径の1.5倍を超えるもの)である。動脈壁、特に弾性線維や平滑筋に富む中膜が弱くなると、血圧に耐えきれずに壁が外へ膨らむ。したがって大動脈瘤の原因は「大動脈壁(とくに中膜)を脆弱にする病態」として整理できる。 ・変性:動脈硬化(最多) ・遺伝性結合組織疾患:Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群、血管型Ehlers-Danlos症候群など ・炎症性:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、Behçet病など ・感染性:梅毒、細菌(サルモネラ、黄色ブドウ球菌など)、真菌 ・その他:外傷、大動脈二尖弁に伴う上行大動脈拡張など これに対しBuerger病(閉塞性血栓血管炎)は、四肢末梢の中小動脈・静脈に炎症と血栓を生じて血管を「閉塞」させる疾患であり、大動脈を「拡張」させる病態ではない。この「閉塞か拡張か」という病態の違いに着目すれば、正解はBuerger病と判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  梅毒

    大動脈瘤の原因となる(本問では誤りの選択肢)。梅毒(Treponema pallidum感染症)を未治療で放置すると、感染から10年以上を経て晩期梅毒(旧来の病期分類で第3〜4期)に至り、心血管梅毒を生じることがある。病原体が大動脈外膜の栄養血管(vasa vasorum)に炎症を起こし(閉塞性動脈内膜炎)、中膜が虚血に陥って弾性線維が破壊されるため、大動脈炎から大動脈瘤を形成する。上行大動脈や大動脈弓に好発し、大動脈弁輪の拡張による大動脈弁閉鎖不全症を合併しやすい。抗菌薬の普及により現在はまれである。

  2. ×b.  動脈硬化

    大動脈瘤の原因となる(本問では誤りの選択肢)。動脈硬化(粥状硬化)は大動脈瘤の原因として最も頻度が高い。内膜の粥腫と慢性炎症により中膜の弾性線維や平滑筋が変性・減少し、壁が脆弱化して拡張する。腹部大動脈、特に腎動脈分岐部より下(腎動脈下)に好発する。高齢、男性、喫煙、高血圧、脂質異常症などが危険因子であり、なかでも喫煙は腹部大動脈瘤の発生・拡大に強く関わる。

  3. ○c.  Buerger病

    大動脈瘤の原因にならない(本問の正解)。Buerger病(閉塞性血栓血管炎:thromboangiitis obliterans)は、主に四肢末梢の中小動脈と伴走静脈に、血管壁全層の炎症と血栓形成をきたして内腔を閉塞させる非動脈硬化性の疾患である。原因は不明だが喫煙との関連が極めて強く、喫煙歴のある若年〜中年男性に多い。症状は四肢の虚血による冷感・しびれ、間欠性跛行、安静時疼痛、指趾の潰瘍・壊疽で、表在静脈に遊走性静脈炎を伴うこともある。まれに大動脈や内臓動脈に病変が及ぶ報告はあるが、病態の本質は内腔の閉塞であり、大動脈壁を脆弱化させて瘤を形成する疾患ではない。治療の基本は禁煙の徹底である。

  4. ×d.  高安動脈炎

    大動脈瘤の原因となる(本問では誤りの選択肢)。高安動脈炎は、大動脈とその主要分枝(鎖骨下動脈、頸動脈、腎動脈など)や肺動脈に生じる大型血管炎で、若年女性に多い。血管壁の炎症により狭窄・閉塞(脈なし病、上肢血圧の左右差、腎血管性高血圧など)をきたす一方、炎症で中膜が破壊されると拡張して大動脈瘤を形成することもある。上行大動脈の拡張による大動脈弁閉鎖不全症の合併も重要である。

  5. ×e.  Marfan症候群

    大動脈瘤の原因となる(本問では誤りの選択肢)。Marfan症候群は、フィブリリン1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織疾患である。大動脈中膜の弾性線維が脆弱化し(嚢胞性中膜壊死)、大動脈基部(バルサルバ洞)が拡張して大動脈瘤・大動脈解離・大動脈弁閉鎖不全症をきたす。高身長、くも状指、水晶体偏位(亜脱臼)、漏斗胸、気胸なども特徴である。大動脈径の定期的な画像評価と、βブロッカーやアンジオテンシンII受容体拮抗薬による拡張抑制、適切な時期の予防的手術が行われる。

大動脈瘤の分類

・形態:紡錘状(全周性に拡張)と嚢状(一部が袋状に突出)。嚢状は破裂しやすい。 ・壁構造:真性(壁の3層構造が保たれる)、仮性(壁構造がなく周囲組織で囲まれる)、解離性(中膜が裂けて偽腔を形成)。 ・部位:胸部、胸腹部、腹部。腹部大動脈瘤が最も多い。

大動脈瘤の主な原因

・変性(動脈硬化):最多。腹部(腎動脈下)に好発。 ・遺伝性結合組織疾患:Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群、血管型Ehlers-Danlos症候群。若年で大動脈基部の拡張・解離をきたす。 ・炎症性:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、Behçet病、IgG4関連疾患(炎症性腹部大動脈瘤)。 ・感染性(感染性動脈瘤):梅毒、細菌(サルモネラ、ブドウ球菌など)、真菌。感染性心内膜炎に伴う細菌性動脈瘤も含む。 ・外傷性:鈍的外傷(交通事故の減速外傷で大動脈峡部に好発)、医原性。 ・先天性:大動脈二尖弁に伴う上行大動脈拡張など。

閉塞性疾患との対比

・Buerger病:若年〜中年の喫煙男性、四肢末梢の中小動脈閉塞、遊走性静脈炎。動脈硬化の危険因子に乏しい。 ・閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患):高齢者、動脈硬化の危険因子(糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙)を伴い、主に下肢の比較的太い動脈が閉塞する。

POINT

・大動脈瘤は「大動脈壁(中膜)の脆弱化」により生じる。最多の原因は動脈硬化。 ・ほかに Marfan症候群などの結合組織疾患、高安動脈炎などの血管炎、梅毒などの感染、外傷が原因となる。 ・Buerger病は四肢末梢の中小動脈を閉塞させる疾患であり、大動脈瘤の原因にはならない。喫煙との関連が強い。 ・梅毒性・Marfan症候群・高安動脈炎の大動脈病変は大動脈弁閉鎖不全症を合併しやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。