StudyMed医師国家試験

胃カメラは「治す道具」でもある―内視鏡で治療する食道疾患はどれか

第116回医師国家試験 D問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第5問

上部消化管内視鏡を用いて治療が行われるのはどれか。

  1. a.食道憩室
  2. b.食道アカラシア
  3. c.食道カンジダ症
  4. d.食道裂孔ヘルニア
  5. e.非びらん性胃食道逆流症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食道の病気のうち、上部消化管内視鏡、いわゆる胃カメラを使って治療するものを選ぶ問題だ。解き方のコツは、それぞれの病気について「標準治療は何か」を一つずつ思い浮かべること。まず、内視鏡でできる治療にはどんなものがあるか挙げてみよう。
医学生医学生
消化器内科を回ったときに見たのは、胃潰瘍の出血をクリップで止める処置と、早期胃癌のESDでした。
ドクタードクター
いいね。ほかにも、食道静脈瘤の結紮術や硬化療法、ポリープ切除やEMR、狭窄部のバルーン拡張やステント留置、異物摘出、胃瘻造設などがある。止める、取る、広げる、が基本の3つと考えると覚えやすい。では選択肢を見てみよう。食道カンジダ症はどうかな。
医学生医学生
内視鏡で白苔がたくさん見えて診断する病気ですよね。内視鏡でこすり取ったりするんでしょうか。
ドクタードクター
診断は内視鏡でつくけれど、治療は別だ。食道カンジダ症はHIV感染症や糖尿病、悪性腫瘍、ステロイドや免疫抑制薬の使用など、免疫が落ちた状態で起こる真菌感染症で、治療はフルコナゾールなどの抗真菌薬だ。吸入ステロイドでも起こりうる点は覚えておくといい。
医学生医学生
診断に内視鏡を使うことと、治療に使うことは分けて考えないといけないんですね。非びらん性胃食道逆流症も、内視鏡で見るだけになりそうです。
ドクタードクター
その通り。非びらん性胃食道逆流症、つまりNERDは、胸やけや呑酸があるのに内視鏡で粘膜のびらんが見えないタイプの逆流症だ。治療は減量や就寝前の食事を避けるといった生活習慣の改善と、プロトンポンプ阻害薬やP-CABなどの酸分泌抑制薬が基本になる。
医学生医学生
食道裂孔ヘルニアも逆流の原因になりますよね。手術になるイメージがあります。
ドクタードクター
いい線だ。胃の一部が横隔膜の食道裂孔から胸腔側へ脱出した状態で、無症状なら治療は不要。逆流症状があれば生活指導と薬物療法をまず行い、薬で良くならない例や、傍食道型で嵌頓や捻転が心配な例では、腹腔鏡下の裂孔縫縮術と噴門形成術が行われる。内視鏡は標準治療ではない。
医学生医学生
食道憩室はどうでしょう。病理の講義で、Zenker憩室は筋層の弱いところから粘膜が飛び出す仮性憩室だと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。食道憩室は多くが無症状で、合併症がなければ経過観察だ。症状が強いものや、炎症、出血、穿孔などを起こしたものには主に外科手術を行う。Zenker憩室には内視鏡で隔壁を切る治療も一部で行われているけれど、食道憩室一般の標準治療とはいえない。
医学生医学生
そうすると残るのは食道アカラシアですね。でも、運動機能の病気なのに内視鏡で治せるのが少し意外です。
ドクタードクター
そこが理解のしどころだ。食道アカラシアは、食道の筋層にあるアウエルバッハ神経叢が変性して、下部食道括約筋が飲み込んでも緩まず、食道体部の蠕動も消えてしまう病気だ。つまり出口に、開かない狭い門があるようなものなんだ。
医学生医学生
門が開かないなら、物理的に広げるか、門をつくっている筋肉を切ってしまえばいい、ということですか。
ドクタードクター
まさにそれ。狭い部分でバルーンを膨らませて括約筋を引き伸ばすのが内視鏡的バルーン拡張術。もう一つが経口内視鏡的筋層切開術、POEMで、食道の粘膜下にトンネルを掘って内輪筋を切開する。POEMは日本で開発されて保険適用にもなり、根治性の高い治療として広く普及しているんだ。
医学生医学生
薬では治らないんですか。
ドクタードクター
カルシウム拮抗薬や硝酸薬でLESを緩める方法はあるけれど、効果は限られていて、一時的・補助的な位置づけだ。外科的には腹腔鏡下のHeller筋層切開術に、逆流を防ぐ噴門形成術を組み合わせる方法もある。
医学生医学生
診断の話も確認させてください。CBTの問題で、食道造影の鳥のくちばし状の狭窄がよく出ていました。
ドクタードクター
そう、下部食道が平滑に細くなり、その口側の食道が拡張する像だね。確定には食道内圧検査で、LESの弛緩不全と蠕動の消失を確かめる。症状では、固形物だけでなく液体でもつかえるのが特徴で、夜間の逆流から誤嚥性肺炎を起こすこともある。
医学生医学生
内視鏡はアカラシアの診断では何のために行うんでしょう。
ドクタードクター
大事なのは、食道癌などの器質的な狭窄、いわゆる偽性アカラシアを除外することだ。さらにアカラシアは長い経過で食道癌のリスクが高まるから、治療後も内視鏡での経過観察が欠かせない。内視鏡は、この病気では診断・治療・フォローのすべてに関わる道具なんだ。

まとめ

上部消化管内視鏡は診断だけでなく、止血、静脈瘤の結紮や硬化療法、EMRやESDによる腫瘍切除、狭窄の拡張、異物摘出、胃瘻造設など幅広い治療に用いられます。食道アカラシアはアウエルバッハ神経叢の変性により下部食道括約筋が弛緩しない疾患で、内視鏡的バルーン拡張術や、日本で開発された経口内視鏡的筋層切開術(POEM)が確立した治療です。一方、食道カンジダ症は抗真菌薬、非びらん性胃食道逆流症は生活指導と酸分泌抑制薬、食道憩室と食道裂孔ヘルニアは経過観察から必要時の外科手術が基本です。アカラシアでは食道癌を含む器質的狭窄の除外と長期的な癌のフォローにも内視鏡が欠かせません。疾患ごとに標準治療を整理しておくことは、消化器領域の治療選択を理解する基礎になります。

解答・解説

正解はbです

【テーマ】食道疾患のうち、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を使った治療が標準的に行われるものを選ぶ問題である。 【考え方】上部消化管内視鏡は診断だけでなく、さまざまな治療に用いられる。代表的なものは、異物の摘出、出血に対する止血(クリップ、薬剤局注、熱凝固、静脈瘤の結紮術や硬化療法など)、狭窄部の拡張(バルーン拡張、ステント留置)、早期癌やポリープの切除(内視鏡的粘膜切除術〈EMR〉、内視鏡的粘膜下層剥離術〈ESD〉)、筋層切開術、胃瘻造設などである。 各選択肢について「その疾患の標準治療は何か」を考えると、 ・薬物療法が中心のもの:食道カンジダ症(抗真菌薬)、非びらん性胃食道逆流症(酸分泌抑制薬) ・無症状なら経過観察、必要時は外科手術のもの:食道憩室、食道裂孔ヘルニア ・内視鏡治療が確立しているもの:食道アカラシア(内視鏡的バルーン拡張術、経口内視鏡的筋層切開術〈POEM〉) と整理でき、正解は食道アカラシアとなる。 食道アカラシアは、食道の筋層にある神経叢(アウエルバッハ神経叢)の変性により、下部食道括約筋(LES)が嚥下時に弛緩せず、食道体部の蠕動も消失する疾患である。LESという「通り道の狭い部分」を物理的に広げたり、筋層を切開したりすることで通過障害を改善できるため、内視鏡治療のよい適応となる。

選択肢考察

  1. ×a.  食道憩室

    誤り。食道憩室の多くは無症状で、炎症・出血・穿孔・通過障害などの合併症がなければ治療は不要である。症状の強いものや合併症を起こしたものには、主に外科的手術(憩室切除など)が行われる。なお、咽頭食道移行部のZenker憩室に対しては内視鏡的に隔壁を切開する治療も一部で行われているが、食道憩室一般に対して上部消化管内視鏡治療が標準として行われるわけではない。

  2. ○b.  食道アカラシア

    正しい。食道アカラシアでは下部食道括約筋の弛緩不全による通過障害が本態であり、上部消化管内視鏡を用いた治療が広く行われる。内視鏡的バルーン拡張術は、狭窄部でバルーンを膨らませて括約筋を引き伸ばす方法である。経口内視鏡的筋層切開術(POEM:per-oral endoscopic myotomy)は、食道粘膜下にトンネルを作って内輪筋を切開する方法で、日本で開発され保険適用となっており、根治性の高い治療として普及している。そのほか、ボツリヌス毒素の局注療法(日本では一般的でない)もある。カルシウム拮抗薬や硝酸薬による薬物療法は効果が限定的で、一時的・補助的な位置づけである。外科的には腹腔鏡下Heller筋層切開術+噴門形成術も行われる。

  3. ×c.  食道カンジダ症

    誤り。食道カンジダ症は、HIV感染症、糖尿病、悪性腫瘍、ステロイド(吸入ステロイドを含む)や免疫抑制薬・抗菌薬の使用など、免疫低下や菌交代を背景に生じる真菌感染症である。内視鏡では食道粘膜に白苔が多発する像として診断されるが、治療はフルコナゾールやイトラコナゾールなどの抗真菌薬の内服(重症例では静注)であり、内視鏡治療は行わない。

  4. ×d.  食道裂孔ヘルニア

    誤り。食道裂孔ヘルニアは、横隔膜の食道裂孔を通って胃の一部が胸腔側へ脱出した状態で、胃食道逆流の一因となる。無症状なら治療不要であり、逆流症状があれば生活指導・食事指導と酸分泌抑制薬などの薬物療法を行う。薬物療法で改善しない例、巨大ヘルニアや傍食道型で嵌頓・捻転のおそれがある例では、腹腔鏡下の裂孔縫縮術と噴門形成術(Nissen法など)が行われる。内視鏡による治療は一部施設での試みにとどまり、標準治療ではない。

  5. ×e.  非びらん性胃食道逆流症

    誤り。非びらん性胃食道逆流症(NERD:non-erosive reflux disease)は、胸やけ・呑酸などの逆流症状がありながら、内視鏡で食道粘膜にびらん(粘膜傷害)を認めない胃食道逆流症である。治療の基本は生活習慣の改善(減量、就寝前の食事を避ける、頭部挙上など)と、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの酸分泌抑制薬による薬物療法である。難治例で外科的治療(腹腔鏡下噴門形成術)が検討されることはあるが、上部消化管内視鏡による治療が一般的に行われる疾患ではない。

食道アカラシアの要点

・病態:アウエルバッハ神経叢の変性 → 下部食道括約筋(LES)の嚥下時弛緩不全と食道体部の蠕動消失。 ・症状:嚥下困難(固形物だけでなく液体でもつかえる)、食物の口腔内逆流、胸痛、体重減少。夜間の逆流による誤嚥性肺炎をきたすこともある。 ・検査:食道造影で下部食道の平滑な狭窄(鳥のくちばし状〈bird beak sign〉)と口側食道の拡張。食道内圧検査(高解像度内圧検査)でLES弛緩不全と蠕動消失を確認する。内視鏡は食道癌など器質的狭窄(偽性アカラシア)の除外に重要である。 ・合併症:長期経過で食道癌の発生リスクが高まる。 ・治療:内視鏡的バルーン拡張術、POEM、腹腔鏡下Heller筋層切開術+噴門形成術(Dor法など)。薬物療法(カルシウム拮抗薬、硝酸薬)は補助的。

上部消化管内視鏡で行われる主な治療

・止血:クリップ、高張Na-エピネフリン液などの局注、熱凝固、アルゴンプラズマ凝固 ・食道・胃静脈瘤:内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)、内視鏡的硬化療法(EIS) ・腫瘍切除:ポリペクトミー、EMR、ESD ・狭窄:バルーン拡張、ステント留置 ・その他:異物摘出、POEM、経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)

選択肢疾患の標準治療の整理

・食道憩室:無症状なら経過観察、合併症例は手術 ・食道カンジダ症:抗真菌薬 ・食道裂孔ヘルニア:生活指導・酸分泌抑制薬、難治例や嵌頓リスク例は腹腔鏡下手術 ・NERD:生活指導・酸分泌抑制薬

POINT

・食道アカラシアは内視鏡治療(バルーン拡張術、POEM)の代表的な対象疾患である。 ・食道カンジダ症とNERDは薬物療法、食道憩室と食道裂孔ヘルニアは経過観察〜外科手術が基本。 ・アカラシアでは食道癌合併に注意し、内視鏡で器質的狭窄を除外する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。