StudyMed医師国家試験

熱が出たらステロイドを増やす―先天性副腎皮質過形成症のシックデイを乗り切る鉄則

第116回医師国家試験 D問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第4問

先天性副腎皮質過形成症の維持療法中に発熱を呈した場合,初期対応として適切なのはどれか。

  1. a.水分制限
  2. b.抗菌薬投与
  3. c.利尿薬静注
  4. d.糖質コルチコイドの増量
  5. e.グルコース・インスリン療法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、先天性副腎皮質過形成症でホルモン補充を続けている子どもが熱を出したとき、まず何をするかという問題だ。ポイントは「この子の副腎は、ストレスがかかったときに何ができないのか」を考えること。病気そのものの仕組みから整理していこう。
医学生医学生
先天性副腎皮質過形成症は、21-水酸化酵素欠損症が一番多いんでしたよね。新生児マススクリーニングの対象疾患として小児科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。日本では約9割が21-水酸化酵素欠損症で、常染色体潜性遺伝だ。コルチゾールが作れないので下垂体へのフィードバックが効かず、ACTHが過剰に出て副腎が過形成になる。行き場を失った前駆体がアンドロゲン側に流れて、女児では外性器の男性化が起こる。塩喪失型ではアルドステロンも足りないから、低ナトリウム血症や高カリウム血症、脱水を起こすんだ。
医学生医学生
だから維持療法ではヒドロコルチゾンを飲み続けて、塩喪失型ならフルドロコルチゾンや食塩も足すんですね。
ドクタードクター
そう。ヒドロコルチゾンはコルチゾールを補うと同時に、ACTHを抑えてアンドロゲン過剰も是正する役割がある。では本題。健康な人が熱を出したとき、副腎では何が起きている?
医学生医学生
ストレスに反応してコルチゾールの分泌が増える、ですよね。生理学の講義で「ストレスホルモン」と習いました。
ドクタードクター
そうだね。発熱や感染、外傷、手術といったストレスがかかると、健常者の副腎はコルチゾールを数倍に増やして血圧や血糖、循環を保っている。ところがこの病気の患者さんは、自前で分泌を増やすことができない。普段どおりの補充量のままだと、需要に供給が追いつかない。
医学生医学生
つまり、薬はちゃんと飲んでいても、熱のときは相対的に副腎不全になってしまうということですか。
ドクタードクター
まさにそこが核心だ。放置すると、ショック、低血糖、低ナトリウム血症、高カリウム血症、意識障害を伴う副腎クリーゼに進み、命に関わることがある。だから初期対応として最優先なのは、糖質コルチコイドの一時的な増量、いわゆるストレスドーズなんだ。発熱時の目安は通常量の2〜3倍程度で、指針によっては2〜4倍とするものもある。
医学生医学生
熱の原因を調べて抗菌薬を使うのが先かと思ってしまいました。
ドクタードクター
その発想は自然だけど、順番が違う。小児の発熱の多くはウイルス感染で、熱があるというだけで一律に抗菌薬を使うものではない。それに、抗菌薬ではコルチゾール不足そのものは解消されない。原因の精査や必要に応じた原因治療は、ステロイドを増やしたうえで並行して進めるものだ。
医学生医学生
水分制限や利尿薬は、むしろ逆効果になりそうですね。
ドクタードクター
いい感覚だね。水分制限はSIADHなど水が貯留して低ナトリウム血症になる病態の治療だし、利尿薬の静注は心不全などの体液過剰や高カリウム血症の一部で使うものだ。発熱時は不感蒸泄が増えて脱水に傾きやすく、塩喪失型ではもともと塩と水を失いやすい。どちらも循環血液量を減らして、副腎クリーゼを後押ししかねない。必要なのはむしろ十分な水分と塩分の補給だ。
医学生医学生
グルコース・インスリン療法は高カリウム血症の治療ですよね。クリーゼで高カリウムになるなら、使えそうな気もしますが。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。確かにグルコース・インスリン療法はカリウムを細胞内に移す高カリウム血症の緊急治療だ。でも副腎クリーゼの根本治療はあくまでステロイドの補充で、しかもこの患者さんはコルチゾール不足で低血糖を起こしやすいから、インスリンには慎重になる必要がある。発熱時の初期対応として選ぶものではないよ。
医学生医学生
整理すると、熱のときに足りなくなるのはコルチゾールなので、それを先回りして増やすのが一番大事、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。臨床での注意点も押さえておこう。嘔吐で薬が飲めないときや、ぐったりしている、意識がおかしいといった重症のときは、内服の増量では間に合わない。すぐに医療機関でヒドロコルチゾンを静注か筋注し、ブドウ糖を含む生理食塩液で輸液する。回復したら数日以内に通常量へ戻す。なお、増量するのは糖質コルチコイドで、鉱質コルチコイドは通常増量しなくてよい。
医学生医学生
小児科の実習で、患者さんのお母さんが「熱のときはお薬を何倍に」というメモを持っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それがとても大事なんだ。シックデイの増量方法や緊急時の対応は、あらかじめ家族に指導しておき、ステロイド補充中であることを示すカードを携帯してもらう。そしてこの考え方は、アジソン病や下垂体機能低下症でホルモン補充をしている人、長期にステロイドを飲んでいる人にもそのまま当てはまる。手術や処置の前にストレスドーズを考えるのも同じ理屈だよ。

まとめ

先天性副腎皮質過形成症の患者は副腎でコルチゾールを十分に作れないため、発熱などのストレスに応じて分泌を増やすことができず、普段どおりの補充量では相対的な副腎不全に陥ります。放置すればショック、低血糖、低ナトリウム・高カリウム血症を伴う副腎クリーゼに至るため、発熱時の初期対応は糖質コルチコイドを通常の2〜3倍程度に一時増量するストレスドーズが最優先です。内服困難や重症例ではヒドロコルチゾンの静注とブドウ糖を含む輸液を行い、原因精査や抗菌薬などの原因治療はそれと並行して進めます。水分制限や利尿薬は脱水を悪化させ、クリーゼを招くおそれがあります。シックデイ対応の事前指導は、アジソン病や長期ステロイド内服患者など、副腎皮質ホルモンを補充するすべての患者の安全につながる重要な知識です。

解答・解説

正解はdです

【テーマ】副腎皮質ステロイドを補充している患者のシックデイ(発熱・嘔吐・下痢など体調を崩した日)の対応である。 【病態の整理】先天性副腎皮質過形成症(congenital adrenal hyperplasia:CAH)は、副腎でステロイドホルモンを合成する酵素の先天的な欠損による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。日本では21-水酸化酵素欠損症が約9割を占める。コルチゾールが十分に作れないため、下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌が負のフィードバックを受けずに増え、副腎が過形成となり、アンドロゲンが過剰に産生される。塩喪失型ではアルドステロンも不足し、低ナトリウム血症・高カリウム血症・脱水をきたす。 維持療法では、ヒドロコルチゾン(糖質コルチコイド)を補充してコルチゾール不足を補うとともにACTHを抑え、塩喪失型ではフルドロコルチゾン(鉱質コルチコイド)や食塩も併用する。 【設問の考え方】健常者では発熱・感染・外傷・手術などのストレスがかかると、副腎はコルチゾール分泌を数倍に増やして血圧・血糖・循環を保つ。CAHの患者は自分でコルチゾール分泌を増やせないため、普段どおりの補充量では需要に追いつかず、相対的な副腎不全となる。放置すると、ショック・低血糖・低ナトリウム血症・高カリウム血症・意識障害を伴う副腎クリーゼ(急性副腎不全)に至り、致死的となりうる。 したがって、発熱時の初期対応として最優先なのは、糖質コルチコイドを一時的に増量して(ストレス量・ストレスドーズ)、ストレスに見合ったコルチゾールを補うことである。発熱の原因精査や、必要に応じた抗菌薬などの原因治療はその後に並行して行う。

選択肢考察

  1. ×a.  水分制限

    誤り。水分制限は、ADH不適合分泌症候群(SIADH:抗利尿ホルモンが不適切に分泌され、水が貯留して低ナトリウム血症を起こす病態)や心因性多飲症などで行う治療である。発熱時は不感蒸泄が増えて脱水に傾きやすく、塩喪失型CAHではもともとナトリウムと水を失いやすい。水分を制限すると循環血液量減少を悪化させ、副腎クリーゼを誘発しかねない。むしろ十分な水分(と塩分)の補給が必要である。

  2. ×b.  抗菌薬投与

    誤り。抗菌薬は細菌感染症に対する治療であり、発熱の原因が細菌感染と判断された場合に検討するものである。小児の発熱の多くはウイルス感染であり、発熱というだけで一律に投与するものではない。また、抗菌薬投与ではストレス時のコルチゾール不足は解消されないため、CAH患者の発熱時に最初に行うべき対応ではない。

  3. ×c.  利尿薬静注

    誤り。利尿薬の静注は、心不全などによる体液過剰、高カリウム血症(ループ利尿薬によるカリウム排泄促進)、高カルシウム血症(十分な補液後のループ利尿薬)などで用いられる。発熱時のCAH患者は脱水・循環血液量減少に陥りやすく、利尿薬はそれを助長して副腎クリーゼを招く危険がある。

  4. ○d.  糖質コルチコイドの増量

    正しい。CAHでは副腎がストレスに応じてコルチゾール分泌を増やせないため、発熱などのストレス時には補充している糖質コルチコイド(通常はヒドロコルチゾン)を一時的に増量して、需要の増加を補う。目安として、発熱時は通常量の2〜3倍程度(指針によっては2〜4倍)に増やす。嘔吐で内服できない場合や、ぐったりしている・意識状態が悪いなど重症の場合は、速やかに医療機関でヒドロコルチゾンを静注(筋注)し、ブドウ糖を含む輸液を行う。回復したら数日以内に通常量へ戻す。これにより相対的副腎不全から副腎クリーゼへ進むことを防ぐ。

  5. ×e.  グルコース・インスリン療法

    誤り。グルコース・インスリン療法(GI療法)は、インスリンがカリウムを細胞内へ移動させる作用を利用した高カリウム血症の緊急治療であり、低血糖を防ぐためにブドウ糖を同時に投与する。副腎クリーゼでは高カリウム血症を伴うことはあるが、根本的な治療はステロイドの補充であり、またCAH患者はコルチゾール不足で低血糖をきたしやすいため、インスリンの使用には注意を要する。発熱時の初期対応として行うものではない。

先天性副腎皮質過形成症の概要

・遺伝形式は常染色体潜性(劣性)遺伝。最多は21-水酸化酵素欠損症(CYP21A2遺伝子異常)。 ・コルチゾール低下 → ACTH上昇 → 副腎過形成・アンドロゲン過剰。ACTHと同じ前駆体から作られるMSH様作用により皮膚の色素沈着をきたすこともある。 ・女児では外性器の男性化(陰核肥大など)、男児では出生時の外性器異常は目立たず、塩喪失型では生後1〜2週ごろに哺乳不良・体重増加不良・嘔吐・脱水・ショックで発症することがある。 ・診断の手がかりとして、21-水酸化酵素欠損症では血中17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)が著明に上昇する。日本では新生児マススクリーニングの対象疾患である。

治療

・糖質コルチコイド:ヒドロコルチゾンを補充し、コルチゾール不足を補うとともにACTHを抑えてアンドロゲン過剰を是正する。 ・鉱質コルチコイド:塩喪失型ではフルドロコルチゾンを用い、乳児期は食塩も補充する。

シックデイ対応と副腎クリーゼ

・ストレス時(発熱、嘔吐・下痢、外傷、手術・処置など)は糖質コルチコイドを増量する(ストレスドーズ)。鉱質コルチコイドは通常増量不要である。 ・内服困難時や重症時は医療機関でヒドロコルチゾンの静注と、ブドウ糖を含む生理食塩液の輸液を行う。 ・副腎クリーゼの症状:全身倦怠感、悪心・嘔吐、腹痛、脱水、低血圧・ショック、低血糖、意識障害。検査で低ナトリウム血症、高カリウム血症、低血糖を認める。 ・患者・家族には、シックデイの増量方法や緊急時の対応を事前に指導し、ステロイド補充中であることを示すカードなどを携帯させる。 ・同じ考え方は、アジソン病や下垂体機能低下症などで副腎皮質ホルモンを補充している患者、長期ステロイド内服患者にも当てはまる。

POINT

・CAHの維持療法中は、自前でコルチゾール分泌を増やせない。 ・発熱などのシックデイには糖質コルチコイドを通常の2〜3倍程度に増量する(ストレスドーズ)。 ・対応を誤ると副腎クリーゼ(ショック、低血糖、低Na・高K血症)を起こす。 ・内服困難・重症時はヒドロコルチゾン静注+ブドウ糖入り輸液。 ・水分制限や利尿薬は脱水を悪化させるため禁忌的である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。