StudyMed医師国家試験

顔だけむくむ若者―胸壁の静脈が教える上大静脈症候群

第116回医師国家試験 D問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第54問

21歳の男性。1か月前からの顔面浮腫,労作時の呼吸困難を主訴に来院した。既往歴に特記すべきことはない。顔面と頸部および上肢の浮腫を認め,胸壁静脈の怒張を認めた。経皮的針生検により縦隔原発精上皮腫と診断された。胸部造影CTを下に示す。  この患者の症状はどの部位の狭窄によるものか。

第116回 D問題 第54問の問題画像
  1. a.上大静脈
  2. b.腕頭動脈
  3. c.肺動脈
  4. d.気管
  5. e.食道

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、縦隔腫瘍の患者さんの症状が「どこが狭くなって起きたのか」を考える問題だ。ポイントは浮腫が出ている範囲と、胸壁の静脈が浮き出ているという所見。この2つを血液の流れに沿って読み解いていこう。まず、むくみが顔・首・腕に限られているのはなぜだと思う?
医学生医学生
全身のむくみではなく上半身だけ、というのが引っかかります。心不全なら足からむくむはずですよね。
ドクタードクター
いい着眼点だね。頭・顔・首・上肢からの静脈血は、左右の腕頭静脈に集まって上大静脈になり、右心房に戻る。下半身の血液は下大静脈を通るから、上大静脈が詰まると上半身だけがうっ血するんだ。
医学生医学生
解剖実習で、左腕頭静脈が大動脈弓の前を斜めに横切っていたのを思い出しました。上大静脈もかなり前の方にありましたね。
ドクタードクター
そう、上大静脈は前縦隔から中縦隔にかけて走る壁の薄い静脈で、外からの圧迫にとても弱い。前縦隔に大きな腫瘍ができると真っ先に押しつぶされやすいんだ。では胸壁の静脈怒張はどう説明できるかな。
医学生医学生
行き場を失った血液が、別の道を通って心臓に戻ろうとしている…側副血行路でしょうか。
ドクタードクター
その通り。閉塞が月単位でゆっくり進むと、奇静脈系や胸壁・腹壁の皮下静脈を通って下大静脈側へ迂回する道が発達する。それが胸壁の静脈怒張として見えるわけだ。造影CTでも、前縦隔の大きな腫瘍が上大静脈を取り囲み、長い範囲で内腔がほとんど潰れている。だから答えは上大静脈の狭窄だね。
医学生医学生
でもCTでは腕頭動脈も腫瘍に押されていますよね。動脈の狭窄は考えなくていいんですか。
ドクタードクター
腕頭動脈は圧排されているけれど内腔は保たれている。それに、動脈が狭くなって起こるのは右腕の血圧低下や脈の減弱、脳虚血といった「血が足りない」症状だ。むくみや静脈怒張のような「血が溜まる」症状は動脈では説明できないんだ。
医学生医学生
なるほど、虚血かうっ血かで動脈と静脈を区別するんですね。労作時の呼吸困難があるので、肺動脈や気管の狭窄も気になりました。
ドクタードクター
肺動脈が狭くなれば右心系に負荷がかかって呼吸困難は出うるけれど、右心不全のむくみは重力のかかる下肢中心だから、上半身限局の浮腫とは合わない。気管も圧排はされているが内腔は保たれていて、気管狭窄ではむくみや静脈怒張は起きない。上大静脈症候群では、喉頭周囲の粘膜のうっ血・浮腫や腫瘍そのものの圧迫で呼吸困難が出ることがあるんだ。
医学生医学生
食道は、狭くなれば嚥下障害が出るはずですが、そういう訴えはないですね。
ドクタードクター
そう。CTでも食道への浸潤はないし、浮腫とも関係しない。症状の分布と性質から血管を絞り込み、画像で裏づける流れを大事にしよう。
医学生医学生
上大静脈症候群の原因は、CBTの勉強では肺癌が一番多いと覚えました。
ドクタードクター
正解。大部分は悪性腫瘍で、肺癌、とくに小細胞肺癌が最多、次いで悪性リンパ腫だ。前縦隔の胸腺腫・胸腺癌や胚細胞腫瘍も原因になる。良性では中心静脈カテーテルやペースメーカーリードに伴う血栓も忘れないでほしい。症状は臥位や前屈で悪化しやすく、重症では喉頭浮腫による気道狭窄や脳浮腫による意識障害をきたすので、緊急対応が必要になることもある。
医学生医学生
今回は若い男性の縦隔原発セミノーマでしたね。精巣以外にもできるのは意外でした。
ドクタードクター
胚細胞腫瘍は大部分が精巣に生じるけれど、性腺外では前縦隔が代表的な部位で、若年男性に多い。精巣原発からの転移でないことを確かめるため、精巣の診察や超音波検査も行う。セミノーマは化学療法や放射線療法への感受性が非常に高く、シスプラチンを含むBEP療法が治療の中心だ。上大静脈症候群自体には原因疾患の治療が基本で、症状が強ければ血管内ステント留置も検討し、上半身を高くした体位や酸素投与などの対症療法を組み合わせる。
医学生医学生
腫瘍の治療方針を決めるために、まず組織診断をつけることが大切なんですね。
ドクタードクター
その通り。リンパ腫か胚細胞腫瘍か癌かで治療が大きく変わるからね。「上半身だけのむくみ+胸壁の静脈怒張」を見たら、上大静脈症候群と前縦隔腫瘍をすぐ思い浮かべられるようにしておこう。

まとめ

顔面・頸部・上肢に限った浮腫と胸壁静脈の怒張は、上半身の静脈還流が障害された上大静脈症候群に特徴的な所見です。上大静脈は壁が薄く前縦隔から中縦隔に位置するため、前縦隔腫瘍で圧迫されやすく、閉塞がゆっくり進むと奇静脈系や胸壁の皮下静脈が側副血行路として発達します。動脈の狭窄なら虚血症状、気管や食道の狭窄なら呼吸・嚥下の症状が中心となり、上半身限局のうっ血は説明できません。原因の大部分は悪性腫瘍で、肺癌(特に小細胞肺癌)が最多、次いで悪性リンパ腫であり、胸腺腫瘍や胚細胞腫瘍も原因となります。症状の分布から障害部位を推定し、画像と組織診断で原因を確定して治療につなげる流れは、腫瘍の緊急症に対応するうえで欠かせない考え方です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・21歳男性。1か月前から顔面のむくみと労作時の呼吸困難がある。 ・診察では、浮腫が顔面・頸部・上肢に限って出ており、胸壁の皮下静脈が怒張している。 ・経皮的針生検で縦隔原発の精上皮腫(セミノーマ)と診断されている。 ・胸部造影CTでは、前縦隔の大きな腫瘍が上大静脈を取り囲むように圧排・浸潤し、上大静脈の内腔が長い範囲にわたって高度に狭くなっている(ほぼ閉塞している)。腕頭動脈や気管も圧排されてはいるが、内腔は保たれている。

症状の部位から考える

頭部・顔面・頸部・上肢からの静脈血は、左右の腕頭静脈を経て上大静脈に集まり、右心房へ戻る。この経路が詰まると、上半身の静脈圧が上がってうっ血が起こる。一方、下半身の血液は下大静脈を通るため影響を受けない。したがって「顔面・頸部・上肢に限った浮腫」は上大静脈(またはその上流)の閉塞を示す特徴的な分布である。 さらに、閉塞が月単位でゆっくり進むと、上半身の血液が奇静脈系や胸壁・腹壁の皮下静脈を通る迂回路(側副血行路)を経て下大静脈側へ流れるようになり、胸壁の静脈が怒張して見える。本例の胸壁静脈怒張はこの側副血行路の発達を示している。 労作時の呼吸困難は、気道や喉頭周囲の粘膜のうっ血・浮腫や、大きな縦隔腫瘍そのものによる圧迫などで生じうる症状で、上大静脈症候群でしばしばみられる。

診断

以上から、縦隔原発精上皮腫による上大静脈症候群と診断できる。本例の症状は上大静脈の狭窄によるものである。

選択肢考察

  1. ○a.  上大静脈

    顔面・頸部・上肢の浮腫と胸壁静脈の怒張は、上半身の静脈還流が妨げられたことを示す上大静脈症候群の典型的な所見である。造影CTでも、前縦隔腫瘍によって上大静脈が長い範囲で高度に狭窄しており、症状と画像所見がよく一致する。

  2. ×b.  腕頭動脈

    CTでは腕頭動脈も腫瘍に圧排されているが、内腔の径は保たれている。仮に動脈が狭窄しても、生じるのは右上肢の血圧低下・脈拍の減弱や脳虚血症状などの血流不足の症状であり、顔面・上肢の浮腫や静脈怒張といったうっ血症状は説明できない。

  3. ×c.  肺動脈

    肺動脈が狭窄すると右心室に負荷がかかり、労作時呼吸困難や右心不全を生じうる。しかし右心不全による浮腫は重力のかかる下肢を中心に出るのが普通で、頸静脈怒張や肝腫大を伴う。顔面・上肢に限った浮腫と胸壁静脈の怒張は説明できない。

  4. ×d.  気管

    大きな縦隔腫瘍は気管を圧迫して呼吸困難や喘鳴を起こすことがあるが、本例のCTでは気管は圧排されているものの内腔は保たれている。また気管の狭窄では、顔面・上肢の浮腫や胸壁静脈の怒張は生じない。

  5. ×e.  食道

    食道が狭窄すると嚥下困難やつかえ感が出るが、本例にはそのような訴えはなく、CTでも食道への浸潤はみられない。浮腫や静脈怒張とも関係しない。

上大静脈症候群(SVC症候群)

上大静脈が腫瘍による外からの圧迫・浸潤、あるいは血栓によって狭窄・閉塞し、頭頸部と上肢の静脈還流が障害される病態である。 ・原因: 大部分は悪性腫瘍で、最も多いのは肺癌(特に小細胞肺癌)であり、次いで悪性リンパ腫が多い。ほかに胸腺腫・胸腺癌、胚細胞腫瘍、転移性腫瘍など。良性の原因としては、中心静脈カテーテルやペースメーカーリードに伴う血栓、線維性縦隔炎などがある。 ・症状: 顔面・頸部・上肢の浮腫、顔面の紅潮、頸静脈や胸壁静脈の怒張、呼吸困難、咳、嗄声、頭痛、めまい、視力障害。臥位や前屈で悪化しやすい。重症になると喉頭浮腫による気道狭窄や脳浮腫による意識障害を起こし、緊急の対応を要する。 ・診断: 造影CTで閉塞の部位・範囲と側副血行路、原因病変を評価する。治療方針を決めるため、原因腫瘍の組織診断が重要である。 ・治療: 原因疾患の治療(化学療法、放射線療法)が基本である。症状が強い場合や早急な改善が必要な場合は、血管内ステント留置が行われる。上半身を高くした体位、酸素投与、浮腫に対するステロイドなどの対症療法も行う。

縦隔の区分と好発腫瘍

・前縦隔: 胸腺腫・胸腺癌、胚細胞腫瘍(奇形腫、セミノーマなど)、悪性リンパ腫、胸腔内甲状腺腫 ・中縦隔: 気管支原性嚢胞、心膜嚢胞、悪性リンパ腫 ・後縦隔: 神経原性腫瘍(神経鞘腫など) 上大静脈は前縦隔から中縦隔にかけて位置するため、前縦隔の大きな腫瘍は上大静脈症候群を起こしやすい。

縦隔原発セミノーマ

胚細胞腫瘍は精巣に生じるものが大部分だが、性腺の外に生じるものもあり、縦隔(特に前縦隔)が代表的な部位である。若年男性に多い。セミノーマは化学療法・放射線療法への感受性がきわめて高く、精巣原発の胚細胞腫瘍に準じたシスプラチンを含む化学療法(BEP療法: ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)が治療の中心となる。精巣原発の腫瘍からの転移でないことを確かめるため、精巣の診察・超音波検査も行う。

POINT

・顔面・頸部・上肢に限った浮腫と胸壁静脈の怒張は、上大静脈症候群を示す。 ・胸壁静脈の怒張は、上大静脈の閉塞に対する側副血行路の発達を反映する。 ・上大静脈症候群の原因は大部分が悪性腫瘍で、肺癌(特に小細胞肺癌)が最多、次いで悪性リンパ腫。前縦隔腫瘍(胸腺腫瘍、胚細胞腫瘍)も原因となる。 ・前縦隔腫瘍の鑑別: 胸腺腫・胸腺癌、胚細胞腫瘍、悪性リンパ腫、甲状腺腫。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。