StudyMed医師国家試験

スコープが写ったら「振り返り」の合図―胃角の稜線で読む潰瘍の居場所

第115回医師国家試験 F問題 第53問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第53問

74歳の男性。心窩部痛を主訴に来院した。1週前から軽度の心窩部痛があり,症状が増悪するため受診した。上部消化管内視鏡像を下に示す。  病変の部位はどれか。

第115回 F問題 第53問の問題画像
  1. a.食道胃接合部
  2. b.胃穹窿部
  3. c.胃角部
  4. d.胃体部大彎
  5. e.胃幽門部

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、内視鏡写真1枚から病変が胃のどこにあるかを読み取る問題だ。病変そのものの性状より、「カメラが今どこから、どちらを向いて見ているか」を判断できるかが勝負になる。まず写真の中で目につくものを挙げてみよう。
医学生医学生
黒い管のようなものが写っています。目盛りがあるので……内視鏡のスコープ自体でしょうか。
ドクタードクター
その通り。そこが最大のヒントなんだ。スコープは口から食道、噴門を通って胃に入るよね。普通に前を見下ろして進む観察なら、自分自身が画面に写ることはあるかな。
医学生医学生
ありません。自分の後ろを見ない限り、自分の管は見えないはずです。あ、だから先端をUターンさせている、つまり反転観察ということですね。
ドクタードクター
正解。スコープが写っている=反転して口側を見上げている、と覚えておこう。では反転したスコープの手前に、胃の内腔を上下に区切るような弓状の稜線が見える。これは何だと思う?
医学生医学生
消化器内科の実習で、先生が反転して「ここが胃角」と見せてくれた記憶があります。小彎が折れ曲がっているところですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。胃角は小彎が鋭く折れ曲がる部分で、胃体部と前庭部の境界の目安になる。反転して見上げると、ちょうど内腔を区切るアーチ状の稜線として張り出して見えるんだ。病変はその稜線上にあるから、答えは胃角部になる。
医学生医学生
でも、反転観察なら胃穹窿部もそうですよね。穹窿部の写真でもスコープが写るって習いました。
ドクタードクター
いい疑問だ。穹窿部は噴門より上に膨らんだ部分で、確かに反転しないと見えない。ただ、その場合はスコープが噴門を貫いて入ってくるところを近距離で見る像になる。今回はスコープの手前に胃角の稜線があって、病変はそこに乗っているから、穹窿部を見上げた像ではないんだ。食道胃接合部も同じ考え方で、反転で見ればスコープを噴門が取り巻く形になるし、順方向なら白っぽい食道粘膜と赤い胃粘膜の境目として見える。
医学生医学生
胃体部大彎や幽門部はどう見分けるんでしょう。
ドクタードクター
どちらも基本は順方向、つまり見下ろしの観察で、スコープは写らない。胃体部大彎なら太く蛇行する縦走ひだがずらっと並ぶ。幽門部なら前方に幽門輪が小さな穴として見える。今回の写真にはどちらの特徴もない。
医学生医学生
スコープが写っているか、ひだが並んでいるか、小さな穴が見えるか、で大まかに場所がわかるんですね。
ドクタードクター
そう、まずはその3つの目印で十分戦える。次に病変自体も見ておこう。辺縁がなめらかな円形の陥凹で、周りは浮腫状に盛り上がり、底は白苔と黒っぽい凝血塊で覆われている。何を考える?
医学生医学生
胃潰瘍の活動期でしょうか。崎田・三輪分類のA1期だと思います。CBTでも出ました。
ドクタードクター
そう考えるのが自然だね。白苔が厚く、凝血塊や周囲の浮腫を伴うのが活動期で、治癒過程期になると白苔が薄くなって再生上皮やひだの集中が出てくる。瘢痕期では白苔が消えて赤色瘢痕から白色瘢痕へと移っていく。そして胃角部小彎は胃潰瘍の好発部位でもあるんだ。
医学生医学生
場所と見た目がそろって潰瘍らしい、ということですね。じゃあ生検までは要らないですか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だ。高齢者の潰瘍性病変では、潰瘍を伴う陥凹型胃癌との鑑別が欠かせない。癌なら辺縁が不整で、集中するひだの先端がやせたり途絶えたり、棍棒状に太くなったりする。内視鏡の見た目だけで良悪性は断定できないから、生検で確認するのが原則だよ。
医学生医学生
原因検索としては、Helicobacter pyloriの感染とNSAIDsの服用歴を確認するんですね。
ドクタードクター
その通り。ピロリ陽性なら除菌が再発予防の柱になるし、NSAIDsを飲んでいるなら中止や変更を検討する。凝血塊がある活動期潰瘍では、出血に備えて露出血管の有無を見ることも臨床では大切だ。まずは「どこから見た写真か」を読み、そのうえで「何の病変か」を考える、という順番を身につけよう。

まとめ

内視鏡写真で病変部位を読むときは、スコープ自体が写っているかがまず手がかりとなり、写っていれば胃内で反転して口側を見上げている像と判断できます。反転像でスコープの手前に内腔を区切る弓状の稜線が見えれば、それは胃体部と前庭部の境界をなす胃角であり、本問の病変は胃角部にあります。順方向観察では、太い縦走ひだが並べば胃体部大彎、前方に小孔が見えれば幽門輪を含む前庭部と区別できます。胃角部小彎は胃潰瘍の好発部位で、辺縁平滑な円形陥凹に厚い白苔・凝血塊と周囲浮腫を伴えば活動期潰瘍を考えますが、高齢者では陥凹型胃癌との鑑別のため生検が必要です。「どこから見ているか」を読む力は、あらゆる内視鏡像の解釈の出発点になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・74歳の男性。1週前から軽度の心窩部痛があり、次第に増悪している。 ・上部消化管内視鏡像: 画面の上方から内視鏡のスコープ(目盛り付きの黒い管)が手前に向かって入ってきているのが写っている。画面中央を横切るように、胃の内腔を上下に分ける弓状のひだ(稜線)があり、その稜線上に円形の陥凹性病変がある。陥凹の辺縁はおおむね平滑で周囲に浮腫状の盛り上がりがあり、底部は黒っぽい凝血塊や白苔に覆われている。

部位を読むための考え方

内視鏡写真で自分の位置を知るには、画面にスコープ自身が写っているかどうかが大きな手がかりになる。スコープは口から食道・噴門を通って胃に入るので、スコープ自身が見えるのは、先端を大きく反転(反転操作、Uターン)させて、来た方向(口側)を振り返って見ている場合に限られる。通常の見下ろし(順方向)の観察ではスコープは写らない。 本像では反転したスコープが噴門側から下りてきており、その手前に内腔を区切る弓状の稜線が見える。胃を反転して見上げたときに、小彎側で胃体部と前庭部(幽門部)を区切るように張り出して見えるこの稜線が胃角である。よって病変は胃角部(胃角小彎)に存在する。

病変の性状

辺縁平滑な円形の陥凹で、周囲の浮腫と白苔・凝血塊を伴うことから、活動期(A1期相当)の胃潰瘍がまず考えられる。胃角部小彎は胃潰瘍の好発部位でもある。ただし高齢者では陥凹型の胃癌(潰瘍を伴う癌)との鑑別が必要であり、生検による確認が欠かせない。本問ではあくまで病変の部位が問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  食道胃接合部

    食道胃接合部(EGJ)は、食道の扁平上皮と胃の円柱上皮の粘膜境界(SCJ、白っぽい食道粘膜と赤みの強い胃粘膜の境目)や柵状血管の下端として、食道側から見下ろす像で観察される。胃内で反転して見上げた場合は、スコープが噴門を貫いて入ってくる様子として写り、噴門部がスコープを取り巻く形になる。本像はスコープの手前に胃角の稜線が見える像であり、食道胃接合部の像ではない。

  2. ×b.  胃穹窿部

    胃穹窿部(胃底部)は噴門より上方に膨らんだ部分で、観察には胃内での反転操作が必要であり、噴門を通って入ってくるスコープが近距離に写る。本像でもスコープは写っているが、その手前に胃体部と前庭部を区切る胃角の稜線と病変が見えており、穹窿部を見上げた像ではない。

  3. ○c.  胃角部

    反転したスコープが画面上方(噴門側)から下りてきており、その手前で胃内腔を区切る弓状の稜線が胃角である。病変はこの稜線上の小彎側に位置しており、胃角部の病変と判断できる。胃角部小彎は胃潰瘍の好発部位であり、辺縁平滑な円形陥凹に浮腫状の周堤と白苔・凝血塊を伴う本病変は活動期の胃潰瘍として矛盾しない。

  4. ×d.  胃体部大彎

    胃体部大彎は、順方向(見下ろし)の観察で太く蛇行する縦走ひだ(皺襞)が並ぶ像として見えるのが特徴であり、通常スコープ自体は写らない。本像には大彎のひだの並びではなく胃角の稜線が写っており、病変はその上にある。

  5. ×e.  胃幽門部

    幽門部(前庭部)を順方向に観察すると、前方に幽門輪が小さな開口部として見え、スコープ自体は写らない。本像では幽門輪は見えず、反転したスコープと胃角が写っている。なお胃癌は前庭部に好発するが、本像の病変は胃角上にある。

胃の区分

・噴門部: 食道胃接合部周辺。 ・胃底部(穹窿部): 噴門より上方の膨らみ。立位では空気がたまる。 ・胃体部: 胃の中央の大部分。上部・中部・下部に分けることもある。 ・胃角: 小彎が鋭く折れ曲がる部分で、胃体部と前庭部(幽門部)の境界の目安となる。 ・前庭部(幽門部): 胃角より肛門側で幽門輪まで。 胃癌取扱い規約では、大彎・小彎をそれぞれ3等分した点を結んで、胃を上部(U)・中部(M)・下部(L)に分ける。胃角はおおむね中部と下部の境界付近にあたる。

内視鏡写真の読み方のコツ

・スコープ自体が写っている → 反転(見上げ)観察。穹窿部・噴門部・胃角の観察などで用いる。 ・前方に小孔(幽門輪)が見える → 前庭部の順方向観察。 ・太い縦走ひだが並ぶ → 胃体部大彎。

胃潰瘍の内視鏡所見と病期(崎田・三輪分類)

・活動期(A1、A2): 厚い白苔、周囲の浮腫・隆起。A1では凝血塊や出血を伴うことがある。 ・治癒過程期(H1、H2): 白苔が薄くなり、周囲から再生上皮と集中するひだが現れる。 ・瘢痕期(S1、S2): 白苔が消失し、赤色瘢痕(S1)から白色瘢痕(S2)へ移行する。

胃潰瘍と胃癌の比較

・胃潰瘍: 胃角部小彎に好発。中高年に多い。辺縁平滑な円形・楕円形の陥凹で、ひだの集中は潰瘍底に向かってなだらかに収束する。主な原因はHelicobacter pylori感染と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。 ・陥凹型胃癌: 辺縁不整な陥凹、集中するひだの先端のやせ・途絶・融合・棍棒状肥大などを示す。高齢者に多い。 潰瘍性病変は良悪性を内視鏡像だけで断定できないため、生検で確認する。

POINT

・内視鏡像にスコープ自体が写っていれば反転観察である。 ・反転したスコープの手前で胃内腔を区切る弓状の稜線は胃角。 ・胃角部小彎は胃潰瘍の好発部位。 ・辺縁平滑な円形陥凹に白苔・凝血塊、周囲浮腫を伴えば活動期(A1)胃潰瘍を考える。 ・高齢者の潰瘍性病変では陥凹型胃癌との鑑別のため生検を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。