かかるのは子ども、命を落とすのは高齢者―数字で読み解く季節性インフルエンザ
第115回医師国家試験 F問題 第26問
国試問題にチャレンジ
2019年以前の我が国におけるインフルエンザについて,正しいのはどれか。
- a.小児に比べて大人の罹患率が高い。
- b.罹患数は1シーズンに1~2万人である。
- c.4月から5月にかけて流行のピークがある。
- d.他の年齢層に比べて高齢者の致死率が高い。
- e.オセルタミビル耐性のウイルス株が90%以上を占める。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
2019年以前の日本の季節性インフルエンザは冬季に流行し、1〜2月にピークを迎え、推計受診者数は1シーズン約1,000万人前後に達します。人口あたりの罹患率は学童を中心とした小児で最も高い一方、致死率は高齢者で最も高く、ウイルス性・二次性細菌性肺炎の合併や基礎疾患の増悪が死亡の主因となり、流行期には超過死亡として現れます。オセルタミビル耐性株は2008〜2009年のソ連型でほぼ全株に及んだものの、現在の流行株ではおおむね1〜2%程度と低い水準です。高齢者は定期接種(B類疾患)の対象であり、乳幼児ではインフルエンザ脳症に注意が必要です。「罹患率」と「致死率」、「実数」と「率」を区別して疫学を理解することは、ハイリスク患者の診療やワクチン施策を考えるうえでの基礎となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって季節性インフルエンザの流行が大きく抑えられた2020年以降ではなく、それ以前の我が国における季節性インフルエンザの典型的な疫学像を問うている。 押さえるべき疫学的特徴は次のとおりである。 ・季節性: 温帯の日本では冬季に流行し、例年11月下旬〜12月頃に流行が始まり、1〜2月(多くは1月下旬〜2月上旬)にピークを迎え、3〜4月にかけて終息する。 ・規模: 定点医療機関からの報告を基に推計される全国の受診者数は、1シーズンあたりおおむね1,000万人前後(シーズンにより数百万〜2,000万人程度)に達する。 ・年齢分布: 罹患率(人口あたりの患者数)は小児、特に学童で最も高く、学校・保育施設が流行拡大の場となる。 ・重症度: 入院・死亡は高齢者に多く、肺炎の合併や基礎疾患の増悪が主な原因となる。乳幼児ではインフルエンザ脳症が問題となる。 ・薬剤耐性: 現在流行している株のノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビルなど)に対する耐性率は低い。 これらを踏まえて各選択肢を判断すると、高齢者の致死率が高いという記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. 小児に比べて大人の罹患率が高い。
誤り。人口あたりの罹患率は小児で最も高く、推計患者数のうち15歳未満が4割前後を占めるシーズンも多い。小児は免疫学的な既往(過去の感染による免疫)が乏しいうえ、学校や保育所で密に接触するため感染が広がりやすく、地域流行の起点ともなる。なお、成人は人口が多いため、亜型やシーズンによっては患者の「実数」で20歳以上が過半数を占めることもあるが、罹患「率」で比較すれば小児のほうが高い。
- ×b. 罹患数は1シーズンに1~2万人である。
誤り。インフルエンザは5類感染症の定点把握疾患であり、全数は報告されないが、定点報告から推計した全国の受診者数は1シーズンあたり約1,000万人前後(人口の5〜10%程度)にのぼる。1〜2万人という数は桁違いに少ない。
- ×c. 4月から5月にかけて流行のピークがある。
誤り。日本の季節性インフルエンザは冬季に流行し、ピークは例年1〜2月頃である(早いシーズンでは12月末頃)。低温・低湿度の環境ではウイルスが安定して空気中に残りやすく、また気道粘膜の防御能も低下しやすいことが冬季流行の一因とされる。4〜5月は通常、流行の終息期にあたる。なお、B型は流行がやや遅れ、春先まで続くことがある。
- ○d. 他の年齢層に比べて高齢者の致死率が高い。
正しい。罹患率は小児で高い一方、罹患した場合に死亡に至る割合(致死率)は高齢者で最も高い。高齢者は免疫応答が低下しており、慢性心疾患・慢性呼吸器疾患・糖尿病などの基礎疾患を持つことが多く、ウイルス性肺炎や細菌性の二次性肺炎(肺炎球菌、黄色ブドウ球菌など)を合併しやすい。インフルエンザ関連死亡の大部分は65歳以上が占め、流行期には肺炎や基礎疾患の増悪による死亡が平常時の予測を上回る「超過死亡」として現れる。このため65歳以上の者などはインフルエンザワクチンの定期接種(B類疾患)の対象となっている。
- ×e. オセルタミビル耐性のウイルス株が90%以上を占める。
誤り。2008〜2009年シーズンには、当時流行していたA(H1N1)ソ連型のほぼすべてがオセルタミビル耐性(ノイラミニダーゼのH275Y変異)を示したことがある。しかし2009年にA(H1N1)pdm09が出現して以降ソ連型は流行しなくなり、その後に流行しているA(H1N1)pdm09、A(H3N2)、B型でのオセルタミビル耐性株の割合はおおむね1〜2%程度と低い。したがって90%以上という記述は誤りである。
インフルエンザウイルスの基本
オルトミクソウイルス科のRNAウイルスで、ヒトで季節性流行を起こすのはA型とB型である。A型は表面抗原のヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)により亜型に分けられる。HA・NAに小さな変異が蓄積する「抗原連続変異(ドリフト)」により毎年流行を繰り返し、A型では異なる亜型への置き換わり「抗原不連続変異(シフト)」によって世界的大流行(パンデミック)が起こりうる。
感染経路・臨床像
主に飛沫感染と接触感染で広がり、潜伏期は1〜3日程度である。突然の高熱、悪寒、頭痛、筋肉痛・関節痛、全身倦怠感などの全身症状に続いて、咳・鼻汁・咽頭痛などの呼吸器症状が出現する。
ハイリスク群と主な合併症
・高齢者: 肺炎(ウイルス性・二次性細菌性)、基礎疾患の増悪。致死率が高い。 ・乳幼児: インフルエンザ脳症、熱性けいれん、中耳炎、クループ。 ・その他: 妊婦、慢性心・肺疾患、糖尿病、免疫不全など。 ・小児ではライ症候群との関連からアスピリンを避け、解熱にはアセトアミノフェンを用いる。
治療薬
ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビル)と、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(バロキサビル マルボキシル)がある。発症48時間以内の投与で効果が期待できる。バロキサビルでは投与後にPA領域のI38T変異などによる感受性低下株が比較的出現しやすいことが知られている。
COVID-19流行下の変化
2020年春以降、マスク着用、手指衛生、人の移動制限などの影響により、国内外で季節性インフルエンザの流行がほとんどみられないシーズンが続いた。本問が「2019年以前」と限定しているのはこのためである。
予防
不活化ワクチン(HAワクチン)を流行前に接種する。65歳以上の者と、60〜64歳で心臓・腎臓・呼吸器の機能または免疫機能に一定の障害を有する者は予防接種法上の定期接種(B類疾患)の対象である。
POINT
・日本の季節性インフルエンザは冬季流行で、ピークは1〜2月。 ・推計受診者数は1シーズン約1,000万人前後。 ・罹患率は小児(特に学童)で高い。 ・致死率は高齢者で高く、肺炎合併や基礎疾患増悪が死因となる(超過死亡)。 ・オセルタミビル耐性株は現在約1〜2%と少数(2008〜2009年のソ連型はほぼ全株耐性だった)。
