靴べら1枚で歩きが変わる―短下肢装具が支える下垂足と内反尖足
第115回医師国家試験 C問題 第29問
国試問題にチャレンジ
図に示す装具が適応となる疾患はどれか。2つ選べ。

- a.下垂足
- b.外反母趾
- c.内反尖足
- d.股関節脱臼
- e.膝蓋骨脱臼
対話形式の解説
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ドクターまとめ
靴べらのような形で下腿後面から足底までを覆うシューホーン型装具は短下肢装具であり、足関節を中間位に保持して足先の垂れ下がりと内反を防ぎ、歩行を安定させます。代表的な適応は、総腓骨神経麻痺などで背屈筋が弛緩性に麻痺し鶏歩となる下垂足と、脳卒中片麻痺などの痙縮で底屈・内反位に引き込まれ分回し歩行の一因となる内反尖足です。外反母趾には足趾矯正具や足底挿板、乳児の股関節脱臼にはリーメンビューゲル装具、膝蓋骨脱臼には膝の固定や制動具と、部位ごとに用いる装具は異なります。装具は覆う範囲の関節にしか作用しないため、支持範囲と保持したい肢位から適応を考えることが基本です。この考え方は、リハビリテーションの場で患者さんに適した装具を選ぶ際の土台になります。
解答・解説
正解はa, cです
図の装具
図は下腿後面から足底までを一体のプラスチックで覆う短下肢装具(AFO: ankle-foot orthosis)であり、形が靴べらに似ていることからシューホーン型(靴べら型)短下肢装具と呼ばれる。膝関節にはかからず、下腿と足部のみを支持する。
短下肢装具の働き
短下肢装具の主な役割は、足関節を中間位(底屈0°前後)付近に保持して、歩行中に足先が垂れ下がる(底屈する)のを防ぐことである。これにより ・遊脚期に足尖が床に引っかかるのを防ぐ(つまずき防止) ・立脚期の足関節を安定させ、踵から接地できるようにする ・足部の内反を抑え、足関節の捻挫や変形の進行を防ぐ といった効果が得られる。
考え方
したがって適応は、足関節の背屈ができない、あるいは底屈・内反方向へ引き込まれる病態である。前者の代表が総腓骨神経麻痺などによる下垂足、後者の代表が脳卒中後片麻痺などの痙性による内反尖足である。股関節や膝関節の疾患は、この装具の支持範囲(下腿〜足部)に含まれないため適応とならない。
選択肢考察
- ○a. 下垂足
下垂足(drop foot)は足関節と足趾の背屈筋(前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋)の麻痺により、足が垂れ下がった状態となるものである。原因として最も多いのは総腓骨神経麻痺で、腓骨頭の外側を浅く走行する総腓骨神経が、長時間の下肢外旋位での臥床、ギプスや弾性ストッキングによる圧迫、足を組む姿勢などで圧迫されて生じる。ほかにL5神経根障害やCharcot-Marie-Tooth病などでもみられる。歩行時には足尖が床に引っかからないよう膝を高く上げる鶏歩(steppage gait)となる。短下肢装具で足関節を背屈位寄りに保持すると、遊脚期の足尖の引っかかりが防げ、歩行が安定する。よって適応となる。
- ×b. 外反母趾
外反母趾は母趾が中足趾節関節(MTP関節)で第2趾側へ「く」の字に曲がる前足部の変形であり、足関節の底背屈を制御する短下肢装具は適応とならない。保存療法としては、つま先にゆとりのある靴への変更、母趾と第2趾の間に挟む矯正具(外転装具)、横アーチ・縦アーチを支える足底挿板(アーチサポート)、母趾外転筋の運動療法などを行う。疼痛や変形が高度な場合は骨切り術などの手術を検討する。
- ○c. 内反尖足
内反尖足は足関節が底屈(尖足)し、同時に足部が内側へ返る(内反)変形である。脳卒中後の片麻痺や脳性麻痺などで下腿三頭筋や後脛骨筋の痙縮(筋緊張の亢進)が生じると、この肢位に引き込まれる。歩行時には足尖や足部外側から接地するため不安定となり、遊脚期には足尖が引っかかって、患側下肢を外側へ回して振り出す分回し歩行の一因にもなる。短下肢装具で足関節を中間位に保持し内反を抑えることで、踵からの接地と安定した立脚が可能となる。よって適応となる。脳卒中片麻痺のリハビリテーションで最もよく処方される装具である。
- ×d. 股関節脱臼
股関節脱臼は股関節の疾患であり、下腿と足部を支える短下肢装具の適応とはならない。乳児の発育性股関節形成不全(DDH)では、リーメンビューゲル装具(Pavlik harness)を用いて股関節を屈曲・外転位に保ち、下肢の自動運動を利用して整復を図る。外転・屈曲位では大腿骨頭が臼蓋に深く収まり求心位が得られやすい。外傷性股関節脱臼では整復後に安静・牽引などを行う。
- ×e. 膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼は膝関節(膝蓋大腿関節)の疾患であり、短下肢装具の適応とはならない。膝蓋骨は大部分が外側へ脱臼する。初回脱臼では整復後に、膝関節伸展位での固定(ニーブレースなど)や、膝蓋骨の外側移動を抑える膝蓋骨制動用のサポーターを用い、大腿四頭筋(特に内側広筋)の筋力訓練を行う。脱臼を繰り返す反復性・習慣性膝蓋骨脱臼では、内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)再建術などの手術を検討する。
下肢装具の分類
・足底挿板(インソール): 扁平足、外反母趾、足底腱膜炎など足部の変形・疼痛に用いる。 ・短下肢装具(AFO): 下腿〜足部。下垂足、内反尖足、足関節の不安定性に用いる。プラスチック製(シューホーン型など)と、金属支柱付きのもの(足継手で底背屈の制動・補助を調整できる)がある。痙縮が強く内反尖足の矯正力が必要な場合は、金属支柱付きの方が適することがある。 ・長下肢装具(KAFO): 大腿〜足部。膝折れを防ぎ、膝と足関節の両方を支持する。脳卒中急性期の早期立位・歩行訓練、対麻痺などに用いる。 ・股関節装具: リーメンビューゲル装具(DDH)、外転免荷装具(Perthes病)など。 ・膝装具: 膝靱帯損傷後の不安定性、変形性膝関節症などに用いる。
下垂足と内反尖足の違い
・下垂足: 背屈筋の弛緩性麻痺(主に総腓骨神経麻痺)。足関節は他動的には容易に背屈できる。鶏歩。 ・内反尖足: 底屈筋・内反筋の痙縮(中枢神経障害)。他動的な背屈に抵抗がある。分回し歩行。重度の痙縮にはボツリヌス毒素の局所注射が併用されることがある。 いずれも歩行の妨げとなる足関節の底屈を短下肢装具で制御する点は共通である。
POINT
・シューホーン型装具は短下肢装具(AFO)であり、足関節を中間位に保持して底屈・内反を防ぐ。 ・適応の代表: 下垂足(総腓骨神経麻痺)と内反尖足(脳卒中片麻痺の痙縮)。 ・総腓骨神経は腓骨頭の外側で圧迫されやすい(下肢外旋位の臥床、ギプス)。下垂足では鶏歩となる。 ・DDHにはリーメンビューゲル装具、外反母趾には足趾矯正具・足底挿板と、部位に応じた装具を対応させて覚える。
