「先進国の病気」は過去の話―世界の死因の7割を占める非感染性疾患の実像
第115回医師国家試験 C問題 第24問
国試問題にチャレンジ
非感染性疾患(脳心血管疾患・悪性新生物・慢性呼吸器疾患・糖尿病を含む)の国際保健における現況について正しいのはどれか。
- a.死亡原因としては感染性疾患より少ない。
- b.死亡の半分以上は高所得国で発生している。
- c.急速な都市化や生活習慣のグローバル化が加速要因となっている。
- d.最大の寄与を有する単一リスクファクターは塩分過剰摂取である。
- e.低・中所得国においては,富裕層の方が貧困層より死亡率が高い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
非感染性疾患(NCDs)は世界の全死亡の約7割強を占め、死因として感染性疾患を大きく上回ります。その死亡の約4分の3は低・中所得国で発生し、国内でも貧困層ほどリスク因子への曝露が多く医療へのアクセスが乏しいため、死亡リスクが高くなります。急速な都市化や生活習慣のグローバル化、人口の高齢化がNCDsの増加を加速しており、最大の行動リスク因子は喫煙、代謝性リスク因子では血圧上昇の寄与が最大です。SDGsでは2030年までにNCDsによる早世を3分の1減らす目標が掲げられ、たばこ税や減塩政策などの対策が推進されています。「NCDs=先進国の病気」という思い込みを修正し、世界規模の健康格差として捉えることが、国際保健を理解する出発点になります。
解答・解説
正解はcです
非感染性疾患(non-communicable diseases:NCDs)とは、感染によらず、主に生活習慣・環境・遺伝・加齢などを背景に慢性に経過する疾患の総称である。WHO(世界保健機関)は特に脳心血管疾患、悪性新生物(がん)、慢性呼吸器疾患(COPDなど)、糖尿病の4疾患を主要なNCDsとして対策の中心に据えている。 本問は、NCDsの世界的な状況について次の4点を押さえていれば解ける。 (1) 規模:NCDsは世界の全死亡のおよそ7割強(2019年で約74%)を占め、死因として感染症を大きく上回る。 (2) 地域分布:NCDs死亡の約3/4は低・中所得国で生じており、「先進国の病気」ではない。70歳未満で亡くなる「早世」の多くも低・中所得国に集中している。 (3) 加速要因:急速で無計画な都市化、加工食品・たばこ・アルコールの流通拡大を含む不健康な生活様式のグローバル化、人口の高齢化がNCDsの増加を後押ししている。 (4) 社会経済格差:低・中所得国の内部でも、貧困層ほど有害製品への曝露が多く医療へのアクセスが乏しいため、NCDsによる死亡のリスクが高い。 これらを踏まえると、加速要因として都市化と生活習慣のグローバル化を挙げた c が正しい。
選択肢考察
- ×a. 死亡原因としては感染性疾患より少ない。
誤り。世界全体でみると、NCDsによる死亡は年間4,000万人を超え、全死亡の約74%(2019年)を占める。WHOの死因順位でも上位は虚血性心疾患、脳卒中、COPDといったNCDsが占めており、感染性疾患より多い。ただし低所得国に限れば、下気道感染症・下痢性疾患・結核・マラリアなど感染性疾患や新生児関連の死因の比重が今も大きい。この点と混同しないよう注意する。
- ×b. 死亡の半分以上は高所得国で発生している。
誤り。NCDsによる死亡のおよそ3/4は低・中所得国で発生している。高所得国の人口は世界人口の1~2割程度にすぎず、人口の大部分を抱える低・中所得国で死亡数も多くなる。さらに低・中所得国では、予防・早期発見・治療の体制が不十分なため、70歳未満の早すぎる死亡の割合も高い。
- ○c. 急速な都市化や生活習慣のグローバル化が加速要因となっている。
正しい。WHOは、急速で計画性に乏しい都市化、不健康な生活様式のグローバル化、人口の高齢化をNCDs増加の推進要因として挙げている。都市化が進むと身体活動量が減り、塩分・脂肪・糖分の多い加工食品やファストフードを手にしやすくなる。さらに、たばこやアルコール、清涼飲料などの多国籍企業による販売拡大で、こうした生活習慣が国境を越えて広がる。その結果、高血圧・肥満・高血糖・脂質異常といった代謝性リスクが増え、NCDsの増加につながっている。
- ×d. 最大の寄与を有する単一リスクファクターは塩分過剰摂取である。
誤り。塩分の過剰摂取は高血圧を介してNCDs死亡に関わるが、寄与は最大ではない。行動上のリスク因子として最も大きいのは喫煙で、受動喫煙を含めて年間800万人以上の死亡に関与するとされる。塩分過剰摂取に関連する死亡は年間200万人程度と推計され、喫煙より明らかに少ない。なお代謝性リスク因子まで含めると、最大の寄与をもつのは血圧上昇(高血圧)である。どちらの見方でも、塩分過剰摂取が最大ということはない。
- ×e. 低・中所得国においては,富裕層の方が貧困層より死亡率が高い。
誤り。低・中所得国でもNCDsは貧困層に重くのしかかる。貧困層はたばこや不健康な食品などに曝されやすく、健康教育・検診・治療へのアクセスも限られる。そのため富裕層よりNCDsによる死亡リスクが高い。乳幼児死亡なども含めた全死亡率でみても、貧困層の方が高い。さらにNCDsの長期にわたる医療費が家計を圧迫し、貧困をいっそう深める悪循環も指摘されている。
主要4疾患と共通リスク因子
WHOは、脳心血管疾患・がん・慢性呼吸器疾患・糖尿病の4疾患に共通する修正可能な行動リスク因子として、喫煙、不健康な食事(塩分過多など)、身体活動不足、有害なアルコール使用の4つを挙げている(近年は大気汚染を加えて「5×5」とも呼ぶ)。これらの行動因子は、血圧上昇・過体重/肥満・高血糖・脂質異常といった代謝性リスク因子を介してNCDsを引き起こす。
疾患別の死亡数(概数)
死亡数が最も多いのは脳心血管疾患(年間約1,800万人)で、がん(約900万~1,000万人)、慢性呼吸器疾患(約400万人)、糖尿病(腎疾患を含め約200万人)が続く。
WHOによる世界の死因順位(2019年)
1 虚血性心疾患、2 脳卒中、3 COPD(慢性閉塞性肺疾患)、4 下気道感染症、5 新生児の状態(早産・出生時仮死/外傷・新生児敗血症など)、6 気管・気管支・肺癌、7 Alzheimer病などの認知症、8 下痢性疾患、9 糖尿病、10 腎疾患。上位10のうち7つがNCDsである。一方、低所得国では下気道感染症・新生児の状態・下痢性疾患・マラリア・結核などが上位を占める。
国際的な取り組み
国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット3.4は、2030年までにNCDsによる早世(30~70歳の死亡)を予防・治療を通じて3分の1減らすことを掲げている。WHOは費用対効果の高い介入策("best buys")として、たばこ税の引き上げ、減塩政策、高血圧・糖尿病のプライマリケアでの管理などを推奨している。たばこ対策では、WHOたばこ規制枠組条約(FCTC)が国際的な法的枠組みとなっている。
POINT
・NCDsは世界の全死亡の約7割強(約74%)を占め、感染症より多い ・NCDs死亡の約3/4は低・中所得国で発生し、早世(70歳未満の死亡)も低・中所得国に多い ・加速要因は急速な都市化、生活習慣のグローバル化、人口の高齢化 ・最大の行動リスク因子は喫煙、代謝性リスク因子では血圧上昇の寄与が最大 ・低・中所得国でも貧困層ほどNCDsによる死亡リスクが高い
