麻酔下の「けいれん」が心を救う―修正型電気けいれん療法とうつ病
第115回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
精神科における治療時の写真を下に示す。 この治療が有効な疾患はどれか。

- a.てんかん
- b.強迫性障害
- c.緊張型頭痛
- d.うつ病性障害
- e.注意欠陥多動性障害〈ADHD〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
全身麻酔下でバイトブロックを装着し、両側こめかみの電極から通電している写真は、修正型電気けいれん療法(mECT)を示しています。mECTは静脈麻酔薬と筋弛緩薬を用い、短パルス矩形波で脳内に発作を起こして脳波で確認する治療で、最も代表的な適応はうつ病、特に自殺の切迫、拒食・衰弱、精神病性うつ病、昏迷、治療抵抗性の例です。双極性障害、統合失調症、カタトニア、悪性症候群にも有効である一方、てんかん、強迫性障害、緊張型頭痛、ADHDは適応ではなく、特に緊張型頭痛と緊張病(カタトニア)の取り違えに注意が必要です。主な副作用は一過性の健忘・せん妄で、改善後は再発予防の治療を続けます。即効性が求められる重症精神疾患に対する選択肢としてECTの位置づけを理解しておくことは、精神科救急や治療抵抗例の診療に欠かせません。
解答・解説
正解はdです
写真では、全身麻酔をかけられた患者の口にバイトブロック(舌や歯を守るためにかませる器具)が入れられ、両側のこめかみに電極が当てられて通電が行われている。奥には短パルス矩形波の治療器が見える。これは修正型電気けいれん療法〈mECT:modified electroconvulsive therapy〉の場面である。 電気けいれん療法〈ECT〉は、頭部に短時間電流を流して脳内に全般性のけいれん発作(発作性の脳波活動)を人工的に起こし、精神症状の改善をはかる治療である。かつては麻酔なしで行われ、全身のけいれんによる骨折や患者の恐怖心が問題であった。現在は、静脈麻酔薬で眠らせ、筋弛緩薬で全身の筋肉のけいれんを抑え、酸素を投与しながら行う「修正型」が標準である。通電には、従来のサイン波よりも少ない電気量で発作を起こせ、認知機能への影響が小さい短パルス矩形波治療器が用いられる。脳波上の発作の持続を確認することで、有効な発作が起きたかを判断する。通常は週2〜3回、計6〜12回程度を1クールとして行う。 ECTの最も代表的な適応はうつ病である。特に、自殺の危険が切迫している、食事がとれず衰弱している、妄想を伴う(精神病性うつ病)、昏迷状態にある、薬物療法が効かないあるいは副作用で使えない、といった場合に有効性が高い。したがって、選択肢のなかで本治療が有効な疾患はうつ病性障害である。
選択肢考察
- ×a. てんかん
てんかんはECTの適応疾患ではない。てんかんは脳の神経細胞が過剰に興奮して発作を繰り返す疾患であり、治療の基本は抗てんかん薬で、薬が効かない場合は外科治療や迷走神経刺激療法などが検討される。けいれんを人為的に起こすECTはてんかんの治療法にはならない。なお、ECTを繰り返すと発作が起こりにくくなる(発作閾値が上がる)ことが知られており、きわめて難治のてんかん重積状態に試みられた報告はあるが、標準的な治療ではない。また、てんかんのある患者がうつ病などを合併した場合には、抗てんかん薬の調整に注意しながらECTを行うことはできる。
- ×b. 強迫性障害
強迫性障害(強迫症)はECTの標準的な適応ではない。強迫性障害は、自分でも不合理だとわかっている考え(強迫観念)が繰り返し浮かび、それを打ち消すための行為(強迫行為:手洗い、確認など)をやめられない疾患である。治療の基本は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉やクロミプラミンによる薬物療法と、曝露反応妨害法を中心とする認知行動療法である。強迫症状そのものに対するECTの有効性の根拠は乏しく、重いうつ病を合併した例などに限って検討されることがある程度である。
- ×c. 緊張型頭痛
緊張型頭痛はECTの適応ではない。緊張型頭痛は、頭全体を締めつけられるような両側性の頭痛で、頭や首・肩の筋肉の緊張や精神的ストレスが関わる、最も多い一次性頭痛である。治療は鎮痛薬(アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬)、生活指導、ストレッチなどで、予防が必要な場合には三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)が用いられる。名前が似ている「緊張病(カタトニア)」はECTがとても効きやすい状態であり、これと取り違えないよう注意する。
- ○d. うつ病性障害
ECTが最も有効性を発揮する代表的な疾患である。重症のうつ病では、薬物療法よりも効果が早く現れ、改善率も高いとされる。特に、自殺の危険が差し迫っている場合、拒食・拒薬で身体的に衰弱している場合、妄想を伴う精神病性うつ病、うつ病性昏迷、複数の抗うつ薬が効かない治療抵抗性の場合、高齢者や妊婦など薬の副作用が問題になる場合に良い適応となる。双極性障害のうつ状態や躁状態にも有効である。ただし、ECTで改善しても再発しやすいため、その後は薬物療法や維持ECTで再発予防を行う。
- ×e. 注意欠陥多動性障害〈ADHD〉
注意欠陥多動性障害(注意欠如・多動症〈ADHD:attention-deficit/hyperactivity disorder〉)はECTの適応ではない。ADHDは、不注意、多動性、衝動性を特徴とする神経発達症(発達障害)の一つで、12歳以前から症状がみられる。治療は、環境調整、ペアレントトレーニングや本人への心理社会的支援が基本で、必要に応じて薬物療法(中枢神経刺激薬のメチルフェニデート徐放錠やリスデキサンフェタミン、非刺激薬のアトモキセチンやグアンファシン徐放錠)を行う。ECTが有効であるという根拠はない。
修正型電気けいれん療法〈mECT〉の主な適応
・うつ病(重症、自殺の切迫、拒食・衰弱、精神病性うつ病、うつ病性昏迷、治療抵抗性) ・双極性障害(うつ状態、躁状態、混合状態) ・統合失調症(緊張型の症状、急性の興奮、薬物治療抵抗性の場合) ・緊張病(カタトニア):ベンゾジアゼピン系薬で改善しない場合に特に有効 ・悪性症候群(抗精神病薬による重い副作用)の一部 ・薬物療法の副作用が問題になる患者(高齢者、妊婦など)
mECTの方法
静脈麻酔薬で入眠させ、筋弛緩薬(スキサメトニウムなど)で筋肉のけいれんを抑え、酸素を投与して換気を補助する。バイトブロックで歯や舌を保護し、こめかみ(両側)などに電極を当てて短パルス矩形波で通電する。脳波で発作を確認する。
主な副作用
・認知機能障害:治療前後の出来事を思い出せない健忘(逆行性・前向性)、一過性のせん妄。多くは治療終了後に回復する。 ・頭痛、筋肉痛、嘔気 ・循環器系の変動:通電直後の徐脈、その後の頻脈・血圧上昇 ・遷延性発作
注意を要する状態(相対的禁忌)
絶対的禁忌はないとされるが、頭蓋内圧が上がっている状態(脳腫瘍などの占拠性病変)、最近の心筋梗塞や脳卒中、脳動脈瘤・大動脈瘤、褐色細胞腫、重い呼吸器疾患などでは、危険性が高いため慎重に適応を判断する。
反復経頭蓋磁気刺激療法〈rTMS〉との違い
rTMSは頭の外から磁気でパルスを与えて大脳皮質(主に左背外側前頭前野)を刺激する治療で、けいれんを起こさず、麻酔も不要で、外来でも行える。日本では薬物療法が十分に効かない成人のうつ病に保険適用がある。効果はECTよりも穏やかである。
POINT
・写真はバイトブロック、両側こめかみの電極、全身麻酔下での通電 → 修正型電気けいれん療法〈mECT〉。 ・ECTの最も代表的な適応はうつ病(自殺の切迫、拒食・衰弱、精神病性うつ病、昏迷、治療抵抗性)。 ・ほかに双極性障害、統合失調症、緊張病(カタトニア)、悪性症候群にも有効。 ・緊張型頭痛と緊張病(カタトニア)を取り違えない。 ・主な副作用は一過性の健忘・せん妄。現在は麻酔と筋弛緩薬を用いる修正型で行う。
