踵の一滴が未来を守る―新生児マススクリーニング、正しいろ紙採血の作法
第115回医師国家試験 C問題 第25問
国試問題にチャレンジ
The purpose of this neonatal screening test using the filter paper card is the early detection for inborn errors of metabolism. Which of the following is the most appropriate?
- a.The paper should be dried by hot air.
- b.Blood is generally collected from the heel of the infant.
- c.Optimal time for collection is within 24 hours after birth.
- d.Blood should be applied to both sides of the filter paper card.
- e.Blood should be collected while the skin is still wet with alcohol.
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児マススクリーニングは、発症前に治療を始めれば障害や死亡を防げる先天性疾患を見つけるため、全新生児を対象に乾燥ろ紙血で行う検査です。採血は踵の足底面の内側縁または外側縁から行い、踵骨骨髄炎を防ぐため後方中央は避けます。時期は哺乳が確立した生後4〜6日が標準で、早すぎるとアミノ酸代謝異常症は偽陰性、TSHサージにより先天性甲状腺機能低下症は偽陽性になりやすくなります。アルコールが乾いてから穿刺し、ろ紙の片面から1回で裏面まで染み込ませ、熱風や直射日光を避けて室温で自然乾燥させることが正確な測定につながります。手技の一つひとつに理由があると理解しておくことは、試験対策だけでなく、臨床での正しい検体採取と家族への説明にも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
問題文の訳
ろ紙カードを用いるこの新生児スクリーニング検査は、先天代謝異常症を早期に発見することを目的としている。正しいのはどれか。
考え方
新生児マススクリーニングでは、新生児の踵(かかと)から少量の血液を採り、専用のろ紙に染み込ませて乾燥させる。この乾燥ろ紙血を検査機関に郵送し、タンデム質量分析法(タンデムマス法)や酵素免疫測定法などで代謝物・ホルモンを測定する。 採血手技の要点は次のとおりである。 (1) 採血部位:踵の足底面の内側縁または外側縁を穿刺する。 (2) 採血時期:哺乳が確立してから行う。わが国では生後4~6日(日齢4~6)が標準である。 (3) 消毒:アルコール綿で消毒し、皮膚が完全に乾いてから穿刺する。 (4) ろ紙への滴下:ろ紙の片面から1回で血液を滴下し、円を満たして裏面まで十分に染み通らせる。 (5) 乾燥:直射日光や熱を避け、室温で水平に保って自然乾燥させる。 この手順に合致するのは、踵から採血するとした b である。
選択肢考察
- ×a. The paper should be dried by hot air.
誤り(訳:ろ紙は熱風で乾燥させるべきである)。熱風や直射日光に当てると、酵素活性やアミノ酸などの測定対象成分が変性・分解する。その結果、測定値が不正確になり、偽陰性や偽陽性の原因となる。採血後のろ紙は、ドライヤーなどを使わず室温で数時間水平に置き、自然乾燥させる。乾燥前に重ねたり、ビニール袋に密閉したりすることも避ける。
- ○b. Blood is generally collected from the heel of the infant.
正しい(訳:血液は一般に新生児の踵から採取する)。新生児の足底踵部は血流が豊富で、ランセット(穿刺針)で浅く穿刺するだけでろ紙に必要な量の血液が得られる。穿刺するのは踵の足底面の内側縁または外側縁である。踵の後方中央の弯曲部は皮膚から踵骨までが浅く、深く刺すと踵骨骨髄炎を起こすおそれがあるため避ける。採血前に足を温めると血流が増え、採血しやすくなる。強く搾り出すと組織液が混じって検体が希釈されるため、自然に湧き出る血液を用いる。
- ×c. Optimal time for collection is within 24 hours after birth.
誤り(訳:採血の最適時期は生後24時間以内である)。フェニルケトン尿症などのアミノ酸代謝異常症では、哺乳でタンパク質が負荷されて初めて血中の異常代謝物が上昇する。生後24時間以内では哺乳量が少なく、偽陰性となりやすい。また先天性甲状腺機能低下症の指標であるTSH(甲状腺刺激ホルモン)は、出生直後に生理的に急上昇する(TSHサージ)ため、早すぎる採血では偽陽性が増える。このため、わが国では哺乳が確立した生後4~6日に採血するのが標準で、実際には産科退院前に行われることが多い。低出生体重児や哺乳不良の児では、偽陰性を避けるため生後1か月前後などに再採血を行う。
- ×d. Blood should be applied to both sides of the filter paper card.
誤り(訳:血液はろ紙カードの両面につけるべきである)。ろ紙のスポットは、規定の円を一定量の血液が均一に満たすことを前提に、単位面積あたりの血液量が決められている。血液は片面からのみ1回で滴下し、円の内側全体を満たして裏面まで十分に染み通らせる。両面からの塗布や重ね塗りをすると、血液量が過剰・不均一になり、測定値が不正確になる。裏面まで染みていない不十分な滴下も不適切である。
- ×e. Blood should be collected while the skin is still wet with alcohol.
誤り(訳:皮膚がアルコールでまだ濡れているうちに採血すべきである)。アルコールが残ったまま穿刺すると、血液がアルコールで希釈されたり溶血を起こしたりして、正確な測定ができなくなる。また、穿刺時の痛みも強くなる。アルコール綿で消毒した後は、皮膚が完全に乾燥してから穿刺する。
新生児マススクリーニングの概要
新生児マススクリーニングは、症状が出る前に発見して治療すれば障害や死亡を防げる先天性疾患を対象に、全新生児に対して行われる公費の検査事業である。わが国では1977年に開始された。当初はフェニルケトン尿症・メープルシロップ尿症・ホモシスチン尿症・ガラクトース血症・ヒスチジン血症の5疾患が対象で、後に先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と先天性副腎過形成症が加わった(ヒスチジン血症は治療不要と判明し除外)。 2011年度以降、タンデムマス法の導入が進み、2014年度には全自治体で実施されるようになった。これにより、有機酸代謝異常症や脂肪酸代謝異常症などにも対象が広がり、現在は20前後の疾患が対象となっている。さらに近年は、脊髄性筋萎縮症(SMA)や重症複合免疫不全症(SCID)などを対象とした拡大スクリーニングを実施する地域も増えている。
検査の手順のまとめ
・時期:生後4~6日(哺乳確立後)。低出生体重児などは再採血を考慮する ・部位:踵の足底面の内側縁・外側縁(後方中央は避ける) ・消毒:アルコール消毒後、乾燥を待って穿刺 ・滴下:片面から1回で円を満たし、裏面まで浸透させる(重ね塗り・両面塗布は不可) ・乾燥:室温で水平に自然乾燥(熱風・直射日光は不可) ・送付:十分に乾燥させた後、速やかに検査機関へ郵送する
結果の解釈
スクリーニングで陽性となった場合は、精密検査で確定診断を行う。スクリーニングは「異常の可能性がある児を拾い上げる」検査であり、陽性でも確定診断ではない点に注意する。
POINT
・新生児マススクリーニングは踵から採血し、乾燥ろ紙血で検査する ・採血は哺乳確立後の生後4~6日(早すぎるとアミノ酸代謝異常は偽陰性、TSHは偽陽性になりやすい) ・アルコールが乾いてから穿刺し、片面から1回で裏面まで染み込ませる ・ろ紙は室温で自然乾燥させ、熱風・直射日光は避ける ・2014年度から全国でタンデムマス法が導入され、対象は20前後の疾患に拡大した
