StudyMed医師国家試験

ひとり暮らしでも家に帰れる―終末期がんの在宅医療を支える制度とチーム

第115回医師国家試験 B問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第7問

膵臓癌の終末期で入院している52歳の患者の在宅医療について誤っているのはどれか。

  1. a.介護保険が申請できる。
  2. b.患者本人の同意が必要である。
  3. c.在宅で点滴を受けることができる。
  4. d.家族が同居していることが必要である。
  5. e.在宅でリハビリテーションを受けることができる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、終末期がんの患者さんが自宅で過ごすために、どんな制度やサービスが使えるかを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので注意しよう。注目点は3つ。年齢と介護保険の関係、在宅で提供できる医療の範囲、そして在宅医療の前提条件だ。まず介護保険から考えてみよう。
医学生医学生
介護保険は65歳以上の制度だと思うので、52歳だと使えないのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが最初の引っかけだね。65歳以上は第1号被保険者で、原因を問わず要介護認定されれば利用できる。一方、40〜64歳の医療保険加入者は第2号被保険者で、加齢に関連する16の特定疾病が原因の場合に限って利用できるんだ。
医学生医学生
特定疾病に、がんは入っていましたっけ。CBTの勉強でALSやパーキンソン病は覚えた記憶があるんですが。
ドクタードクター
入っているよ。正式には「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したがん」、つまり末期がんだ。だから52歳でも申請でき、介護用ベッドの貸与や訪問介護、訪問入浴などが使える。病状が急速に進みうるので、認定手続きの迅速化も図られているんだ。
医学生医学生
では介護保険が申請できる、というのは正しい記述ですね。在宅で点滴というのは、病院でないと難しい気がします。
ドクタードクター
実は在宅でかなりのことができる。医師の訪問看護指示書に基づいて、訪問看護師が末梢からの輸液、埋め込み型ポートを使った中心静脈栄養、皮下輸液を管理できる。終末期がんで大切な疼痛緩和も、医療用麻薬の持続皮下注射を携帯型ポンプで行えるよ。
医学生医学生
リハビリも、病院のリハ室に通わなくても受けられるんですか。
ドクタードクター
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が自宅を訪問する訪問リハビリテーションがある。終末期でも、起居動作の維持、廃用や褥瘡の予防、福祉用具の選定、家族への介助方法の指導など、生活の質を保つ目的で行われるんだ。
医学生医学生
本人の同意については、当然必要ですよね。
ドクタードクター
そう。療養の場の選択も医療の一部だから、十分な説明に基づく本人の同意が原則だ。終末期では、どこでどう過ごしたいかを本人・家族・医療ケアチームで繰り返し話し合うアドバンス・ケア・プランニング、いわゆる「人生会議」が重視される。本人が意思表示できない場合は、家族などから推定意思を確認して最善の方針を考えるよ。
医学生医学生
残るのは同居家族が必要という記述ですね。でも、介護する人がいないと在宅は現実的に無理な気もします。
ドクタードクター
その感覚はわかるし、介護力は在宅療養を計画するうえで大事な情報だ。でも同居家族の存在は法的な要件ではない。独居でも、訪問診療・訪問看護・訪問介護を組み合わせ、ケアマネジャーを中心に支援体制を組めば、在宅療養も在宅での看取りも可能なんだ。だから「家族が同居していることが必要」が誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
地域医療実習で在宅医の先生に同行したとき、ひとり暮らしの高齢の方を訪問していました。あれも多職種で支えていたんですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。発展知識として、在宅を支える仕組みを整理しておこう。計画的に定期訪問するのが訪問診療、急変時に臨時で駆けつけるのが往診。在宅療養支援診療所は24時間の連絡・往診体制をとっている。
医学生医学生
訪問看護は介護保険で使うことになるんですか。
ドクタードクター
良い質問だ。原則として要介護認定を受けていれば介護保険が優先されるけれど、末期の悪性腫瘍は厚生労働大臣が定める疾病等に該当するので、訪問看護は医療保険で提供され、回数制限も緩和される。頻回な訪問が必要な終末期に配慮した仕組みだね。
医学生医学生
退院の準備は、入院中から始めておく必要がありそうですね。
ドクタードクター
その通り。医療ソーシャルワーカーや退院調整看護師が早くから関わり、退院前カンファレンスで病院スタッフと在宅医、訪問看護師、ケアマネジャーが情報を共有する。終末期は時間が限られているから、「帰りたい」という本人の希望をすぐ形にできるよう、早めに動くことが臨床ではとても大切なんだ。

まとめ

終末期がん患者の在宅医療では、40〜64歳の第2号被保険者であっても、末期がんが介護保険の16特定疾病に含まれるため要介護認定を申請してサービスを利用できます。在宅でも訪問看護による点滴や中心静脈栄養、医療用麻薬による疼痛緩和、訪問リハビリテーションなどが受けられ、療養の場の選択には本人の同意が前提となり、ACP(人生会議)が重視されます。同居家族の存在は要件ではなく、独居でも訪問診療・訪問看護・訪問介護をケアマネジャー中心に組み合わせれば在宅療養や看取りが可能です。末期の悪性腫瘍では訪問看護が医療保険で提供される点や、退院前カンファレンスによる多職種連携も押さえておきましょう。制度とチームの全体像を理解することは、患者の「家で過ごしたい」という希望を支える臨床力に直結します。

解答・解説

正解はdです

本問は、終末期の膵臓癌で入院中の52歳患者が自宅に戻って療養する場合に、どのような制度やサービスを利用できるかを問うものであり、「誤っているもの」を選ぶ。 考えるべきポイントは3つある。 1つ目は年齢と介護保険の関係である。介護保険では65歳以上が第1号被保険者、40〜64歳の医療保険加入者が第2号被保険者となる。第2号被保険者は、加齢に伴う16種類の「特定疾病」が原因で要介護・要支援状態になった場合に限りサービスを受けられ、末期がんはこの特定疾病に含まれる。したがって52歳でも介護保険を申請できる。 2つ目は在宅医療で提供できる医療の範囲である。訪問診療・訪問看護によって、点滴(輸液)、医療用麻薬を用いた疼痛緩和、在宅酸素などの医療処置が自宅で行え、訪問リハビリテーションも受けられる。 3つ目は在宅医療の前提条件である。在宅療養を選ぶかどうかは患者本人の意思に基づいて決めるものであり、本人の同意が必要である。一方、同居家族の存在は法的な要件ではなく、独居であっても医療・介護サービスを組み合わせることで在宅療養や在宅看取りは可能である。 以上から、「家族が同居していることが必要である」とするdが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  介護保険が申請できる。

    正しい記述である。40〜64歳の第2号被保険者は、16の特定疾病によって要介護・要支援となった場合に介護保険サービスを利用できる。特定疾病には「がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したもの)」、すなわち末期がんが含まれるため、終末期膵臓癌の52歳患者は要介護認定を申請し、訪問介護、福祉用具(介護用ベッドなど)の貸与、訪問入浴などを利用できる。病状が急速に進行しうるため、末期がんでは認定手続きの迅速化が図られている。

  2. ×b.  患者本人の同意が必要である。

    正しい記述である。在宅医療に限らず、医療行為や療養の場の選択には、十分な説明に基づく患者本人の同意(インフォームド・コンセント)が原則として必要である。終末期には、どこでどのように過ごしたいかを本人・家族・医療ケアチームが繰り返し話し合うアドバンス・ケア・プランニング(ACP、愛称「人生会議」)が重視される。本人が意思表示できない場合には、家族などから本人の推定意思を確認し、本人にとって最善の方針を検討する。

  3. ×c.  在宅で点滴を受けることができる。

    正しい記述である。医師の指示(訪問看護指示書など)に基づき、訪問看護師が自宅を訪れて末梢静脈からの輸液、中心静脈栄養(埋め込み型ポートなど)の管理、皮下輸液などを行うことができる。終末期がんでは、医療用麻薬の持続皮下注射や携帯型ポンプを用いた疼痛管理も在宅で実施可能である。

  4. ○d.  家族が同居していることが必要である。

    誤った記述であり、これが正解である。在宅医療を受けるにあたって、同居家族がいることは要件ではない。独居の患者であっても、訪問診療・訪問看護・訪問介護などを組み合わせ、ケアマネジャー(介護支援専門員)を中心に支援体制を整えれば、自宅での療養や看取りは可能である。もちろん介護力の有無は在宅療養の計画を立てるうえで重要な情報であり、退院前カンファレンスなどで十分に検討されるが、同居家族がいないことを理由に在宅医療を受けられないわけではない。

  5. ×e.  在宅でリハビリテーションを受けることができる。

    正しい記述である。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が自宅を訪問し、歩行や起居動作の訓練、関節可動域の維持、廃用症候群・褥瘡の予防、福祉用具の選定や住環境の調整、介護者への介助方法の指導などを行う訪問リハビリテーションを利用できる。終末期でも、残された機能を保ち生活の質(QOL)を高める目的で行われる。

介護保険の被保険者

・第1号被保険者:65歳以上。原因を問わず要介護・要支援と認定されればサービスを利用できる。 ・第2号被保険者:40〜64歳の医療保険加入者。特定疾病が原因で要介護・要支援となった場合に限り利用できる。

特定疾病(16種類)

がん(末期)、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、後縦靱帯骨化症、骨折を伴う骨粗鬆症、初老期における認知症、進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病、脊髄小脳変性症、脊柱管狭窄症、早老症、多系統萎縮症、糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症、脳血管疾患、閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症。

介護保険の申請

本人または家族が市区町村の窓口に申請する(地域包括支援センターや居宅介護支援事業者などが代行することもできる)。認定調査と主治医意見書をもとに介護認定審査会で要介護度が判定される。

在宅医療を支える主なサービス

・訪問診療(計画的な定期訪問)と往診(急変時の臨時訪問)。在宅療養支援診療所は24時間の連絡・往診体制をとる。 ・訪問看護:末期の悪性腫瘍は厚生労働大臣が定める疾病等に該当するため、要介護認定を受けていても訪問看護は医療保険で提供され、回数制限も緩和される。 ・訪問介護、訪問入浴、福祉用具貸与、訪問リハビリテーション、訪問薬剤管理指導など。 ・ケアマネジャーがケアプランを作成し、多職種の連携を調整する。

退院支援

入院中から医療ソーシャルワーカーや退院調整看護師が関わり、退院前カンファレンスで病院スタッフと在宅医・訪問看護師・ケアマネジャーが情報を共有して、在宅療養への移行を円滑にする。

POINT

・40〜64歳でも末期がん(特定疾病)であれば介護保険を申請・利用できる。 ・在宅でも点滴、疼痛管理(医療用麻薬)、リハビリテーションなどの医療が受けられる。 ・療養の場の選択には患者本人の同意(意思決定)が必要である。ACPが重要。 ・同居家族は在宅医療の要件ではない。独居でも在宅療養・在宅看取りは可能である。 ・末期の悪性腫瘍の訪問看護は医療保険で提供される。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。