数週間で膨らんだ指先―急速に進むばち指が告げる肺の異変
第115回医師国家試験 B問題 第38問
国試問題にチャレンジ
59歳の女性。手指の腫脹を主訴に来院した。3週前から急に手指末節が腫脹し,爪甲が隆起し軽度の疼痛を伴うようになったため受診した。数日前から同様の症状が足趾にも生じてきた。関節痛はない。手指の写真を下に示す。 精査すべきなのはどれか。

- a.子宮癌
- b.腎癌
- c.乳癌
- d.肺癌
- e.卵巣癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
ばち指は指趾末節の結合組織が増殖して太鼓のばち状に腫大し、爪甲が彎曲・隆起した状態で、Lovibond角180度以上やSchamroth徴候(爪の付け根の菱形の隙間の消失)で確認できます。原因は肺癌、間質性肺炎、気管支拡張症、チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変、炎症性腸疾患など多岐にわたりますが、数週間で急速に出現し疼痛を伴う場合は、肺癌による腫瘍随伴症候群(肥大性肺性骨関節症を含む)を強く疑い、胸部画像で精査します。腎癌や婦人科癌、乳癌はばち指の原因として想定する腫瘍ではありません。COPD単独ではばち指はまれで、新たに出現したら肺癌の合併を考えることも重要です。爪と指先の観察は簡便でありながら、無症状の肺癌を見つけ出すきっかけにもなる大切な診察手技です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・59歳の女性。主訴は手指の腫脹。 ・3週前から急に手指の末節(指先)が腫れ、爪甲が盛り上がり、軽い痛みを伴うようになった。 ・数日前から足趾にも同じ変化が出現し、短期間で広がっている。 ・関節痛はない。 ・写真では指先が太鼓のばちのように丸く膨らみ、爪が指先を包み込むように彎曲・隆起している。
鑑別の考え方
手指が腫れる病態としては、(1) 関節リウマチ、乾癬性関節炎、混合性結合組織病などによる関節炎、(2) 上大静脈症候群などによる浮腫、(3) ばち指、が主に挙げられる。本例は関節痛がなく関節炎は考えにくい。また腫大が末節(DIP関節より先)に限られ、爪甲の隆起を伴っていることから、手全体がむくむ浮腫とも異なる。以上からばち指と判断できる。
ばち指から何を考えるか
ばち指は肺疾患(肺癌、特発性肺線維症などの間質性肺炎、気管支拡張症、肺膿瘍、膿胸)、チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変、炎症性腸疾患など、さまざまな疾患に伴って現れる。なかでも本例のように数週間という短期間で急速に出現し、疼痛を伴い、手から足へ広がっていく場合は、悪性腫瘍、特に肺癌に伴う腫瘍随伴症候群を強く疑う。痛みを伴う場合は、長管骨の骨膜炎を伴う肥大性肺性骨関節症(hypertrophic pulmonary osteoarthropathy:HPO)の一部をみている可能性もある。 したがって、選択肢の悪性腫瘍の中で精査すべきなのは肺癌であり、まず胸部エックス線撮影や胸部CTを行う。
選択肢考察
- ×a. 子宮癌
子宮癌(子宮頸癌・子宮体癌)はばち指の原因として知られていない。子宮頸癌では不正性器出血や接触出血、子宮体癌では閉経後の不正性器出血が契機となることが多く、本例の症状から優先して精査する対象ではない。
- ×b. 腎癌
腎癌は多血症(エリスロポエチン産生)、高カルシウム血症、発熱、Stauffer症候群(肝転移のない肝機能障害)などさまざまな腫瘍随伴症候群を起こすことで知られるが、ばち指の原因として想定する腫瘍ではない。肺転移を介して二次的にばち指が生じる可能性は否定できないが、ばち指からまず精査すべき臓器ではない。
- ×c. 乳癌
乳癌はばち指の原因として一般的ではない。乳房腫瘤や乳頭分泌、皮膚の陥凹などが契機となる疾患であり、急速に進行するばち指から精査すべき対象としては適切でない。
- ○d. 肺癌
ばち指の原因として最も重要な悪性腫瘍が肺癌である。特に短期間で急速に出現し、疼痛を伴うばち指は、肺癌による腫瘍随伴症候群(肥大性肺性骨関節症を含む)を強く示唆し、ばち指が肺癌発見の契機となることもある。組織型では非小細胞肺癌(腺癌、扁平上皮癌など)で多いとされる。本例は呼吸器症状がなくても、胸部エックス線撮影・胸部CTによる精査を行うべきである。また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)単独ではばち指はまれなため、COPD患者に新たにばち指が出現した場合も肺癌の合併を疑う。
- ×e. 卵巣癌
卵巣癌はばち指の原因として知られていない。腹部膨満、腹水、下腹部腫瘤などを契機に見つかることが多く、腫瘍随伴症候群としてはTrousseau症候群(血栓症)や傍腫瘍性小脳変性症が知られるが、ばち指から精査すべき臓器ではない。
ばち指(clubbing finger)とは
指趾の末節が、爪床下の結合組織の増殖により太鼓のばち状に腫大した状態である。爪は時計皿のように彎曲し、爪床がふわふわと浮いたような感触になる。 ・診断の目安:側面から見た爪甲と後爪郭のなす角(Lovibond角)が正常では約160度だが、ばち指では180度以上となる。両手の同じ指の爪どうしを背中合わせに合わせると、正常では爪の付け根に菱形の隙間ができるが、ばち指ではこの隙間が消失する(Schamroth徴候)。 ・機序:完全には解明されていないが、肺の毛細血管で通常は捕捉される巨核球や血小板の凝集塊が、腫瘍や右左短絡などにより末梢循環へ流れ込み、指先の血管床で血小板由来増殖因子(PDGF)や血管内皮増殖因子(VEGF)を放出して、血管新生と結合組織増殖を起こすという説が有力である。
ばち指をきたす主な疾患
・呼吸器:肺癌、間質性肺炎(特に特発性肺線維症)、気管支拡張症、肺膿瘍、膿胸、嚢胞性線維症、石綿肺、悪性胸膜中皮腫 ・循環器:チアノーゼ性先天性心疾患(Fallot四徴症など)、感染性心内膜炎 ・消化器:肝硬変、炎症性腸疾患(Crohn病、潰瘍性大腸炎)、セリアック病 ・その他:甲状腺機能亢進症(甲状腺先端症)、遺伝性(家族性)のばち指 ※COPD単独、気管支喘息単独ではばち指は通常みられない。
肥大性肺性骨関節症(HPO)
ばち指に加え、長管骨(前腕・下腿の骨など)の骨膜性新生骨形成と、関節の腫脹・疼痛を伴う症候群である。原因の多くは肺癌であり、原発腫瘍の切除によって症状が軽快することがある。
その他の爪の異常
・匙状爪(スプーン爪):爪の中央がくぼむ。鉄欠乏性貧血で有名。 ・Beau線(爪の横溝):重い全身疾患や化学療法などで爪の成長が一時的に止まった跡。 ・爪甲の点状陥凹:乾癬など。
POINT
・ばち指:指趾末節の腫大と爪甲の隆起・彎曲。Lovibond角180度以上、Schamroth徴候 ・原因:肺癌、間質性肺炎(特発性肺線維症)、気管支拡張症、チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変、炎症性腸疾患など ・急速に進行し疼痛を伴うばち指 → 肺癌(腫瘍随伴症候群、肥大性肺性骨関節症)を精査 ・COPD単独ではばち指はまれ。COPD患者に出現したら肺癌を疑う ・匙状爪は鉄欠乏性貧血
