歩いて来た「人生最悪の頭痛」―意識清明でも見逃せないくも膜下出血
第115回医師国家試験 B問題 第29問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。突然起こった激しい後頭部痛,悪心および嘔吐を主訴に来院した。症状出現後,後頭部痛は少しやわらいだが,市販の鎮痛薬を服薬しても継続したため受診した。来院時,意識は清明で項部硬直は認めなかった。頭部CTを下に示す。 診断として最も考えられるのはどれか。

- a.髄膜炎
- b.片頭痛
- c.脳幹出血
- d.くも膜下出血
- e.急性硬膜下血腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然発症の激しい頭痛に悪心・嘔吐を伴う場合は、まずくも膜下出血を疑って頭部単純CTを行います。発症早期や軽症例では意識清明で項部硬直を欠くことも多く、これらがないことは否定の根拠になりません。CTでは本来黒く写る脳槽や脳室など髄液腔に沿った高吸収域がくも膜下出血の所見で、脳実質内の塊状血腫を示す脳幹出血、三日月型の急性硬膜下血腫、画像異常を示さない片頭痛や髄膜炎とは区別できます。CTで所見がなくても疑わしければMRI(FLAIR)や髄液検査で確認し、診断後は再出血予防と出血源の検索、さらに脳血管攣縮や水頭症などの合併症管理へと進みます。歩いて来院する軽症例を見逃さない姿勢は、救急外来での頭痛診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・60歳男性。突然発症の激しい後頭部痛に、悪心・嘔吐を伴っている。 ・頭痛はやや軽快したものの、市販の鎮痛薬を内服しても持続している。 ・来院時、意識清明で項部硬直はない。 ・頭部単純CT:左の画像(後頭蓋窩の高さ)では第4脳室内とその周囲に、右の画像(中脳の高さ)では中脳を取り囲む脳槽(脚間槽・迂回槽などの脳幹周囲脳槽)に、髄液腔に沿って広がる高吸収域(白く写る領域)を認める。脳実質内の限局した血腫や、頭蓋骨の内側に沿った三日月型の血腫はみられない。
診断のプロセス
「突然」「激しい」頭痛は、くも膜下出血(SAH)を最優先で疑うべき病歴である。典型的には「これまで経験したことのない」「バットで殴られたような」と表現され、発症時刻を特定できるほど急激に始まる。悪心・嘔吐は頭蓋内圧の急上昇を反映する。 意識清明で項部硬直がないことは、SAHを否定する根拠にならない。項部硬直などの髄膜刺激症状は、くも膜下腔の血液による炎症反応が起こるまでに時間がかかるため、発症直後には認めないことが多い。また、出血量が少ない軽症例では意識障害を伴わず、歩いて受診することもまれではない。こうした軽症例は片頭痛や感冒などと誤診されやすく、再出血を起こすと予後が著しく悪化するため、見逃してはならない。 頭部CTで、本来は髄液で黒く写るはずの脳槽・脳室に血液による高吸収域がみられることから、くも膜下出血と診断できる。出血が脳幹周囲や第4脳室など後頭蓋窩に目立つことから、椎骨脳底動脈系(後方循環)の動脈瘤破裂や椎骨動脈解離などが原因として考えられ、CT血管撮影(CTA)や脳血管撮影で出血源を検索する。
選択肢考察
- ×a. 髄膜炎
考えにくい。髄膜炎は細菌やウイルスなどによる髄膜の炎症で、頭痛・発熱・項部硬直が三主徴であり、数時間〜数日かけて比較的急速に悪化するのが一般的である。本例のように瞬間的に発症する頭痛や発熱の記載はなく、また単純CTで脳槽・脳室に高吸収域を示すことは髄膜炎では説明できない。髄膜炎の診断は髄液検査(細胞数増加、蛋白上昇など)で行う。
- ×b. 片頭痛
考えにくい。片頭痛は拍動性の頭痛が数時間〜3日程度続く一次性頭痛で、悪心・嘔吐や光・音過敏を伴い、閃輝暗点などの前兆を伴うことがある。頭痛は徐々に強くなるのが一般的で、本例のような突然の発症は典型的でない。また一次性頭痛であるため画像検査で異常を認めない。突然の激しい頭痛を繰り返す疾患としては、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)もあり、これは小さなくも膜下出血を伴うことがあるが、選択肢の片頭痛には当てはまらない。
- ×c. 脳幹出血
否定的である。脳幹出血の大部分は高血圧を背景とする橋出血で、突然の意識障害、四肢麻痺、両側の著明な縮瞳(pinpoint pupil)、眼球運動障害、呼吸障害などが急激に出現し、重篤となることが多い。本例は意識清明で神経脱落症状の記載がなく、CTでも脳幹の実質内に限局した高吸収域(血腫)はみられない。本例の高吸収域は脳幹の実質ではなく、その周囲の脳槽という髄液腔に広がっている。
- ○d. くも膜下出血
最も考えられる。突然発症の激しい頭痛と悪心・嘔吐という典型的な病歴があり、頭部CTで脳幹周囲脳槽と第4脳室に高吸収域を認めることから、くも膜下出血と診断できる。意識清明で項部硬直がないのは、発症早期であることや出血量が比較的少ない軽症例であることで説明できる。出血が後頭蓋窩に目立つことから、椎骨脳底動脈系の脳動脈瘤破裂や椎骨動脈解離が原因として疑われる。再出血予防のため、安静・鎮痛・鎮静・血圧管理を行いつつ、CTAや脳血管撮影で出血源を確認し、脳動脈瘤であれば開頭クリッピング術または血管内コイル塞栓術を行う。
- ×e. 急性硬膜下血腫
否定的である。急性硬膜下血腫の多くは頭部外傷により脳表の架橋静脈や脳挫傷部から出血して生じ、CTでは頭蓋骨の内側に沿って三日月型の高吸収域を示す。本例には外傷のエピソードがなく、CTでも脳表に沿った三日月型の血腫はみられない。
くも膜下出血の概要
くも膜と軟膜の間のくも膜下腔に出血が生じた状態である。非外傷性くも膜下出血の原因の大部分(約80〜85%)は脳動脈瘤の破裂で、そのほかに脳動静脈奇形、脳動脈解離(特に椎骨動脈解離)、もやもや病などがある。好発年齢は40〜60歳代で、女性にやや多い。危険因子として高血圧、喫煙、過度の飲酒、家族歴などが知られる。 動脈瘤の好発部位は、前交通動脈、内頸動脈-後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部など、Willis動脈輪周辺の動脈分岐部である。後方循環では脳底動脈先端部や椎骨動脈-後下小脳動脈(PICA)分岐部などに生じる。
症状
突然の激しい頭痛(雷鳴頭痛)、悪心・嘔吐、意識障害、髄膜刺激症状(項部硬直、Kernig徴候など)。髄膜刺激症状は発症後数時間以上たってから明らかになることが多い。本格的な出血の前に、少量の出血による警告頭痛(warning leak)がみられることがある。内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤では、動眼神経麻痺(散瞳を伴う)で発症することがある。
診断
第一選択は頭部単純CTで、脳底槽を中心に五角形(ペンタゴン)や星形に広がる高吸収域が典型的である。発症早期ほどCTの感度は高いが、時間の経過や少量の出血では検出できないことがある。CTで所見がなくても臨床的に疑わしい場合は、MRI(FLAIR画像)や腰椎穿刺による髄液検査(血性髄液、キサントクロミー)を行う。診断後はCTA、MRA、脳血管撮影で出血源となる動脈瘤を検索する。 重症度評価にはHunt and Hess分類やWFNS分類が用いられる。
経過と合併症
・再出血:発症後24時間以内、特に早期に多く、死亡率を大きく高める。発症早期の鎮痛・鎮静・降圧と、早期の動脈瘤処置で予防する。 ・遅発性脳血管攣縮:発症後4〜14日頃に脳動脈が収縮し、脳梗塞をきたしうる。 ・水頭症:急性期の閉塞性水頭症と、慢性期の正常圧水頭症がある。 ・低ナトリウム血症(中枢性塩類喪失症候群など)や神経原性肺水腫、たこつぼ型心筋症様の心機能障害などの全身合併症もみられる。
CTでの頭蓋内出血の見分け方
・くも膜下出血:脳槽・脳溝・シルビウス裂など髄液腔に沿った高吸収域。 ・脳内出血:脳実質内の境界明瞭な塊状の高吸収域(被殻、視床、皮質下、橋、小脳など)。 ・急性硬膜下血腫:頭蓋骨の内側に沿った三日月型の高吸収域(縫合線を越えて広がる)。 ・急性硬膜外血腫:凸レンズ型の高吸収域(縫合線を越えない)。
POINT
・突然発症の激しい頭痛+悪心・嘔吐→まずくも膜下出血を疑い、頭部単純CTを行う。 ・意識清明・項部硬直なしでもくも膜下出血は否定できない(発症早期には髄膜刺激症状を欠くことが多い)。 ・CTでは脳槽・脳室など髄液腔に沿った高吸収域がくも膜下出血の所見。 ・CTで所見がなくても疑わしければ、MRI(FLAIR)や髄液検査(血性髄液、キサントクロミー)で確認する。 ・診断後は再出血予防(安静・鎮痛・降圧)と出血源の検索(CTA・脳血管撮影)を行う。
