StudyMed医師国家試験

熱でもCRPでもなく「菌」を見よ―市中肺炎の抗菌薬はGram染色から始まる

第115回医師国家試験 B問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第23問

市中肺炎に対する抗菌薬適正使用の原則について,適切なのはどれか。

  1. a.体温により抗菌薬を選択する。
  2. b.白血球数により抗菌薬を選択する。
  3. c.喀痰培養の最終結果が出てから開始する。
  4. d.喀痰のGram染色を確認してから開始する。
  5. e.治療効果の判定はCRPの正常化を指標とする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、市中肺炎の治療で抗菌薬を「適正に」使うための基本原則を問う問題だ。着眼点は一つ、抗菌薬は何を根拠に選び、何を指標に効果を判定するのか。まず、抗菌薬適正使用とはどういう考え方か説明できるかな。
医学生医学生
必要な患者に、必要な薬を、必要な期間だけ使って、耐性菌を増やさないようにすること、でしょうか。
ドクタードクター
その通り。英語ではantimicrobial stewardshipと呼ぶ。効果を最大にしつつ、副作用と耐性菌の出現を最小限に抑える。そしてその出発点は「どの微生物が原因か」をできるだけ推定・同定することなんだ。原因菌がわからなければ、どの薬が「適正」かも決められないからね。
医学生医学生
でも臨床実習で呼吸器内科を回ったとき、熱が高くて白血球が多い人ほど強い抗菌薬を使っている印象がありました。
ドクタードクター
正直な感想だね。ただ、体温や白血球数は炎症の程度を反映する非特異的な指標で、原因菌の種類までは教えてくれない。高熱だから広域薬、微熱だから狭域薬という選び方は、不要な広域薬の使用やカバー漏れにつながる。それに高齢者では、重症肺炎でも熱があまり出ないことがあるので、体温に頼るのはむしろ危険なんだ。
医学生医学生
白血球数については、細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別項目に入っていたような気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。日本の成人肺炎診療ガイドラインの鑑別項目には、白血球数が10,000/μL未満という項目がある。ただしこれは年齢や基礎疾患、頑固な咳、聴診所見の乏しさなど複数の項目と組み合わせて使う参考の一つで、白血球数そのもので薬を選ぶわけではない。
医学生医学生
それなら、喀痰培養の結果を見てから確実な薬を選ぶのが一番確実ではないですか。
ドクタードクター
理屈としてはそうだけれど、培養で菌の同定と感受性がわかるまでには通常2〜4日かかる。肺炎は治療開始が遅れるほど重症化や死亡のリスクが上がるから、最終結果まで待つのは不適切だ。そこで登場するのが、数分から十数分で結果が出る喀痰のGram染色なんだ。
医学生医学生
それが正解ですね。Gram染色で菌の形と染まり方を見れば、原因菌の見当がつくということですか。
ドクタードクター
そう。微生物学の実習でやったと思うけれど、ランセット形のGram陽性双球菌なら肺炎球菌、多形性のGram陰性小桿菌ならインフルエンザ菌、腎形のGram陰性双球菌ならモラクセラ・カタラーリス、ブドウの房状のGram陽性球菌なら黄色ブドウ球菌、太いGram陰性桿菌ならクレブシエラを考える。好中球が菌を貪食している像があれば、その菌が原因である可能性がさらに高まる。
医学生医学生
肺炎球菌だとわかれば、ペニシリン系のような狭いスペクトラムの薬で済むわけですね。
ドクタードクター
その通り。不必要な広域抗菌薬を避けられるのが最大の利点だ。ただし良い喀痰を採ることが前提で、扁平上皮細胞が少なく好中球が多い膿性痰でないと評価が不正確になる。Geckler分類やMiller & Jones分類で品質を確認するんだ。
医学生医学生
最後のCRPの正常化を指標にする、というのも病棟でよく見た気がします。
ドクタードクター
そこも落とし穴だね。CRPは肝臓で作られる炎症蛋白で、感染以外でも動くし、臨床症状の改善より遅れて下がる。正常化まで抗菌薬を続けると投与期間が無駄に延び、副作用や耐性菌のリスクが増える。効果判定は、解熱、呼吸数や酸素化の改善、咳や痰の減少、全身状態といった臨床所見を中心に行い、CRPは補助的に扱う。
医学生医学生
培養検体は抗菌薬の前に採って、Gram染色で狙いをつけて開始し、培養結果が出たら見直す、という流れですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。培養結果に合わせて狭域の薬に切り替えることをde-escalationという。入院例では血液培養2セットや、肺炎球菌・レジオネラの尿中抗原も抗菌薬投与前に提出しておきたい。それから重症度はA-DROPで評価して、外来か入院かICUかを決める。
医学生医学生
重症の人でも、Gram染色の結果が出るまで待つべきなんでしょうか。
ドクタードクター
大事な質問だね。敗血症性ショックを伴うような重症例では、検査待ちで投与を遅らせてはいけない。検体を採ったらすぐに広域抗菌薬で経験的治療を始め、あとで結果を見て絞り込む。それから、マイコプラズマやレジオネラなどの非定型肺炎はβ-ラクタム系が効かないので、マクロライド系やテトラサイクリン系、キノロン系を考える、という点もセットで覚えておこう。
医学生医学生
原因菌を意識して始め、結果で絞り、臨床で止める。CBTの暗記とは違って、一つの流れとして理解できました。

まとめ

市中肺炎の抗菌薬適正使用の出発点は原因菌の推定であり、短時間で結果が得られる喀痰Gram染色は、狭域の抗菌薬を選ぶための有用な手段です。体温、白血球数、CRPは非特異的な炎症指標であって抗菌薬選択の根拠にはならず、CRPの正常化を待つ治療は投与期間を不必要に延ばします。培養検体は抗菌薬投与前に採取しつつも最終結果は待たずに治療を開始し、結果判明後にde-escalationを行い、効果は解熱や呼吸状態などの臨床所見で総合的に判定します。ただし敗血症性ショックなどの重症例では検体採取後ただちに経験的治療を始めることが優先されます。この一連の流れを理解することは、耐性菌を増やさない感染症診療の基本姿勢を身につけることにつながります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

市中肺炎(病院外で日常生活を送っている人に発症した肺炎)の治療において、抗菌薬を「適正に」使用するための基本原則を問う問題である。

抗菌薬適正使用とは

抗菌薬適正使用(antimicrobial stewardship)とは、患者ごとに最適な抗菌薬を、適切な量・期間で使用し、治療効果を最大にしつつ、副作用や薬剤耐性菌の出現を最小限にしようとする考え方である。そのためには「どの微生物が原因か」を可能な限り推定・同定し、それに見合った抗菌薬を選ぶことが出発点となる。

考え方

・原因菌の推定に役立つのは、患者背景(年齢、基礎疾患、渡航歴・動物接触歴など)、臨床像、そして迅速に結果が得られる微生物学的検査である。とくに喀痰の Gram 染色は数分〜十数分で結果が得られ、肺炎球菌(Gram 陽性双球菌)、インフルエンザ菌(Gram 陰性小桿菌)、モラクセラ・カタラーリス(Gram 陰性双球菌)、ブドウ球菌(Gram 陽性球菌のクラスター)などを推定できる。 ・体温や白血球数、CRP(C反応性蛋白)は炎症の程度を反映する非特異的指標であり、原因菌を特定できないため、それ自体で抗菌薬を選ぶ根拠にはならない。 ・喀痰培養は確定的な情報を与えるが、結果判明に数日かかるため、開始を待つと治療が遅れる。培養用検体(喀痰、血液)は抗菌薬投与前に採取し、Gram 染色などで原因菌を推定して治療を開始し、培養・感受性の結果が出たら必要に応じて狭域の抗菌薬に変更する(de-escalation)。 ・治療効果は、解熱、呼吸数・酸素化の改善、咳・痰の減少、全身状態など臨床所見を中心に総合的に判定する。 したがって、適切なのは「喀痰の Gram 染色を確認してから開始する」である。なお、敗血症性ショックを伴うような重症例では、検査を待って投与が遅れてはならず、検体採取後ただちに広域抗菌薬で経験的治療を開始する。

選択肢考察

  1. ×a.  体温により抗菌薬を選択する。

    体温は炎症や感染の存在・程度を示す指標の一つにすぎず、原因菌の種類を推定することはできない。高熱だから広域抗菌薬、微熱だから狭域抗菌薬といった選び方は、根拠のない広域薬の使用や原因菌のカバー漏れにつながり、適正使用の原則に反する。高齢者などでは重症肺炎でも発熱が目立たないことがある点にも注意する。

  2. ×b.  白血球数により抗菌薬を選択する。

    白血球数も非特異的な炎症の指標であり、原因菌を特定する根拠にはならない。日本の成人肺炎診療ガイドラインにおける細菌性肺炎と非定型肺炎(マイコプラズマ、クラミジアなど)の鑑別項目には「末梢血白血球数が 10,000/μL 未満」が含まれ、他の項目(60歳未満、基礎疾患がないか軽微、頑固な咳、胸部聴診所見が乏しい、痰がないか迅速診断法で原因菌が証明されない)と組み合わせて判断に用いられる。しかしこれは複数項目の一つとして参考にするものであり、白血球数そのもので抗菌薬を選ぶことが原則とはいえない。

  3. ×c.  喀痰培養の最終結果が出てから開始する。

    喀痰培養は菌の同定と薬剤感受性の判明までに通常 2〜4 日程度を要する。肺炎は治療開始が遅れると重症化・死亡のリスクが高まるため、最終結果を待つのは不適切である。培養検体は抗菌薬投与前に採取したうえで治療を開始し、結果が判明した時点で抗菌薬を見直す(必要に応じて狭域化する)のが正しい手順である。

  4. ○d.  喀痰のGram染色を確認してから開始する。

    喀痰 Gram 染色は短時間・低コストで実施でき、菌の染色性(陽性・陰性)と形態(球菌・桿菌、双球菌・連鎖・ブドウの房状など)、好中球による貪食像から原因菌を推定できる。これにより、例えば肺炎球菌が推定されればペニシリン系など狭域の抗菌薬を選ぶことができ、不必要な広域抗菌薬の使用を避けられる。抗菌薬投与前に良質な喀痰(扁平上皮細胞が少なく好中球が多い膿性痰)を採取して評価することが重要である。抗菌薬の適正使用を実現するうえでの基本となる手順である。

  5. ×e.  治療効果の判定はCRPの正常化を指標とする。

    CRP は炎症に伴って肝臓で産生される蛋白で、感染以外の要因でも変動し、また臨床症状の改善より遅れて低下する。CRP の正常化を待つと抗菌薬の投与期間が不必要に長くなり、副作用や耐性菌のリスクを高める。治療効果は、体温、呼吸数、酸素化、咳・痰などの症状、全身状態などの臨床所見を中心に判定し、CRP は補助的な指標として扱う。CRP が完全に正常化していなくても、臨床的に改善していれば抗菌薬は終了しうる。

市中肺炎の主な原因微生物

・細菌性肺炎:肺炎球菌(最多)、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス、黄色ブドウ球菌、クレブシエラなど ・非定型肺炎:マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)・ニューモニエ、レジオネラなど。β-ラクタム系が無効(細胞壁がない、あるいは細胞内寄生)であり、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系を用いる。

喀痰 Gram 染色の主な所見

・Gram 陽性双球菌(莢膜による透明帯を伴う、ランセット形):肺炎球菌 ・Gram 陰性小桿菌(多形性):インフルエンザ菌 ・Gram 陰性双球菌(腎形):モラクセラ・カタラーリス ・Gram 陽性球菌(ブドウの房状):黄色ブドウ球菌 ・Gram 陰性桿菌(太く大きい):クレブシエラ ・喀痰の品質評価には Geckler 分類(扁平上皮細胞と好中球の数で評価)や Miller & Jones 分類(膿性部分の割合で評価)が用いられる。唾液成分の多い検体では評価が不正確になる。

市中肺炎の診療の流れ

1. 重症度評価(A-DROP:年齢、脱水、酸素化、意識障害、血圧)で治療の場(外来・入院・ICU)を決める。 2. 抗菌薬投与前に喀痰 Gram 染色・培養、入院例では血液培養(2セット)を採取する。必要に応じて尿中抗原(肺炎球菌、レジオネラ)などの迅速検査を行う。 3. 推定される原因菌に応じて抗菌薬を開始する(重症例では待たずに経験的治療)。 4. 培養・感受性結果に基づき狭域化(de-escalation)する。 5. 臨床所見で効果を判定し、適切な期間で終了する。

POINT

・抗菌薬適正使用の出発点は原因菌の推定であり、喀痰 Gram 染色は迅速・簡便で有用である。 ・体温、白血球数、CRP は非特異的な炎症指標であり、抗菌薬選択の根拠にならない。 ・培養検体は抗菌薬投与前に採取するが、培養の最終結果を待たずに治療を開始し、結果判明後に de-escalation を行う。 ・治療効果は臨床所見で総合的に判定し、CRP の正常化を終了の条件としない。 ・重症例(敗血症性ショックなど)では検査待ちで投与を遅らせない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。