尿は食卓を映す鏡―24時間蓄尿で「食塩摂取量」がわかる理由
第115回医師国家試験 B問題 第10問
国試問題にチャレンジ
24時間蓄尿検査で摂取量が評価できるのはどれか。
- a.脂質
- b.食塩
- c.食物繊維
- d.エネルギー
- e.脂溶性ビタミン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
24時間蓄尿で摂取量を推定できるのは、吸収後に主に尿中へ排泄され、定常状態で「摂取量≒尿中排泄量」が成り立つ物質であり、その代表が食塩(ナトリウム)です。食塩1 gはNa約17 mEqに相当するため、24時間尿中Na排泄量(mEq/日)を17で割ると1日の食塩摂取量(g)を推定できます。脂質やエネルギーは代謝・貯蔵され、食物繊維と脂溶性ビタミンは主に便中に排泄されるため、蓄尿では評価できません。蛋白質摂取量は尿中尿素窒素からMaroniの式で推定でき、蓄尿の完全性は尿中クレアチニン排泄量で確認します。原理から理解しておくと、高血圧やCKDの減塩・蛋白制限の指導を客観的に評価する臨床の場面で生きてきます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
24時間蓄尿検査(1日分の尿をすべてためて測定する検査)で、どの栄養素の摂取量を推定できるかを問う問題である。
考え方の原則
尿から摂取量を推定できるのは、次の2条件を満たす物質である。 (1) 体内に吸収された後、主に腎臓から尿中へ排泄される。 (2) 体内の総量がほぼ一定に保たれており(定常状態)、「1日の摂取量 ≒ 1日の尿中排泄量」が成り立つ。 食塩(NaCl)のナトリウム(Na)はこの条件をよく満たす。腸管から摂取したNaのほとんどが吸収され、汗や便から失われるのはわずかで、大部分は腎臓から排泄される。体液量が安定していれば、1日の尿中Na排泄量は1日のNa摂取量をよく反映する。
計算方法
NaClの式量は約58.5なので、食塩1 gに含まれるNaは 1000 ÷ 58.5 ≒ 17 mEq(mmol)である。したがって、 推定食塩摂取量(g/日)= 24時間尿中Na排泄量(mEq/日)÷ 17 となる。例えば尿中Na排泄量が170 mEq/日なら、食塩摂取量は約10 g/日と推定される。 一方、脂質・食物繊維・脂溶性ビタミンは尿中にほとんど排泄されず、エネルギーは物質ではないため尿から直接は測れない。
選択肢考察
- ×a. 脂質
脂質は吸収後、エネルギー源として利用されるか、脂肪組織に貯蔵される。最終的には二酸化炭素と水に代謝され、尿中に脂質としてほとんど排泄されない。過剰に摂取した分は体脂肪として蓄積されるため「摂取量 ≒ 尿中排泄量」が成り立たず、蓄尿では評価できない。
- ○b. 食塩
食塩のNaは消化管からほぼ完全に吸収され、汗や便への損失はわずかで、主に腎臓から排泄される。体内Na量が一定であれば、1日の尿中Na排泄量は1日のNa摂取量とほぼ等しくなる。食塩1 g ≒ Na 17 mEqであるため、「24時間尿中Na排泄量(mEq/日)÷ 17」で1日の食塩摂取量(g)を推定できる。高血圧や慢性腎臓病(CKD)の減塩指導の効果判定に用いられ、食事記録による自己申告より客観的な指標となる。
- ×c. 食物繊維
食物繊維は人の消化酵素で分解されない成分で、小腸ではほとんど吸収されない。一部は大腸で腸内細菌により発酵され短鎖脂肪酸などになるが、残りは便として排泄される。尿中には現れないため、蓄尿では評価できない。
- ×d. エネルギー
エネルギーは糖質・脂質・蛋白質などの栄養素が代謝されて生じるもので、尿中に排泄される物質ではない。消費されなかった分は体脂肪として貯蔵されるため、尿の成分から摂取エネルギー量を推定することはできない。エネルギー摂取の過不足は、体重の変化などで評価する。
- ×e. 脂溶性ビタミン
脂溶性ビタミン(A・D・E・K)は脂質とともに吸収され、肝臓や脂肪組織に蓄えられる。水に溶けにくいため尿中にはほとんど排泄されず、主に胆汁を介して便中に排泄される。そのため蓄尿では評価できない。過剰摂取では体内に蓄積して過剰症をきたしやすい点も、尿中に排泄されやすい水溶性ビタミンとの違いである。
24時間蓄尿で摂取量を推定できる主なもの
・食塩: 推定食塩摂取量(g/日)= 尿中Na排泄量(mEq/日)÷ 17 ・蛋白質: 尿中尿素窒素(UUN)の排泄量から推定する(Maroniの式)。 推定蛋白質摂取量(g/日)=[尿中尿素窒素排泄量(g/日)+ 0.031 × 体重(kg)]× 6.25 6.25は「蛋白質の約16%が窒素である」ことに基づく係数(100 ÷ 16)。高度の蛋白尿がある場合は、尿蛋白量を加えて補正する。 ・カリウム: 尿中K排泄量からおおよその摂取量を推定できる。
蓄尿検査を正しく行うための注意
・開始時に排尿して膀胱を空にし、その尿は捨てる。以後24時間の尿をすべてため、終了時刻の尿は採取する。 ・ため忘れがあると過小評価となる。正しく蓄尿できたかは尿中クレアチニン排泄量で確認できる(筋肉量に依存し、1日排泄量がほぼ一定であるため)。 ・CKDの患者では、蓄尿によりクレアチニンクリアランスも測定できる。
簡易法
24時間蓄尿は手間がかかるため、外来では早朝尿や随時尿のNa・クレアチニン濃度から推定式を用いて食塩摂取量を推定する方法も用いられる。ただし精度は24時間蓄尿に劣る。
参考
日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧患者の減塩目標は食塩6 g/日未満とされている。
POINT
・蓄尿で摂取量を推定できる条件: 主に尿中に排泄され、摂取量 ≒ 排泄量となる物質 ・食塩摂取量(g/日)= 尿中Na(mEq/日)÷ 17 ・蛋白質摂取量は尿中尿素窒素からMaroniの式で推定する ・脂質・食物繊維・脂溶性ビタミン・エネルギーは蓄尿では評価できない ・蓄尿が正しく行われたかは尿中クレアチニン排泄量で確認する
