指先が捉える「痛い硬結」―内診所見で子宮内膜症を見抜く
第115回医師国家試験 B問題 第9問
国試問題にチャレンジ
子宮内膜症を強く疑う所見はどれか。
- a.下腹部の筋性防御
- b.圧痛のある硬い子宮
- c.柔らかく腫大した子宮
- d.直腸子宮窩〈Douglas窩〉の有痛性硬結
- e.可動性の良い無痛性で柔らかい球状腫瘤
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
子宮内膜症は、子宮内膜類似組織が子宮外の骨盤内で増殖・出血を繰り返し、線維化と癒着を生じるエストロゲン依存性疾患です。好発部位であるDouglas窩や仙骨子宮靱帯の病変は、内診・直腸診で有痛性硬結として触知され、子宮の後屈固定や子宮可動痛とともに内膜症を強く疑わせる所見となります。一方、圧痛のある硬い均一な子宮腫大は子宮腺筋症、柔らかく腫大した子宮は妊娠、筋性防御は急性腹症、可動性良好で無痛の柔らかい腫瘤は良性卵巣嚢腫を示唆し、病変の部位と性質の違いが所見の違いとして表れます。診断にはMRIや腹腔鏡が用いられ、治療はホルモン療法と手術が柱であり、チョコレート嚢胞の癌化にも注意が必要です。病態と内診所見を結びつけて理解することは、月経困難症や不妊を訴える患者の診療で的確な鑑別を行う基盤になります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
子宮内膜症の内診(双合診・直腸診)所見を、他の婦人科疾患や急性腹症の所見と区別できるかを問う問題である。
子宮内膜症の病態と内診所見の関係
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮の内腔以外の場所(卵巣、骨盤腹膜、直腸子宮窩〈Douglas窩〉、仙骨子宮靱帯など)に発生し、月経周期に合わせて増殖・出血を繰り返す疾患である。出血と炎症が繰り返されることで、周囲の組織に線維化と癒着が生じる。 病変ができやすいのは骨盤内の最も低い位置にあたるDouglas窩とその周囲(仙骨子宮靱帯、直腸前壁)である。ここに線維化した病変ができると、内診や直腸診で「圧痛を伴う硬いしこり(有痛性硬結)」として触れる。さらに癒着によって子宮は後屈位で固定され、内診で子宮を動かすと痛む(子宮可動痛)。
考え方
各選択肢がどの疾患を示唆する所見かを対応づけるとよい。 ・筋性防御 → 腹膜刺激症状(急性腹症) ・圧痛のある硬い子宮 → 子宮腺筋症 ・柔らかく腫大した子宮 → 妊娠子宮 ・Douglas窩の有痛性硬結 → 子宮内膜症 ・可動性良好・無痛・柔らかい球状腫瘤 → 良性の卵巣嚢腫 このうち子宮内膜症を最も強く疑わせるのは、Douglas窩の有痛性硬結である。
選択肢考察
- ×a. 下腹部の筋性防御
筋性防御は、壁側腹膜に炎症が及んだときに腹壁の筋肉が反射的に緊張する所見で、腹膜刺激症状の一つである。消化管穿孔、虫垂炎、骨盤腹膜炎、卵巣嚢腫茎捻転や破裂など、急性腹症で認められる。子宮内膜症は慢性に経過する疾患であり、通常の診察で筋性防御を呈することは特徴的ではない(卵巣チョコレート嚢胞の破裂などの合併症が起きれば生じうるが、内膜症そのものを示す所見ではない)。
- ×b. 圧痛のある硬い子宮
子宮腺筋症に典型的な所見である。子宮腺筋症では内膜類似組織が子宮筋層内に入り込み、筋層がびまん性に肥厚するため、子宮は全体に均一に腫大して硬くなり、圧痛を伴う。子宮内膜症の病変は主に子宮の外(骨盤内)にあるため、子宮自体が硬く腫大することは通常ない。子宮内膜症でみられるのは、癒着による子宮の可動性制限と可動痛である。なお、子宮腺筋症はかつて「内性子宮内膜症」と呼ばれたが、現在は子宮内膜症とは別の疾患として扱われる(両者の合併は多い)。
- ×c. 柔らかく腫大した子宮
妊娠子宮の所見である。妊娠するとエストロゲン・プロゲステロンの作用で子宮筋が肥大し血流が増えるため、子宮は腫大して柔らかくなる。特に子宮峡部が柔らかくなる所見はHegar徴候と呼ばれる。子宮内膜症では子宮の腫大や軟化は起こらない。
- ○d. 直腸子宮窩〈Douglas窩〉の有痛性硬結
Douglas窩は骨盤腔の最も低い部位で、月経血の逆流によって内膜組織が到達しやすく、子宮内膜症の好発部位である。ここや仙骨子宮靱帯に生じた病変は、出血と炎症の反復により線維化して硬くなり、内診・直腸診で圧痛のある硬結(ブルーベリー斑や結節)として触知される。この部位の病変は性交痛や排便痛の原因にもなり、子宮内膜症を強く疑う所見である。
- ×e. 可動性の良い無痛性で柔らかい球状腫瘤
周囲との癒着がなく、炎症も伴わない良性の卵巣嚢腫(漿液性・粘液性嚢胞腺腫、成熟嚢胞性奇形腫など)を示唆する所見である。子宮内膜症による卵巣の嚢胞(卵巣チョコレート嚢胞)は周囲と癒着していることが多く、可動性が悪く、圧痛を伴いやすい点で異なる。
子宮内膜症の概要
・好発: 生殖年齢の女性。エストロゲン依存性で、閉経後は軽快する。月経回数が多いほど発症しやすいとされ、初経の早期化・晩産化・出産回数の減少に伴い増加している。 ・発生機序: 月経血が卵管を通って腹腔内へ逆流し、内膜組織が腹膜に生着するという移植説が有力である(腹膜の化生説などもある)。 ・主な病変部位: 卵巣(卵巣チョコレート嚢胞)、Douglas窩、仙骨子宮靱帯、骨盤腹膜。まれに腸管・膀胱・肺(月経随伴性気胸)など。
症状
月経困難症(最も多い)、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、不妊。
診察・検査
・内診: Douglas窩の有痛性硬結、子宮の後屈固定、子宮可動痛、付属器の腫大と圧痛 ・超音波・MRI: 卵巣チョコレート嚢胞の検出(MRIのT1強調像で高信号、脂肪抑制でも高信号のまま) ・血液検査: CA125の上昇(特異性は低い) ・確定診断: 腹腔鏡による病変の直接観察
治療
・薬物療法: 鎮痛薬(NSAIDs)、LEP製剤(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)、黄体ホルモン製剤(ジエノゲストなど)、GnRHアゴニスト・アンタゴニスト ・手術療法: 腹腔鏡下の病巣除去・嚢胞摘出、癒着剥離
注意点
卵巣チョコレート嚢胞は、まれに卵巣癌(明細胞癌・類内膜癌)が発生する母地となる。特に40歳以上や嚢胞径が大きい場合は注意が必要である。
子宮内膜症と子宮腺筋症の違い
・子宮内膜症: 病変は子宮の外。子宮は腫大しないが、癒着で可動性が悪くなる。 ・子宮腺筋症: 病変は子宮筋層内。子宮が均一に腫大して硬く、圧痛を伴う。
POINT
・子宮内膜症の内診所見: Douglas窩の有痛性硬結、子宮の後屈固定、子宮可動痛 ・圧痛のある硬い腫大子宮 → 子宮腺筋症 ・柔らかく腫大した子宮 → 妊娠(Hegar徴候) ・可動性良好・無痛性・柔らかい付属器腫瘤 → 良性卵巣嚢腫 ・筋性防御 → 腹膜刺激症状(急性腹症)
