やめたときに体が叫ぶ―「身体依存」を生む薬物は抑制系にあり
第115回医師国家試験 A問題 第15問
国試問題にチャレンジ
身体依存が形成される薬物はどれか。2つ選べ。
- a.大麻
- b.コカイン
- c.モルヒネ
- d.メタンフェタミン
- e.フェノバルビタール
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
依存は、薬物への渇望である精神依存と、中断・減量で離脱症状が出る身体依存に分けて考えます。身体依存を明確に形成するのは中枢神経抑制系の薬物で、モルヒネなどのオピオイド、フェノバルビタールなどのバルビツール酸系薬、ベンゾジアゼピン系薬、アルコールが代表です。一方、コカインやメタンフェタミンなどの中枢興奮薬や大麻は精神依存が中心で、古典的な分類では身体依存は形成されないとされます。離脱症状は薬物作用の裏返しとして現れ、オピオイドでは散瞳・流涙・下痢などの自律神経症状、抑制系鎮静薬では不安・振戦・けいれん・せん妄といった過興奮症状が目立ちます。身体依存のある薬物は急な中止が危険で漸減が原則となるため、この区別は入院患者の飲酒歴・内服歴の確認や薬物の安全な減量にも直結する知識です。
解答・解説
正解はc, eです
依存(dependence)は、精神依存と身体依存に分けて考える。 【精神依存】薬物を摂取したいという強い渇望があり、その欲求をコントロールできない状態である。中脳辺縁系のドパミン報酬系が関与し、依存性薬物のほぼすべてにみられる。 【身体依存】薬物が体内にある状態に身体が適応してしまい、薬物の中断・急な減量で離脱症状(退薬症状)が出現する状態である。離脱症状は、薬物がもたらしていた作用とおおむね逆方向の症状として現れる。 身体依存が明確に形成される代表は、中枢神経抑制系の薬物である。すなわち、オピオイド(モルヒネ、ヘロイン)、バルビツール酸系薬・ベンゾジアゼピン系薬などの鎮静催眠薬、アルコールである。一方、中枢神経興奮薬(コカイン、アンフェタミン類)や大麻、幻覚薬(LSD)は精神依存が中心で、古典的なWHOの分類では身体依存は形成されない(またはごく弱い)とされる。 したがって選択肢のうち、オピオイドであるモルヒネと、バルビツール酸系薬であるフェノバルビタールが身体依存を形成する薬物である。
選択肢考察
- ×a. 大麻
主な有効成分はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)で、乾燥した葉や花穂はマリファナと呼ばれる。カンナビノイドCB1受容体を介して多幸感、知覚変容、時間感覚の変化などを起こす。精神依存は形成されるが、古典的な分類では身体依存はないとされる。近年は、長期大量使用者が中止すると易刺激性・不眠・食欲低下などの離脱症状を呈することが知られている(DSM-5では大麻離脱が診断項目として採用されている)が、オピオイドやバルビツール酸系薬のような明確な身体依存とは区別され、本問の正解にはあたらない。
- ×b. コカイン
コカの葉から得られるアルカロイドで、ドパミン・ノルアドレナリン・セロトニンの再取り込みを阻害する中枢神経興奮薬である。快感作用が強く、作用時間が短いため反復使用に陥りやすく、精神依存は極めて強い。しかし身体依存は形成されないとされる。中止後には抑うつ・倦怠感・過眠などの反跳(クラッシュ)がみられるが、生命を脅かすような身体的離脱症候群は生じない。
- ○c. モルヒネ
μオピオイド受容体作動薬であり、精神依存・身体依存・耐性のいずれも強く形成される。連用後に中断すると、あくび、流涙、鼻漏、散瞳、鳥肌(立毛)、発汗、下痢、腹痛、筋肉痛、不安・焦燥などの離脱症状が出現する。これはモルヒネの作用(縮瞳、便秘、鎮静など)と逆向きの症状であり、身体依存の典型例である。なお、がん疼痛に対して適切に用いる限り、精神依存が問題となることはまれとされる。
- ×d. メタンフェタミン
覚醒剤(日本ではアンフェタミンとともに覚醒剤取締法の対象)である。神経終末からのドパミン・ノルアドレナリン放出を促進し、覚醒・多幸感・食欲低下をもたらす。精神依存は極めて強く、耐性も生じるが、身体依存は形成されないとされる。慢性使用で幻覚・妄想を伴う覚醒剤精神病を起こし、断薬後もストレスなどで症状が再燃するフラッシュバック(自然再燃)が知られる。
- ○e. フェノバルビタール
長時間作用型のバルビツール酸系薬で、GABA-A受容体の作用を増強し鎮静・催眠・抗けいれん作用を示す。精神依存とともに身体依存、耐性を形成する。連用後に急に中止すると、不安、不眠、振戦、発汗、せん妄、けいれん発作などの離脱症状が生じ、重症では生命にかかわる。このため中止する際は漸減が原則である。アルコールやベンゾジアゼピン系薬と同系統の依存(鎮静催眠薬型)に分類される。
依存性薬物の特徴の整理(古典的なWHOの分類に基づく)
・オピオイド(モルヒネ、ヘロイン、コデインなど):精神依存 強、身体依存 強、耐性 あり ・バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系・アルコール:精神依存 あり、身体依存 あり(離脱でけいれん・せん妄を起こしうる)、耐性 あり ・コカイン:精神依存 極めて強、身体依存 なし、耐性 なしとされる ・アンフェタミン類(メタンフェタミンなど):精神依存 強、身体依存 なし、耐性 あり ・大麻:精神依存 あり、身体依存 なし(古典的分類) ・LSDなど幻覚薬:精神依存 あり、身体依存 なし、耐性 あり ・有機溶剤(シンナー):精神依存 あり、身体依存 なし ・ニコチン:精神依存 あり。中断で易刺激性・集中困難などの離脱症状がみられる
離脱症状の考え方
離脱症状は薬物作用の「裏返し」として理解すると覚えやすい。抑制系薬物(バルビツール酸、アルコール、ベンゾジアゼピン)の中断では中枢神経の過興奮(不安、振戦、けいれん、せん妄)が起こり、オピオイドの中断では自律神経症状(散瞳、流涙、鼻漏、下痢、立毛)が目立つ。
日本における法規制
・モルヒネ、コカイン:麻薬及び向精神薬取締法(麻薬) ・フェノバルビタール:麻薬及び向精神薬取締法(向精神薬) ・メタンフェタミン:覚醒剤取締法 ・大麻:従来は大麻取締法で規制されていたが、2023年の法改正(2024年12月施行)により、大麻および大麻由来の成分(THC)は麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」として扱われ、使用罪も適用されるようになった。大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」に改められた。
POINT
・身体依存=中断・減量で離脱症状が出る状態。精神依存=薬物への渇望。 ・身体依存を形成するのは主に中枢抑制系:オピオイド(モルヒネ)、バルビツール酸系(フェノバルビタール)、ベンゾジアゼピン系、アルコール。 ・コカイン、メタンフェタミンなどの中枢興奮薬と大麻は、精神依存は強いが身体依存は(古典的には)形成されない。 ・離脱症状は薬物作用の逆方向の症状として現れる。
