StudyMed医師国家試験

「脈なし病」は若い女性の大動脈に宿る―高安動脈炎と紛らわしい血管疾患の見分け方

第115回医師国家試験 A問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第115回 A問題 第10問

我が国における高安動脈炎について正しいのはどれか。

  1. a.中年男性に多い。
  2. b.喫煙との関連性が高い。
  3. c.水晶体偏位を合併しやすい。
  4. d.浅側頭動脈の炎症を合併しやすい。
  5. e.大動脈およびその分枝に病変をきたしやすい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高安動脈炎の基本像を問う問題だ。選択肢には、ほかの血管疾患や結合組織疾患の特徴がうまく混ぜ込まれている。「誰に起こり、どの血管を侵すのか」を軸に、ひとつずつ持ち主を探していこう。まず、高安動脈炎と聞いて何が浮かぶかな。
医学生医学生
別名が「脈なし病」で、腕の脈が触れにくくなる病気だと習いました。名前は日本人の先生に由来するんでしたよね。
ドクタードクター
そう、眼科医の高安右人が、特徴的な眼底の血管吻合を報告したのが始まりだ。病態としては、大動脈とその主要な分枝、さらに肺動脈や冠動脈といった大型血管に原因不明の炎症が起こる大型血管炎。壁が厚くなって狭窄・閉塞したり、逆に壁が弱って拡張や動脈瘤をつくったりする。鎖骨下動脈が狭くなれば橈骨動脈の脈が弱くなるから「脈なし病」というわけだ。
医学生医学生
ということは、大動脈とその分枝に病変をきたしやすい、という記述がそのまま正解ですね。
ドクタードクター
その通り。わが国では特に大動脈弓とその分枝、つまり腕頭動脈、総頸動脈、鎖骨下動脈の病変が多い。腎動脈が侵されると腎血管性高血圧、上行大動脈が拡張すると大動脈弁閉鎖不全症を起こし、これらは予後を左右する重要な合併症なんだ。
医学生医学生
好発年齢はどうでしたっけ。血管の病気だから中年以降の男性かと一瞬思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。日本の高安動脈炎は女性が約9割で、20歳前後から20歳代に発症のピークがある。典型像は「若い女性の大型血管炎」だ。中年の男性、しかも喫煙者に多い血管疾患といえば何を思い出す?
医学生医学生
閉塞性血栓血管炎、Buerger病です。循環器の講義で、禁煙が治療の大前提だと強調されていました。
ドクタードクター
よく覚えているね。四肢の中小動脈が閉塞する病気で、中年男性と喫煙はBuerger病や動脈硬化性疾患の特徴だ。高安動脈炎の発症に喫煙が強く関わるという知見はなく、遺伝的素因としてHLA-B52との関連が知られている。何らかの環境因子の関与も想定されているけれど、原因はまだ分かっていない。
医学生医学生
眼の合併症があるのは覚えていたので、水晶体偏位も迷いました。
ドクタードクター
眼が出てくると惑わされるよね。高安動脈炎の眼病変は、頸動脈の狭窄で眼への血流が落ちることによる高安網膜症で、網膜血管の拡張や乳頭周囲の花冠状吻合、一過性の視力障害などが起こる。水晶体偏位はチン小帯の異常によるもので、Marfan症候群やホモシスチン尿症の特徴だ。
医学生医学生
Marfan症候群は上方、ホモシスチン尿症は下方に偏位しやすい、とCBTの勉強で語呂合わせを作った記憶があります。
ドクタードクター
その対比はそのまま使えるよ。では最後、浅側頭動脈の炎症はどうだろう。
医学生医学生
それは巨細胞性動脈炎ですよね。でも同じ大型血管炎なので、高安動脈炎でも起こりそうな気もします。
ドクタードクター
同じ大型血管炎で、病理学的にもどちらも肉芽腫性血管炎だから、迷うのは自然だ。決め手は発症年齢と好発部位。巨細胞性動脈炎は50歳以上、とくに高齢者に起こり、浅側頭動脈の怒張や圧痛、頭痛、咀嚼で顎が痛む顎跛行、そして失明が問題になる。リウマチ性多発筋痛症の合併も多い。若年女性の大動脈弓なら高安、高齢者の浅側頭動脈なら巨細胞性、と分けて覚えよう。
医学生医学生
年齢と部位で切り分けるんですね。外来ではどんな訴えで来ることが多いんですか。
ドクタードクター
初期は発熱や倦怠感、体重減少だけで、不明熱として紹介されることもある。進むと上肢の易疲労感やしびれ、めまい・失神、頸部痛が出てくる。診察では左右の上肢で血圧を測って差がないか、頸部や鎖骨上窩、腹部で血管雑音がないかを確認するのが大切だ。
医学生医学生
OSCEの練習で血圧は片腕しか測っていませんでした。若い女性の不明熱なら両腕で測る、ですね。
ドクタードクター
いい心がけだ。検査では赤沈やCRPが上がるけれど、疾患特異的な自己抗体はなく、ANCAは陰性。画像では頸動脈超音波で総頸動脈壁がびまん性に肥厚するマカロニサイン、CTやMRの血管造影、炎症の活動性評価にはFDG-PETが役立つ。潰瘍性大腸炎の合併が知られていることも押さえておこう。
医学生医学生
治療はステロイドでしょうか。
ドクタードクター
副腎皮質ステロイドが第一選択だ。再燃しやすくステロイドを減らしにくい例では、メトトレキサートなどの免疫抑制薬や、抗IL-6受容体抗体のトシリズマブを併用する。高度の狭窄や大動脈弁閉鎖不全症、動脈瘤に対しては、炎症が落ち着いた時期に血行再建術や弁置換術を検討する。若い患者さんが長く付き合う病気だから、合併症を見据えた継続的なフォローが欠かせないんだ。

まとめ

高安動脈炎は、大動脈とその主要分枝、肺動脈などを侵す大型血管炎で、わが国では大動脈弓とその分枝の病変が多く、狭窄による上肢の脈拍減弱・血圧左右差や、腎血管性高血圧、大動脈弁閉鎖不全症が重要な臨床像です。20歳前後から20歳代の若年女性に好発し、HLA-B52との関連や潰瘍性大腸炎の合併が知られ、ANCAは陰性です。中年男性・喫煙はBuerger病、水晶体偏位はMarfan症候群やホモシスチン尿症、浅側頭動脈炎は高齢者の巨細胞性動脈炎の特徴であり、年齢と病変部位で鑑別します。治療は副腎皮質ステロイドが基本で、難治例ではトシリズマブや免疫抑制薬を併用します。血管炎を「患者層」と「侵される血管の太さ・部位」で整理する視点は、不明熱の鑑別や血管炎全体の理解に直結します。

解答・解説

正解はeです

問われていること

高安動脈炎の疫学(好発年齢・性別)、病変部位、合併症の基本を、類似疾患との違いとともに問う問題である。

高安動脈炎の要点

高安動脈炎は、大動脈とその主要な分枝、肺動脈、冠動脈などの大型血管に原因不明の炎症が起こる大型血管炎である。血管の壁が厚くなって内腔が狭窄・閉塞したり、逆に壁が弱くなって拡張・動脈瘤を形成したりする。上肢へ向かう鎖骨下動脈が狭窄すると橈骨動脈の脈拍が触れにくくなるため、「脈なし病」とも呼ばれた。わが国の眼科医高安右人が、特徴的な眼底の血管吻合を初めて報告したことに名前が由来し、日本を含むアジアに多い。 疫学的には若年女性に圧倒的に多く(女性が約9割)、発症のピークは20歳前後〜20歳代である。遺伝的背景としてHLA-B52との関連が知られている。近年は画像診断の進歩で高齢発症例の診断も増えているが、典型像は「若い女性の大型血管炎」である。

選択肢を見る考え方

各選択肢は、別の血管疾患・結合組織疾患の特徴を混ぜて作られている。 ・中年男性・喫煙:閉塞性血栓血管炎(Buerger病)や動脈硬化性疾患の特徴 ・水晶体偏位:Marfan症候群やホモシスチン尿症の特徴 ・浅側頭動脈の炎症:巨細胞性動脈炎(高齢者の大型血管炎)の特徴 これらを除くと、大動脈とその分枝に病変をきたすという記述が高安動脈炎に当てはまる。

選択肢考察

  1. ×a.  中年男性に多い。

    わが国の高安動脈炎は女性が約9割を占め、20歳前後〜20歳代の若年女性に好発する。中年男性に多いという記述は誤りである。若年〜中年の男性喫煙者に多い血管疾患としては、四肢の中小動脈が閉塞する閉塞性血栓血管炎(Buerger病)が代表的であり、対比して覚えるとよい。

  2. ×b.  喫煙との関連性が高い。

    高安動脈炎の発症に喫煙が強く関わるという知見はない。発症には遺伝的素因(HLA-B52など)と、何らかの環境因子(感染などが想定されている)が関与すると考えられているが、原因は明らかでない。喫煙との関連が強い血管疾患はBuerger病や動脈硬化であり、膠原病では関節リウマチや全身性エリテマトーデスの発症リスクとなることが知られる。

  3. ×c.  水晶体偏位を合併しやすい。

    水晶体偏位(水晶体脱臼)は、水晶体を支えるチン小帯の異常によって起こり、フィブリリン1遺伝子異常によるMarfan症候群(上方偏位が多い)や、ホモシスチン尿症(下方偏位が多い)で特徴的にみられる。高安動脈炎の眼病変は、頸動脈の狭窄による眼の血流低下に起因する高安網膜症(網膜血管の拡張や乳頭周囲の花冠状吻合など)、一過性の視力障害、失明であり、水晶体偏位は起こさない。

  4. ×d.  浅側頭動脈の炎症を合併しやすい。

    浅側頭動脈の炎症は巨細胞性動脈炎(以前は側頭動脈炎と呼ばれた)の特徴である。巨細胞性動脈炎は50歳以上、とくに高齢者に発症し、浅側頭動脈の怒張・圧痛、頭痛、顎跛行(咀嚼時の顎の痛み)、眼動脈系の虚血による失明を起こしうる。リウマチ性多発筋痛症をしばしば合併する。高安動脈炎も巨細胞性動脈炎も同じ大型血管炎に分類され、病理学的にはともに肉芽腫性血管炎であるが、発症年齢と好発部位が異なる。高安動脈炎で浅側頭動脈炎が特徴的にみられることはない。

  5. ○e.  大動脈およびその分枝に病変をきたしやすい。

    高安動脈炎は大動脈とその主要分枝(腕頭動脈、総頸動脈、鎖骨下動脈、腎動脈など)を中心に、肺動脈や冠動脈にも炎症を起こす大型血管炎である。わが国では大動脈弓とその分枝の病変が多い。狭窄・閉塞による症状として、上肢の脈拍減弱・左右の血圧差、上肢の易疲労感、頸部痛、めまい・失神、視力障害がある。腎動脈狭窄では腎血管性高血圧、上行大動脈の拡張では大動脈弁閉鎖不全症をきたし、これらは予後に関わる重要な合併症である。

高安動脈炎の症状

・全身症状:発熱、全身倦怠感、体重減少(初期は不明熱として受診することがある) ・頭頸部の虚血:めまい、失神、頭痛、視力障害、頸部痛(頸動脈の圧痛) ・上肢の虚血:橈骨動脈の脈拍減弱・消失、上肢の血圧左右差(10 mmHg以上が目安)、上肢の易疲労感・しびれ ・血管雑音:頸部・鎖骨上窩・腹部などで聴取 ・心血管合併症:大動脈弁閉鎖不全症、腎血管性高血圧、狭心症、心不全 ・合併疾患:潰瘍性大腸炎の合併が知られ、HLA-B52との関連が共通している。

検査

・血液検査:赤沈亢進、CRP上昇など炎症反応。疾患特異的な自己抗体はなく、ANCA(抗好中球細胞質抗体)は陰性である。 ・画像検査:CT血管造影、MR血管造影、頸動脈超音波(総頸動脈壁がびまん性に肥厚するマカロニサイン)で血管壁の肥厚・狭窄・拡張を評価する。FDG-PET(ブドウ糖類似物質の集積で炎症部位を描出)は早期診断や活動性評価に有用である。

治療

・副腎皮質ステロイドが第一選択である。 ・再発例やステロイド減量が難しい例では、メトトレキサートなどの免疫抑制薬や、抗IL-6受容体抗体トシリズマブを併用する(わが国で高安動脈炎に保険適用がある)。 ・高度の狭窄や大動脈弁閉鎖不全症、動脈瘤に対しては、炎症が落ち着いた時期に血行再建術や弁置換術を行う。

大型血管炎の比較

・高安動脈炎:若年女性、アジアに多い、大動脈とその分枝、HLA-B52 ・巨細胞性動脈炎:50歳以上の高齢者、欧米に多い、浅側頭動脈などの頸動脈系分枝や大動脈、リウマチ性多発筋痛症を合併、失明に注意

血管炎の分類(Chapel Hill分類 2012)

・大型血管炎:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎 ・中型血管炎:結節性多発動脈炎、川崎病 ・小型血管炎:ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)、免疫複合体性血管炎(IgA血管炎など)

POINT

・高安動脈炎は大動脈とその主要分枝、肺動脈を侵す大型血管炎で、わが国では大動脈弓とその分枝の病変が多い。 ・20歳前後〜20歳代の若年女性に好発(女性が約9割)。HLA-B52と関連し、潰瘍性大腸炎の合併がある。 ・脈拍減弱・上肢血圧の左右差、大動脈弁閉鎖不全症、腎血管性高血圧が重要。ANCAは陰性。 ・治療は副腎皮質ステロイドが基本で、トシリズマブも使用される。 ・紛らわしい疾患:浅側頭動脈炎=巨細胞性動脈炎、喫煙・若年〜中年男性=Buerger病、水晶体偏位=Marfan症候群・ホモシスチン尿症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。