心臓に異常がなくても安心できない―Down症候群の「首」を守る長期フォロー
第114回医師国家試験 F問題 第54問
国試問題にチャレンジ
日齢3の新生児。在胎39週,出生体重2,950gで出生した。瞼裂斜上,内眼角贅皮,鼻根部平坦および巨舌を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。筋緊張が低下している。心エコー検査で異常を認めない。 この児の長期管理上,注意すべきなのはどれか。
- a.大動脈解離
- b.潰瘍性大腸炎
- c.環軸椎亜脱臼
- d.神経芽細胞腫
- e.副甲状腺機能亢進症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
瞼裂斜上、内眼角贅皮、鼻根部平坦、巨舌に筋緊張低下を伴う新生児では、Down症候群(21トリソミー)を考え、染色体検査で確定します。約半数に合併する先天性心疾患の評価が新生児期には必須ですが、心疾患がなくても、年齢に応じて現れる合併症を定期的に確認する長期管理が重要です。代表的なのが靱帯弛緩による環軸椎亜脱臼で、多くは無症状でも、頸部前屈や外傷、挿管時の頸部後屈で頸髄損傷をきたしうるため、神経症状の観察と頸椎評価が欠かせません。そのほか、甲状腺機能低下症、急性白血病、難聴・眼疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、早発性Alzheimer型認知症にも注意が必要で、副甲状腺疾患や固形腫瘍、大動脈解離は特徴的ではありません。合併症を「いつ・何が起こるか」で整理しておくことは、国試対策だけでなく、生涯にわたる患者と家族の支援にも直結します。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・日齢3の新生児。在胎39週の正期産で、出生体重2,950g と発育も問題ない。 ・顔貌:瞼裂斜上(目尻がつり上がる)、内眼角贅皮(目頭を覆う皮膚のひだ)、鼻根部平坦、巨舌(舌が大きく口から出やすい)。 ・全身の筋緊張低下。 ・心音・呼吸音に異常なく、心エコー検査でも異常を認めない。
診断のプロセス
特徴的な顔貌の組み合わせに筋緊張低下(いわゆる floppy infant)が加わっており、Down症候群(21トリソミー)が最も考えられる。確定診断は染色体検査(G分染法による核型分析)で行う。Down症候群では約半数に先天性心疾患を合併するため、新生児期の心エコーは必須の評価であるが、本例では心疾患は認められなかった。
設問の考え方
Down症候群の管理では、心疾患以外にも、年齢とともに現れてくる合併症を時期に応じて定期的にチェックしていく(健康管理指針に基づくフォローアップ)ことが重要である。問われているのは「長期的に注意すべき合併症」であり、選択肢の中で Down症候群に特徴的なのは、靱帯の弛緩によって起こる環軸椎亜脱臼である。他の選択肢は Down症候群との関連が乏しいか、合併しやすいのは別の病態である。
選択肢考察
- ×a. 大動脈解離
誤り。若年での大動脈解離に注意すべき先天性疾患は、Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群、血管型 Ehlers-Danlos症候群、Turner症候群(大動脈二尖弁・大動脈縮窄を伴いやすい)などである。Down症候群で問題となる心血管系の合併症は、房室中隔欠損(心内膜床欠損)、心室中隔欠損、心房中隔欠損、動脈管開存、Fallot四徴症などの先天性心疾患や肺高血圧であり、大動脈解離が多いわけではない。
- ×b. 潰瘍性大腸炎
誤り。潰瘍性大腸炎は Down症候群に特徴的な合併症ではない。Down症候群で注意すべき消化管の病気は、十二指腸閉鎖・狭窄、輪状膵、鎖肛、Hirschsprung病などの先天性の形態異常であり、主に新生児期に問題となる。そのほか、慢性の便秘やセリアック病の頻度がやや高いとされる。
- ○c. 環軸椎亜脱臼
正しい。Down症候群では全身の靱帯がゆるく(靱帯弛緩)、第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)の歯突起をつなぎとめる環椎横靱帯もゆるむため、首を前に曲げたときに環椎が前方へずれる環軸椎不安定性・亜脱臼が起こりやすい。X線で不安定性を認める例は1〜2割程度あるが、大部分は無症状である。しかし、ずれが大きくなると脊柱管が狭まって頸髄が圧迫され、首の痛み・斜頸、歩き方の変化、手の使いにくさ、排尿・排便の異常、四肢麻痺などをきたし、転倒やスポーツ、全身麻酔の気管挿管時の頸部後屈などをきっかけに重い脊髄損傷が起こりうる。そのため、頸椎X線(前屈・後屈位)による評価や神経症状の定期的な確認、首に強い負担がかかる運動の際の注意など、長期にわたる管理が必要である。
- ×d. 神経芽細胞腫
誤り。Down症候群で頻度が高い腫瘍性疾患は造血器系であり、新生児期の一過性骨髄異常増殖症(TAM:未熟な芽球が一時的に増えるが多くは自然に消える)と、小児期の急性白血病(急性巨核芽球性白血病などの急性骨髄性白血病、および急性リンパ性白血病)である。神経芽腫を含む固形腫瘍は、Down症候群ではむしろ少ないとされる。
- ×e. 副甲状腺機能亢進症
誤り。Down症候群で多い内分泌の異常は甲状腺の病気であり、特に先天性・後天性の甲状腺機能低下症(慢性甲状腺炎によるものを含む)の頻度が高い。まれに甲状腺機能亢進症(Basedow病)も起こる。そのため甲状腺機能は生涯にわたり定期的に検査する。副甲状腺機能亢進症は Down症候群に特徴的な合併症ではない。
Down症候群の概要
・21番染色体が3本あること(21トリソミー)による先天異常症候群で、出生約600〜800人に1人の頻度。母体年齢が高くなるほど頻度が上がる。 ・核型の内訳:標準型トリソミー(約95%、減数分裂時の不分離による)、転座型(約3〜4%、ロバートソン転座によるもので、親が均衡型転座保因者のことがあり、次子の再発リスクに関わる)、モザイク型(約1〜2%、正常細胞が混在し症状が軽いことが多い)。 ・医療の進歩により平均寿命は60歳前後まで延びており、成人期の健康管理も重要になっている。
主な身体所見
瞼裂斜上、内眼角贅皮、鼻根部平坦、小さな耳・耳介低位、巨舌(舌の突出)、短頸と項部の皮膚のたるみ、手掌の単一屈曲線(猿線)、第5指の短小・内弯、第1・2趾間の開大(サンダルギャップ)、筋緊張低下、関節の過伸展、低身長、知的障害。
年齢とともに注意すべき主な合併症
・心臓:先天性心疾患(約40〜50%。房室中隔欠損、心室中隔欠損、心房中隔欠損など)、肺高血圧。 ・消化管:十二指腸閉鎖・狭窄、輪状膵、鎖肛、Hirschsprung病。 ・血液:一過性骨髄異常増殖症(新生児期)、急性白血病(一般小児より明らかに高頻度)。 ・内分泌:甲状腺機能低下症(先天性・後天性)、甲状腺機能亢進症、肥満、糖尿病。 ・整形外科:環軸椎不安定性・亜脱臼、外反扁平足、膝蓋骨脱臼、股関節脱臼。 ・感覚器:難聴(滲出性中耳炎が多い)、屈折異常・斜視・白内障・円錐角膜。 ・呼吸:閉塞性睡眠時無呼吸(巨舌、顔面中央部の低形成、筋緊張低下による)、易感染性。 ・神経:てんかん(点頭てんかんなど)、成人期の早発性 Alzheimer型認知症(21番染色体上のアミロイド前駆体蛋白遺伝子が過剰なため)。
環軸椎亜脱臼の管理
首の痛みや傾き、歩行の変化、手の巧緻性の低下、排尿・排便の異常などの症状に注意し、異常があれば速やかに頸椎の画像検査(X線、MRI)を行う。神経症状を伴う不安定性には頸椎固定術を検討する。
POINT
・瞼裂斜上、内眼角贅皮、鼻根部平坦、巨舌、筋緊張低下 → Down症候群(21トリソミー)。 ・長期管理で注意すべき合併症:環軸椎亜脱臼、甲状腺機能低下症、白血病、難聴・眼疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、早発性 Alzheimer型認知症など。 ・環軸椎亜脱臼は靱帯弛緩による。頸部前屈や外傷、麻酔時の頸部操作で脊髄損傷をきたしうる。 ・内分泌では副甲状腺ではなく甲状腺の異常が多い。腫瘍は固形腫瘍ではなく白血病が多い。
