麻痺は「心身機能」、独居は「環境」―ICFで脳梗塞後の生活を5つの箱に仕分ける
第114回医師国家試験 F問題 第47問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。脳梗塞で入院し,現在,①積極的にリハビリテーションに取り組んでいる。②右上下肢に重度の運動麻痺が残存しており,高次脳機能障害はないが,日常生活を1人で行うのは現時点では不可能である。もともと③山間部の過疎地域で1人暮らしをしていた。家族はおらず,④近所付き合いはない。発症以前は無農薬野菜の栽培に取り組み,⑤独力で事業を展開していた。 下線部のうち国際生活機能分類〈ICF〉の心身機能・身体構造に分類されるのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ICFは、生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つで、背景因子を「環境因子」「個人因子」の2つでとらえ、それらと健康状態が双方向に影響し合うモデルです。麻痺・感覚障害・失語などの機能そのものの障害は心身機能・身体構造の問題(機能障害)であり、ADLの遂行困難は活動制限、仕事や社会的役割の喪失は参加制約に分類されます。住環境や家族・地域の支援、サービスへのアクセスは環境因子、意欲・性格・生活歴は個人因子です。マイナス面中心だったICIDHと異なり、ICFはプラス面も記述し背景因子を重視する点が特徴で、リハビリテーションの目標設定や退院支援で患者の生活全体を見渡すための共通言語として役立ちます。
解答・解説
正解はbです
症例の整理
70歳の男性が脳梗塞を発症し、入院してリハビリテーションを受けている。右上下肢に重度の運動麻痺が残っているが、高次脳機能障害(失語・失行・失認・注意障害・記憶障害など、脳損傷による認知機能の障害)はない。現時点では日常生活動作(ADL)を1人で行えない。生活背景としては、山間部の過疎地域で独居、家族なし、近所付き合いなし、発症前は無農薬野菜の栽培を独力で事業として営んでいた。
ICFの枠組みで考える
国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)は、2001年に世界保健機関(WHO)が採択した、人の「生きることの全体像」を記述する共通言語である。生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つのレベルでとらえ、それらに影響する背景因子として「環境因子」と「個人因子」をおく。各要素は互いに双方向に影響し合う(相互作用モデル)。 本問では、下線部の記述が5つの構成要素のどれに当たるかを一つずつ振り分ければよい。「心身機能・身体構造」とは、身体の生理的・心理的な機能(運動・感覚・精神機能など)と、器官や四肢などの解剖学的構造を指す。これに問題が生じた状態を「機能障害」と呼ぶ。脳梗塞による右片麻痺は、筋力や随意運動の機能そのものの障害であり、この要素に該当する。 なお、「日常生活を1人で行うのは不可能」という部分は「活動制限」に当たるが、下線部②の中心は「重度の運動麻痺」という機能の障害であり、選択肢の中で心身機能・身体構造に分類されるのは②である。
選択肢考察
- ×a. ①
リハビリテーションに積極的に取り組む姿勢は、その人の意欲・性格・価値観といった内面的な特性であり、背景因子のうちの「個人因子」に当たる。生活機能の改善を後押しするプラスの因子と位置づけられる。身体の機能や構造そのものではないので、心身機能・身体構造には含まれない。
- ○b. ②
右上下肢の重度運動麻痺は、脳梗塞によって随意運動の機能が損なわれた状態であり、ICFでは「心身機能」(神経筋骨格と運動に関連する機能)の問題、すなわち「機能障害」に分類される。高次脳機能障害がないという記載も精神機能に関する情報であり、同じく心身機能のレベルの記述である。したがって、この下線部が心身機能・身体構造に該当する。
- ×c. ③
山間部の過疎地域に住み、独居であるという状況は、本人を取り巻く物理的・社会的な外部環境であり「環境因子」に分類される。医療・介護サービスや交通手段へのアクセスが乏しく、同居家族による支援も得られないため、退院後の生活を考えるうえでは活動・参加を妨げる方向に働く阻害因子となる。
- ×d. ④
近所付き合いがないことは、周囲の人からの支援や人間関係が得られない状況を示す。ICFの環境因子には「支援と関係」という項目があり、隣人や地域の人々からの支えもここに含まれるため、本下線部は一般に環境因子(阻害因子)として扱われる。本人の人付き合いの好みという面からは個人因子、地域での人間関係という面からは参加ととらえる見方もありうるが、いずれにしても身体の機能・構造ではないので心身機能・身体構造には当たらない。
- ×e. ⑤
独力で事業を営むことは、仕事を通じて社会の中で役割を果たすことであり、生活機能のうち「参加」に分類される。現在は麻痺によって事業を続けることが難しく、「参加制約」が生じている状態といえる。心身機能・身体構造ではない。
ICFの構成要素
1. 生活機能 ・心身機能・身体構造:生理的機能(心理的機能を含む)と、器官・四肢などの解剖学的部分。問題が生じた状態が「機能障害(構造障害を含む)」。例:片麻痺、失語、視力低下、関節拘縮、四肢の切断。 ・活動:個人が課題や行為を遂行すること。問題が生じた状態が「活動制限」。例:歩行、食事、更衣、入浴などのADLができない。 ・参加:生活・人生場面への関わり、社会的役割を果たすこと。問題が生じた状態が「参加制約」。例:仕事・家庭内役割・地域活動・趣味の会への参加ができない。 2. 背景因子 ・環境因子:人々が生活し人生を送る物的・社会的・態度的環境。例:住居の構造、福祉用具、家族や友人・隣人の支援、医療・福祉サービス、制度、社会の人々の態度。 ・個人因子:年齢、性別、生活歴、性格、価値観、意欲、職業歴など、その人固有の特徴。 さらに、健康状態(疾患・外傷・妊娠・加齢など)も各要素と相互に影響し合う。
旧分類との違い
ICFの前身である国際障害分類(ICIDH、1980年)は、「疾患→機能障害→能力障害→社会的不利」という一方向のマイナス面中心のモデルであった。ICFでは中立的な用語を用い、プラス面(生活機能)も含めて記述し、背景因子を加えて要素間の双方向の相互作用を重視する点が特徴である。
臨床での活用
リハビリテーションの目標設定や退院支援では、機能障害の改善だけでなく、環境因子の調整(介護保険サービス、住宅改修、地域の見守り体制など)や個人因子の活用(本人の意欲や生きがい)を含めて計画を立てる。本症例では、意欲という促進因子を生かしつつ、独居・過疎地・支援者不在という阻害因子への対応が退院後の生活を左右する。
POINT
・ICFは「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の生活機能と、「環境因子」「個人因子」の背景因子からなる。 ・麻痺・感覚障害・失語などの機能そのものの障害は「心身機能・身体構造」(機能障害)。 ・ADLの遂行困難は「活動制限」、仕事や社会的役割の喪失は「参加制約」。 ・住環境、家族・地域の支援、サービスは「環境因子」。意欲・性格・生活歴は「個人因子」。 ・ICFは各要素の双方向の相互作用を重視し、プラス面も記述する。
