StudyMed医師国家試験

産業医は薬を出さない?―異動ストレスによる不眠に「指導・助言」で向き合う

第114回医師国家試験 F問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第48問

35歳の男性。よく眠れなくなったため,産業医に相談に来た。最近,職場で異動があり,ストレスを感じているという。  産業医の役割として適切でないのはどれか。

  1. a.睡眠薬の処方
  2. b.飲酒状況の評価
  3. c.リラクセーションの指導
  4. d.快適な職場づくりへの助言
  5. e.勤務状態に配慮した生活指導

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、職場のストレスで眠れなくなった労働者に対して、産業医として何をすべきか、何が役割外かを問う問題だ。カギは、産業医が「治療する医師」ではなく「健康管理について指導・助言する医師」だという点にある。まず、産業医の仕事にどんなイメージを持っているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義では、健康診断の事後措置や職場巡視をする医師と習いました。でも医師なので、眠れないと言われたら睡眠薬を出してもよさそうに思えます。
ドクタードクター
そこが今回の落とし穴だ。産業医の職務は労働安全衛生法と労働安全衛生規則第14条に定められていて、健康診断や面接指導とその事後措置、作業環境・作業の管理、健康教育・健康相談、衛生教育などが中心になる。いずれも労働者の健康を守るための指導・助言で、診断を確定して治療を行うことは本来の役割に含まれていないんだ。
医学生医学生
では、産業医が処方することは法律で禁止されているんですか。
ドクタードクター
医師免許をもつ以上、処方そのものが法的に禁じられているわけではない。ただ、事業場の中で産業医が診療を担うことは想定されていない。薬が必要なほどの状態なら、主治医や精神科・心療内科などの専門医療機関への受診を勧めて連携するのが筋だね。だから、選択肢の中で役割として適切でないのは睡眠薬の処方になる。
医学生医学生
なるほど。それに、原因を調べないままいきなり睡眠薬というのも、医学的に順番が違う気がします。
ドクタードクター
その通り、二重の意味で不適切なんだ。不眠の背景には、うつ病などの精神疾患、睡眠時無呼吸症候群のような身体疾患、飲酒やカフェイン、服薬、長時間労働などさまざまな要因がある。まずはそれを評価するのが先だ。
医学生医学生
飲酒状況の評価もその一環ですね。寝酒をすると寝つきは良くなると聞きますが。
ドクタードクター
寝つきは早まっても、アルコールは睡眠を浅くして、夜中に目が覚めたり早朝に覚醒したりする原因になる。続けるうちに量が増えて依存につながるおそれもある。ストレスを抱えた人ほど飲酒量が増えやすいから、飲酒を確認するのは健康相談として大切な役割だ。
医学生医学生
リラクセーションの指導も適切ですよね。精神科の臨床実習で、患者さんと一緒に腹式呼吸をやったことがあります。
ドクタードクター
いい経験だね。腹式呼吸や漸進的筋弛緩法で心身の緊張をほぐすことは、労働者自身のセルフケアを支える取り組みで、産業医の役割に含まれる。
医学生医学生
快適な職場づくりへの助言というのは、産業医が職場そのものに口を出すということですか。
ドクタードクター
そう考えていい。快適な職場環境の形成は労働安全衛生法上の事業者の努力義務で、産業医は医学的な立場から事業者に助言する。今回のように異動後の業務量や人間関係がストレスの原因になっているなら、上司や事業者に改善を働きかけることも産業医の大事な仕事だよ。
医学生医学生
勤務状態に配慮した生活指導は、残業や交替勤務の有無を確認したうえで睡眠衛生を指導する、というイメージでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれ。起床・就寝時刻をそろえる、寝る前のスマートフォンやカフェインを控えるといった睡眠衛生の指導は、健康教育・健康相談そのものだ。必要に応じて、就業上の配慮について事業者に意見を述べることもできる。
医学生医学生
つまり産業医は、原因を評価して、本人には生活指導、職場には環境改善の助言、治療が必要なら医療機関へつなぐ、という役割分担なんですね。
ドクタードクター
よくまとまっている。発展として、制度面も押さえておこう。常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任が義務で、常時1,000人以上、一定の有害業務では500人以上なら専属の産業医が必要になる。職場巡視は原則月1回以上で、事業者への勧告権ももっている。
医学生医学生
CBTの過去問で、ストレスチェックや長時間労働者の面接指導も産業医の仕事として出てきた気がします。
ドクタードクター
その通り、どちらも重要な職務だ。それから厚生労働省の指針では、メンタルヘルス対策として、セルフケア、管理監督者によるラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つのケアが示されている。産業医は事業場内のスタッフとして、外部の医療機関とつなぐ橋渡し役でもあるんだ。臨床で特に注意したいのは、不眠が続いたり、抑うつ気分や意欲・食欲の低下を伴ったりする場合だ。その場合はうつ病などを念頭に、早めに専門医へ紹介することを忘れないでほしい。

まとめ

産業医は労働安全衛生法・労働安全衛生規則に基づき、健康診断や面接指導の事後措置、ストレスチェック、作業環境・作業の管理、健康教育・健康相談などを通じて労働者の健康管理を指導・助言する医師であり、睡眠薬の処方のような治療は主治医や専門医に委ねるのが原則です。ストレス関連の不眠の相談では、精神疾患・身体疾患・飲酒・服薬・勤務状態などの原因評価を優先し、リラクセーションや睡眠衛生などの生活指導、事業者への職場環境改善の助言を行います。常時50人以上の事業場で選任義務、1,000人以上(有害業務は500人以上)で専属が必要となる点や、メンタルヘルス対策の4つのケアも頻出事項です。不眠に抑うつ症状を伴う場合は専門医につなぐという判断を含め、医療と職場をつなぐ産業医の立ち位置を理解することは、将来どの診療科に進んでも働く患者を支えるうえで役立ちます。

解答・解説

正解はaです

状況の整理

35歳の男性労働者が、職場の異動をきっかけにストレスを自覚し、眠れなくなったとして産業医に相談に来た。職場環境の変化に伴うストレス関連の不眠が疑われる状況である。

産業医として何をすべきか

産業医は事業場で労働者の健康管理を担う医師であり、その職務は労働安全衛生法と労働安全衛生規則(第14条)に定められている。中心となるのは、健康診断や面接指導とその事後措置、作業環境・作業の管理、健康教育・健康相談、衛生教育などを通じて、労働者の健康を守るために「指導・助言」を行うことである。診断を確定して治療を行う立場ではなく、治療が必要と判断した場合は主治医や専門医療機関(精神科・心療内科など)への受診を勧め、連携するのが基本である。 したがって本例では、まず不眠の背景を評価する。睡眠時間・入眠困難や中途覚醒などのパターン、抑うつ気分や興味の喪失などうつ病を疑う症状の有無、飲酒・カフェイン摂取、服薬歴、身体疾患(睡眠時無呼吸症候群など)、労働時間や業務負荷、職場の人間関係などを確認する。そのうえで、睡眠衛生やストレス対処法などの生活指導を行い、必要に応じて就業上の配慮や職場環境の改善を事業者に助言する。 設問は「産業医の役割として適切でないもの」を問うており、治療行為に当たる睡眠薬の処方が該当する。

選択肢考察

  1. ○a.  睡眠薬の処方

    産業医の職務は健康管理に関する指導・助言であり、薬物治療は本来の役割に含まれない。医師免許をもつ以上、処方自体が法的に禁じられているわけではないが、事業場内で産業医が診療を担うことは想定されておらず、処方を要するような状態であれば主治医・専門医への受診を勧めるのが適切である。また、ストレスによる不眠に対しては、原因の評価(うつ病など精神疾患、身体疾患、飲酒、服薬などの検索)と生活指導・環境調整を優先すべきであり、いきなり睡眠薬を処方する対応は二重の意味で適切でない。

  2. ×b.  飲酒状況の評価

    ストレスを抱えた労働者は、寝つくためや気分転換のために飲酒量が増えることがある。アルコールは入眠を早める一方で睡眠を浅くし、夜間の中途覚醒や早朝覚醒を招くため、不眠をかえって悪化させる。依存のリスクもある。飲酒状況を把握することは健康相談の一環であり、産業医の役割として適切である。

  3. ×c.  リラクセーションの指導

    腹式呼吸、漸進的筋弛緩法などのリラクセーション法を指導し、心身の緊張を和らげてストレスに対処する力を高めることは、労働者の健康の保持増進やメンタルヘルス対策(セルフケアへの支援)に当たり、産業医の役割として適切である。

  4. ×d.  快適な職場づくりへの助言

    快適な職場環境の形成は労働安全衛生法上、事業者の努力義務であり、産業医は医学的な立場からこれを助言する。異動後の業務量や人間関係、作業環境などの職場要因によるストレスを軽減するため、事業者や上司に改善を働きかけることは産業医の役割として適切である。

  5. ×e.  勤務状態に配慮した生活指導

    労働時間、交替勤務の有無、残業の状況などの勤務状態を把握したうえで、起床・就寝時刻をそろえる、寝る前のスマートフォンやカフェインを控えるといった睡眠衛生を含む生活指導を行うことは、健康相談・健康教育として産業医の役割に含まれる。必要に応じて就業上の配慮を事業者に意見することもできる。

産業医の選任

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、事業者は産業医を選任しなければならない。常時1,000人以上(一定の有害業務に従事する場合は500人以上)の事業場では専属の産業医が必要である。産業医は所定の研修修了などの要件を満たした医師から選任される。

産業医の主な職務(労働安全衛生規則第14条)

・健康診断の実施と、その結果に基づく措置(就業上の意見など) ・長時間労働者に対する面接指導とその結果に基づく措置 ・ストレスチェックの実施、高ストレス者への面接指導とその結果に基づく措置 ・作業環境の維持管理、作業の管理 ・健康教育、健康相談その他の健康の保持増進のための措置 ・衛生教育 ・健康障害の原因の調査と再発防止のための措置 このほか、原則として毎月1回以上の職場巡視(一定の条件を満たせば2か月に1回以上)を行い、必要に応じて事業者に勧告する権限をもつ。

職場のメンタルヘルス対策の4つのケア

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、セルフケア、ラインによるケア(管理監督者による対応)、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つを継続的・計画的に行うことが示されている。産業医は事業場内産業保健スタッフとして、専門医療機関などの事業場外資源と連携する役割を担う。

ストレスと不眠

心理的ストレスは入眠困難や中途覚醒の代表的な誘因である。不眠が持続する場合や、抑うつ気分・意欲低下・食欲低下などを伴う場合は、うつ病などの精神疾患を念頭に置き、専門医への紹介を検討する。

POINT

・産業医の役割は労働者の健康管理に関する指導・助言であり、治療(投薬)は主治医・専門医に委ねる。 ・不眠の相談では、精神疾患・身体疾患・飲酒・服薬・勤務状態などの原因評価と生活指導を優先する。 ・快適な職場環境の形成は事業者の努力義務で、産業医はそれを医学的立場から助言する。 ・産業医の職務は労働安全衛生規則第14条に規定(健診事後措置、面接指導、ストレスチェック、作業環境・作業管理、健康教育・相談、衛生教育など)。 ・常時50人以上で選任義務、1,000人以上(有害業務500人以上)で専属。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。