「効いてから切る」が鉄則―局所麻酔下小手術の手順を時系列で押さえる
第114回医師国家試験 E問題 第2問
国試問題にチャレンジ
局所麻酔下で患者に外科的処置を行う際の正しい方法はどれか。
- a.麻酔薬の注射には18 G針を使用する。
- b.滅菌シーツの穴より狭い範囲で消毒する。
- c.ポビドンヨードを塗布後,直ちに処置を行う。
- d.麻酔薬の注射後,疼痛の有無を確認してから処置を行う。
- e.注射針を刺入し血液逆流があることを確認してから麻酔薬を注入する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
局所浸潤麻酔下の小手術は、消毒→滅菌ドレープ→麻酔→効果確認→処置という流れで行い、各操作には感染予防・局所麻酔薬中毒の予防・苦痛軽減という目的があります。消毒はドレープの穴より広く内側から外側へ行い、ポビドンヨードは乾燥するまで1〜2分程度待ちます。麻酔には23〜27 G程度の細い針を用い、注入前の吸引で血液逆流が「ない」ことを確認して血管内注入を避け、注射後は痛みが消えたことを確かめてから処置を始めます。局所麻酔薬中毒は口周囲のしびれなどの中枢神経症状から痙攣、循環虚脱へ進みうるため、分割投与や極量の遵守、脂肪乳剤を含む対応も知っておく必要があります。こうした基本手順は研修医になってすぐ実践する場面が多く、安全で信頼される処置の土台となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、皮膚縫合や小腫瘤切除など、外来や病棟で日常的に行われる局所浸潤麻酔下の小手術の基本手技を問うている。 手順を時系列で整理すると、(1) 処置部位の消毒(皮膚消毒薬を十分な範囲に塗布し、効果が出るまで待つ)→ (2) 滅菌ドレープ(穴あき滅菌シーツ)で術野を覆う → (3) 細い針で局所麻酔薬を浸潤させる(注入前に吸引して血管内でないことを確かめる)→ (4) 麻酔が効いたこと、すなわち痛みがないことを確認する → (5) 処置開始、となる。 それぞれの段階には、感染予防(清潔操作)、局所麻酔薬中毒の予防、患者の苦痛軽減という目的がある。各選択肢がどの段階の、どの目的に関わる操作なのかを考えれば、正しい方法は「麻酔薬注射後に痛みがないことを確かめてから処置に入る」ものだけであることがわかる。
選択肢考察
- ×a. 麻酔薬の注射には18 G針を使用する。
誤り。G(ゲージ)は針の太さの単位で、数字が大きいほど細い。18 Gはかなり太い針で、輸血用の静脈路確保や、バイアル・アンプルからシリンジへ薬液を吸い上げる際などに用いられる。皮膚・皮下への局所浸潤麻酔では、刺入時の痛みと組織損傷を減らすため、部位にもよるがおおむね23〜27 G程度の細い針を使う。太い針で刺すと刺入痛が強く、出血や皮下血腫も起こしやすい。
- ×b. 滅菌シーツの穴より狭い範囲で消毒する。
誤り。消毒は滅菌シーツ(穴あきドレープ)の開口部よりも十分に広い範囲に行う。消毒範囲がシーツの穴より狭いと、穴の縁から未消毒の皮膚が露出し、術者の手や器具が触れて術野が汚染される。消毒は通常、処置予定部位を中心に内側から外側へ同心円状に広げていき、いったん外側へ広げた綿球やガーゼを中心に戻さないのが原則である。
- ×c. ポビドンヨードを塗布後,直ちに処置を行う。
誤り。ポビドンヨードは、遊離したヨウ素が微生物を酸化することで殺菌作用を示すが、効果が十分に発揮されるまでには時間がかかる。塗布後は少なくとも1〜2分程度、乾燥するまで待ってから処置を始める。塗布直後に処置を始めると殺菌が不十分となり、手術部位感染のリスクが高まる。なお、ポビドンヨードはヨウ素過敏症の患者には使用できず、その場合はクロルヘキシジン製剤などを選ぶ。
- ○d. 麻酔薬の注射後,疼痛の有無を確認してから処置を行う。
正しい。局所麻酔薬は注入してすぐに効くわけではなく、神経の膜に浸透して作用が現れるまでに数分を要する。また、浸潤範囲が不足していることもある。そのため、注射後しばらく待ってから、鑷子でつまむ、針先で軽く触れるなどして痛みが消えていることを患者に確かめてから処置に入る。痛みが残っていれば追加注入するか、効果が出るまで待つ。これにより、患者の苦痛や体動による事故を防ぎ、医師と患者の信頼関係も保つことができる。
- ×e. 注射針を刺入し血液逆流があることを確認してから麻酔薬を注入する。
誤り。逆である。刺入後にシリンジの内筒を軽く引き(吸引テスト)、血液の逆流が「ない」ことを確かめてから注入する。逆流があれば針先が血管内にあることを意味し、そのまま注入すると局所麻酔薬が直接血中に入って血中濃度が急上昇し、局所麻酔薬中毒を起こす危険がある。中毒では口周囲のしびれ・耳鳴り・多弁・不穏などの中枢神経症状に始まり、痙攣、さらに不整脈や心停止などの循環器症状に至ることがある。逆流があった場合は針の位置を変えて再度吸引を確認する。
局所浸潤麻酔の基本手順
1. 患者への説明と同意、アレルギー歴(局所麻酔薬・ヨウ素など)の確認 2. 皮膚消毒:処置部位を中心に、内側から外側へ、ドレープの穴より広い範囲に行う。ポビドンヨードは乾燥するまで1〜2分程度待つ。 3. 滅菌ドレープで術野を覆う。 4. 細い針(23〜27 G程度)で刺入し、吸引して血液逆流がないことを確認してから、ゆっくり注入する。針を進めるたびに吸引を繰り返すとより安全である。 5. 数分待ち、痛みがないことを確認してから処置を開始する。
針のゲージ(G)
数値が大きいほど細い。18 G前後は輸血・急速輸液や薬液の吸い上げ、22〜24 G程度は一般的な末梢静脈路、23〜27 G程度は皮内・皮下注射や局所浸潤麻酔に用いられることが多い。
局所麻酔薬中毒
誤った血管内注入や過量投与で血中濃度が上昇して起こる。症状はおおむね中枢神経症状(舌・口唇のしびれ、耳鳴り、多弁、興奮→痙攣→意識消失)が先行し、高濃度では循環器症状(低血圧、徐脈、不整脈、心停止)が現れる。対応は投与中止、気道確保と酸素投与、痙攣にはベンゾジアゼピン系薬、重症例では脂肪乳剤の静注が行われる。予防には吸引テスト、分割投与、極量を超えないことが重要である。
その他の注意点
・アドレナリン添加局所麻酔薬は出血を減らし作用時間を延長するが、指趾・陰茎・耳介など終動脈領域では虚血の懸念から慎重に扱うとされてきた。 ・使用した針を誤って自分の指などに刺した場合、その針は不潔になったものとして交換し、針刺し事故として所定の対応をとる。
POINT
・局所浸潤麻酔には細い針(23〜27 G程度)を使う。G数が大きいほど細い。 ・消毒範囲は滅菌シーツの穴より広くとる。 ・ポビドンヨードは塗布後1〜2分程度、乾燥するまで待ってから処置を始める。 ・注入前に吸引し、血液逆流が「ない」ことを確認する(血管内注入→局所麻酔薬中毒の予防)。 ・注射後は痛みが消えたことを確認してから処置を開始する。
