StudyMed医師国家試験

HbA1cは赤血球の「年齢」を映す―貧血で数字がずれる理由

第114回医師国家試験 E問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第114回 E問題 第16問

HbA1cについて正しいのはどれか。

  1. a.貧血の影響を受ける。
  2. b.グルコース以外の糖類も影響する。
  3. c.過去1~2週間の血糖状況を反映する。
  4. d.赤血球内の酵素反応により形成される。
  5. e.我が国のメタボリックシンドロームの診断基準に含まれている。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は糖尿病診療で毎日のように目にするHbA1cについての問題だ。カギは「HbA1cはどうやってでき、何に依存する指標なのか」という一点。ここを押さえれば、選択肢はすべて整理できるよ。まず、HbA1cが何なのか説明できるかな。
医学生医学生
ヘモグロビンにブドウ糖がくっついたもの、ですよね。生化学の講義で糖化って習いました。
ドクタードクター
その通り。正確には、ヘモグロビンβ鎖のN末端バリンにグルコースが結合した糖化ヘモグロビンが、総ヘモグロビンの何%を占めるかを示した値だ。では、その結合は酵素がやっていると思う?
医学生医学生
体内の反応なので、何かの酵素が触媒しているのかと思っていました。
ドクタードクター
そこがひとつ目の落とし穴。HbA1cは酵素を介さない非酵素的糖化でできる。グルコースとヘモグロビンがまず不安定なシッフ塩基をつくり、アマドリ転位で安定なケトアミンになる。メイラード反応の初期段階だね。酵素反応ではないからこそ、生成量が血糖の高さとさらされた時間にほぼ比例し、平均血糖の指標になるんだ。
医学生医学生
なるほど、酵素がないから素直に血糖を反映するわけですね。では、どのくらいの期間の血糖を映すんでしょう。1〜2週間と書かれた選択肢で少し迷いました。
ドクタードクター
赤血球の寿命は約120日だけど、血中には新しい赤血球ほど多く、直近の血糖ほど寄与が大きい。だからHbA1cはおおむね過去1〜2か月の平均血糖を反映するとされる。過去約2週間を映すのは、半減期が約17日のアルブミンが糖化したグリコアルブミンのほうだ。
医学生医学生
単位が「週」と「か月」で入れ替えてあるひっかけですね。CBTの勉強でも、HbA1cとグリコアルブミンと1,5-AGの期間の違いを表にして覚えました。
ドクタードクター
いい整理法だね。1,5-AGはさらに短く、数日程度の血糖、特に食後高血糖に鋭敏だ。さて、ここまでで「HbA1cは赤血球が血中にいた時間に依存する」ことが見えてきた。そうすると、貧血ではどうなると思う?
医学生医学生
赤血球の寿命が変わる貧血なら、糖化される時間も変わるので、値がずれる…ということでしょうか。
ドクタードクター
正解。これが正しい選択肢だ。溶血性貧血や出血、輸血後、肝硬変、透析、エリスロポエチン製剤や鉄剤で治療中の貧血などでは、糖化される時間の短い若い赤血球が増えるので、HbA1cは実際の血糖より低く出る。逆に未治療の鉄欠乏性貧血では赤血球の産生が落ちて古い赤血球の割合が増え、高めに出ることがある。
医学生医学生
同じ鉄欠乏性貧血でも、治療前と治療中で逆方向にずれるんですね。そこは意外でした。
ドクタードクター
国試でも臨床でも狙われやすいポイントだよ。残りの選択肢も確認しよう。グルコース以外の糖類も影響する、という記述はどうかな。
医学生医学生
糖化なら果糖なども結合しそうな気がしますが…。
ドクタードクター
ヘモグロビンA1にはいくつかの分画があって、HbA1aにはグルコース-6-リン酸やフルクトース-1,6-二リン酸など他の糖が結合したものが含まれる。でもHbA1cはβ鎖N末端バリンにグルコースが結合した分画として定義されているので、ほかの糖類は反映しない。だから誤りだ。
医学生医学生
最後のメタボリックシンドロームの診断基準は、健診でHbA1cを測っていたので含まれているかと思いました。
ドクタードクター
そこも混同しやすいね。我が国の診断基準はウエスト周囲径(男性85 cm以上、女性90 cm以上)が必須で、加えて脂質・血圧・血糖のうち2項目以上。血糖の項目は空腹時血糖110 mg/dL以上で、HbA1cは入っていない。特定健診の保健指導判定でHbA1cが使われることはあるけれど、それは診断基準とは別物なんだ。
医学生医学生
診断基準と健診の判定基準を分けて覚えておきます。
ドクタードクター
臨床での注意点もまとめておこう。HbA1cは診断では6.5%以上が糖尿病型、合併症予防の目標は7.0%未満が目安だ。ただし貧血、透析、妊娠などHbA1cが当てにならない場面では、赤血球の影響を受けないグリコアルブミンを併せて評価する。そのグリコアルブミンも、ネフローゼ症候群では低め、肝硬変では高めに出うるので万能ではない。また1,5-AGは尿糖で下がるから、SGLT2阻害薬を飲んでいる人では使えない。
医学生医学生
血糖の数字と合わないHbA1cを見たら、まず赤血球側に原因がないか疑う、ということですね。
ドクタードクター
その通り。検査値は「何を測っているか」を理解して初めて正しく読める。HbA1cはその代表例だよ。

まとめ

HbA1cは、ヘモグロビンβ鎖N末端のバリンにグルコースが非酵素的に結合した糖化ヘモグロビンで、過去1〜2か月の平均血糖を反映します。赤血球が血中にとどまる期間に依存するため、溶血・出血・輸血・透析・貧血治療中などでは偽性低値、未治療の鉄欠乏性貧血では偽性高値となるなど、貧血の影響を受けます。グルコース以外の糖は反映せず、約2週間を映すのはグリコアルブミン、数日を映すのは1,5-AGです。我が国のメタボリックシンドローム診断基準の血糖項目は空腹時血糖110 mg/dL以上で、HbA1cは含まれません。指標の成り立ちと限界を理解しておくことが、数値と臨床像が食い違ったときの正しい判断につながります。

解答・解説

正解はaです

HbA1c(ヘモグロビンA1c)は、赤血球中のヘモグロビン(Hb)にブドウ糖(グルコース)が結合した糖化ヘモグロビンが、総ヘモグロビンのうちどれだけの割合を占めるかを%で示した指標である。糖尿病の診断と血糖コントロールの評価に広く用いられている。 本問を解くには、HbA1cの次の性質を押さえておけばよい。 ・でき方: 血中のグルコースがHbのβ鎖N末端のバリンに、酵素を介さずに結合する(非酵素的糖化)。まず不安定な中間体(アルジミン、シッフ塩基)ができ、それがアマドリ転位により安定なケトアミンとなったものがHbA1cである。 ・反映する期間: 糖化の程度は、その赤血球が血中のグルコースにさらされた濃度と時間で決まる。赤血球寿命は約120日だが、新しい赤血球ほど数が多いため、HbA1cはおもに過去1~2か月の平均的な血糖状態を反映する。 ・影響因子: 赤血球が血中にとどまる期間が変われば、血糖値が同じでもHbA1cは変わる。したがって、貧血をはじめとする赤血球寿命や赤血球の産生に影響する病態では、HbA1cが実際の血糖状態からずれる。 この「赤血球寿命に依存する指標である」という点が理解できていれば、貧血の影響を受けるという記述が正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  貧血の影響を受ける。

    HbA1cは赤血球の寿命(血中にとどまる期間)に依存するため、貧血の種類によって偽性の高値・低値を示す。 ・偽性低値: 赤血球寿命が短縮する、または幼若な赤血球が増える状態。溶血性貧血、出血・急性失血、肝硬変(脾機能亢進)、鉄欠乏性貧血の鉄剤による治療中、腎性貧血でのエリスロポエチン製剤投与中、透析患者、輸血後などでは、糖化を受ける時間の短い若い赤血球の割合が増えるため、HbA1cが実際の血糖よりも低く出る。 ・偽性高値: 鉄欠乏性貧血(未治療)などで赤血球の産生が低下し、古い赤血球の割合が相対的に増えると、HbA1cが実際よりも高く出ることがある。 このような場合には、赤血球の影響を受けないグリコアルブミン(GA)などを併せて評価する。貧血の影響を受けるという記述は正しい。

  2. ×b.  グルコース以外の糖類も影響する。

    ヘモグロビンA1にはHbA1a、HbA1b、HbA1cなどの分画があり、HbA1aにはグルコース-6-リン酸やフルクトース-1,6-二リン酸など他の糖が結合したものが含まれる。これに対しHbA1cは、β鎖N末端のバリンにグルコースが結合した分画として定義されており、グルコース以外の糖類は反映しない。そのため血中のグルコース濃度を評価する指標として用いられる。誤りである。

  3. ×c.  過去1~2週間の血糖状況を反映する。

    HbA1cが反映するのは過去1~2か月の平均的な血糖状態である。赤血球寿命は約120日だが、新しい赤血球ほど多く、また直近の血糖値ほどHbA1cへの寄与が大きいため、おおむね1~2か月とされる。過去約2週間(約1~2週間程度)の血糖状態を反映するのは、半減期が約17日のアルブミンが糖化されたグリコアルブミン(GA)であり、さらに短期(数日)の変動を反映するのは1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)である。誤りである。

  4. ×d.  赤血球内の酵素反応により形成される。

    HbA1cは、赤血球内に取り込まれたグルコースがヘモグロビンβ鎖のN末端バリンのアミノ基と、酵素を介さずに化学的に結合して形成される(非酵素的糖化、メイラード反応の初期段階)。酵素反応ではないため、生成量は血糖値の高さとその持続時間にほぼ比例する。この性質こそが、HbA1cが平均血糖の指標となる理由である。誤りである。

  5. ×e.  我が国のメタボリックシンドロームの診断基準に含まれている。

    我が国のメタボリックシンドロームの診断基準(2005年)で糖代謝の項目として用いられるのは空腹時血糖110 mg/dL以上であり、HbA1cは含まれていない。なお、特定健康診査(いわゆるメタボ健診)の保健指導判定ではHbA1cが用いられることがあるが、これは診断基準とは別のものである。誤りである。

血糖コントロール指標の比較

・HbA1c: 過去1~2か月の平均血糖を反映。基準値はおよそ4.6~6.2%(NGSP値)。糖尿病の診断では6.5%以上が糖尿病型とされる。合併症予防のための血糖コントロール目標は7.0%未満。赤血球寿命の影響を受ける。 ・グリコアルブミン(GA): 過去約2週間(1~2週間程度)の血糖を反映。基準値はおよそ11~16%。赤血球寿命の影響を受けないため、貧血・透析・妊娠時や、治療変更後の短期評価に有用。ただしネフローゼ症候群などアルブミン代謝が亢進する状態では低値、肝硬変などアルブミン代謝が遅くなる状態では高値となりうる。 ・1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール): 数日~1週間程度の血糖、特に食後高血糖を鋭敏に反映し、高血糖で低値となる。尿糖の排泄で低下するため、SGLT2阻害薬の服用中は指標として使えない。

HbA1cが実際の血糖より低く出る主な状態

溶血性貧血、出血・急性失血、輸血後、肝硬変、鉄欠乏性貧血の回復期(鉄剤投与中)、腎性貧血でのエリスロポエチン製剤投与中、透析、妊娠など。

HbA1cが実際の血糖より高く出る主な状態

未治療の鉄欠乏性貧血など、赤血球の産生が低下し古い赤血球の割合が増える状態。

我が国のメタボリックシンドローム診断基準

必須項目: ウエスト周囲径 男性85 cm以上、女性90 cm以上(内臓脂肪面積100 cm²以上に相当)。 これに加えて、以下の3項目のうち2項目以上を満たす。 ・脂質: 中性脂肪(TG)150 mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール40 mg/dL未満(LDLコレステロールは含まれない) ・血圧: 収縮期130 mmHg以上 かつ/または 拡張期85 mmHg以上 ・血糖: 空腹時血糖110 mg/dL以上 各項目は、該当する疾患に対して薬物治療を受けている場合も陽性とみなす。

POINT

・HbA1cはヘモグロビンβ鎖N末端にグルコースが非酵素的に結合したもの。 ・過去1~2か月の血糖状態を反映する(GAは約2週間、1,5-AGは数日)。 ・赤血球寿命の影響を受けるため、貧血・出血・溶血・透析・輸血などで実際の血糖とずれる。 ・メタボリックシンドロームの診断基準の糖代謝項目は空腹時血糖110 mg/dL以上で、HbA1cは含まれない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。