StudyMed医師国家試験

「癌らしい影」はまだ診断ではない―乳房腫瘤で最初に選ぶべき一手

第114回医師国家試験 D問題 第65問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第65問

60歳の女性。右乳房のしこりを主訴に来院した。胸部の触診で右乳房に径3cmの腫瘤を触知する。両側のマンモグラムを別に示す。  まず行う検査として適切なのはどれか。

第114回 D問題 第65問の問題画像
  1. a.PET/CT
  2. b.造影CT
  3. c.造影MRI
  4. d.乳管造影検査
  5. e.超音波ガイド下針生検

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳房のしこりを訴える患者さんで、マンモグラムから何を読み取り、次にどの検査を選ぶかを問う問題だ。ポイントは「画像でどこまで言えるか」と「検査の順番」。まずマンモグラムの印象から聞かせてくれるかな。
医学生医学生
右乳房に、辺縁がギザギザした腫瘤影と細かい石灰化が見えます。乳癌っぽいと思いました。
ドクタードクター
いい読みだね。辺縁から棘のように伸びる突出はスピキュラと呼ばれ、癌が周囲に浸潤して線維化を起こしたことを反映している。そこに多形性や線状・分枝状の微細石灰化が加わると、乳癌を強く疑う所見になる。60歳という年齢で、閉経後に新しく出てきた3cmの腫瘤なら、まず悪性を念頭に置くべきだ。
医学生医学生
そこまで癌らしいなら、すぐに全身の転移を調べたほうがいい気がします。PET/CTで一気に見てしまうのはどうでしょうか。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。どれだけ悪性らしく見えても、画像はあくまで「疑い」。乳癌の確定診断は、組織を採って顕微鏡で癌細胞を確認する病理診断でしか得られない。だからまず行うのは、超音波で腫瘤を見ながら針を刺して組織を採る、超音波ガイド下針生検なんだ。
医学生医学生
病理学の講義で「確定診断は病理」と何度も言われたのを思い出しました。でも、細胞診ではだめなんですか。
ドクタードクター
穿刺吸引細胞診も選択肢ではあるけれど、今は組織診である針生検が主流だ。組織型や悪性度がわかるうえに、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2、Ki-67といった治療方針を左右する情報を免疫染色で評価できるからね。超音波で針の位置を確認できるので、外来で局所麻酔下に安全に行えるのも利点だ。
医学生医学生
なるほど、診断と同時に治療の設計図も手に入るわけですね。ではPET/CTや造影CTはいつ使うんですか。
ドクタードクター
癌と確定した後の病期診断だ。PET/CTは腫瘍に集積するFDGを利用して遠隔転移やリンパ節転移を探すけれど、炎症にも集積するし、小さな病変や増殖の遅い癌では写らないこともある。造影CTも肺や肝、リンパ節への転移検索に使う検査で、良悪性を決める手段ではない。
医学生医学生
造影MRIは乳腺の評価に強いと聞いたので、迷いました。
ドクタードクター
乳房MRIは感度が高く、乳管内への進展や多発病変、反対側の乳癌まで評価できるから、乳房温存手術ができるかどうかを考える術前の広がり診断にとても役立つ。ただ特異度は高くなく、良性病変も造影されるので確定診断にはならない。やはり生検で癌と確定してから行うのが基本の順序だ。
医学生医学生
乳管造影はどんな場面で使うんでしょう。CBTの勉強で名前だけ覚えた感じです。
ドクタードクター
乳頭分泌、特にひとつの乳管口からの血性分泌があるときに、その乳管に造影剤を入れて乳管内乳頭腫や乳管内に進展する癌を描出する検査だ。今回は分泌の記載がなく、触れる腫瘤の評価には向かない。
医学生医学生
整理すると、画像で疑う、針生検で確定する、それから広がりと転移を調べる、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、石灰化だけで超音波では腫瘤が見えない病変もある。その場合はマンモグラフィで位置を合わせるステレオガイド下の吸引式組織生検を使う。逆に、粗大なポップコーン様の石灰化は陳旧化した線維腺腫などでみられる良性所見だから、石灰化の「形と分布」を見分けることが大切だ。
医学生医学生
外科実習で乳腺外来に付いたとき、針生検の結果説明でサブタイプの話をされていたのはそういうことだったんですね。
ドクタードクター
そう。針生検の組織からルミナルA型、ルミナルB型、HER2陽性型、トリプルネガティブ型などのサブタイプを決め、内分泌療法、抗HER2療法、化学療法を組み立てる。術前薬物療法を行うことも多いから、治療を始める前に組織を確保しておくことが欠かせない。臨床では、画像の印象だけで説明を先走らず、病理で確かめるまでは「疑い」として丁寧に伝える姿勢も大事だよ。

まとめ

スピキュラを伴う不整形腫瘤や多形性・線状分枝状の微細石灰化はマンモグラフィで乳癌を強く疑う所見ですが、画像だけでは確定診断にはなりません。悪性が疑われた乳房腫瘤には、まず超音波ガイド下針生検で病理組織学的に診断を確定し、同時にER・PgR・HER2・Ki-67を評価してサブタイプを決定します。造影MRIは乳房内の広がり診断、造影CTやPET/CTは転移検索に用いるもので、いずれも確定診断の後に行うのが原則です。乳管造影は乳頭分泌、とくに単孔性の血性分泌がある場合の検査であり、触知腫瘤の初期評価には用いません。「疑う→確定する→広がりを調べる」という検査の順序は、乳癌に限らず悪性腫瘍診療の基本となる考え方です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・60歳の女性:乳癌の罹患率が高い年代(日本人女性では40歳代後半と60歳代前半に罹患のピークがある)であり、閉経後の新たな乳房腫瘤はまず悪性を念頭に置く。 ・右乳房のしこりを自覚し、触診で径3cmの腫瘤を触れる。 ・マンモグラム(乳房X線撮影):右乳房に、辺縁が不整で棘状の突出(スピキュラ)を伴う腫瘤影と、その周囲の微細石灰化がみられる。スピキュラは癌が周囲組織へ浸潤し線維化を起こしたことを反映する所見で、微細石灰化(特に多形性・線状分枝状のもの)とともに乳癌を強く示唆する。

診断の考え方

乳房腫瘤の鑑別には線維腺腫、乳腺症、嚢胞、葉状腫瘍、乳管内乳頭腫などの良性病変と乳癌がある。年齢、腫瘤径、マンモグラムの所見(スピキュラを伴う不整形腫瘤+微細石灰化)から、本例は乳癌が最も疑われる。

設問への考え方

画像検査はどれほど悪性らしく見えても「疑い」の段階にとどまり、乳癌の確定診断は病理組織学的診断(組織を採取して顕微鏡で癌細胞を確認すること)によってのみ得られる。さらに針生検で得た組織からは、組織型・組織学的悪性度に加え、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)、Ki-67(増殖能の指標)といった治療方針の決定に不可欠な情報も得られる。 したがって、マンモグラフィ・超音波検査で悪性が疑われた病変に対しては、まず超音波で腫瘤を描出しながら針を刺して組織を採取する超音波ガイド下針生検を行う。広がり診断(MRI)や遠隔転移検索(CT、PET/CT、骨シンチグラフィなど)は、癌と確定した後に病期決定と治療計画のために行うのが基本的な順序である。

選択肢考察

  1. ×a.  PET/CT

    PET/CTは、ブドウ糖類似物質である18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)が糖代謝の盛んな腫瘍に集積することを利用し、その分布をCTの解剖学的画像と重ね合わせる検査である。乳癌では主に遠隔転移やリンパ節転移の検索、再発診断に用いられるが、炎症でも集積し、小病変や増殖の遅い癌では集積しないこともある。癌の確定診断にはならず、組織診断より先に行う検査ではない。

  2. ×b.  造影CT

    ヨード造影剤を用いたCTは、乳癌の確定後に肺・肝・リンパ節などへの転移を調べる病期診断で用いられる。腫瘤が造影されても良悪性の最終判断はできず、確定診断の手段ではない。生検で乳癌と確定した後に必要に応じて行う。

  3. ×c.  造影MRI

    ガドリニウム造影剤を用いた乳房MRIは感度が高く、乳房内での癌の広がり(乳管内進展)や多発病変・対側乳癌の有無を評価できるため、乳房温存手術の適応判断など術前の広がり診断に有用である。しかし特異度は必ずしも高くなく、良性病変も造影されうるため確定診断にはならない。生検で乳癌と確定した後に行うのが一般的な順序である。

  4. ×d.  乳管造影検査

    乳管造影検査は、乳頭分泌(特に単一乳管からの血性分泌)を認める場合に、分泌のある乳管開口部から造影剤を注入して乳管内乳頭腫や乳管内に進展する癌など乳管内病変を描出する検査である。本例には乳頭分泌の記載がなく、触知可能な腫瘤の診断として行う検査ではない。また確定診断にもならない。

  5. ○e.  超音波ガイド下針生検

    マンモグラムで乳癌が強く疑われる以上、次に必要なのは病理組織学的な確定診断である。超音波ガイド下針生検(コア針生検や吸引式組織生検)は、超音波で腫瘤を確認しながら確実に針を進めて組織を採取できるため、外来で局所麻酔下に安全に施行できる。得られた組織で癌の有無と組織型を確定し、さらにER・PgR・HER2・Ki-67などのバイオマーカーを評価して薬物療法の方針決定にも役立てることができる。以上より、まず行う検査として最も適切である。

乳房腫瘤の診断の流れ

1. 問診・視診・触診:年齢、家族歴、腫瘤の大きさ・硬さ・可動性、皮膚のえくぼ症状(デルト)、乳頭陥凹、乳頭分泌、腋窩リンパ節腫大の有無をみる。 2. 画像検査:マンモグラフィと乳房超音波検査が基本。若年者や高濃度乳房(乳腺組織が多い乳房)では超音波が特に有用である。 3. 病理診断:画像で悪性が否定できない病変に対して、細胞診(穿刺吸引細胞診)または組織診(針生検、吸引式組織生検)を行う。現在はホルモン受容体やHER2の評価もできる組織診(針生検)が主流である。石灰化のみで腫瘤として描出されない病変には、マンモグラフィガイド下(ステレオガイド下)の吸引式組織生検を用いる。 4. 確定後の病期診断:乳房MRIで広がり診断、CT・骨シンチグラフィ・PET/CTなどで遠隔転移を評価し、TNM分類で病期を決定する。

マンモグラフィで悪性を示唆する所見

・腫瘤:形状が不整、境界が不明瞭、スピキュラを伴う。 ・石灰化:微小円形でも集簇するもの、淡く不明瞭なもの、多形性、微細線状・分枝状のもの。区域性・線状に分布するものは乳管内に沿った癌の進展を示唆する。 ・その他:構築の乱れ、局所的非対称性陰影、皮膚の肥厚・牽引。 一方、粗大な(ポップコーン様)石灰化は線維腺腫の陳旧化などでみられる良性所見である。

乳癌の治療方針に関わるサブタイプ

針生検組織の免疫染色により、ER・PgR・HER2・Ki-67を評価し、ルミナルA型、ルミナルB型、HER2陽性型、トリプルネガティブ型などに分類する。サブタイプに応じて内分泌療法、抗HER2療法、化学療法などを選択するため、治療前に組織を得ることが重要である。

POINT

・乳房腫瘤で画像上悪性が疑われたら、まず針生検(通常は超音波ガイド下)で病理組織学的に確定診断する。 ・スピキュラを伴う不整形腫瘤と微細石灰化はマンモグラフィにおける乳癌の典型所見。 ・造影MRIは乳房内の広がり診断、CT・PET/CTは転移検索に用い、いずれも確定診断後に行う。 ・乳管造影は乳頭分泌(特に単孔性血性分泌)がある場合の乳管内病変の検査。 ・針生検組織でER・PgR・HER2・Ki-67を評価し、治療方針を決める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。