「癌らしい影」はまだ診断ではない―乳房腫瘤で最初に選ぶべき一手
第114回医師国家試験 D問題 第65問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。右乳房のしこりを主訴に来院した。胸部の触診で右乳房に径3cmの腫瘤を触知する。両側のマンモグラムを別に示す。 まず行う検査として適切なのはどれか。

- a.PET/CT
- b.造影CT
- c.造影MRI
- d.乳管造影検査
- e.超音波ガイド下針生検
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
スピキュラを伴う不整形腫瘤や多形性・線状分枝状の微細石灰化はマンモグラフィで乳癌を強く疑う所見ですが、画像だけでは確定診断にはなりません。悪性が疑われた乳房腫瘤には、まず超音波ガイド下針生検で病理組織学的に診断を確定し、同時にER・PgR・HER2・Ki-67を評価してサブタイプを決定します。造影MRIは乳房内の広がり診断、造影CTやPET/CTは転移検索に用いるもので、いずれも確定診断の後に行うのが原則です。乳管造影は乳頭分泌、とくに単孔性の血性分泌がある場合の検査であり、触知腫瘤の初期評価には用いません。「疑う→確定する→広がりを調べる」という検査の順序は、乳癌に限らず悪性腫瘍診療の基本となる考え方です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・60歳の女性:乳癌の罹患率が高い年代(日本人女性では40歳代後半と60歳代前半に罹患のピークがある)であり、閉経後の新たな乳房腫瘤はまず悪性を念頭に置く。 ・右乳房のしこりを自覚し、触診で径3cmの腫瘤を触れる。 ・マンモグラム(乳房X線撮影):右乳房に、辺縁が不整で棘状の突出(スピキュラ)を伴う腫瘤影と、その周囲の微細石灰化がみられる。スピキュラは癌が周囲組織へ浸潤し線維化を起こしたことを反映する所見で、微細石灰化(特に多形性・線状分枝状のもの)とともに乳癌を強く示唆する。
診断の考え方
乳房腫瘤の鑑別には線維腺腫、乳腺症、嚢胞、葉状腫瘍、乳管内乳頭腫などの良性病変と乳癌がある。年齢、腫瘤径、マンモグラムの所見(スピキュラを伴う不整形腫瘤+微細石灰化)から、本例は乳癌が最も疑われる。
設問への考え方
画像検査はどれほど悪性らしく見えても「疑い」の段階にとどまり、乳癌の確定診断は病理組織学的診断(組織を採取して顕微鏡で癌細胞を確認すること)によってのみ得られる。さらに針生検で得た組織からは、組織型・組織学的悪性度に加え、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)、Ki-67(増殖能の指標)といった治療方針の決定に不可欠な情報も得られる。 したがって、マンモグラフィ・超音波検査で悪性が疑われた病変に対しては、まず超音波で腫瘤を描出しながら針を刺して組織を採取する超音波ガイド下針生検を行う。広がり診断(MRI)や遠隔転移検索(CT、PET/CT、骨シンチグラフィなど)は、癌と確定した後に病期決定と治療計画のために行うのが基本的な順序である。
選択肢考察
- ×a. PET/CT
PET/CTは、ブドウ糖類似物質である18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)が糖代謝の盛んな腫瘍に集積することを利用し、その分布をCTの解剖学的画像と重ね合わせる検査である。乳癌では主に遠隔転移やリンパ節転移の検索、再発診断に用いられるが、炎症でも集積し、小病変や増殖の遅い癌では集積しないこともある。癌の確定診断にはならず、組織診断より先に行う検査ではない。
- ×b. 造影CT
ヨード造影剤を用いたCTは、乳癌の確定後に肺・肝・リンパ節などへの転移を調べる病期診断で用いられる。腫瘤が造影されても良悪性の最終判断はできず、確定診断の手段ではない。生検で乳癌と確定した後に必要に応じて行う。
- ×c. 造影MRI
ガドリニウム造影剤を用いた乳房MRIは感度が高く、乳房内での癌の広がり(乳管内進展)や多発病変・対側乳癌の有無を評価できるため、乳房温存手術の適応判断など術前の広がり診断に有用である。しかし特異度は必ずしも高くなく、良性病変も造影されうるため確定診断にはならない。生検で乳癌と確定した後に行うのが一般的な順序である。
- ×d. 乳管造影検査
乳管造影検査は、乳頭分泌(特に単一乳管からの血性分泌)を認める場合に、分泌のある乳管開口部から造影剤を注入して乳管内乳頭腫や乳管内に進展する癌など乳管内病変を描出する検査である。本例には乳頭分泌の記載がなく、触知可能な腫瘤の診断として行う検査ではない。また確定診断にもならない。
- ○e. 超音波ガイド下針生検
マンモグラムで乳癌が強く疑われる以上、次に必要なのは病理組織学的な確定診断である。超音波ガイド下針生検(コア針生検や吸引式組織生検)は、超音波で腫瘤を確認しながら確実に針を進めて組織を採取できるため、外来で局所麻酔下に安全に施行できる。得られた組織で癌の有無と組織型を確定し、さらにER・PgR・HER2・Ki-67などのバイオマーカーを評価して薬物療法の方針決定にも役立てることができる。以上より、まず行う検査として最も適切である。
乳房腫瘤の診断の流れ
1. 問診・視診・触診:年齢、家族歴、腫瘤の大きさ・硬さ・可動性、皮膚のえくぼ症状(デルト)、乳頭陥凹、乳頭分泌、腋窩リンパ節腫大の有無をみる。 2. 画像検査:マンモグラフィと乳房超音波検査が基本。若年者や高濃度乳房(乳腺組織が多い乳房)では超音波が特に有用である。 3. 病理診断:画像で悪性が否定できない病変に対して、細胞診(穿刺吸引細胞診)または組織診(針生検、吸引式組織生検)を行う。現在はホルモン受容体やHER2の評価もできる組織診(針生検)が主流である。石灰化のみで腫瘤として描出されない病変には、マンモグラフィガイド下(ステレオガイド下)の吸引式組織生検を用いる。 4. 確定後の病期診断:乳房MRIで広がり診断、CT・骨シンチグラフィ・PET/CTなどで遠隔転移を評価し、TNM分類で病期を決定する。
マンモグラフィで悪性を示唆する所見
・腫瘤:形状が不整、境界が不明瞭、スピキュラを伴う。 ・石灰化:微小円形でも集簇するもの、淡く不明瞭なもの、多形性、微細線状・分枝状のもの。区域性・線状に分布するものは乳管内に沿った癌の進展を示唆する。 ・その他:構築の乱れ、局所的非対称性陰影、皮膚の肥厚・牽引。 一方、粗大な(ポップコーン様)石灰化は線維腺腫の陳旧化などでみられる良性所見である。
乳癌の治療方針に関わるサブタイプ
針生検組織の免疫染色により、ER・PgR・HER2・Ki-67を評価し、ルミナルA型、ルミナルB型、HER2陽性型、トリプルネガティブ型などに分類する。サブタイプに応じて内分泌療法、抗HER2療法、化学療法などを選択するため、治療前に組織を得ることが重要である。
POINT
・乳房腫瘤で画像上悪性が疑われたら、まず針生検(通常は超音波ガイド下)で病理組織学的に確定診断する。 ・スピキュラを伴う不整形腫瘤と微細石灰化はマンモグラフィにおける乳癌の典型所見。 ・造影MRIは乳房内の広がり診断、CT・PET/CTは転移検索に用い、いずれも確定診断後に行う。 ・乳管造影は乳頭分泌(特に単孔性血性分泌)がある場合の乳管内病変の検査。 ・針生検組織でER・PgR・HER2・Ki-67を評価し、治療方針を決める。
