「首のうしろ」が決め手―溶連菌と伝染性単核球症を見分けるリンパ節の部位
第114回医師国家試験 D問題 第11問
国試問題にチャレンジ
溶連菌感染症との鑑別で伝染性単核球症を最も強く示唆するのはどれか。
- a.頭痛
- b.発熱
- c.咽頭発赤
- d.乾性咳嗽
- e.後頸部リンパ節腫脹
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
溶連菌による咽頭・扁桃炎と伝染性単核球症は、発熱、頭痛、咽頭発赤、扁桃の腫大・白苔、咳が乏しいといった点が共通しており、これらは鑑別の決め手になりません。鑑別に役立つのは頸部リンパ節腫脹の部位で、溶連菌では前頸部の有痛性腫脹、伝染性単核球症では後頸部を含む両側頸部から全身のリンパ節腫脹がみられます。伝染性単核球症ではさらに異型リンパ球の出現、肝機能障害、肝脾腫、眼瞼浮腫が手がかりとなり、アンピシリンやアモキシシリンの投与で皮疹が出やすいこと、脾腫の時期は運動制限が必要なことにも注意が必要です。両者の鑑別は不要な抗菌薬投与を避け、溶連菌の続発症を防ぐという点で、日常診療に直結する重要な判断です。
解答・解説
正解はeです
A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による咽頭・扁桃炎と、主にEpstein-Barrウイルス(EBV)の初感染による伝染性単核球症は、いずれも「発熱+咽頭痛+扁桃の腫大・白苔(白い膿性の付着物)」で発症し、見た目がよく似ている。両者の鑑別が臨床で重要なのは、治療方針が大きく異なるためである。溶連菌感染症では急性糸球体腎炎やリウマチ熱などの続発症を防ぐために抗菌薬(ペニシリン系が第一選択)を投与する。一方、伝染性単核球症はウイルス感染で抗菌薬は無効であり、しかもアンピシリンやアモキシシリンを投与すると高い頻度で全身に薬疹様の皮疹が出現する。 鑑別には「両者に共通する所見」と「片方に特徴的な所見」を分けて考える。発熱、咽頭発赤、扁桃の腫大・白苔、頭痛は両者に共通して起こり得るため、鑑別の決め手にならない。咳が乏しい点も両者で共通する。一方、頸部リンパ節腫脹の「部位」は有用な手がかりである。溶連菌感染症では咽頭の所属リンパ節である前頸部(顎下〜胸鎖乳突筋の前縁沿い)のリンパ節が圧痛を伴って腫れるのに対し、伝染性単核球症では後頸部(胸鎖乳突筋の後方)を含む両側頸部、さらに全身のリンパ節が腫れやすい。したがって後頸部リンパ節腫脹が伝染性単核球症を最も強く示唆する。
選択肢考察
- ×a. 頭痛
頭痛は発熱を伴う感染症全般にみられる非特異的な症状であり、溶連菌感染症でも伝染性単核球症でも起こり得る。どちらか一方を示唆する所見ではないため誤りである。
- ×b. 発熱
溶連菌感染症も伝染性単核球症も38℃以上の発熱を来すのが一般的で、発熱の有無では区別できない。なお伝染性単核球症では発熱が1〜2週間程度と長引きやすいが、発熱そのものは鑑別点にならないため誤りである。
- ×c. 咽頭発赤
咽頭の発赤、口蓋扁桃の腫大、白苔の付着はいずれの疾患にも共通してみられ、肉眼所見だけで両者を見分けることは難しい。軟口蓋の点状出血も両者でみられることがある。したがって咽頭発赤は鑑別に役立たず、誤りである。
- ×d. 乾性咳嗽
溶連菌感染症も伝染性単核球症も、咳嗽は目立たないことが多い。むしろ咳・鼻汁・結膜炎などのかぜ症状が目立つ場合は、アデノウイルスなど一般的なウイルス性上気道炎を考える。咳がないことは溶連菌感染症らしさを示す項目(Centor基準)の一つだが、伝染性単核球症を溶連菌感染症と区別する所見にはならないため誤りである。
- ○e. 後頸部リンパ節腫脹
溶連菌感染症のリンパ節腫脹は咽頭からのリンパ流を受ける前頸部に限られ、圧痛が強いのが特徴である。これに対し伝染性単核球症では、EBVが感染したBリンパ球に対してT細胞が全身性に強く反応するため、後頸部を含む両側頸部のリンパ節が腫れ、腋窩や鼠径などの全身リンパ節腫脹を伴うことも多い。後頸部リンパ節腫脹は伝染性単核球症を強く示唆する所見であり、正解である。
伝染性単核球症の概要
・原因: 大部分がEBVの初感染。サイトメガロウイルス(CMV)などでも似た病像(伝染性単核球症様症候群)を呈する。 ・感染経路: 主に唾液を介する(キス病とも呼ばれる)。日本では乳幼児期に不顕性感染することが多いが、思春期・青年期に初感染すると典型的な症状が出やすい。 ・三主徴: 発熱、咽頭・扁桃炎(白苔を伴う)、頸部リンパ節腫脹(後頸部を含む)。 ・その他の所見: 肝腫大・脾腫(全例ではない)、眼瞼浮腫、皮疹。アンピシリン・アモキシシリン投与で高率に皮疹が出る。 ・検査: リンパ球増加と異型リンパ球(活性化した細胞傷害性T細胞)の出現、AST・ALTの上昇。EBV抗体ではVCA-IgM陽性、EBNA抗体陰性が初感染を示す。 ・治療: 対症療法が基本。脾腫がある時期は、まれに脾破裂を起こすため激しい運動や接触の多いスポーツを避ける。
溶連菌感染症(A群溶連菌咽頭炎)の要点
・学童期(5〜15歳頃)に多い。発熱、咽頭痛、扁桃の発赤・腫大・白苔、前頸部リンパ節の圧痛を伴う腫脹、軟口蓋の点状出血、苺舌、猩紅熱様の皮疹。 ・検査: 咽頭ぬぐい液の迅速抗原検査や培養。迅速検査は特異度が高いが感度は100%ではない。採血では好中球優位の白血球増加とCRP上昇。 ・治療: ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン)を10日間投与。急性糸球体腎炎、リウマチ熱の予防が目的の一つである。 ・溶連菌らしさを評価する臨床スコアとしてCentor基準(38℃以上の発熱、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、扁桃の腫大・白苔、咳がない)があり、年齢で補正した修正版(McIsaacスコア)も用いられる。
鑑別のまとめ
・リンパ節: 溶連菌は前頸部、伝染性単核球症は後頸部を含む両側頸部〜全身。 ・血液所見: 溶連菌は好中球優位、伝染性単核球症はリンパ球優位で異型リンパ球が出現。 ・肝脾腫、肝機能障害、眼瞼浮腫は伝染性単核球症を示唆する。
POINT
・溶連菌感染症と伝染性単核球症は、発熱・咽頭発赤・扁桃白苔・咳がない点が共通し、これらは鑑別点にならない。 ・後頸部リンパ節腫脹(全身性リンパ節腫脹)は伝染性単核球症、前頸部の有痛性リンパ節腫脹は溶連菌感染症を示唆する。 ・伝染性単核球症の手がかり: 異型リンパ球、肝機能障害、肝脾腫、眼瞼浮腫。 ・伝染性単核球症にアンピシリン・アモキシシリンを投与すると皮疹が出やすい。
