StudyMed医師国家試験

頭蓋骨に小さな窓を開ける―穿頭ドリルが活躍する脳神経外科手術

第114回医師国家試験 D問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第12問

脳神経外科手術で用いる器具の写真(A)(B)を別に示す。  これらの器具を用いるのはどれか。2つ選べ。

第114回 D問題 第12問の問題画像
  1. a.脳動脈瘤に対するコイル塞栓術
  2. b.慢性硬膜下血腫に対する穿頭ドレナージ術
  3. c.下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞的腫瘍摘出術
  4. d.頸部内頸動脈狭窄に対する頸動脈内膜剝離術
  5. e.正常圧水頭症に対する脳室腹腔短絡術〈VPシャント〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳神経外科の手術器具の写真から、それを使う手術を選ぶ問題だ。まずは写真の器具が何をするための道具かを見抜くこと。それができれば、あとは選択肢の手術が「頭蓋骨に孔を開ける操作を含むかどうか」で判断できる。写真を見て、何の器具だと思う?
医学生医学生
一方は電動ドリルみたいで、もう一方は手で回すハンドドリルのように見えます。骨を削る道具でしょうか。
ドクタードクター
いい観察だね。一方は先端に穿孔用の刃を付けた動力式の頭蓋骨穿孔ドリル、もう一方はクランク状の柄を手で回す手回し式の頭蓋穿孔器で、先の尖った穿孔錐と、開けた孔を広げる円錐状の錐が付いている。どちらも頭蓋骨に直径1cm強ほどの小さな孔、つまり穿頭孔を開けるための器具なんだ。
医学生医学生
穿頭というのは、開頭術とは違うんですか。
ドクタードクター
そこが大事なところ。開頭術は骨弁を外して広い術野を得る手術だけれど、穿頭は頭蓋骨に小孔を1〜数か所開けて、そこから血腫を抜いたり、カテーテルや電極を入れたりする手技だ。局所麻酔で行えることも多く、侵襲が小さい。では、選択肢の中で穿頭が必要な手術はどれだろう。
医学生医学生
慢性硬膜下血腫は、脳外科の実習で局所麻酔のまま手術していたのを見学しました。頭に小さな孔を開けて、血腫を洗っていたと思います。
ドクタードクター
まさにそれが穿頭ドレナージ術だ。慢性硬膜下血腫は軽い頭部外傷の数週間から数か月後に、硬膜とくも膜の間に被膜に包まれた液状の血腫がたまる病気で、高齢者や飲酒者、抗血栓薬を飲んでいる人に多い。中身が流動性だから、穿頭孔を通常1か所開けて硬膜を切り、血腫を排出・洗浄し、必要ならドレーンを置く。ここで写真の器具を使うんだ。
医学生医学生
正常圧水頭症のVPシャントも、脳室にチューブを入れるなら頭蓋骨に孔が必要ですよね。
ドクタードクター
その通り。VPシャントは側脳室に脳室カテーテルを入れ、流量を調節するバルブを経て、皮下を通したチューブを腹腔に留置し、髄液を腹腔へ流す手術だ。脳室カテーテルを挿入するために穿頭孔を開けるから、これも正解になる。正常圧水頭症は歩行障害、認知機能障害、尿失禁の三徴が有名で、シャント術で改善が期待できる病気だね。
医学生医学生
脳動脈瘤のコイル塞栓術はどうでしょう。脳の手術なのでドリルが要りそうな気もしますが。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだ。コイル塞栓術は血管内治療で、大腿動脈や橈骨動脈からカテーテルを動脈瘤まで進め、プラチナ製のコイルを詰めて瘤への血流を遮断する。頭蓋骨を開けずに済むのが大きな利点だから、穿頭器具は使わない。開頭してクリップをかけるクリッピング術とは対照的だね。
医学生医学生
経蝶形骨洞手術は、鼻から入る手術だったと思います。CBTの勉強でHardy手術という名前を覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。鼻腔から蝶形骨洞を経由してトルコ鞍底を開け、下垂体腺腫を摘出する。今は内視鏡下で行うのが主流で、骨を扱うにしても専用の長い器具や内視鏡用の細いドリルを使い、頭蓋骨に穿頭孔を開けることはない。
医学生医学生
頸動脈内膜剝離術は首を切る手術なので、頭蓋骨には触れないですね。
ドクタードクター
その通り。頸部を切開して頸動脈の分岐部を露出し、血流を一時遮断して動脈を開き、肥厚したプラークを剝がし取る手術だ。操作は頸部の血管と軟部組織に限られるから、穿頭器具の出番はない。
医学生医学生
手術の到達経路を考えれば、頭蓋骨に孔を開けるかどうかは判断できるということですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展知識として、穿頭を使う手術を整理しておこう。慢性硬膜下血腫やVPシャントのほかに、急性水頭症や脳室内出血に対する脳室ドレナージ、定位的な脳内血腫吸引術や脳生検、脳深部刺激療法の電極挿入、第三脳室底開窓術などの神経内視鏡手術も穿頭から始まる。開頭術でも、最初に穿頭孔を開けてから骨を切るんだ。
医学生医学生
動力式のドリルで、勢い余って脳まで傷つけることはないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。動力式の穿孔ドリルの多くは、頭蓋骨の内板を貫通すると自動的に回転が止まるクラッチ機構を持っていて、硬膜や脳の損傷を防ぐ工夫がされている。それから、正常圧水頭症のシャント術には腰椎のくも膜下腔から腹腔へ髄液を流すLPシャントという方法もあって、こちらは穿頭を必要としない。同じ病気の手術でも術式によって使う器具が変わる点は押さえておこう。

まとめ

写真の器具は、頭蓋骨に直径1cm強の小孔を開けるための穿頭器具で、動力式の穿孔ドリルと手回し式の頭蓋穿孔器です。穿頭は骨弁を外す開頭術と異なり、小孔から血腫の排出やカテーテル・電極の挿入を行う低侵襲な手技で、慢性硬膜下血腫の穿頭ドレナージ術やVPシャントの脳室カテーテル挿入が代表例です。一方、コイル塞栓術は血管内から、経蝶形骨洞手術は鼻腔から、頸動脈内膜剝離術は頸部から到達するため穿頭は行わず、正常圧水頭症でもLPシャントでは穿頭を要しません。手術の到達経路をイメージして必要な器具を考える力は、術式の理解を深め、実習や臨床で手術の流れを把握する助けになります。

解答・解説

正解はb, eです

写真の読み取り

写真(A)は、先端に穿孔用の刃(パーフォレーター)を取り付けた動力式の頭蓋骨穿孔ドリル(電動または圧縮空気駆動)である。写真(B)は、クランク状の柄を手で回して使う手回し式の頭蓋穿孔器(ブレース)で、先の尖った平たい穿孔錐と、開けた孔を広げるための拡大用の錐(円錐)が付属している。いずれも頭蓋骨に直径1cm強程度の小さな孔(穿頭孔、burr hole)を開けるための器具である。

設問の考え方

穿頭(burr hole)とは、頭蓋骨を大きく外す開頭術とは異なり、頭蓋骨に小孔を1〜数か所開けて、そこから頭蓋内の血腫の排出やカテーテル・電極の挿入などを行う手技である。したがって本問は「選択肢の手術のうち、頭蓋骨に孔を開ける操作を含むものはどれか」を判断すればよい。 慢性硬膜下血腫に対する穿頭ドレナージ術(洗浄術)と、正常圧水頭症に対する脳室腹腔短絡術(VPシャント)の脳室カテーテル挿入は、いずれも穿頭を必要とする。これに対し、コイル塞栓術はカテーテルを血管内に通す治療、経蝶形骨洞手術は鼻腔から到達する手術、頸動脈内膜剝離術は頸部を切開する手術であり、いずれも頭蓋骨に穿頭孔を開ける操作を含まない。

選択肢考察

  1. ×a.  脳動脈瘤に対するコイル塞栓術

    コイル塞栓術は脳血管内治療の一つで、大腿動脈や橈骨動脈などを穿刺してシース(イントロデューサー)を留置し、ガイドワイヤー・ガイディングカテーテル・マイクロカテーテルを脳動脈瘤まで進め、プラチナ製の離脱式コイルを瘤内に詰めて血流を遮断する治療である。頭蓋骨を開けずに治療できることが利点であり、穿頭用のドリルは使用しない。したがって誤りである。

  2. ○b.  慢性硬膜下血腫に対する穿頭ドレナージ術

    慢性硬膜下血腫は、軽微な頭部外傷の数週間〜数か月後に、硬膜とくも膜の間に被膜に包まれた流動性の血腫が貯留する疾患である。高齢者や飲酒者、抗血栓薬内服者に多く、頭痛、片麻痺、歩行障害、認知機能低下などで発症する。血腫の内容は液状のため、局所麻酔下に頭蓋骨へ穿頭孔を通常1か所開け、硬膜を切開して血腫を排出・洗浄し、必要に応じてドレーンを留置する。この穿頭に写真の動力式ドリルや手回し式穿孔器を用いるので正しい。

  3. ×c.  下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞的腫瘍摘出術

    経蝶形骨洞手術(Hardy手術)は、鼻腔から蝶形骨洞を経由してトルコ鞍底を開放し、下垂体腺腫を摘出する手術である。現在は内視鏡下に行うのが主流で、専用の長い鑷子、骨パンチ(Kerrison鉗子)、内視鏡用の細いドリル、リングキュレットなどを用いる。頭蓋骨の外板に穿頭孔を開けることはなく、写真の穿頭器具は用いないため誤りである。

  4. ×d.  頸部内頸動脈狭窄に対する頸動脈内膜剝離術

    頸動脈内膜剝離術(CEA)は、全身麻酔下に頸部を切開して総頸動脈から内頸動脈の分岐部を露出し、血流を一時遮断したうえで動脈を切開し、肥厚した内膜(粥腫、プラーク)を剝離・除去する手術である。メス、剝離子、血流遮断用のクリップやブルドッグ鉗子、必要に応じて遮断中の脳血流を保つ内シャントチューブなどを用いる。操作は頸部の軟部組織と血管に限られ、頭蓋骨に孔を開けないので穿頭器具は使用しない。したがって誤りである。

  5. ○e.  正常圧水頭症に対する脳室腹腔短絡術〈VPシャント〉

    正常圧水頭症は、腰椎穿刺での髄液圧が正常範囲であるにもかかわらず脳室が拡大し、歩行障害、認知機能障害、尿失禁の三徴を呈する疾患で、髄液を排出する短絡術(シャント術)で症状改善が期待できる。VPシャントは、側脳室に入れた脳室カテーテルから流量調節用のバルブを経て、皮下を通したチューブを腹腔内に留置し、髄液を腹腔へ流す手術である。脳室カテーテルを挿入するために頭蓋骨へ穿頭孔を開ける必要があり、写真の器具を用いるので正しい。

穿頭術と開頭術

・穿頭術: 頭蓋骨に小孔(穿頭孔)を開ける手技。局所麻酔で行えることが多く、侵襲が小さい。 ・開頭術: 複数の穿頭孔を開け、その間を開頭用の器具(クラニオトーム)で切って骨弁を外し、広い術野を得る手技。脳動脈瘤クリッピング術や脳腫瘍摘出術などで行う。開頭術でも最初の段階で穿頭器具を用いる。

穿頭器具

・動力式(電動・圧縮空気駆動)の穿孔ドリル: 内板を貫通すると自動的に回転が止まる機構(クラッチ)を持つものが多く、硬膜や脳の損傷を防ぐ。 ・手回し式頭蓋穿孔器: クランク状の柄に、先の尖った穿孔錐で孔を開け、円錐や球状錐で孔を広げる。脳神経外科の基本的な手術器具である。

穿頭を用いる主な手術

・慢性硬膜下血腫の穿頭ドレナージ(洗浄)術 ・脳室ドレナージ(急性水頭症、脳室内出血など) ・脳室腹腔短絡術(VPシャント)の脳室カテーテル挿入 ・定位的脳内血腫吸引術、定位脳生検 ・脳深部刺激療法(DBS)の電極挿入 ・神経内視鏡手術(第三脳室底開窓術など) ・頭蓋内圧センサーの挿入

頭蓋骨を開けない脳神経外科治療

・脳血管内治療(コイル塞栓術、頸動脈ステント留置術、血栓回収療法など) ・経鼻的内視鏡手術(経蝶形骨洞手術) ・頸動脈内膜剝離術 ・腰椎腹腔短絡術(LPシャント): 正常圧水頭症では、脳室ではなく腰椎部くも膜下腔から腹腔へ髄液を流す方法もあり、こちらは穿頭を要しない。

POINT

・写真は頭蓋骨に小孔を開ける穿頭用ドリル(A: 動力式、B: 手回し式)である。 ・穿頭を要する代表的手術: 慢性硬膜下血腫の穿頭ドレナージ術、VPシャントや脳室ドレナージの脳室カテーテル挿入。 ・コイル塞栓術(血管内治療)、経蝶形骨洞手術(経鼻)、頸動脈内膜剝離術(頸部)は穿頭を行わない。 ・正常圧水頭症のシャント術にはVPシャントのほかLPシャントもあり、LPシャントでは穿頭しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。