神経筋疾患と心臓―「心筋を守られている」唯一の病気はどれか
第101回医師国家試験 F問題 第56問
国試問題にチャレンジ
心筋が障害されないのはどれか。
- a.Friedreich失調症
- b.Kearns-Sayre症候群
- c.副腎白質ジストロフィー
- d.筋強直性ジストロフィー
- e.Duchenne型筋ジストロフィー
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Duchenne型筋ジストロフィーはジストロフィン欠損による拡張型心筋症、筋強直性ジストロフィーは刺激伝導系障害による不整脈・突然死、Kearns-Sayre症候群はミトコンドリア機能障害による心伝導障害、Friedreich失調症はフラタキシン欠乏による肥大型心筋症を合併します。一方、副腎白質ジストロフィーはABCD1遺伝子異常によりペルオキシソームでの極長鎖脂肪酸の分解が障害される疾患で、障害されるのは中枢神経の白質・副腎皮質・精巣であり、心筋障害は特徴ではありません。心筋障害の仕組みを、共通タンパクの異常、多臓器での遺伝子発現異常、エネルギー代謝異常に分けて考えると整理しやすくなります。神経筋疾患では心臓合併症が生命予後を左右することが多く、定期的な心臓評価を診療計画に組み込む視点が重要です。
解答・解説
正解はcです
問われていること
神経や筋の遺伝性疾患の中には、心臓の筋肉(心筋)や刺激伝導系も障害され、心筋症・不整脈・伝導障害が命にかかわる合併症となるものが多い。本問は、選択肢の疾患のうち心臓の障害を起こさないものを選ぶ問題である。
考え方
心筋が障害される仕組みは、大きく次の3つに分けられる。 ・骨格筋と心筋に共通するタンパクの異常:ジストロフィン異常症(Duchenne型・Becker型)など。 ・多臓器に影響する遺伝子発現の異常:筋強直性ジストロフィー(異常に延びたRNAが多くの遺伝子の働きを乱す)。 ・エネルギー代謝の異常:ミトコンドリア病(Kearns-Sayre症候群)や、ミトコンドリアの鉄代謝にかかわるフラタキシンの欠乏(Friedreich失調症)。心筋はエネルギーを大量に使うため、これらで障害されやすい。 一方、副腎白質ジストロフィーはペルオキシソームでの極長鎖脂肪酸の分解障害によって、主に中枢神経の白質(髄鞘)・副腎皮質・精巣が障害される病気であり、心筋障害は特徴にならない。したがって副腎白質ジストロフィーが正解となる。
選択肢考察
- ×a. Friedreich失調症
心筋が障害される。常染色体劣性遺伝の脊髄小脳変性症で、第9染色体にあるフラタキシン(frataxin)遺伝子の第1イントロンでGAAという3塩基の繰り返しが異常に延びることが主な原因である。フラタキシンが減ると、ミトコンドリアの鉄代謝とエネルギー産生が障害される。多くは25歳までに発症し、歩行失調(小脳性と、脊髄後索の障害による感覚性の両方)、深部腱反射の消失、深部感覚障害、Babinski徴候、構音障害、凹足・脊柱側弯などの骨格変形を示す。肥大型心筋症を高い頻度で合併し、心不全や不整脈が主要な死因となる。糖尿病の合併も多い。欧米では最も多い遺伝性運動失調症だが、日本人ではきわめてまれである。
- ×b. Kearns-Sayre症候群
心筋(特に刺激伝導系)が障害される。ミトコンドリアDNAの大きな欠失によるミトコンドリア病の一つで、多くは孤発例である。20歳未満での発症、慢性進行性外眼筋麻痺(眼瞼下垂と眼球運動障害)、網膜色素変性を基本とし、これに心伝導障害(房室ブロックなど)、髄液蛋白の上昇(100 mg/dL以上)、小脳失調のいずれかを伴うことで診断される。完全房室ブロックによる突然死の危険があるため、心電図で定期的に監視し、必要ならペースメーカーを入れる。筋生検では赤色ぼろ線維(ragged-red fiber)がみられる。
- ○c. 副腎白質ジストロフィー
心筋障害は特徴として挙げられない。X連鎖劣性遺伝で、X染色体(Xq28)のABCD1遺伝子の変異により、ペルオキシソームの膜にある輸送タンパク(ALDP)が働かなくなる。そのため極長鎖脂肪酸がペルオキシソームに運ばれず分解されずに、脳・脊髄の白質、副腎皮質、精巣にたまる。主な病型は、5〜10歳頃に学業成績の低下・行動異常・視力低下・聴力低下・歩行障害・けいれんで始まり急速に進行する小児大脳型と、思春期〜成人期に緩やかに進行する痙性対麻痺を示す副腎脊髄ニューロパチー(AMN)である。副腎不全による皮膚の色素沈着や全身倦怠感を伴うことがある。障害される臓器は神経系・副腎・精巣であり、心筋ではない。
- ×d. 筋強直性ジストロフィー
心筋が障害される。常染色体優性遺伝で、1型はDMPK遺伝子のCTG繰り返しの延長による。骨格筋ではミオトニア(筋が収縮した後、すぐに緩まない)と、顔面・側頭筋・胸鎖乳突筋・遠位筋優位の筋萎縮がみられる。心臓では刺激伝導系が障害され、房室ブロックや心室性不整脈による突然死の原因となるため、ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)が必要になることがある。このほか白内障、耐糖能異常、前頭部脱毛、性腺機能低下、知的障害、平滑筋障害(嚥下障害、便秘)、免疫グロブリン(IgG)の低下など多くの臓器に症状が出る。
- ×e. Duchenne型筋ジストロフィー
心筋が障害される。X連鎖劣性遺伝で、Xp21のジストロフィン遺伝子の異常によりジストロフィンがほぼ完全に欠ける。ジストロフィンは骨格筋だけでなく心筋にもあるため、年齢とともに心筋の線維化が進み、拡張型心筋症となる。10歳代以降に心機能の低下がはっきりし、ほぼ全例に心筋障害が起こる。人工呼吸器による呼吸管理が進んだ現在では、心不全が主要な死因となっている。そのため早くからACE阻害薬やβ遮断薬による心保護治療が行われる。骨格筋の症状としては、3〜5歳頃からの転びやすさ、Gowers徴候、腓腹筋の仮性肥大があり、脊柱側弯などの骨変形も伴う。
心臓合併症に注意すべき主な神経筋疾患
・Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー:拡張型心筋症。Becker型では骨格筋症状が軽くても心筋症が重いことがある。 ・Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー:心伝導障害(房室ブロック)、心房停止。 ・筋強直性ジストロフィー:心伝導障害、不整脈、突然死。 ・ミトコンドリア病(Kearns-Sayre症候群など):心伝導障害、心筋症。 ・Friedreich失調症:肥大型心筋症。 ・Pompe病(糖原病II型):乳児型で重い肥大型心筋症。 ・Fabry病:左室肥大、伝導障害。 ・トランスサイレチン型アミロイドーシス:心アミロイドーシス(肥厚、伝導障害)。
副腎白質ジストロフィー(ALD)の要点
・遺伝形式:X連鎖劣性(ABCD1遺伝子、Xq28)。女性保因者でも中年以降に脊髄症状が出ることがある。 ・病態:ペルオキシソームでの極長鎖脂肪酸のβ酸化の障害 → 極長鎖脂肪酸が蓄積。 ・診断:血中の極長鎖脂肪酸(C26:0など)の上昇、頭部MRIで後頭葉優位の左右対称の白質病変、遺伝子検査。 ・病型:小児大脳型、思春期大脳型、成人大脳型、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、副腎不全のみの型、無症状の型。 ・治療:大脳型の早期には造血幹細胞移植が有効である。副腎不全には副腎皮質ステロイドの補充を行う。
POINT
・副腎白質ジストロフィーは中枢神経の白質・副腎・精巣を障害し、心筋障害は特徴ではない。 ・心筋障害を伴う神経筋疾患:Duchenne型・Becker型(拡張型心筋症)、筋強直性ジストロフィー(伝導障害)、Kearns-Sayre症候群(伝導障害)、Friedreich失調症(肥大型心筋症)。 ・Kearns-Sayre症候群の3徴:外眼筋麻痺、網膜色素変性、心伝導障害。 ・Duchenne型では現在、心不全が主要な死因である。
