年を重ねるほど「新しく起こりにくい」病気―好発年齢で読み解く神経疾患
第103回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
加齢に伴い発症率が低下するのはどれか。2つ選べ。
- a.認知症
- b.片頭痛
- c.ラクナ梗塞
- d.多発性硬化症
- e.Parkinson病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
神経疾患には好発年齢がはっきりしたものが多く、認知症、ラクナ梗塞、Parkinson病のように神経変性や動脈硬化を背景とする疾患は加齢とともに増加します。一方、片頭痛は10〜40歳代の女性に多く閉経後に軽快しやすく、多発性硬化症は20〜30歳代を発症のピークとする自己免疫性脱髄疾患であり、いずれも高齢での新規発症はまれです。ただし重症筋無力症のように高齢発症が増えている自己免疫疾患もあり、病態だけで年齢を決めつけない注意も必要です。臨床では、50歳以降の初発頭痛を二次性頭痛の危険信号として扱うなど、好発年齢の知識が鑑別の優先順位づけに直結します。年齢という最初に得られる情報を診断推論に生かすことが、見逃しを防ぐ第一歩になります。
解答・解説
正解はb, dです
神経疾患には、好発年齢がはっきりしているものが多い。本問は各疾患の好発年齢を思い浮かべ、「若年〜中年に多く、高齢になるほど新たに発症しにくい疾患」を2つ選ぶ問題である。 大きく分けると次の2群になる。 ・加齢とともに増える疾患: 神経細胞の変性や動脈硬化を背景とする疾患。認知症(Alzheimer型認知症、Lewy小体型認知症、血管性認知症など)、ラクナ梗塞などの脳血管障害、Parkinson病がこれにあたる。 ・若年〜中年に多く、加齢とともに減る疾患: 片頭痛(一次性頭痛)や多発性硬化症(自己免疫性の脱髄疾患)がこれにあたる。 臨床的には、この知識は鑑別診断に直結する。たとえば高齢者が初めて強い頭痛を訴えた場合、片頭痛の新規発症は考えにくいため、くも膜下出血、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、巨細胞性動脈炎などの二次性頭痛をまず疑う必要がある。同様に、高齢者に視力障害や運動・感覚障害が出現した場合も、多発性硬化症以外の脳血管障害や腫瘍などを優先して考える。
選択肢考察
- ×a. 認知症
認知症の最大の危険因子は加齢である。有病率は65歳以降、年齢階層が5歳上がるごとにほぼ倍増するといわれ、指数関数的に増加する。85歳以上では有病率が4割を超えるとする報告もある。したがって加齢に伴い発症率は上昇する。
- ○b. 片頭痛
片頭痛は思春期から40歳代にかけての女性に多い一次性頭痛で、有病率のピークは30〜40歳代にある。女性は男性の3〜4倍多く、エストロゲンの変動との関連が指摘されており、月経時に悪化し、閉経後は軽快・消失することが多い。50歳以降に初めて片頭痛を発症することはまれであり、加齢に伴い発症率は低下する。
- ×c. ラクナ梗塞
ラクナ梗塞は、穿通枝(脳深部に入る細い動脈)が高血圧などによる細動脈硬化で閉塞して生じる、直径15mm未満の小梗塞である。背景となる動脈硬化は加齢とともに進行するため、高齢者に多く、しばしば多発する。多発性ラクナ梗塞は血管性認知症や血管性パーキンソニズムの原因にもなる。加齢に伴い発症率は上昇する。
- ○d. 多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は中枢神経の髄鞘が自己免疫機序で障害され、時間的・空間的に多発する脱髄病変をきたす疾患である。発症年齢は15〜50歳に多く、ピークは20〜30歳代で、女性に多い。50歳以上での新規発症はまれであるため、加齢に伴い発症率は低下する。
- ×e. Parkinson病
Parkinson病は中脳黒質のドパミン神経細胞が変性・脱落する神経変性疾患で、発症は50〜70歳代に多い。有病率は年齢とともに上昇し、高齢者ほど多い疾患である。なお40歳以下で発症するものは若年性パーキンソニズムとよばれ、遺伝性の病型が含まれることが多い。
主な神経疾患の好発年齢の目安
・片頭痛: 10〜40歳代の女性に多い。閉経後は軽快しやすい。 ・群発頭痛: 20〜40歳代の男性に多い。 ・多発性硬化症: 20〜30歳代が発症のピーク、女性に多い。 ・視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD): MSよりやや高い30〜40歳代に多く、女性の比率がさらに高い。 ・重症筋無力症: 若年女性と高齢者の二峰性。近年は高齢発症例が増加している。 ・Parkinson病: 50〜70歳代で発症し、高齢ほど多い。 ・Alzheimer型認知症: 高齢になるほど急増する。 ・ラクナ梗塞: 高血圧を背景に高齢者に多い。 ・筋萎縮性側索硬化症(ALS): 中年以降(60〜70歳代)に多い。
高齢者の初発頭痛で注意すべき疾患
片頭痛・緊張型頭痛などの一次性頭痛は若年で発症するのが通常であり、50歳以降に新たに出現した頭痛は二次性頭痛を疑う「危険なサイン」の一つとされる。くも膜下出血、脳出血、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、緑内障発作などを鑑別する。
ラクナ梗塞の要点
穿通枝領域の小梗塞で、純粋運動性片麻痺、純粋感覚性卒中、失調性不全片麻痺、構音障害・手不器用症候群などのラクナ症候群を呈する。最大の危険因子は高血圧である。
POINT
・加齢とともに発症率が上がる: 認知症、ラクナ梗塞(脳血管障害)、Parkinson病など変性・動脈硬化を背景とする疾患。 ・加齢とともに発症率が下がる: 片頭痛(10〜40歳代女性)、多発性硬化症(20〜30歳代女性)。 ・高齢者の初発頭痛や初発の神経症状では、片頭痛や多発性硬化症以外の疾患(二次性頭痛、脳血管障害、腫瘍など)をまず考える。
