ドパミンを止めると母乳が出る?―抗精神病薬の副作用を「4つの経路」で読み解く
第103回医師国家試験 B問題 第16問
国試問題にチャレンジ
抗精神病薬の副作用はどれか。
- a.歯肉の肥厚
- b.乳汁分泌
- c.小脳失調
- d.多毛
- e.下痢
対話形式の解説
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ドクターまとめ
抗精神病薬はドパミンD2受容体を遮断して中脳辺縁系の過剰なドパミン伝達を抑えますが、他の経路でも遮断が起こるため、黒質線条体系では錐体外路症状、漏斗下垂体系では高プロラクチン血症による乳汁分泌・無月経・女性化乳房が生じます。さらに抗コリン作用による便秘・口渇・尿閉、抗α1作用による起立性低血圧、抗ヒスタミン作用による眠気・体重増加、非定型薬での代謝異常、そして重篤な悪性症候群にも注意が必要です。歯肉増殖・小脳失調・多毛はフェニトインなど抗てんかん薬やシクロスポリン、ステロイドの副作用であり、抗精神病薬ではむしろ下痢より便秘が問題になります。副作用を「どの受容体・どの経路を遮断した結果か」で理解すると、初めて見る薬でも副作用を予測でき、処方時の説明や副作用モニタリングに活かせます。
解答・解説
正解はbです
抗精神病薬は、統合失調症をはじめとする精神病状態の幻覚・妄想や精神運動興奮を抑える薬剤である。主な作用点は脳内のドパミンD2受容体の遮断であり、中脳辺縁系のドパミン伝達を抑えることで陽性症状を改善すると考えられている。 しかし D2 受容体は中脳辺縁系以外にも存在し、そこでの遮断が副作用として現れる。 ・黒質線条体系の遮断 → 錐体外路症状(薬剤性パーキンソニズム、急性ジストニア、アカシジア、遅発性ジスキネジア) ・漏斗下垂体系(隆起漏斗系)の遮断 → 高プロラクチン血症(乳汁分泌、無月経、女性化乳房、性機能障害) ・中脳皮質系の遮断 → 陰性症状・認知機能の悪化 さらに多くの抗精神病薬は抗コリン作用、抗α1アドレナリン作用、抗ヒスタミン作用も併せ持つため、口渇・便秘・尿閉、起立性低血圧、眠気・体重増加なども起こる。 本問では、このドパミン遮断作用に直結する「乳汁分泌」を選べばよい。他の選択肢は抗てんかん薬や副腎皮質ステロイドなど別の薬剤に特徴的な副作用であり、「どの薬でどの副作用が出やすいか」を対応づけて覚えておくと判断しやすい。
選択肢考察
- ×a. 歯肉の肥厚
歯肉増殖(歯肉肥厚)は抗てんかん薬のフェニトインの代表的な副作用である。ほかにカルシウム拮抗薬(ニフェジピンなど)や免疫抑制薬のシクロスポリンでもみられる。抗精神病薬に特徴的な副作用ではない。
- ○b. 乳汁分泌
下垂体前葉からのプロラクチン分泌は、視床下部から漏斗を経て届くドパミンによって常に抑制されている。抗精神病薬がこの経路の D2 受容体を遮断すると抑制が外れ、高プロラクチン血症となる。その結果、乳汁分泌が起こり、女性では無月経・月経不順、男性では女性化乳房や性機能低下もみられる。乳汁分泌は女性に多いが男性にも起こりうる。スルピリドやリスペリドン、ハロペリドールなどで起こりやすく、アリピプラゾール(D2 部分作動薬)では起こりにくい。
- ×c. 小脳失調
眼振やふらつき、構音障害などの小脳失調症状は、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、ゾニサミドなどの抗てんかん薬の過量・中毒でみられる。気分安定薬の炭酸リチウム中毒でも生じる。抗精神病薬で起こる運動症状は主に錐体外路症状であり、小脳失調とは区別する。
- ×d. 多毛
多毛は副腎皮質ステロイドの長期投与でみられるほか、フェニトインやシクロスポリン、ミノキシジルでも生じる。抗精神病薬の典型的な副作用ではない。
- ×e. 下痢
多くの抗精神病薬は抗コリン作用をもち、腸管蠕動を低下させるため、下痢よりもむしろ便秘を起こしやすい。特にクロザピンやクロルプロマジンなどでは便秘が問題となり、重症例では麻痺性イレウスに至ることもある。下痢は炭酸リチウムなど他の薬剤で目立つ副作用である。
抗精神病薬の分類
・定型(第一世代)抗精神病薬: ハロペリドール(ブチロフェノン系)、クロルプロマジン(フェノチアジン系)など。D2 遮断作用が主体で、錐体外路症状や高プロラクチン血症を起こしやすい。 ・非定型(第二世代)抗精神病薬: リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、クロザピンなど。D2 に加えセロトニン5-HT2A 受容体遮断作用などをもち、錐体外路症状は比較的少ない。一方で体重増加、耐糖能異常・糖尿病、脂質異常症などの代謝系副作用に注意が必要であり、オランザピンとクエチアピンは糖尿病患者には禁忌である。クロザピンは無顆粒球症の危険があり、定期的な血液検査が義務づけられている。
抗精神病薬の主な副作用
・錐体外路症状: 急性ジストニア(投与早期)、薬剤性パーキンソニズム、アカシジア(静座不能)、遅発性ジスキネジア(長期投与後、口周囲の不随意運動など) ・悪性症候群: 高熱、筋強剛、意識障害、自律神経症状、血清CK上昇。ダントロレンなどで治療する。 ・内分泌: 高プロラクチン血症(乳汁分泌、無月経、女性化乳房) ・抗コリン作用: 口渇、便秘、尿閉、かすみ目 ・抗α1作用: 起立性低血圧 ・抗ヒスタミン作用: 眠気、体重増加 ・その他: QT延長、水中毒、代謝異常
用語の整理
抗精神病薬は神経遮断薬、メジャートランキライザーとも呼ばれる。似た言葉の「向精神薬」は抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬なども含む、中枢神経に作用して精神機能に影響する薬剤の総称であり、意味が異なる。
他剤の特徴的副作用の対比
・フェニトイン: 歯肉増殖、多毛、小脳失調、眼振 ・カルバマゼピン: 複視、ふらつき、Stevens-Johnson症候群、低ナトリウム血症 ・バルプロ酸: 肝障害、高アンモニア血症、脱毛、催奇形性 ・炭酸リチウム: 振戦、下痢、多尿、甲状腺機能低下症、中毒時の小脳失調 ・副腎皮質ステロイド: 満月様顔貌、多毛、ざ瘡、耐糖能異常、骨粗鬆症
POINT
・抗精神病薬は漏斗下垂体系の D2 受容体を遮断し、高プロラクチン血症(乳汁分泌、無月経、女性化乳房)を起こす。 ・抗精神病薬の副作用は錐体外路症状、悪性症候群、高プロラクチン血症、抗コリン作用(便秘など)、起立性低血圧、代謝異常が柱である。 ・歯肉増殖・多毛・小脳失調はフェニトイン、多毛はステロイドでも起こる。 ・抗精神病薬では下痢よりも便秘が問題になる。
