頭蓋底の「出口」を地図で覚える―脳神経と孔の対応を前から後ろへ整理する
第103回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.上眼窩裂 ―― 視神経
- b.卵円孔 ―― 上顎神経
- c.正円孔 ―― 下顎神経
- d.内耳孔 ―― 顔面神経
- e.頸静脈孔 ―― 迷走神経
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脳神経が頭蓋底を抜ける通路は、前頭蓋窩・中頭蓋窩・後頭蓋窩の順に整理すると覚えやすく、嗅神経は篩板、視神経は視神経管、動眼・滑車・外転神経と眼神経は上眼窩裂を通ります。三叉神経の枝は眼神経が上眼窩裂、上顎神経が正円孔、下顎神経が卵円孔と前から後ろへ並び、棘孔には中硬膜動脈が通ります。後頭蓋窩では内耳孔を顔面神経と内耳神経が、頸静脈孔を舌咽・迷走・副神経と内頸静脈が通り、舌下神経は舌下神経管を通ります。この対応は、上眼窩裂症候群・眼窩先端部症候群・小脳橋角部腫瘍・頸静脈孔症候群などで、障害された神経の組合せから病変部位を推定する際に直接役立ちます。孔と神経を「地図」として理解しておくことは、神経診察と画像診断を結びつける基礎になります。
解答・解説
正解はd, eです
本問は、脳神経が頭蓋腔から外へ出るときに通る孔(孔・管・裂)の組合せを問う解剖学の基本問題である。 脳神経は12対あり、それぞれ決まった通路を通って頭蓋底を抜ける。前方から順に整理すると覚えやすい。 ・前頭蓋窩:嗅神経(Ⅰ)→篩板 ・中頭蓋窩:視神経(Ⅱ)→視神経管、動眼神経(Ⅲ)・滑車神経(Ⅳ)・眼神経(Ⅴ1)・外転神経(Ⅵ)→上眼窩裂、上顎神経(Ⅴ2)→正円孔、下顎神経(Ⅴ3)→卵円孔 ・後頭蓋窩:顔面神経(Ⅶ)・内耳神経(Ⅷ)→内耳孔(内耳道)、舌咽神経(Ⅸ)・迷走神経(Ⅹ)・副神経(Ⅺ)→頸静脈孔、舌下神経(Ⅻ)→舌下神経管 三叉神経の3枝は、眼神経→上眼窩裂、上顎神経→正円孔、下顎神経→卵円孔の順に、上(前)から下(後)へ並ぶと覚えるとよい。この対応に照らすと、正しい組合せは「内耳孔―顔面神経」と「頸静脈孔―迷走神経」の2つである。
選択肢考察
- ×a. 上眼窩裂 ―― 視神経
視神経(Ⅱ)は、眼動脈とともに蝶形骨小翼の根元にある視神経管を通って眼窩に入る。上眼窩裂は蝶形骨の大翼と小翼の間の裂け目で、眼球運動に関わる動眼神経(Ⅲ)・滑車神経(Ⅳ)・外転神経(Ⅵ)と、三叉神経第1枝の眼神経(Ⅴ1)、および上眼静脈などが通る。したがって誤りである。
- ×b. 卵円孔 ―― 上顎神経
卵円孔は蝶形骨大翼の後方にある卵円形の孔で、三叉神経第3枝の下顎神経(Ⅴ3)が通る。上顎神経(Ⅴ2)は正円孔を通って翼口蓋窩へ出る。したがって誤りである。
- ×c. 正円孔 ―― 下顎神経
正円孔は蝶形骨大翼の前内側にある孔で、三叉神経第2枝の上顎神経(Ⅴ2)が通る。下顎神経(Ⅴ3)は卵円孔を通る。選択肢bとは孔と神経の対応が入れ替わっており、誤りである。
- ○d. 内耳孔 ―― 顔面神経
内耳孔は側頭骨錐体の後面に開く内耳道の入口で、顔面神経(Ⅶ、味覚や分泌を担う中間神経を含む)、内耳神経(Ⅷ、蝸牛神経と前庭神経)、および迷路動脈が通る。顔面神経はその後、側頭骨内の顔面神経管を走り、茎乳突孔から頭蓋外へ出て表情筋を支配する。聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)で難聴・耳鳴に加えて顔面神経の症状が出ることがあるのは、両神経が同じ通路を通るためである。正しい組合せである。
- ○e. 頸静脈孔 ―― 迷走神経
頸静脈孔は側頭骨と後頭骨の間にある孔で、舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)、副神経(Ⅺ)の3本の脳神経と、S状静脈洞から続く内頸静脈(および下錐体静脈洞)が通る。この部位の腫瘍などでⅨ・Ⅹ・Ⅺがまとめて障害されると、嚥下障害・嗄声・胸鎖乳突筋と僧帽筋の筋力低下を来す(頸静脈孔症候群、Vernet症候群)。正しい組合せである。
頭蓋底の主な孔と通過する構造
・篩板:嗅神経(Ⅰ) ・視神経管:視神経(Ⅱ)、眼動脈 ・上眼窩裂:動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)、眼神経(Ⅴ1)、外転神経(Ⅵ)、上眼静脈 ・正円孔:上顎神経(Ⅴ2) ・卵円孔:下顎神経(Ⅴ3) ・棘孔:中硬膜動脈(頭部外傷での急性硬膜外血腫の出血源として重要) ・内耳孔(内耳道):顔面神経(Ⅶ)、内耳神経(Ⅷ)、迷路動脈 ・茎乳突孔:顔面神経(Ⅶ)が頭蓋外へ出る出口 ・頸静脈孔:舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)、副神経(Ⅺ)、内頸静脈 ・舌下神経管:舌下神経(Ⅻ) ・大後頭孔(大孔):延髄、椎骨動脈、副神経の脊髄根 ・頸動脈管:内頸動脈
海綿静脈洞を通る構造
外側壁を動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)、眼神経(Ⅴ1)、上顎神経(Ⅴ2)が走り、洞内を内頸動脈と外転神経(Ⅵ)が通る。海綿静脈洞症候群や内頸動脈海綿静脈洞瘻では、これらの神経の障害による眼球運動障害や顔面の感覚障害が生じる。
臨床との関連
・上眼窩裂症候群:Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ・Ⅴ1の障害による全眼筋麻痺と前額部の感覚障害。視神経は通らないため、視力障害を伴えば眼窩先端部症候群を考える。 ・小脳橋角部腫瘍:内耳道周辺でⅦ・Ⅷ(進行するとⅤなど)が障害される。
POINT
・三叉神経の3枝:Ⅴ1→上眼窩裂、Ⅴ2→正円孔、Ⅴ3→卵円孔。 ・視神経は視神経管を通り、上眼窩裂は通らない。 ・内耳孔:Ⅶ・Ⅷ。顔面神経は最終的に茎乳突孔から頭蓋外へ出る。 ・頸静脈孔:Ⅸ・Ⅹ・Ⅺと内頸静脈。舌下神経(Ⅻ)は舌下神経管。 ・棘孔には中硬膜動脈が通る。
