長引く咳は「痰」と「随伴症状」で読み解く―後鼻漏が指すのは胃ではなく鼻
第114回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
慢性咳嗽の原因疾患とその特徴の組合せで誤っているのはどれか。
- a.COPD ―― 喫煙歴
- b.咳喘息 ―― 季節性
- c.アトピー咳嗽 ―― 咽喉頭瘙痒感
- d.胃食道逆流症 ―― 後鼻漏
- e.副鼻腔気管支症候群 ―― 膿性痰
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
慢性咳嗽は8週間以上続く咳で、まず痰の有無で乾性と湿性に分け、喫煙歴、時間帯や季節、のどのかゆみ、胸やけ、鼻症状などの随伴症状で原因を絞り込みます。COPDは喫煙歴、咳喘息は夜間〜早朝の悪化と季節性で気管支拡張薬が有効、アトピー咳嗽は咽喉頭のかゆみで気管支拡張薬が無効、副鼻腔気管支症候群は膿性痰と後鼻漏で14員環マクロライドが有効という対応が基本です。後鼻漏は鼻・副鼻腔疾患の所見であり、胃食道逆流症の特徴は胸やけや呑酸、食後や臥位での咳の悪化で、PPIで治療します。胸部X線による結核・肺癌の除外やACE阻害薬の薬歴確認も含め、咳の性状と随伴症状から「どこの病気か」を推論する姿勢は、外来でありふれた長引く咳を適切に診るための土台になります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
慢性咳嗽を起こす代表的な疾患と、それぞれの診断の手がかりとなる特徴を対応させる問題である。日本の咳嗽診療ガイドラインでは、咳が続く期間により、3週間未満を急性咳嗽、3週間以上8週間未満を遷延性咳嗽、8週間以上を慢性咳嗽と分類する。急性咳嗽はかぜなどの感染症が主な原因であるが、長引くほど感染症以外の原因が多くなる。
正解を導く考え方
慢性咳嗽の原因を見分けるときは、まず痰の有無で大きく分けると整理しやすい。 ・痰をほとんど伴わない乾いた咳(乾性咳嗽):咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、ACE阻害薬による咳、感染後咳嗽など。 ・痰を伴う湿った咳(湿性咳嗽):副鼻腔気管支症候群、COPD(慢性気管支炎型)、気管支拡張症など。 そのうえで、喫煙歴、症状の出る時間帯や季節、のどのかゆみ、胸やけ、鼻症状(後鼻漏)などの随伴症状を手がかりに原因を絞り込む。 後鼻漏(鼻汁がのどの奥へ流れ落ちる状態)は、鼻・副鼻腔の病気、とくに副鼻腔気管支症候群の特徴であり、胃食道逆流症の特徴ではない。胃食道逆流症に対応する特徴は胸やけや呑酸(すっぱいものが上がってくる感じ)などである。したがって誤っている組合せはdである。
選択肢考察
- ×a. COPD ―― 喫煙歴
組合せとして正しい(誤りを選ぶ問題なので正解肢ではない)。COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、タバコの煙を主とする有害物質を長期間吸い込むことで生じる肺の炎症性疾患であり、喫煙は最大の危険因子である。長い喫煙歴のある中高年者が、慢性の咳・痰や労作時の息切れを訴えるのが典型である。診断には、気管支拡張薬を吸入した後のスパイロメトリーで1秒率(FEV1/FVC)が70%未満であることを確認する。
- ×b. 咳喘息 ―― 季節性
組合せとして正しい。咳喘息は、喘鳴や呼吸困難を伴わず咳だけが続く喘息の亜型であり、気道過敏性の亢進と好酸球性の気道炎症がみられる。症状は夜間から早朝に悪化しやすく、季節の変わり目、寒暖差、気候の変化、花粉などのアレルゲンなどをきっかけに起こりやすいため、季節性がみられることが多い。気管支拡張薬が咳に効くことが診断の大きな手がかりであり、治療の中心は吸入ステロイド薬である。放置すると典型的な喘息に移行することがある。
- ×c. アトピー咳嗽 ―― 咽喉頭瘙痒感
組合せとして正しい。アトピー咳嗽は、アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)をもつ人にみられる乾いた咳で、のどのイガイガ感やかゆみ(咽喉頭瘙痒感)を伴うのが特徴である。咳喘息とは異なり気道過敏性の亢進はなく、気管支拡張薬は効かない。ヒスタミンH1受容体拮抗薬や吸入ステロイド薬が有効であり、喘息への移行はないとされる。
- ○d. 胃食道逆流症 ―― 後鼻漏
誤った組合せであり、これが正解である。胃食道逆流症(GERD)による咳は、逆流した胃酸が食道の下部を刺激して神経反射で咳を引き起こす経路と、咽喉頭まで逆流した胃内容物が直接刺激する経路によって生じる。特徴は、胸やけや呑酸などの逆流症状、食後・会話中・起床時・前かがみや横になったときに咳が出やすいこと、声がれやのどの違和感などである。治療ではプロトンポンプ阻害薬(PPI)などで胃酸の分泌を抑える。一方、後鼻漏は鼻腔や副鼻腔からの分泌物がのどへ流れ落ちる状態であり、副鼻腔気管支症候群(慢性副鼻腔炎)やアレルギー性鼻炎など、鼻・副鼻腔の疾患の特徴である。
- ×e. 副鼻腔気管支症候群 ―― 膿性痰
組合せとして正しい。副鼻腔気管支症候群(SBS)は、慢性副鼻腔炎に、慢性気管支炎・気管支拡張症・びまん性汎細気管支炎などの下気道の慢性炎症が合併した病態である。上気道と下気道の両方に好中球性の炎症があり、膿性痰を伴う湿った咳が特徴である。鼻汁、鼻閉、後鼻漏などの鼻の症状も伴う。治療には14員環マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン)の少量長期投与が有効である。
咳嗽の期間による分類(日本のガイドライン)
・急性咳嗽:3週間未満。かぜなどの気道感染症が多い。 ・遷延性咳嗽:3週間以上8週間未満。感染後咳嗽が多い。 ・慢性咳嗽:8週間以上。感染症以外の原因が多い。
慢性咳嗽の主な原因と特徴
・咳喘息:乾性咳嗽。夜間~早朝に悪化し、季節性がある。気道過敏性亢進、喀痰中の好酸球増加。気管支拡張薬が有効。吸入ステロイド薬で治療する。日本では慢性咳嗽の原因として頻度が高い。 ・アトピー咳嗽:乾性咳嗽。のどのかゆみ。気道過敏性の亢進はなく、気管支拡張薬は無効。H1受容体拮抗薬や吸入ステロイド薬が有効。 ・副鼻腔気管支症候群:湿性咳嗽(膿性痰)、後鼻漏、鼻汁。14員環マクロライドの少量長期投与が有効。 ・胃食道逆流症:乾性咳嗽。胸やけ・呑酸、食後・会話中・臥位で悪化。PPIで治療する。 ・COPD:喫煙歴、慢性の咳・痰、労作時の息切れ。スパイロメトリーで閉塞性換気障害(気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満)。 ・ACE阻害薬による咳:降圧薬であるACE阻害薬の服用中に生じる乾いた咳。ブラジキニンなどの分解が抑えられて蓄積することが関係する。服薬を中止すれば軽快するため、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などに変更する。 ・感染後咳嗽:かぜの後に続く乾いた咳で、多くは自然に軽快する。 ・その他:百日咳、マイコプラズマや肺炎クラミジアなどの感染症、非喘息性好酸球性気管支炎、肺結核、肺癌、間質性肺炎、心不全など。結核や肺癌を見逃さないよう、胸部X線で器質的な病変を確認することが基本である。
後鼻漏について
後鼻漏は、鼻や副鼻腔の分泌物がのどの奥へ流れ落ちる状態であり、「のどに鼻水が流れる」「のどに痰がからむ」といった訴えで表現される。副鼻腔気管支症候群、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎などでみられ、これらの上気道の病気による咳を、上気道咳嗽症候群(UACS)とまとめて呼ぶこともある。
POINT
・慢性咳嗽は8週間以上続く咳である(3週間未満:急性、3~8週間:遷延性)。 ・COPD → 喫煙歴。 ・咳喘息 → 夜間~早朝に悪化、季節性、気管支拡張薬が有効。 ・アトピー咳嗽 → 咽喉頭のかゆみ、気管支拡張薬は無効、H1受容体拮抗薬が有効。 ・胃食道逆流症 → 胸やけ・呑酸、食後や臥位で悪化、PPIで治療。 ・副鼻腔気管支症候群 → 膿性痰・後鼻漏、14員環マクロライドの少量長期投与。 ・後鼻漏は鼻・副鼻腔疾患の所見であり、胃食道逆流症の特徴ではない。
