繰り返す眼痛と虹視―浅い前房が招く「小発作」を根本から断つ
第113回医師国家試験 F問題 第55問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。5か月前からしばしば眼痛,虹視および軽度の頭痛を自覚しており,精査を希望して来院した。視力は右0.3(1.0×+2.5 D),左0.2(1.0×+3.0 D)。眼圧は右19mmHg,左24mmHg。左眼の細隙灯顕微鏡写真を別に示す。 適切な対応はどれか。

- a.アトロピン点眼
- b.副腎皮質ステロイド点眼
- c.高浸透圧利尿薬点滴
- d.レーザー虹彩切開術
- e.硝子体手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢女性、遠視、浅前房・狭隅角に、間欠的な眼痛・虹視・頭痛が加われば、原発閉塞隅角緑内障による小発作の反復を考えます。多くは虹彩と水晶体の接触による相対的瞳孔ブロックが原因であり、周辺虹彩に孔を開けて房水の迂回路を作るレーザー虹彩切開術が根本治療となり、水晶体の関与が大きければ水晶体再建術も選択肢です。高浸透圧利尿薬は急性発作時の一時的な眼圧下降に用いる薬で隅角閉塞は解消せず、アトロピンなどの散瞳薬は発作を誘発するため禁忌です。抗コリン作用をもつ薬剤による発作誘発や、頭痛・嘔吐を主訴とする発作の見逃しは他科でも起こりうるため、閉塞隅角緑内障の病態を理解しておくことは全ての医師にとって重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・68歳女性。高齢の女性は原発閉塞隅角緑内障の好発層である。 ・5か月前から眼痛、虹視(光の周囲に虹色の輪が見える症状。眼圧上昇による角膜浮腫で生じる)、軽度の頭痛を繰り返している。これは隅角が一時的に閉塞して眼圧が上がり、自然に再開放して治まる「小発作(間欠的な閉塞隅角発作)」を示唆する。 ・視力は両眼とも+2.5〜+3.0Dの凸レンズで1.0に矯正される遠視である。遠視眼は眼軸長が短く、前房が浅く隅角が狭いことが多い。 ・眼圧は右19mmHg(正常上限付近)、左24mmHg(上昇)。 ・左眼の細隙灯顕微鏡写真では、充血や角膜浮腫、前房内の炎症所見などの急性発作の所見はなく、前房が浅く、隅角が狭い(狭隅角)ことがわかる。
診断
高齢女性、遠視、狭隅角、眼圧上昇、間欠的な眼痛・虹視・頭痛から、原発閉塞隅角緑内障(または狭隅角眼に生じる間欠的な閉塞隅角発作)と診断される。前眼部の炎症所見がないことから、ぶどう膜炎に伴う続発緑内障は否定的であり、隅角が狭いことから開放隅角緑内障とも異なる。
設問の考え方
現在は急性発作の真っ只中ではなく、発作を繰り返している狭隅角眼である。この段階で求められるのは、一時的に眼圧を下げる治療ではなく、隅角閉塞の原因を取り除いて今後の発作を防ぐ根本的な治療である。閉塞隅角の多くは、虹彩と水晶体が接触して房水が後房から前房へ流れにくくなり、後房の圧が上がって虹彩が前方へ押し出される「相対的瞳孔ブロック」による。虹彩に小孔を開けて房水の迂回路を作るレーザー虹彩切開術は、この瞳孔ブロックを解除する代表的な治療である。
選択肢考察
- ×a. アトロピン点眼
誤り(禁忌)。アトロピンは抗コリン薬で、瞳孔括約筋を弛緩させて散瞳を起こす。散瞳すると周辺部の虹彩が厚く折りたたまれて隅角側に寄り、狭隅角眼では隅角が閉塞して急性閉塞隅角緑内障の発作を誘発する。閉塞隅角緑内障・狭隅角眼には禁忌である。逆に発作時には縮瞳薬(ピロカルピン)を点眼して虹彩を隅角から引き離す。
- ×b. 副腎皮質ステロイド点眼
誤り。副腎皮質ステロイド点眼は、急性発作時や術後に前房内の炎症を抑える目的で用いることはあるが、本例の前眼部には炎症所見がなく使う理由がない。また、隅角閉塞という構造的な原因は解消できない。さらにステロイドの長期使用は房水流出抵抗を高めて眼圧を上昇させる(ステロイド緑内障)ことがあり、漫然とした使用は避けるべきである。
- ×c. 高浸透圧利尿薬点滴
誤り。D-マンニトールやグリセリンなどの高浸透圧薬は、血漿浸透圧を上げて硝子体から水分を引き出し、硝子体容積を減らして眼圧を急速に下げる。急性閉塞隅角緑内障発作で高い眼圧を一時的に下げる目的では用いるが、効果は一過性で隅角閉塞を解消しない。本例は現在急性発作中ではなく、眼圧も24mmHgにとどまっており、発作予防のための根本治療が必要な段階である。
- ○d. レーザー虹彩切開術
正しい。レーザー虹彩切開術(LI)は、周辺部虹彩にレーザーで小孔を開け、後房から前房へ房水が直接流れる通路を作る治療である。これにより後房と前房の圧差が解消して虹彩の前方膨隆(iris bombé)が平坦化し、隅角が広がって閉塞が起こりにくくなる。外来で短時間に施行でき、相対的瞳孔ブロックによる閉塞隅角緑内障や、その発作予防に用いられる代表的な治療である。合併症として角膜内皮障害(水疱性角膜症)があるため、術前に角膜内皮細胞密度を確認する。なお、高齢者で水晶体の厚みが隅角閉塞に大きく関与する場合は、水晶体再建術(白内障手術)も有力な根本治療となる。
- ×e. 硝子体手術
誤り。硝子体手術は網膜剝離、増殖糖尿病網膜症、硝子体出血、黄斑円孔など、眼の後方(硝子体・網膜)の疾患に対する手術である。閉塞隅角緑内障の主因である瞳孔ブロックや狭い隅角という前眼部の構造は改善せず、本例の適応ではない。
房水の流れと緑内障
房水は毛様体で産生されて後房に出て、瞳孔を通って前房へ流れ、隅角の線維柱帯からSchlemm管を経て眼外へ排出される(主経路)。この流出が妨げられると眼圧が上昇する。 ・開放隅角緑内障:隅角は開いているが線維柱帯などの流出抵抗が高い。慢性に進行し自覚症状に乏しい。 ・閉塞隅角緑内障:虹彩によって隅角が物理的に塞がれ、房水が流出できなくなる。
原発閉塞隅角緑内障の危険因子
高齢、女性、遠視(短眼軸)、加齢による水晶体の厚みの増加、浅前房、アジア系の人種などが挙げられる。
急性閉塞隅角緑内障発作の症状と誘因
急激な眼痛、頭痛、悪心・嘔吐、霧視、虹視、毛様充血、角膜浮腫、中等度散瞳と対光反射減弱、浅前房、著明な眼圧上昇(40〜80mmHgに達することもある)がみられる。頭痛や嘔吐が前面に出て脳血管障害や消化器疾患と誤認されることがあり注意を要する。暗所、うつむき姿勢、散瞳作用のある薬剤(抗コリン薬、一部の抗うつ薬、感冒薬など)、精神的興奮が誘因となる。本例のように軽い発作を繰り返した後に大発作を起こすことがある。
治療の流れ
・急性発作時:まず薬物で眼圧を下げる。縮瞳薬(ピロカルピン)点眼、高浸透圧薬(D-マンニトール点滴など)、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)、β遮断薬点眼などを用いる。 ・眼圧下降後(または並行して):根本治療としてレーザー虹彩切開術、周辺虹彩切除術、水晶体再建術を行う。 ・僚眼(反対眼)も狭隅角であることが多く、予防的なレーザー虹彩切開術などを検討する。
狭隅角眼での禁忌薬
散瞳薬(アトロピンなど)や抗コリン作用をもつ薬剤(ブチルスコポラミン、三環系抗うつ薬、一部の抗ヒスタミン薬など)は、狭隅角眼で発作を誘発しうるため禁忌または慎重投与となる。
POINT
・高齢女性+遠視+狭隅角+間欠的な眼痛・虹視・頭痛 → 原発閉塞隅角緑内障(小発作の反復)。 ・根本治療はレーザー虹彩切開術(または水晶体再建術)で瞳孔ブロックを解除すること。 ・高浸透圧薬点滴は急性発作時の一時的な眼圧下降目的で、根本治療ではない。 ・アトロピンなどの散瞳薬は閉塞隅角緑内障・狭隅角眼に禁忌。発作時は縮瞳薬(ピロカルピン)を用いる。
