StudyMed医師国家試験

BCG問診票で立ち止まるべき2行―「生ワクチン」と「結核の家」を読み解く

第113回医師国家試験 F問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第35問

6か月の乳児のBCG予防接種時の問診票から得た情報のうち,接種に際して注意を要し詳細を確認すべきなのはどれか。2つ選べ。

  1. a.母親が卵アレルギーである。
  2. b.兄が先天性免疫不全症である。
  3. c.同居の祖父が肺結核で入院中である。
  4. d.本人の接種当日の体温が37.0℃である。
  5. e.本人が2週間前にB型肝炎予防接種を受けた。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は予防接種の問診票をどう読むかという問題だ。BCGには2つの大事な性質がある。1つは弱毒化したウシ型結核菌を使う生ワクチンであること、もう1つは結核を予防するためのワクチンであること。この2点を物差しにして、問診票の各情報が接種判断に関わるかどうかを考えていこう。
医学生医学生
生ワクチンなので、まず本人の免疫状態が気になります。でも免疫不全なのは本人ではなくお兄さんですよね。本人に関係あるんでしょうか。
ドクタードクター
そこが考えどころだ。先天性免疫不全症の多くは常染色体劣性やX連鎖性の遺伝形式をとるから、同胞が罹患していれば本人も同じ病気を持っている可能性がある。乳児期にはまだ症状が目立たず、診断がついていないことも多いんだ。
医学生医学生
小児科の講義で、重症複合免疫不全症の子にBCGを打って全身に菌が広がった例があると聞きました。
ドクタードクター
まさにそれが播種性BCG感染症だね。重症複合免疫不全症や慢性肉芽腫症、マイコバクテリアへの易感染性をもつ遺伝性疾患などでは、弱毒菌でも全身に広がって重篤になり得る。だから予防接種実施要領でも「近親者に先天性免疫不全症の者がいる」ことは接種要注意者に挙げられている。兄の病名、本人の感染症歴や成長の様子を確認し、必要なら免疫学的評価をしてから可否を判断するんだ。
医学生医学生
もう1つの物差し、結核予防という点では、同居の祖父が肺結核で入院中という情報が引っかかります。
ドクタードクター
その通り。同居していたなら、乳児はすでに結核菌に曝露、あるいは感染している可能性がある。乳幼児は感染すると粟粒結核や結核性髄膜炎といった重症型に進みやすいから、ここは見過ごせない。
医学生医学生
すでに感染していたらBCGを打っても意味がない、ということですか。
ドクタードクター
意味がないだけでなく問題が2つある。1つは既感染者にBCGを打つと、接種後数日のうちに接種部位が強く赤く腫れて化膿するコッホ現象が起こること。もう1つは、感染を見逃したまま必要な治療が遅れてしまうことだ。だから祖父の排菌状況や接触の程度を確認し、接触者健診としてツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験、胸部エックス線などで感染の有無を評価してから、接種するか潜在性結核感染症の治療をするかを決めるんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った接触者健診が、ここでつながるんですね。では母親の卵アレルギーはどうですか。ワクチンと卵というと気になってしまって。
ドクタードクター
接種判断で問題になるのは被接種者本人のアレルギー歴で、母親のアレルギーは乳児の接種に影響しない。そもそもBCGは鶏卵を使って製造していないから卵成分を含まない。卵との関係が話題になるのは、発育鶏卵で培養するインフルエンザワクチンや黄熱ワクチンのほうだね。
医学生医学生
体温37.0℃は、少し高めなので延期すべきかと思いました。
ドクタードクター
乳児なら37.0℃は正常範囲だよ。接種不適当者とされるのは「明らかな発熱」、通常は37.5℃以上を呈している場合だ。ほかに体調不良がなければ予定どおり接種してよい。
医学生医学生
2週間前のB型肝炎ワクチンは、接種間隔の問題になりますか。
ドクタードクター
B型肝炎ワクチンは不活化ワクチンだ。出題当時は不活化ワクチンの後は1週間あければよいとされていたから2週間なら問題ない。さらに2020年10月の改正で、間隔の制限は注射生ワクチン同士を27日以上あけることだけになった。どちらの基準でもBCGには支障がないね。
医学生医学生
つまり、生ワクチンとしての安全性に関わる兄の免疫不全と、結核予防の前提に関わる祖父の結核、この2つが詳しく確認すべき情報ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に周辺知識も押さえておこう。BCGは1歳未満が定期接種の対象で、標準的には生後5〜8か月に、9本針の管針で上腕外側にスタンプ式で接種する。現在はツベルクリン反応を行わずに直接接種するから、問診での結核接触歴の聴取がとても重要になるんだ。
医学生医学生
正常な反応とコッホ現象はどう見分ければいいですか。小児科実習で保護者に聞かれたら答えられる自信がなくて。
ドクタードクター
通常は接種後10日から4週ごろに針痕に一致した発赤や小さな膿疱が出て、約3か月で瘢痕化する。これに対しコッホ現象は接種後数日、多くは10日以内に早く強く出るのが特徴だ。早期に強い反応が出たら医療機関で結核感染の有無を精査し、市町村に報告する。保護者にはあらかじめこの違いを伝えておくと安心してもらえるよ。

まとめ

BCGは弱毒化したウシ型結核菌による生ワクチンであり、問診では「本人の細胞性免疫が保たれているか」と「すでに結核に感染していないか」の2点を軸に評価します。先天性免疫不全症は遺伝性のことが多く、同胞の罹患は本人の免疫不全の可能性を示すため、播種性BCG感染症を避ける目的で詳細な確認が必要です。同居家族に肺結核患者がいれば乳児の既感染が疑われ、接触者健診で感染を評価してから接種や潜在性結核感染症治療を判断します。一方、保護者のアレルギー歴、37.5℃未満の体温、不活化ワクチン後の接種は妨げにならず、既感染者への接種で生じるコッホ現象との区別も重要です。ワクチンの性質から問診のポイントを導く考え方は、すべての予防接種の安全な実施に通じます。

解答・解説

正解はb, cです

問われていること

BCG(Bacille Calmette-Guérin:ウシ型結核菌を弱毒化した生ワクチン)を6か月児に接種する前に、問診票の情報から「そのまま接種してよいか慎重に確かめるべき事項」を選ぶ問題である。

考え方

予防接種前の問診では、次の2点を軸に情報を評価するとよい。 1. 接種してはいけない、または慎重に判断すべき状態(予防接種実施要領でいう「接種不適当者」「接種要注意者」)に該当しないか。 2. そのワクチン特有の注意点はないか。BCGであれば、(1) 生ワクチンなので被接種者の細胞性免疫が保たれているか、(2) 結核予防が目的なので、すでに結核菌に感染していないか、の2点が重要である。 この視点で見ると、先天性免疫不全症の家族歴(本人も免疫不全である可能性があり、生ワクチンによる播種性BCG感染の危険がある)と、同居家族の肺結核(本人がすでに感染している可能性がある)が詳しく確認すべき事項となる。一方、保護者のアレルギー歴、37.5℃未満の体温、2週間前の不活化ワクチン接種は、いずれもBCG接種の妨げにならない。

選択肢考察

  1. ×a.  母親が卵アレルギーである。

    注意を要しない。接種時に問題となるのは被接種者本人のアレルギー歴であり、母親のアレルギーは乳児への接種の可否に影響しない。さらに、BCGは鶏卵を用いて製造されておらず卵由来成分を含まない。卵成分が微量に含まれ得るのは発育鶏卵で培養するインフルエンザワクチンや黄熱ワクチンであり、BCGとは異なる。

  2. ○b.  兄が先天性免疫不全症である。

    詳細を確認すべきである。先天性免疫不全症の多くは遺伝性(常染色体劣性やX連鎖性など)であり、同胞が罹患していれば本人も同じ疾患を持つ可能性がある。重症複合免疫不全症(SCID)、慢性肉芽腫症、メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症などの患児にBCGを接種すると、弱毒菌であっても全身に播種して重篤な播種性BCG感染症を起こし得る。そのため「近親者に先天性免疫不全症の者がいる」ことは接種要注意者に該当し、兄の病名、本人の感染症歴や成長、必要に応じた免疫学的評価を確認したうえで接種の可否を判断する。

  3. ○c.  同居の祖父が肺結核で入院中である。

    詳細を確認すべきである。同居者に肺結核患者がいれば、乳児はすでに結核菌に曝露・感染している可能性がある。乳幼児は感染後に粟粒結核や結核性髄膜炎などの重症結核に進展しやすい。既感染者にBCGを接種すると、接種部位に早期から強い局所反応(コッホ現象)が生じ、また感染を見逃したまま必要な治療が遅れることになる。したがって、祖父の排菌状況や接触の程度、本人の症状を確認し、接触者健診(ツベルクリン反応検査やインターフェロンγ遊離試験、胸部エックス線撮影など)で感染の有無を評価してからBCG接種や潜在性結核感染症治療の要否を判断する必要がある。

  4. ×d.  本人の接種当日の体温が37.0℃である。

    注意を要しない。予防接種実施要領では、接種当日に「明らかな発熱」(通常37.5℃以上)を呈している者を接種不適当者としている。37.0℃は乳児の正常範囲であり、ほかに体調不良がなければ予定どおり接種してよい。

  5. ×e.  本人が2週間前にB型肝炎予防接種を受けた。

    注意を要しない。B型肝炎ワクチンは不活化ワクチンである。本試験の出題時点では不活化ワクチン接種後は6日以上(1週間)あければ他のワクチンを接種できるとされており、2週間空いていれば問題ない。なお2020年10月の制度改正により、接種間隔の制限は「注射生ワクチンの後に別の注射生ワクチンを接種する場合は27日以上あける」のみとなり、不活化ワクチン後の間隔規定は廃止された。いずれの基準でもBCG接種に支障はない。

BCGの概要

・ウシ型結核菌を弱毒化した生ワクチンで、管針法(9本針のスタンプ)により上腕外側に経皮接種する。 ・定期接種の対象は1歳未満で、標準的な接種期間は生後5〜8か月。乳幼児の重症結核(粟粒結核、結核性髄膜炎)の予防効果が高い。 ・現在はツベルクリン反応検査を行わずに直接接種する。 ・通常の経過では接種後10日〜4週ごろに針痕に一致した発赤・小膿疱が出現し、約3か月で瘢痕化する。

コッホ現象

・結核既感染者にBCGを接種すると、接種後数日(多くは10日以内)に接種部位の発赤・腫脹・化膿が早期に生じる。 ・出現した場合は医療機関で結核感染の有無を精査し、市町村へ報告する。

予防接種の主な接種不適当者

・明らかな発熱(通常37.5℃以上)を呈する者 ・重篤な急性疾患にかかっている者 ・当該ワクチンの成分でアナフィラキシーを起こしたことがある者 ・BCGでは、外傷などによるケロイドが認められる者 ・生ワクチン全般では、免疫機能に異常のある者、免疫抑制療法中の者、妊婦(妊娠可能性を含む)

主な接種要注意者

・心血管系・腎・肝・血液疾患、発育障害などの基礎疾患をもつ者 ・過去の予防接種で接種後2日以内に発熱や全身性発疹などのアレルギー症状を呈した者 ・けいれんの既往のある者 ・過去に免疫不全の診断がなされている者、および近親者に先天性免疫不全症の者がいる者 ・ワクチン成分にアレルギーを呈するおそれのある者

接種間隔(2020年10月以降)

・注射生ワクチン同士は27日以上あける。 ・それ以外(不活化→生、生→不活化、経口生ワクチン関連など)には間隔の制限がない。

POINT

・BCGは生ワクチンであり、本人の免疫不全の可能性(先天性免疫不全症の家族歴を含む)を必ず確認する。 ・結核患者との接触歴がある乳児は、BCG接種前に結核感染の有無を評価する(既感染者への接種ではコッホ現象が起こる)。 ・接種を見合わせる発熱の目安は37.5℃以上。 ・BCGに卵成分は含まれず、保護者のアレルギー歴は接種判断に関係しない。 ・不活化ワクチン後の接種間隔の制限は現在ない(注射生ワクチン同士の27日以上のみ)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。