「数日で悪くなった」は認知症ではない―高齢者の意識障害は時間軸で読み解く
第113回医師国家試験 F問題 第22問
国試問題にチャレンジ
数日間で進行する高齢者の意識障害の原因として可能性が低いのはどれか。
- a.硬膜下血腫
- b.低ナトリウム血症
- c.薬剤による副作用
- d.Alzheimer型認知症
- e.腎盂腎炎による敗血症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
意識障害は覚醒度の低下や注意障害を伴う意識内容の変化であり、意識が原則として清明な認知症とは別の概念です。Alzheimer型認知症は年単位で緩徐に進行する神経変性疾患で、数日間で進行する意識障害の原因とはなりません。一方、慢性硬膜下血腫、低ナトリウム血症、薬剤の副作用、腎盂腎炎からの敗血症はいずれも高齢者で数日単位の意識障害を起こしうる重要な原因で、高齢者では典型的な症状を欠き「ぼんやりしている」ことだけが手がかりになる場合もあります。認知症患者に急な変化がみられたときも、認知症の進行と決めつけず、感染症、電解質異常、薬剤、頭蓋内病変などの併発を検索することが大切です。時間経過で鑑別を絞り、AIUEOTIPSなどで網羅的に原因を探す姿勢は、治療可能な病態を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はdです
本問のポイントは「数日間で進行する」という時間経過と、「意識障害」という病態である。 意識障害とは、覚醒度(意識の清明度)の低下や、意識内容の変化(注意障害、思考の混乱、幻覚などを伴うせん妄)をきたした状態である。これに対し認知症は、いったん正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害により持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたした状態であり、意識は原則として清明である。両者は概念として区別される。 高齢者は脳の予備能が低いため、頭蓋内疾患(一次性脳障害)だけでなく、電解質異常、薬剤、感染症、臓器不全などの全身性の要因(二次性脳障害)でも容易に意識障害(特にせん妄)をきたす。また症状が非典型的で、例えば肺炎や尿路感染症でも発熱や局所症状が目立たず、「なんとなく元気がない」「ぼんやりしている」といった意識の変化が初発症状となることがある。 選択肢のうち、硬膜下血腫、低ナトリウム血症、薬剤の副作用、腎盂腎炎による敗血症は、いずれも数日単位で意識障害を進行させうる。一方、Alzheimer型認知症は年単位で緩徐に進行する神経変性疾患であり、そもそも意識障害をきたす疾患ではない。したがって可能性が低いのはAlzheimer型認知症である。
選択肢考察
- ×a. 硬膜下血腫
原因として十分ありうる。高齢者では脳萎縮により脳表と硬膜の間の架橋静脈が引き伸ばされており、軽微な頭部打撲でも破綻しやすい。特に慢性硬膜下血腫は、受傷後およそ3週〜3か月かけて血腫が徐々に増大し、頭痛、片麻痺、歩行障害、認知機能低下、意識障害などが数日〜数週の単位で進行する。打撲のエピソードを本人や家族が覚えていないことも多い。抗血栓薬の服用やアルコール多飲は危険因子である。頭部CTで三日月形の血腫として診断でき、穿頭血腫洗浄(ドレナージ)術で改善が期待できる「治療可能な認知機能障害・意識障害」の代表である。急性硬膜下血腫であれば、より急速に意識障害が進行する。
- ×b. 低ナトリウム血症
原因として十分ありうる。高齢者では、サイアザイド系利尿薬などの薬剤、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH、肺炎・肺癌・中枢神経疾患・薬剤などが原因)、食事摂取量の低下(溶質摂取不足)などにより低ナトリウム血症をきたしやすい。血清ナトリウム濃度が低下すると細胞外液が低浸透圧となり、水が脳細胞内へ移動して脳浮腫が生じるため、倦怠感、食欲不振、悪心、傾眠、錯乱から、重症では痙攣・昏睡に至る。数日の経過で進行する意識障害の原因として重要である。なお、慢性の低ナトリウム血症を急速に補正すると浸透圧性脱髄症候群をきたすため、補正速度に注意する。
- ×c. 薬剤による副作用
原因として十分ありうる。高齢者は腎機能・肝機能の低下により薬物の排泄・代謝が遅れ、体内に蓄積しやすい。また多剤併用(ポリファーマシー)による薬物相互作用も起こりやすい。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬、抗コリン作用をもつ薬剤、オピオイド、抗精神病薬、H2受容体拮抗薬、血糖降下薬(低血糖)などは、数日の経過で傾眠やせん妄を引き起こす代表例である。新たな薬剤の追加や用量変更の後に意識の変化が出たときは、まず薬剤性を疑う。
- ○d. Alzheimer型認知症
Alzheimer型認知症はアミロイドβやタウ蛋白の蓄積による神経変性疾患であり、記憶障害(特に近時記憶)や見当識障害を中核症状として、数年単位で緩徐に進行する。数日で病状が変化することはなく、また意識は原則として清明であるため、意識障害の原因とはならない。認知症患者は脳の予備能が低くせん妄を合併しやすいが、認知症患者で急に意識が変化した場合は、認知症の進行と考えるのではなく、感染症、脱水、電解質異常、薬剤、硬膜下血腫など別の原因の併発を検索すべきである。
- ×e. 腎盂腎炎による敗血症
原因として十分ありうる。高齢者では排尿障害や尿道カテーテル留置などにより尿路感染症を起こしやすく、腎盂腎炎から菌血症・敗血症へ進展しやすい。敗血症では、全身性炎症や循環不全(血圧低下)に伴う脳の機能障害(敗血症関連脳症)により、数時間〜数日の経過で意識障害をきたす。高齢者では発熱や腰背部痛、肋骨脊柱角叩打痛が目立たず、意識の変化だけが初発症状となることもある。なお、敗血症のスクリーニングに用いるquick SOFA(qSOFA)にも、意識変容(GCS 15未満)、呼吸数22回/分以上、収縮期血圧100 mmHg以下の3項目が含まれている。
意識障害の原因の整理(AIUEOTIPS)
A:Alcohol(急性アルコール中毒、Wernicke脳症) I:Insulin(低血糖・高血糖) U:Uremia(尿毒症) E:Encephalopathy(肝性脳症、高血圧性脳症など)、Endocrine(甲状腺・副腎疾患)、Electrolytes(低・高ナトリウム血症、高カルシウム血症など) O:Opiate・Overdose(薬物中毒)、O2(低酸素血症、CO2ナルコーシス) T:Trauma(頭部外傷、硬膜下血腫)、Temperature(低体温・高体温) I:Infection(髄膜炎・脳炎、敗血症) P:Psychiatric(精神疾患)、Porphyria S:Shock、Stroke(脳卒中)、Seizure(てんかん)、Syncope
せん妄と認知症の違い
・発症:せん妄は急性(数時間〜数日)、認知症は緩徐(数か月〜数年)。 ・経過:せん妄は日内変動があり夜間に悪化しやすい。認知症は比較的安定して進行する。 ・意識:せん妄では意識障害(注意障害)がある。認知症では原則として清明。 ・可逆性:せん妄は原因の除去により改善しうる。Alzheimer型認知症は不可逆的。
治療可能な認知症様症状(treatable dementia)
慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB1・B12欠乏、薬剤性、電解質異常などは、認知機能低下や意識障害を呈しても治療で改善しうるため、見逃してはならない。
POINT
・意識障害と認知症は別の概念である。認知症では原則として意識は清明。 ・Alzheimer型認知症は年単位で緩徐に進行し、数日単位の意識障害の原因にはならない。 ・高齢者の亜急性の意識障害では、慢性硬膜下血腫、電解質異常(低ナトリウム血症、高カルシウム血症)、薬剤、感染症(敗血症、肺炎、尿路感染症)、臓器不全を考える。 ・認知症患者に急な意識変化がみられたら、別の疾患の併発を検索する。
