男の子だけが発症する家系―「世代を飛ばす」家系図が示すX連鎖潜性遺伝
第113回医師国家試験 F問題 第23問
国試問題にチャレンジ
家系図を以下に示す。 この家系図における遺伝形式を呈するのはどれか。

- a.Duchenne型筋ジストロフィー
- b.Sturge-Weber症候群
- c.フェニルケトン尿症
- d.神経線維腫症Ⅰ型
- e.Huntington病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
家系図で罹患者が男性に限られ、発症していない女性を介して息子へ世代を飛ばして伝わっている場合は、X連鎖潜性遺伝を考えます。男性はX染色体が1本のヘミ接合で変異を受け継ぐと発症し、女性は通常無症状の保因者となるためです。選択肢のうちX連鎖潜性遺伝をとるのはジストロフィン遺伝子変異によるDuchenne型筋ジストロフィーで、フェニルケトン尿症は常染色体潜性遺伝、神経線維腫症Ⅰ型とHuntington病は常染色体顕性遺伝、Sturge-Weber症候群はGNAQの体細胞モザイク変異による孤発性疾患です。罹患者の性別、非罹患親からの発症、父から息子への伝達の有無という3つの視点で家系図を読む習慣は、遺伝性疾患の診断と遺伝カウンセリングの基礎になります。
解答・解説
正解はaです
家系図の読み取り
第1世代は罹患していない父(□)と母(○)である。その子ども(第2世代)は、罹患していない娘1人と罹患した息子2人である。第2世代の娘(発端者の母)は罹患していないが、その子ども(第3世代)のうち、娘2人は罹患しておらず、息子1人(発端者)が罹患している。
遺伝形式の推定
・罹患者は3人とも男性で、女性の罹患者はいない。 ・両親とも罹患していないのに子が罹患している(第1世代→第2世代)。したがって顕性(優性)遺伝よりも潜性(劣性)遺伝を考えやすい。 ・罹患していない女性(発端者の母)を介して、その息子に病気が伝わっている。つまり、母は症状のない保因者と考えられる。 ・第1世代の母が保因者であれば、息子2人が罹患し、娘が保因者となったことも説明がつく。 このように「男性のみが発症し、症状のない女性保因者を介して世代を飛ばして伝わる」のは、X連鎖(伴性)潜性遺伝に典型的なパターンである。男性はX染色体を1本しか持たない(ヘミ接合)ため、変異をもつX染色体を受け継ぐと必ず発症する。一方、女性はもう1本のX染色体が正常であれば通常は発症しない。 常染色体潜性遺伝でもこの家系図を説明できなくはないが、別の家系から嫁いできた配偶者も保因者であると仮定しなければならず、さらに罹患者が男性に偏っていることの説明もつかない。常染色体顕性遺伝であれば、罹患していない親から罹患児が生まれることは原則として起こらない(浸透率が低い場合を除く)。したがって、最も適合するのはX連鎖潜性遺伝であり、選択肢の中でこの遺伝形式をとる疾患を選べばよい。
選択肢考察
- ○a. Duchenne型筋ジストロフィー
Xp21にあるジストロフィン遺伝子(DMD)の変異が原因で起こるX連鎖潜性遺伝の疾患である。男児が発症し、母親は多くの場合、無症状の保因者となる。本家系図の「男性のみが罹患し、罹患していない女性を介して伝わる」というパターンに一致する。なお、患者の約1/3は母親が保因者ではない新生突然変異による。
- ×b. Sturge-Weber症候群
顔面のポートワイン母斑(三叉神経第1枝領域に多い)、脳軟膜の血管腫(てんかん・片麻痺・脳内石灰化の原因となる)、緑内障を特徴とする神経皮膚症候群である。GNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異(受精後に一部の細胞に生じる変異)が原因とされ、親から子へ遺伝する疾患ではなく、ほとんどが孤発例である。家系内に集積する本家系図とは合わない。
- ×c. フェニルケトン尿症
フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の欠損によりフェニルアラニンが蓄積する先天代謝異常症で、常染色体潜性遺伝である。男女に同じ頻度で発症するため、罹患者が男性のみに限られ、女性保因者を介して伝わる本家系図とは合わない。新生児マススクリーニングの対象疾患である。
- ×d. 神経線維腫症Ⅰ型
von Recklinghausen病ともよばれ、17番染色体上のNF1遺伝子の変異による常染色体顕性遺伝の疾患である。カフェ・オ・レ斑や皮膚の神経線維腫を特徴とする。顕性遺伝なので男女とも罹患し、罹患者には通常罹患した親がいる(約半数は新生突然変異)。罹患していない母から罹患男児が生まれ、男性のみが罹患する本家系図とは合わない。
- ×e. Huntington病
4番染色体上のHTT遺伝子にあるCAGリピートの異常伸長による常染色体顕性遺伝の神経変性疾患で、舞踏運動・認知機能障害・精神症状を呈する。世代を経るごとに発症年齢が早まる表現促進現象がみられ、特に父親由来で目立つ。男女とも罹患し、各世代に罹患者が現れるのが典型であり、本家系図とは合わない。
主な遺伝形式と家系図の特徴
・常染色体顕性遺伝:男女とも同じように罹患する。罹患者の子は1/2の確率で罹患する。各世代に罹患者が現れやすい(世代を飛ばしにくい)。例:神経線維腫症Ⅰ型、Huntington病、Marfan症候群、筋強直性ジストロフィー、家族性大腸腺腫症。 ・常染色体潜性遺伝:男女とも同じように罹患する。両親はともに保因者で症状がないことが多く、同胞の1/4が罹患する。近親婚で頻度が上がる。例:フェニルケトン尿症、多くの先天代謝異常症、Wilson病、脊髄性筋萎縮症。 ・X連鎖潜性遺伝:ほぼ男性のみが罹患する。保因者の母から生まれた息子は1/2の確率で罹患し、娘は1/2の確率で保因者となる。罹患男性の娘は全員保因者で、息子には遺伝しない(父から息子へは伝わらない)。例:Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー、血友病A・B、G6PD欠損症、Fabry病、副腎白質ジストロフィー、Lesch-Nyhan症候群。 ・X連鎖顕性遺伝:女性の罹患者が多い。罹患男性の娘は全員罹患し、息子は罹患しない。例:ビタミンD抵抗性くる病(低リン血症性くる病)、Rett症候群(男性では重症・致死的となりやすい)。 ・ミトコンドリア遺伝(母系遺伝):母親からのみ子に伝わり、男女とも罹患しうる。例:MELAS、Leber遺伝性視神経症。
Duchenne型筋ジストロフィーの概要
ジストロフィンの欠損により筋線維が壊れやすくなる。3〜5歳頃に転びやすさや歩き方の異常で気づかれ、Gowers徴候(床から立ち上がる時に手を膝について体を押し上げる)、腓腹筋の仮性肥大、血清クレアチンキナーゼ(CK)の著明な上昇がみられる。10歳前後で歩行できなくなり、呼吸不全や心筋症が予後を左右する。ジストロフィンが部分的に機能を保つ軽症型がBecker型である。
POINT
・男性のみ罹患、罹患していない母(保因者)を介して息子に伝わる → X連鎖潜性遺伝。 ・X連鎖潜性遺伝の代表:Duchenne型筋ジストロフィー、血友病A・B。 ・フェニルケトン尿症は常染色体潜性遺伝。 ・神経線維腫症Ⅰ型、Huntington病は常染色体顕性遺伝。 ・Sturge-Weber症候群は体細胞モザイク変異(GNAQ)による孤発性疾患で、遺伝性ではない。
