止まらない発作は待たない―怠薬が招いたてんかん重積状態への初手
第113回医師国家試験 E問題 第31問
国試問題にチャレンジ
66歳の男性。意識障害とけいれんのため救急車で搬入された。3年前から頭部外傷後てんかんで抗けいれん薬の内服治療を受けていた。この1年間はけいれん発作がなかったため,2週間前から服薬していなかったところ,外出先で突然,強直間代けいれんを起こし,居合わせた人が救急車を要請した。発症から10分後の救急隊接触時には間代けいれんがわずかにあったが,救急搬送中に消失した。搬入時,けいれんを認めないが,意識レベルはJCSⅠ -3。体温36.9℃。心拍数92/分,整。血圧140/90mmHg。呼吸数16/分。SpO2 99%(マスク6L/分酸素投与下)。処置室でバイタルサインを測定し,静脈路を確保し生理食塩液の輸液を開始した直後に,強直間代けいれんが再発した。 直ちに投与すべきなのはどれか。
- a.モルヒネ
- b.ジアゼパム
- c.ペンタゾシン
- d.重炭酸ナトリウム
- e.グルコン酸カルシウム
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
けいれんが5分以上持続する、または発作の間に意識が回復しないまま発作を繰り返す場合はてんかん重積状態であり、直ちに治療を開始します。気道確保・酸素投与・モニタリングを行いながら、第一選択としてジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬を静注し、呼吸抑制に備えて気道管理を準備しておきます。鎮痛薬であるモルヒネやペンタゾシンに抗けいれん作用はなく、重炭酸ナトリウムやグルコン酸カルシウムは明確な適応がない限り初手にはなりません。ベンゾジアゼピンは作用が短いため、ホスフェニトインやレベチラセタムなどで再発を防ぎ、難治例では全身麻酔療法を行います。抗てんかん薬の自己中断は重積の代表的な誘因であり、時間を意識した救急対応と服薬指導の両方が、患者の予後を左右します。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・66歳の男性。3年前から頭部外傷後てんかん(脳の外傷による瘢痕などが発作の焦点となる症候性・構造的てんかん)に対し抗てんかん薬を内服していた。 ・1年間発作がなかったことから、自己判断で2週間前に服薬を中断していた。抗てんかん薬の急な中止は、発作再発やてんかん重積状態の代表的な誘因である。 ・外出先で強直間代発作が起こり、救急隊接触時(発症から約10分後)にもわずかな間代けいれんが残っていた。搬送中にけいれんは止まったが、搬入時も意識障害(JCSⅠ-3:刺激しなくても覚醒しているが、自分の名前・生年月日が言えない)が続いている。 ・その状態のまま、処置室で強直間代けいれんが再発した。 ・体温は正常で、循環・酸素化は保たれている。
診断
けいれんが10分以上持続し、いったん止まったあとも意識が回復しないうちに再び発作が起きている。これはてんかん重積状態(status epilepticus)の定義を満たす。日本神経学会のてんかん診療ガイドライン2018では、発作が5分以上持続する場合、あるいは短い発作でも反復し、その間に意識が回復しない場合を重積状態とし、5分を超えた時点で治療を開始すべきとしている。誘因は抗てんかん薬の怠薬と考えられる。
設問の考え方
重積状態が長引くほど、神経細胞の障害が進み、薬が効きにくくなる。さらに、高体温、横紋筋融解、乳酸アシドーシス、誤嚥、低酸素などの全身合併症も生じるため、一刻も早く発作を止める必要がある。気道確保・酸素投与・バイタルサインのモニタリングを行いながら、確保した静脈路から第一選択薬であるベンゾジアゼピン系薬を静注する。選択肢の中ではジアゼパムがこれにあたる。低血糖が否定できない場合は血糖を確認し、ビタミンB1(チアミン)投与に続いてブドウ糖を静注することも考慮する。
選択肢考察
- ×a. モルヒネ
誤り。モルヒネはオピオイド受容体に作用する麻薬性鎮痛薬で、がん性疼痛や急性冠症候群などの強い痛みの緩和、呼吸困難の緩和に用いる。抗けいれん作用はなく、呼吸抑制や意識低下を増強するため、本例に投与する理由はない。
- ○b. ジアゼパム
正しい。ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬で、GABA-A受容体(脳内の主要な抑制性受容体)の働きを強めて神経の過剰な興奮を抑え、速やかに発作を止める。てんかん重積状態の第一選択薬の一つであり、成人では通常 10 mg を緩徐に静注し、効果がなければ追加投与する。静脈路が確保されている本例では直ちに静注すべきである。投与中は呼吸抑制・血圧低下に注意し、バッグバルブマスクなどの気道管理の準備をしておく。ジアゼパムは作用時間が短く発作が再燃しやすいため、発作が止まった後もホスフェニトインなどの長時間作用型の抗てんかん薬を続けて投与し、再発を予防する。
- ×c. ペンタゾシン
誤り。ペンタゾシンは非麻薬性の中枢性鎮痛薬(オピオイド受容体の作動・拮抗薬)で、術後痛やがん性疼痛などに用いる。依存や乱用が問題となることがある。抗けいれん作用はなく、てんかん重積状態の治療には用いない。
- ×d. 重炭酸ナトリウム
誤り。重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)は、静注で高度の代謝性アシドーシスや一部の薬物中毒(三環系抗うつ薬中毒など)の治療に、経口では制酸薬として用いる。けいれん重積で生じる乳酸アシドーシスは、発作が止まれば自然に改善するのが通常であり、まず行うべきは発作の停止である。
- ×e. グルコン酸カルシウム
誤り。グルコン酸カルシウムは、低カルシウム血症によるテタニーやけいれんの治療、高カリウム血症での心筋保護(不整脈予防)などに用いる。本例はてんかんの既往と怠薬という明確な誘因があり、低カルシウム血症を示唆する所見はないため、最初に投与すべき薬ではない。
てんかん重積状態の治療の流れ(成人の概略)
・初期対応:気道確保、酸素投与、モニター装着、静脈路確保、血糖・電解質・血中抗てんかん薬濃度などの採血。低血糖の可能性があればチアミン 100 mg 静注後に 50%ブドウ糖 50 mL を静注する(アルコール多飲者などでブドウ糖単独投与によるWernicke脳症の誘発を避けるため、チアミンを先に投与する)。 ・第1段階(発作5分以上):ベンゾジアゼピン系薬の静注。ジアゼパム、ロラゼパム(2018年に国内で静注製剤が承認)、ミダゾラム。静脈路がない場合はミダゾラムの筋注や口腔内投与(小児)、ジアゼパム注腸などを用いる。 ・第2段階(ベンゾジアゼピンで止まらない場合):ホスフェニトイン(またはフェニトイン)、フェノバルビタール、レベチラセタム、ミダゾラム持続静注などの静注。 ・第3段階(難治性てんかん重積状態):集中治療室で人工呼吸管理のもと、ミダゾラム、プロポフォール、チオペンタールなどによる全身麻酔療法を行い、脳波で発作の抑制を確認する。
てんかん重積状態で起こる合併症
低酸素血症、誤嚥性肺炎、高体温、乳酸アシドーシス、横紋筋融解による急性腎障害、不整脈、神経細胞障害による後遺症など。発作の持続時間が長いほど予後が悪い。
怠薬と発作再発
抗てんかん薬の自己中断は発作再発・重積の大きな誘因である。抗てんかん薬の減量・中止は、長期間の発作消失を確認したうえで医師の管理下に段階的に行う必要があり、患者教育が重要である。
POINT
・発作が5分以上持続する、または意識が戻らないまま発作を繰り返す → てんかん重積状態として直ちに治療する。 ・第一選択はベンゾジアゼピン系薬の静注(ジアゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム)。 ・続いてホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどで再発を防ぐ。難治例は全身麻酔療法。 ・投与時は呼吸抑制に備え、気道確保を優先する。 ・抗てんかん薬の自己中断は重積の代表的な誘因。
